作品タイトル不明
事情を知る
情報を集める。と言っても、2人で聞きまわる必要はなく、むしろ数が多いと下手に目立つだけなのでホウとは別れ、聞き込みを開始。
軽く聞いて回っただけで、驚くほど簡単に情報が集まった。
なぜならもなにもなかった。
傭兵の募集自体が広く知れ渡っていて、その胴元についても隠す気がないのだ。
傭兵に募集をかけているのは貿易商のカイオール商会。
古くからある商会ではなく、ここ数年でのし上がってきた新進気鋭の商会らしい。
故にかは知らねぇが、あまりよくない噂も多い。
だが同時に、今回の傭兵募集のような人の為と言えるようなことも率先してやっているらしく、話す者によって口ぶりが大分違ったのが印象的だった。
競り値のつり上げや独占のような非合法ギリギリの行為をしたという噂もあれば、奴隷狩り対策に自費を投入するような聖人だという話もあった。
そこから導き出される答えは・・・。
人に疎まれるほどの善人か、自分をよく見せるのに長けた悪人かだ。
一応、二重人格の可能性もなくはねぇだろうが・・・わざわざ考慮するほどのもんでもねぇ。
直接本人を見ればどっちか分かるかもしれなかったが、生憎そんなコネはねぇしな。
後、大障壁はこの件に関与してないらしい事もわかった。
傭兵の募集に現れることはなく、それどころか、亜人なんぞ一匹たりとも通してた覚えはねぇ‼ と怒鳴り込んできたことすらあったようだ。
つっても、奴隷狩りの被害は出ていて・・・今は内通者がいないかの内部調査で険悪な空気だと、大障壁の砦まで商売にいく商人が教えてくれた。
これで、表向き大障壁が出張ってくることはないと言っていい。
最悪、傭兵共に追われることになっても、もどき程度の実力なら気にする必要はねぇし、それ以上が居たとしても大障壁ほど厄介な連中ってことはねぇはずだ。
問題があるとすれば・・・数だな。
思っていたよりもかなり多い。
それこそ、どこに行っても目につくぐらいに。
気にしてなかった時には目に映らなかったが、見渡してみればガラの悪そうな奴ばかり。
区画に寄るんだろうが、歓楽街は特に。
騒ぎを起こしたのも歓楽街だったし・・・、マジで面倒なことになるかもしれねぇな。
この件について、スイやフッチにはまだ伝えてない。
まずはリーダーのサンに話してからにしたいとホウが言ったからだ。
そこはパーティーの問題だし、パーティーの空気を大事にしたいホウなら、フッチだけに責任を感じさせたくないと考えてもおかしくはないから任せておいた。
だが、
「――って事があってな。悪いが、迷惑をかけることになるかもしれねぇ」
「なるほど・・・そんなことが」
一足先にホテルに戻った俺は、同じくホテルに戻っていたサンパダに事情を説明した。
本来ならば当人、あるいはパーティーの問題だとしてリーダーのサンが話すべきことかもしれないが、フッチの事情をサンパダが知っているかもわからないし、そこから明かすとなれば言いにくいことも多いだろう。
それならば、年長者として俺が責任をもって謝罪や今後の見通しについて話してしまった方がいい。なにより、今この時は同じ依頼を受けた仲間なのだから。
「本当に、申し訳ありません。依頼者を関係のない面倒ごとに巻き込むなんてことがあっていいはずはありませんが・・・出来るなら、あいつらの事情もわかってやってください」
深く。頭を下げる。
これは冒険者ギルドの職員として、誰かを導く立場として、俺がやらなければならないことだ。
そう思って真摯に務めたんだが、
「あぁ、いえ⁉ 大丈夫ですよ。ゼネス様にそこまでしていただくことではありません! 私は彼らの事情を知っていますので、どうか頭を上げてください⁉」
サンパダが少々慌てながら、分かっていますとも。と返して来た。
「彼らの事情を知って、私は彼らに力を貸してもらっているのです。実力自体は有っても、彼らはその事情のせいで依頼を断られるといったようなことがあり、それを聞いた私は実力のある彼らを・・・言ってしまえば、雑に使わせてもらっているのです。彼らとしても、早く等級を上げたかったようでしたので・・・」
俺が頭を下げたことに、むしろ申し訳なさそうなサンパダ。
謝り損かよ。と思わなくもねぇが、誠意は必要だ。
別に意味が全くなかったわけでもない。
気を取り直して話を進める。
「まぁ、あいつらの事情を知ってるなら話は早いな。奴隷狩りのせいで今まで以上に、敏感になってるところで姿を見られたんだ。厄介な連中が押し掛けてきたりがあるかもしれねぇ」
「その辺りはホテルと掛け合っておきますか。他のお客様のご迷惑になるのは忍びないですから。ところで、このことをサン君には言わなくていいのですか? 先に説明しておいた方が・・・」
「あの2人はもうホテルにはいねぇよ。ホウが探してたって伝えて、ここの護衛を代わったからな。今頃どっかで合流してるだろ。そこでホウから聞くはずだ。なにがあったのか、どうするのか、ここで俺と話すよりパーティーで話し合った方がいい」
「・・・やはり、冒険者と言うのはいいですね」
急に。どこか、馳せるような目でサンパダが言う。
「いきなりどうした?」
「いえ、ゼネス様にとって彼らは特別思い入れのある相手というわけではないでしょう?」
「それはそうだが・・・」
超弩級だったり、ワンダーゴーレムの解体だったり、駆け出し関係でも多少は袖すり合ったが、特別かと言われりゃそうでもねぇ。
「であるのに、ゼネス様は彼らの為に深く、深く頭を下げた。それも、ただの商人である私に」
「それはギルド関係者として――」
「分かっています。ですがきっと、ゼネス様はそうでなくても頭を下げたでしょう。彼らの仲間として・・・。誰かを助けることが、いつか自分を助けることもあるだろうと。命を懸けてモンスター戦う冒険者ならではの助け合いの精神。羨ましい限りです! 私共商人というのは打算と妥協にまみれ、利益でしか手を取れない悲しき性を持つ生き物。だから、憧れてしまうのです!」
饒舌に話すのはいいが、それは美化しすぎだ。
「誰かの冒険譚で呼んだのか?」
「昔、護衛をしてくれた冒険者に直接聞いたのです。南の霊峰ではそれが当たり前だ、と」
「だとしたら騙されてるぜ? そんな小難しいことを考えてる奴なんざいねぇからな」
「では、傷付いた人がいても助けないので?」
「いや? 目にした奴らは出来る限り全力で、なんとかしようとするだろうよ」
前線ともなれば、仲間がいなくなることの意味を知らない奴はいねぇ。なにより、同じ場所にいれば、どいつもこいつもどこかで見た顔ばかりになるんだ。助けねぇなんてことはねぇ。
「ならやはり――」
「けどな。誰も、いつか自分が助けて貰えるように。なんて考えてねぇんだ」
「でしたら、なぜ?」
「単純に。欲張りなんだよ。冒険者って奴らはな」
「――ッなるほど。それならば、私共商人とも変わりませんなぁ‼」
冒険者だから、とか。商人だから、とか。
そんな差はねぇんだ。
やりたいことをやっている。
ただ、それだけに過ぎない。