作品タイトル不明
第二話
入学式が終わり、生徒たちがそれぞれのホームルームへと移動し始める中、自分はさりげなく人の流れを観察していた。
あ、いた。
栗色の髪に、少し丸みのある瞳。令嬢らしく整えられた身なりだが、どことなく雰囲気が柔らかい。緊張しているのか、きょろきょろと周囲を確認しながら歩いている。
あれは間違いなく主人公だ。
よし。
「ねぇ、少しいい?」
彼女がびくっと肩を揺らしてこちらを振り返る。
大丈夫。笑顔、笑顔。アイリーンの愛嬌を良い方に使え。
アイリーンはとても愛嬌がある、口調も行動も可愛らしい令嬢だ。
それは交友関係を広げる武器にも、殿方を誘惑する武器にもなる。
自分はこの見た目と愛嬌を交友関係を広げることに使うんだ。
「貴方迷子? あたしも教室探してるのだけど……」
「え、あ……はい。少し迷っちゃって……」
「せっかくだから一緒に行かない?」
「あ……ありがとうございます。実は少し不安で……」
「まぁ、あたしと一緒なら大丈夫よ。あたしはアイリーン。貴方のお名前は?」
「ま、マリベルです」
マリベル。ああ、ゲームのデフォルトネームね。
それにしても、マリベル可愛いな……
ゲームしてた時もマリベルのビジュいいなって思ってたけど、間近で見ると更に良いわね……
なんて、感動している場合ではない。
とりあえず接触成功。
ここから関係を深めていかなければ。
教室に向かい、掲示板を確認し、互いのクラスを照合する。
「あら、マリベル、あたしと同じクラスだわ」
「本当ですか!? よかった……」
マリベルが心底ほっとした顔をする。その素直な反応が微笑ましい。
教室に入り、それぞれの席につく。自分はマリベルの近くの席を確保することに成功した。
やがてホームルームが始まり、担任の教師が教壇に立った。入学にあたっての諸連絡。持ち物のこと、授業の進め方、学園の規則……
ふんふん、と聞き流していたそのとき。
「グランツローゼについても説明しておきましょう」
その単語に背筋がぴんと伸びた。
グランツローゼ。
学業成績はもちろん、素行や人格などにおいて優秀と認められた生徒が選ばれる組織だ。
要はめっちゃ凄い生徒会みたいなもの。
学園の自治運営に一定の権限を持ち、各種行事の企画立案にも携われる。
これはオルガルートに行くなら超重要だ。
オルガルートにおいてグランツローゼへの加入はほぼ必須条件。
オルガ自身がグランツローゼの中心人物となるから、そこに関わることでヒロインとオルガの接触機会が格段に増える。
逆に言えば、グランツローゼに入れなければオルガとの関係はほとんど進展しない。
入るためには前期末の総合評価。つまり数か月後のテストまでにマリベルの成績を一定水準まで引き上げておく必要がある。
ヒロインのマリベルと悪役令嬢アイリーンのグランツローゼ加入。
まずはそこからだ。