軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ後編

訝しげに眉を寄せた瞬間、レティシア専属のメイドが走り寄ってきた。手にはオルレシアン家の封蝋が押された手紙を携えている。レティシアはそれを受け取ると、すぐに彼女を下がらせた。

ジルベールは二人きりの時間を邪魔されるのが嫌いだ。それを分かってなお届けに来てくれたと言うことは急務のはず。

急いで中身を取り出すと、内容に目を通す。

「で、手紙には何だって?」

「問題ない、と」

「ふふ。だろう?」

椅子を持ち出しわざわざレティシアの隣に設置すると軽く腰掛け、だらりとテーブルに身体を投げ出した。その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。

「俺自体はあんまり信用がないから、おおっぴらに動いたところで意味はない。――が、盤上遊戯は得意でね。相手に気付かれないよう一手一手着実に打ち込んでいけばチェックメイトなんて容易いさ。誰も彼も踊らされていると意識せずに、俺の手の平で踊ってくれる。平和的解決だろう?」

「さすがはジルベール様だ。頭が良いのは知っていたが、想像以上だ」

「一分、一秒だって、キミとの時間を邪魔されたくない。そのためなら何だってするさ。もっと褒めてくれてもいいんだぞ?」

「偉い偉い。良い子だな、ジルベール様は!」

ジルベールとレティシアが仲睦まじい夫婦になったことで、ジルベールを呪いの子と危惧する者たちからオルレシアン家も敵として認定されてしまったらしい。

レティシアの父たちも馬鹿ではない。しかし、有能な人材が揃っているはずのオルレシアン家ですら、ほんの小さな綻びから失脚騒動にまで発展してしまった。

当人たちも正に寝耳に水だっただろう。当初貰った手紙には動揺の跡が見て取れた。

相手方は頭が切れる。――が、しかし、ジルベールの方が一枚も二枚も上手だったようだ。まったく、末恐ろしい旦那様であるよ、とレティシアは彼の頭を望まれるがままに撫でてやる。

「あー……幸せで溶けそう」

「こらこら、私を未亡人にするつもりか」

「……なぁ、レティ。キミはこれからもずっと俺と一緒にいてくれるかい? 嫌になったりとか、してない?」

「私以外に誰が君を幸せにしてやれる。それに、あなたの作る料理はめっぽう美味い。もうあなた以外で満足は出来ん。身体も心も離れられんよ」

「胃袋を掴んだってやつか。妥協せずに腕を磨いて良かったよ」

ジルベールはレティシアの手を掴んで頬に寄せ、すり、と愛おしそうに甘えた。

「よければこれからもキミの食べるものを俺だけに作らせてほしい。人の身体は毎日少しずつ生まれ変わる。皮膚も、血液も、筋肉も、骨も、俺のつくったものでキミが構成されるくらいに。ずっと、キミの傍で」

「ハハッ、本当に可愛らしいな私の旦那様は。言うことを聞いてやれるかは状況によるが、鋭意努力しよう。私も、貴方のためならば持ちうる力、すべてを振るう覚悟がある」

レティシアがパチンと指を鳴らすと地面から氷竜が生えた。そして遠方から飛んできた光弾をぱくりと飲み込む。どうやらかなりの魔力が圧縮されていたらしい。

氷竜は腹が膨らんだと満足げに笑い、氷が爆ぜるかのようにその場から消え去った。

まったく。搦め手が失敗したからといって実力行使に出るとは。良い魔術師を雇ったものだ。氷竜の腹に消えた光弾は、丁度この庭園すべてが吹き飛ぶくらいの魔力量だった。ここまで緻密な魔力操作ができる者は限られてくる。

レティシアはくつくつと喉を鳴らして笑った。

「私が傍にいるのだ。この程度の児戯で襲撃しようなどと生ぬるい! 誓おう、ジルベール様。この命ある限りあなたを守り続けると!」

「レティ……」

「だから案ずるな。怖がるな。ずっと、傍にいる」

レティシアの言葉に、ジルベールは頬を染めて「うん」と頷いた。

頭が良い分、余計な事を考えて不安定になりがちな彼だが、それらすべてを抱いて包んで愛してやると決めていた。

愛されたい離れたくないと怯えるのならば、想定以上の愛を注いでやればいいだけのこと。レティシアの愛は無尽蔵だ。底なしの愛に溺れるといい。

「妻としてあなたの願い、あなたの思い、すべて受け止め、叶えよう。王として君臨したいのなら王座にもつかせてやる。――が、あなたはそんなもの願いそうにないな」

「そうだな。俺は、小さな一軒家で君とのんびり暮らせることの方が理想かな」

「ふふ、それは王座に就かせるより苦労しそうだ。……が、悪くない」

未来を思い描くように目を細める。

「死ぬまで傍にいてくれよ?」

「……死んでも傍にいたいけれどね」

「ハハハ! 重いな旦那様! そういうところも実に愛い!」

傍から見れば彼らの前途には問題が山積みに見えるだろう。

しかしレティシアの武力とジルベールの頭脳の前には、すべてが些事になる。真逆だから上手くいっている夫婦だと思われがちだが、彼らには一つ共通点があった。

敵には一切容赦はしない。

お互いがお互いの不得手を補いながら、すべての妨害を蹴散らして幸せに暮らす。きっと、そんな未来が待ち受けていることだろう――。