作品タイトル不明
気付かないのは誰?
「――ッ⁉⁉ フゥゥウウウウウウルッ‼‼」
雄叫びのような、遠吠えのような、それでいて張り裂けんばかりの痛みを抱えた嘆きが響き渡る。
誰の声かと思えば、最初に俺達へ止まれと言ってきた男のものだった。
男は一も二もなくかき分け入って、刺され倒れる獣人に近付こうとする。
だが、
「動くな‼」
「――ッ⁉⁉」
俺の一言で、その場にいたほぼ全員がビクッ! と体を震わせ止まる。
俺はゆっくりと歩いて近付いていく。
「どうするんすか?」
ただ一人。さっきの一言でも止まることなく刺された獣人の横で、しゃがみこんで状態を確かめていたホウが顔も向けずに聞いてくる。
「治療は?」
「出来なくはねぇすけど、傷を塞ぐぐらいですかね。ほっといたら5分も持ちやしませんぜ?」
「傷を塞いだとして、助かる可能性は?」
「3割ってとこじゃねぇすか? 出血が多い。どうにも、当たり所がよくなかったんでしょう」
「とりあえず傷を塞いでくれ。あいつらには負けを認めさせる」
「いいんで?」
「そろそろ後ろの連中が追い付いてくる頃だろ? 長引かせても面倒なだけだ。敵対されるのも鬱陶しいからな」
「負けを認めさせるってのに、敵対はさせない・・・なんて、本当にそんなこと出来るんで?」
「出来るだろうよ。あの様子を見てりゃぁな」
たった一人。怪我をしただけで洞窟に押し込めていたであろう女や老人の中から、治療が出来そうな奴を呼んで来い‼ と声を張り上げてやがるんだからな。
いくら死にそうだとは言え、過剰反応過ぎる。
戦闘となれば死人が出る可能性ぐらいは考えているはずだ。
そうでなけりゃ、戦うなんて出来ねぇ。
いや、やっちゃいけないんだ。
そうこうしているうちに、ぞろぞろと人数を引き連れて男が俺の前にまでやってくる。
「退け‼ さっき私が止まったのは貴様の声に従ったわけではない‼ 治療できるものが必要だと思ったからだ‼ 分かったら道を開けろ‼ さもなくば・・・ッ‼」
「さもなくば・・・なんだ? お前が俺に勝てるとでも?」
殺すぞ。と威圧するように睨む。
ヒィッ⁉ と声を上げたのは男ではなく、後ろに続く治療できるものの誰かだろう。後ろの方でトスンと尻もちでもついた音が伝わってきた。
「勝てるかどうかなど関係ないッ‼ 貴様の後ろで倒れているのは私の甥だ‼ 見捨てることなど出来ようものかッ‼」
だが、男はそんなことも気付いていないのか、激昂したままに返してくる。
「なら、後ろの連中から死んでいくことになるが・・・構わねぇんだな?」
振り返るように顎で示す。
男は後ろに続いている者たちのことを思い出し、振り返る。そして、そいつらの顔を。恐怖に怯え泣き出しそうな顔を見て勢いを落とす。
「ではどうしろというのだッ‼ 貴様は私達を殺して、それで満足かもしれんが‼ だが、そうなれば私達は2度と貴様らには従わんぞ‼ 私達の命は一蓮托生だと‼ そういったはずだ‼ 約束もしたはずだ‼ 従う限りは殺しはしないと‼ 困るのは貴様達の方だぞ‼」
「遊びじゃねぇんだよ‼ 戦えば死ぬことだってある! そんな当たり前の覚悟もねぇ奴が‼ 歯向かってきてんじゃねぇよ‼ そもそもだ。お前らが俺達の言葉を聞かずに仕掛けてきたんだろうが。そんな奴の言う約束なんざ、知りゃしねぇよ‼」
もとより、そんな約束をした覚えはない。
「お前らが取れる選択肢は2つだ‼ あいつを見捨てて、全員の命を懸けて抗うか‼ 意地も! 矜持も! 誇りさえ捨てて。あいつを助けるため、俺達に従うか‼ 好きな方を選べ‼」
まぁ徹底抗戦の意思があったなら、こんなことをしちゃいねぇはずだ。
だから、これで納得すれば・・・この後に話ぐらいは出来るだろう。
そう思っていたんだが、
「貴様達はそうやって・・・またも私達から自由を奪うのか⁉ 悪事の片棒を担がせ、そして・・・。いらなくなったら捨てるのだろうな‼」
などと、わけのわからないことを言い始めた。