作品タイトル不明
side―ヨハン
モンスター名:ニアラプター
種族:爬虫類
全長:1メートル~8メートル それ以上の可能性も示唆
特徴:4足動物のような恰好をしているにも関わらず、2足歩行をする巨大な蜥蜴型の亜種。そのせいかは定かではないが、前足は退化しているのか大きな体には不釣り合いなほど小さい。それとは違い、身体に見合う大きな頭を持ち、その体長から移動速度が速く、強靭な顎による嚙みつきは荊棘の庭園に咲く鉄の花をも簡単に食いちぎる。
その圧倒的な風貌から”恐竜”と称されることもあるが、体内に魔力袋などの器官を有してはおらず、竜種ではなく、あくまでも蜥蜴に近いモンスターであるとされている。
基本的には縄張りの中から出ることは少なく、獲物が逃げた場合でも範囲外まで追いかけてくることはほとんどない。以前の記録から、よほど怒らせた場合に限り、その例外が散見された。
また、縄張りには1匹のニアラプターしか存在しないようだ。
体長の大きさから、餌が不足するせいなのか、それとも気性によるものなのかは不明。
性格:気性が荒く獰猛。
獲物をいたぶる傾向にあり、弱らせた得物を一噛みに食いちぎるのが好きなようだ。最後の・・・獲物を食いちぎるための一撃は、あえて獲物から距離を取り、獲物に逃げ切ったかと思わせ、胸を撫で下ろすその瞬間を狙い、凶悪なほどの膂力を持った踏み切りから飛びつき、一噛みの基に食いちぎる。
参考:大きな顔、大きな顎、大きな目。どれも間近で見ずとも恐ろしいが、実は目はあまり良くなく、実際には臭いと音を頼りに獲物を探している。遭遇し逃げる際には、臭いの強烈なものや音の出るものをばら撒くと逃げやすい。勝手に動くものや転がるようなものなら、斜面から投げ捨てるとなお成功率が上がる。
稀に縄張りの中に2匹以上のニアラプターが確認されることがある。その場合は 番(つがい) であり、繁殖期には一際獰猛なため、確認次第逃げることを推奨する。
等級:C級以上のパーティー。又はB級以上の個人。
2匹以上同時の場合に限り、2年以上の活動実績のあるB級以上パーティー。あるいはA級以上の個人を推奨。
「書いてあること全部が怖いんですけど・・・」
冒険者ギルドのカウンターで大銅貨1枚を払って借りた生態調査報告書。そこに書かれていたニアラプターの項はあまりにも迫力があった。
特に、獲物に油断を誘いそこを狙い澄まして飛び掛かるという文は、読むだけで頭の中でイメージが出来上がる程。ニアラプターなんてモンスターはここに描かれている絵でしか、まだ見たことがないというのに。
「なぜ弱点などは書かれていないのでしょうか?」
隣で一緒に生態調査報告書を見るために覗き込んでいたリミアが、書かれている内容に疑問を持ったみたいだ。
「そういえばそうだね?」
確かに、皇都で見た生態調査報告書にはそれぞれモンスターの項には弱点や狙うべき行動なんかがわかりやすく書かれていたんだけど・・・この生態調査報告書にはそういった攻略情報のようなものは書かれていなかった。
「おそらくこのギルドの職員がそのモンスターと戦ったことがないからですわ!」
1つ間を空けて座っていたキューティーさんが僕らの疑問に答える。
「も、もう書けたの?」
「もちろんですわ! エイラ! チェックしてくださいまし!」
「どれ? ・・・うん。大丈夫そうね。あとは報告の時に依頼してくれた人に名前を書いてもらえば大丈夫だと思う」
「当然ですわ! 大会の出場登録とあまり変わりませんもの!」
おーっほっほ! と高笑いするキューティーさんはいつも自信満々で羨ましいと思うってしまう。
それはさておき、
「戦ったことがない・・・っていうのはどうしてわかるんですか?」
「生態調査報告書がそういうものだからですわ! それを作るのは冒険者ギルドの各支部に務める職員! ですから、その人物に経験がなければ十分な情報は記載されませんの!」
「ですが、だとしたらここの冒険者の方々はどうやってモンスターっと戦うのでしょうか?」
「それは自分達で工夫するのではありませんの? なんといっても冒険者なのですから!」
「生態調査報告書にはそういった情報も記載されると聞いたことがあるのですが・・・」
「私の調べた限りでは、ギルドではそういった情報を買い取っているものの、強制ではないと聞き及んでいますわ! ですから、ここの冒険者達は自分達の利益の為に、モンスターの攻略情報を売らなかったのではありませんの?」
「ああ・・・なるほど。そういうことなんですね。そうすることで、依頼を独占出来てたってことですね」
「ええ、おそらく。もしくは誰も倒したことがない・・・なんてことも、あるかもしれませんわね!」
ニアラプターというモンスターはそこまで強いのだろうか・・・?
