軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白魔導師、孤児院に行く

アシリアの言う孤児院は聖地の中心からはかなり離れた場所にあった。

立地には難ありだが、流石は大聖人とも言われる人物が運営する孤児院。俺の背丈よりもずっと高い壁に囲まれ中の様子は見えないが、土地はそれなりに広そうだ。

立地が立地なため中心地に比べれば地価が安いのもあるだろうが、それでもこの聖地にこれだけの土地を持つのはかなりの金がかかるはず。

大聖人の運営する援助などもされていそうだが、それも大聖人の力と人徳があってこそ。

凄いな。

入り口には聖騎士が二人いるが、どちらも強そうだ。

「アシリアの家みたいなものだろうし、警備が厳しいのは当然か……」

「えぇ、土地も警備も想像以上に凄いわね。勝手な偏見だけど、もっとこじんまりしていると思ってたわ」

かなり金がかかっているという印象を受けたのはユイも同じらしい。

それから俺たちは警備の二人にアシリアにお願いされた旨と、冒険者プレートで身分を証明し、敷地へと足を踏み入れた。

広い敷地内には白い壁の洋風な建物がいくつか立ち並んでおり、それぞれ一階が屋根のついた渡り廊下で繋がれている。

敷地には緑が生い茂っており、普段はその上を子供たちが駆け回っているのだろう。

これなら転けても痛くはなさそうだし、足にも悪くない。

高い兵に囲まれながらも窮屈さを一切感じさせないほどの広さと自然。

警備面のみでなく、子供の養育環境までしっかりと配慮されている。

凄い……。

そんなことを考えながら周囲を見回していると、一人の白髪の老男性がこちらへと歩み寄ってきた。

動きやすさを重視してか、薄手の服を着ており、歳の割には筋肉がついているのが分かる。

やはり、子供の相手というのは大変なものなのだろうか。

「えーと、すみません。どのようなご用事でしょうか?」

「私はアシリアにお願いされてきた冒険者のユイで、それでこっちは……」

「アシリアにお願いされていない冒険者のロイドだ」

俺の自己紹介を聞いたユイが一瞬、不満げな顔をこちらに向けた気がするが、それはきっと気のせいだろう。

ユイ、という名前を聞き、白髪の老男性は状況を理解する。

「あのSランク冒険者の剣士、ユイ様ですか……なるほど、それでアシリア様は」

俺のことに一切触れてこないあたり、やはり、俺の方はお呼びではないらしい。

少し悲しい気もするが、これが現実なのだとしっかりと受け止める。

「申し遅れました。私はこの孤児院の副院長のビクターです。もう少しすれば昼食の時間ですので、その時にご紹介いたします。それまではあちらの館でお待ちください」

そう言い、指定された建物には一見、他の建物と違いが見当たらない。

一見は、だが。

「えーと、あそこは?」

「職員用の館です。応接室や院長室、警備員用の仮眠室などがあります。やんちゃな子供もいますからね。大切な書類や警備員の仮眠を邪魔されないよう、子供の立ち入りは通常時は禁止していますので、あそこならゆっくりできるでしょう」

