軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6、突然の乱入者

「そうですよね! すみません、変な事きいちゃって」

「その方が、どうかされたのですか?」

「とてもファンが多い傭兵騎士様なのですが、何もかもが謎に包まれていて本名や経歴など一切不明。でも、とても綺麗な銀髪をされているのでオルレシアン家と所縁のある人物ではないかと専らの噂なのです。美しい銀髪と言えばやはりオルレシアン家ですから!」

「まあ」

レティシアは表情を崩さず、努めて穏やかに口元へ手を置いた。――が、内心ほっとしていた。

彼女の右手にはめられている指輪。瑠璃色の石がついたそれは、オルレシアン家の家宝とも呼ばれる『反転の魔導具』だ。

儚い見た目に似合わず氷魔法の素養があったレティシア。その力を一人極めるだけならば良かったのだが、せっかくなのでと変装して傭兵騎士になってきますと宣言したのでオルレシアン家は荒れに荒れた。特に母の反発は酷かった。

もし正体が明るみになったらどうするのか。嫁の貰い手が現れない。――三日三晩切々と説教されたがそれで折れるレティシアではない。ノブレス・オブリージュ。人を助ける力があるのに腐らせておくなど勿体ない。騎士になろうというわけではないのです。いわば人助け。ご安心召されよ。――と、逆に説得する始末。

結局、父がオルレシアン家の家宝を持ち出すことでようやく決着がついたのだ。

『反転の魔導具』。

その名の通り、使用者を反転した身体にすることができる優れものだ。レティシアの場合女を男に反転という形で使用している。つまり完全なる男性体。

まさか美貌の傭兵騎士がオルレシアン家の人形姫だとは夢にも思うまい。

(――と思っていたのだが、まさか髪でオルレシアン家所縁の者だと見抜かれるとはな。美しいのも考えものか。まだ確証には至っていないだろうが、我が家の家宝を知る者が出てきたら危うい。まったく、頭が痛いよ)

レティシアは指輪についた石をなぞりながら、気付かれぬようため息をついた。

そんな時だ。

店のドアが乱雑に開け放たれ、この場に似つかわしくない粗暴な男が五人、入店してきた。ざわつく店内。彼らはぐるりと中の様子を確認すると、脇目もふらずにレティシアたちの卓――いや、違う。アリーシャめがけて歩いてきた。

知り合いだろうか。

ちらりと盗み見たアリーシャの瞳は驚愕に見開かれており、彼らが招かれざる客だということは一目でわかった。

「久しぶりだなぁ、アリーシャ。元気にしてたか?」

「……何のご用でしょう。ご来店なされるのなら受付を済ませてからにしてくださいませ」

「つれないじゃないか。せっかくお前に会いに来たっていうのによぉ」

ドン、と机に足を乗せアリーシャの顎を掴む。なんと行儀の悪い。レティシアの額に一瞬青筋が浮かんだが今はベル・プペーの演技を崩してはいけないと思い留まり、少し睨む程度に抑える。

「ラウラ様、彼らは一体」

「ぁ……ぅ……」

「ラウラ様?」

先ほどまで天真爛漫に笑っていた彼女が、今は肩を震わせ恐怖を我慢するかのように手をぎゅっと握って俯いている。ただ事ではない。

レティシアはラウラの手に自分の手を重ね、安心するような微笑みを向けた。

「ベル、さま……」

「大丈夫。わたくしが傍におります」

レティシアに危害を加えればオルレシアン家が黙っていない。それにここには第二皇子であるジルベールもいる。騒ぎを起こすことは百害あって一利なしだ。彼らもそんな馬鹿はおかさない。

ラウラはそう捉えたのだろう。

実際は文字通り最強クラスの傭兵騎士であるレティシアがいるのだから問題はない、という意味なのだが。

ともかく落ち着きを取り戻したラウラは息を一つ吐いて、レティシアへ耳打ちした。

どうやら彼らはこの店がジルベールの贔屓になる前、常連としてやってきていた低ランク傭兵騎士たちらしい。

ジルベールのおかげで店の質が上がり、同時に金額も上がっていった。そのため利用できなくなって久しく顔を見ていなかった男たちだそうだ。もっとも、見ての通り粗暴で、スタッフに対して高圧的なうえ時には暴力に訴えてくるので顔を見なくてほっとしていたのに、とラウラは恨めしそうに呟いた。

なるほど。ラウラが怯えるのも無理はない。

レティシアは彼女の頭を撫でて自らの後ろに隠すと、じっと彼らの様子を観察する。

殊勝に金を貯めて店を利用しに来たとは到底思えない。今まで手を出してこなかった事から察するにジルベールの圧はしっかり効いていたはず。

ではなぜ今になって、これほど尊大に乗り込んでこられるのか。

「誰の前で狼藉を働いているのか、分かっているんだろうな?」

「嫌だなァ。存じておりますよ、ジルベール皇子」

アリーシャに触れていた手を払いのけ、立ち上がるジルベール。しかし男たちはひるみもせず、彼の腕を掴んだ。

正気か、とレティシアは目を見開く。

このような場に出ているとは言え第二皇子だぞ。触れることはおろか、今すぐ跪いて非礼を詫びるべきだろうに。そう考えていたのはレティシアだけではなかったようで、この騒ぎを遠目から見守っていたギャラリーからもどよめきが漏れた。

何を考えている。

「やめなさい! 私が相手をすればいいのでしょう? その手を離して!」

「アリーシャ。キミは下がっていろ」

男たちの態度に怯んだ様子も見せず、ジルベールは淡々と目の前の男を睨みつけた。