でも先生はアドバイスって言ってたし、先生なら勝てるんだろうな。と、そう思っていたんだけど。
「そういえば、先生のアドバイスも逃げる方法でしたが・・・まさか?」
「つまり、あいつも今回のニアラプター? とかいうのは倒したことねぇってことか⁉」
「いいから! あんたは先にこっちをやっちゃいなさい‼」
リミアの言葉に顔を上げたジェイドさんを、エイラさんが押さえつけるように机へ戻す。
「そんなことってあるのかな?」
「どうでしょうか? ですが、戦ったことがあるなら先生は、もっと明確なアドバイスをくれるような気が・・・・・・」
「それについてはどちらかわかりませんが、ここにある生態調査報告書にあの方が関わっていないのは明白ですわね。これでは対策はその場で考える他ありませんわ」
いつの間にか。脇からひょいっと僕の目の前に広げてあった生態調査報告書を取り上げて、パラパラめくりながらキューティーさんが言った。
「先生が関わってないって・・・なんでそんなことが言い切れるんですか?」
「さっき言っていたではありませんの。皇都のものには弱点などが書かれていた、と。あれを作ったのはゼネスさんですわよ? もちろん。1人で、ということはないかと思いますけど」
「そうなんですか⁉」
「ええ。ご本人から聞きましたわ。間違いはないかと」
「そのような会話をしていたのですね。少々驚きがあります」
リミアとしても意外だったみたいだ。
僕も同じような感想だ。
こういうのもなんだけど、キューティーさんはあんまりそういうイメージがなかった。
自分や、ジェイドさんの話ばっかりしてるイメージで。自信家で天才肌な反面、調べものだとかそういうのは、ケイトさんやエイラさんに丸投げしているものだと・・・。
「あら? そんな顔をされるようなことでして? 私、これでも武の道を歩んでいるのですわよ? 何事も基礎から! とは、私の師範の教えでもありますわ!」
「そう言われれば・・・そうでしたね。なんていうか、その。すみません」
「構いませんわ! けれど、見えるものだけが全てではないことは、覚えておくべきですわね。ヨハン。あなただって、ケイトと魔法の練習をしていたのではなくて?」
「それは、はい」
「であれば、私が知らずともその成果はあるはず。リミアも、女性ならば見えないことにも気を付けなければならず、見せたくないものを隠す努力も知っているのではありませんこと?」
「? いえ、私にはよくわからないのですが・・・」
「あなたとは一度、ちゃんと話した方がいいかもしれませんわね・・・」
言いたいことの意味が伝わらなかったからか、キューティーさんは頭を抱え、リミアは首を傾げていた。
「ともかく。私はあの方をそれほど悪くは思っておりませんの! あれほどの技術を見れば、その言葉の重さも理解できるというもの。ですから、色々とお話頂くこともあったと言うだけのことですわ!」
「そっちの話は終わった? じゃあ今度は2人に書類の書き方を教えるから、こっちに来てくれる?」
ジェイドさんが書いたと思われる書類を見て、よし! と頷いたエイラさんがこっちを見て手招きをする。
疲れているのか机に突っ伏すジェイドさんをキューティーさんが励ますように隣で応援し始めた。
それを見たエイラさんは軽く首を振った後、
「私がそっちに行くわね」
と腰を上げかけた僕らを制止して、書類をもって来て、書き方も見てくれた。
その間、キューティーさんはずっとジェイドさんに付きっ切りで。
先生の凄さを認めているのに、その先生に抗ってばかりのジェイドさんを好きなのはなんでなんだろう? と僕は不思議に思った。