「今、子供たちは何を?」

「今は座学です。厳しい話ではありますが、彼ら、彼女らには身寄りがありません。だからこそ、生き抜くための学を身につけさせています」

「な、なるほどね」

「ひょっとしてユイより賢……」

ユイの蹴りが俺の脛にヒットする。

しかもさっき蹴りを入れたところと一寸違わず同じ位置に強力な一撃を入れてきやがった。

痛い……二度目ということもあり、より痛い。

「ははは……お二人は仲が良いんですね」

「はい!」

ユイは満面の笑みを浮かべ、元気よくそう返した。

再度蹴られることを想像すると、これ以上、俺にはもう何かを言うことができなかった。

それからビクターに案内され、その職員用の館へと移動した。

先導するビクターを見ながら、そっとユイが耳元で囁く。

「ロイド、あのビクターって人、強いわよ」

「そうなのか? 俺には全然分からなかったが……それもそうか。大聖人アシリアの運営する孤児院の副院長がただのおじさんなわけないか」

大聖人ともなれば人脈も広ことだろう。

聖騎士を引退した強者を雇用することだって可能なはずだ。

ユイの直感が正しいのであれば、あの副院長は孤児院の運営と同時に大聖人の護衛も兼ねているのだろう。

どうであれ、彼が強くて困ることはない。別にそこまで気に留める必要はないと判断し、そこで思考をやめた。

それから十数分後、ビクターに呼ばれ、子供達の元へと挨拶に向かう。

美味しそうに昼食を頬張る子供たちを見て、俺がなんと言うかを悩んでいる間に、ユイは颯爽と挨拶を始めた。

「どうも、Sランク冒険者のユイです!」

ユイの挨拶に子供達が食いつく。

「え、お姉ちゃんがあの⁉︎」

「凄い! サイン頂戴!」

「お、俺……剣を教えて欲しい」

アシリアが言っていた通り、ユイはこの孤児院の子供達からは人気があるらしく、多くの子供達が一瞬にしてユイを囲った。

ビクターが食事中は席につくようにと注意するが、子供達の耳には届いていない。

皆、ユイに夢中だ。

ますます自己紹介しにくい雰囲気になった中、勇気を振り絞り俺も挨拶をする。

「えーと、同じく冒険者のロイドで、白魔導師をやっているんだが……」

「回復系? なら、いーや。回復なら、アシリア姉ちゃんが一番だし」

なるほど。俺には全く興味がないらしい。

比較対象が大聖人サマでは、当然だな。

子供の特有の素直すぎる故の残酷さを痛感しながら、俺はその場で立ち尽くしていた。

「すみません、ロイド様……子供達も悪気があるわけじゃないのです。ただ、彼らはまだ子供……子供というのは分かりやすいヒーローが好きなのです。剣を振い、敵を薙ぎ倒す剣士、派手な魔法を使う魔法使い、そういった方々は非常に強さがわかりやすいですから」

ビクターの優しいフォローが俺のボロボロの心に染み渡る。

「いいんだ、別に気にしてはいない。俺自身、ヒーローって柄じゃないし、そんな力もない」

見栄を張っているわけじゃない。

事実、なりたいとすら思わない。

それにユイが人気で、俺に無関心なのは十分理解できる。

「彼らもきっと大人になれば分かります。聖騎士や冒険者の活躍は確かに、素晴らしい物です。ですが、彼らが活躍する裏では、表舞台には出ない、しかし、確かに貢献していて、いなくてはならない人たちがいることが」

「そう言うものなのか? 大人になっても人はやっぱり、分かりやすいヒーローが好きだと思うが?」

大賢者とか、大聖人とか。

何かと異名をつけ、それを崇めたがる。

「そうかも知れませんね」

「ビクターさんは……」

「ビクターでいいですよ」

「ビクターはどうしてこの孤児院に?」

めちゃくちゃ気になる、というわけではないが、ビクターと会話する以外にやることもないためそんな質問を投げかける。

「孤児院に勤めた理由ですか……そうですね。私は元々、聖騎士として働いていたのですが、職業柄いつ、どこで死ぬかもわからない環境で……だから常々悔いが残らないようにと生きてきた結果、老後にやることがなくなってしまいまして」

「それは羨ましい悩みだ」

「はい。そんな中、アシリア様にお声をかけて頂きました。そう言うわけでとりあえず、始めてみたらこれが意外と楽しくって。元々、世話を焼くのは好きなのですが、いいですね。子供の世話というのも」

ビクターが子供へと向ける瞳は優しげで、温かさを感じる。

本当に心優しい世話好きなのだろう。

だが、ユイのいう強者の雰囲気というのは一切感じられなかった。

暇だし、少し探りを入れてみるか。

「大聖人直々に声をかけられる、ということは、ひょっとして相当凄い人だったり……」

「さぁ、どうでしょう?」

その一瞬だけ、ニッコリと微笑むビクターから、どことなく強者の風格を感じた。

アシリアから副院長を任されている時点でただものではないのだろうが、俺の想像していた以上の強者なのかもしれない。

「ぱっと見ただけで、それに気がつくユイもどうなってるんだか」

「何か言いましたか?」

「いや……独り言だ」

「そですか……その、もし宜しければ一つ、仕事を頼まれてはくださいませんか? 少しばかりやらなくてはいけないことがあるので、昼食後、子供達をみていていただきたいのです」

孤児院の運営、というのは色々と大変だろうということくらいは俺にでも分かる。

「俺で良ければ。やることもないからな」

ユイと違って。

俺は収納魔法で、杖を取り出し探知魔法を発動した。

よし。敷地内にいる気配は全て把握できたし、魔法だけでは職員と子供の気配の差ははっきりしないが、幸い今この場には子供が集まっている。

この状況を利用し、子供達の気配がどれか把握しておけば後々楽だろう。

「えーと、何をなさって」

「念の為探知魔法を使ってるだけだ。こうしておいた方が、異変を察知しやすいだろ?」

「それはそうですが。できれば直に見て様子を観察……いえ、やり方はお任せします。お昼ご飯の時間が終われば遊びの時間です。大半の子供は外に向かうでしょう。私は子供の部屋の清掃状況や備品の確認、警備状況なんかも見て回ってきますね」

「了解した」

昼食の時間が終わり、一人取り残された俺は、近くにあったベンチに腰掛けた。

心地よい日差しが眠気を誘うが、流石に寝るのは不味いだろう。

睡眠と探知魔法は両立できない。

遠目に、子供と戯れるユイを眺める。

おもちゃの木剣を片手に多数の子供の攻撃を、怪我をさせないように上手く躱すユイ。

「様になっているな」

Sランク冒険者と遊ぶ機会なんてそうないだろうし、そんな珍しい機会を逃すまいとかなりの子供がユイの近くへと集まっている。

だが、ユイに興味を抱いていない子供も少数ながらいるようで、木の陰で本を読む少年や杖?を持ってトボトボと歩く少女の姿も見られた。

ユイの元に集まっている子はユイに任せるとして、俺はユイに興味を示していない子たちの様子を少し見て回るとしよう。

ビクターはおそらく気配ではなく、直に見て子供達の様子を確認して欲しかったのだろう。気配だけでは体調が良いのか悪いのかは判別しにくい。よほどのことがあれば分かるだろうが些細な変化は気が付きにくい。

ユイも自分の集まる子供達の相手で手一杯だろうし、このまま座っていると本当に眠ってしまいそうなため、俺も動くことにした。

「あの子、魔法を練習しているのか」

黒髪に赤いリボンが特徴的な少女が、長めの木の枝を杖に見立て、何やらブツブツと呟いているが、あれじゃ魔法は使えないだろうな。

一応、何かの本を参考にしているようだが。

初めから独学でやるのは難しいだろう。

暇だし、目で見ずとも監視は探知魔法でできている。

ちょっと手を貸してやるか。

基礎的なことであれば、俺でもおそらく教えられるはずだ。

杖もどきを構え、詠唱を続ける黒髪の少女に歩み寄り、俺なりに優しく声をかけてみる。

「魔法の練習をしている……のかな?」

得体の知れない俺を不審そうな瞳で見つめる少女の目には、きっと俺のぎこちない笑みが映っていることだろう。

「……そうですが?」

地面に開いたまま置かれた本には、回復魔法「ヒール」について書かれていた。

属性魔法だったらどうしようかと思ったが、これならば少しは力になれそうだ。

「ヒールの練習……かな?」

「……そうですが?」

「えーと、今使える魔法は?」

「……ないですが、問題でも?」

淡々と子供らしくない返事を返す少女。

最も有名と言っても過言ではない回復魔法「ヒール」。

いきなり覚える魔法なのか否か、俺には判断つかないが、とりあえず……。

「木の枝じゃ不便だろ?」

収納魔法で、念の為予備で買っておいた杖を取り出す。

魔法を使う媒介ははっきり言って杖である必要はない。杖を媒介として使いやすいと感じる人が最も多いだけで、例えば指輪やネックレスなんかでもいい。収納魔法のように小さいものの取り出しなど、極端に魔力消費が少ない魔法であれば杖なしで魔法を使うことも可能だ。

そう言えば、収納魔法を使う時って、腕そのものを媒介にしているイメージなんだよな。

師匠に教わるがまま、そう言うものだと解釈していたが、ひょっとして他の魔法でも肉体そのものを媒介として解釈すれば……

「いや、誰もしないってことは、やってはならない理由があるとか?」

下手な体が破裂とかしたらやだし、師匠やシリカがしてないってことは、それ相応のリスクがあるんだろう。

「……あの、一人で何をしているんですか?」

ボソボソと独り言を繰り返す俺を不審者を見るかのような目で見つめる少女。

「あ、ごめん……なんでもない。それより、これ」

取り出した杖を少女へと差し出す。

「……これは?」

「ヒール、練習するんだろ? なら、こっちの方が断然使いやすいぞ」

「……でも」

初対面の相手から、杖を渡されるのは抵抗があるらしい。

孤児院の子たちの金銭事情は分からないが、魔法用の杖は決して安くはないだろう。

別に差しあげても構わない杖なのだが、こう言う場合、どう言えばこの子が受け取りやすくなるだろうか?

俺なりに考えた結果、俺はダンジョン産の魔杖を取り出した。

この魔杖は高性能なだけでなく、綺麗な装飾も施されており、見るからに高価な杖だ。

「俺はこれがあるからな」

もっといい物持ってるから、気にしないでいよ!という感じの作戦なのだが、結果はいかに……。

「……お兄さん、性格悪い人ですか?」

「えっ……」

「まぁ……そう言うことならありがたく、受け取ります」

俺への印象が悪化したような気はしたが、受け取ってもらうことには成功したため良しとする。

それから、俺は俺なりにどうすれば伝わりやすいか考え、実演も織り交ぜながら少女に魔法を教えた。

しかし、そう簡単にはいかず、

「……難しい」

「一朝一夕で身につくようなものじゃないし、初めての魔法ともなると、時間はまだまだかかるだろうな」

「……悔しいです」

そう言う少女の杖を握る手にはグッと力が込められており、俯き唇を噛み締めたいた。

「悪い、俺も教えるのにはなれていなくてな。でも、この調子で練習を継続したら、そう遠くない日には使えるようになると思う。杖はあげるから、この調子で頑張れよ」

「……お兄さんは、もう来ないんですか?」

意外なことに、少し寂しそうにこちらを眺める。

「まぁ、本業は冒険者だからな」

「……そう、ですか」

しょんぼりと肩を落とす少女に、かける言葉が見つからなかった。

何か、ショックを受けるようなことがあっただろうか?

そんなことを考えていると、新たな気配が一つ敷地内に現れた。

見張の横を素通りし、正門から堂々と……。

気配の方を振り向くと、そこにはアシリアの姿があった。

その頃にはすでに夕方で、ちょうど子供達の自由時間も終了し、今からは晩御飯の時間とうタイミングだった。

ビクターが子供に集合をかけている。

「ふぅ……子供達は元気ですなぁ」

額の汗を拭いながら、ユイが歩み寄ってくる。

「俺たちだってまだ、そう言うことを言うほど年取ってないだろ」

「まあね。ロイドは、女の子にピッタリとくっついてたけど、何してたの?」

「魔法を練習していたらしいから、その手伝いをな」

「ロイドに魔法を教えてもらえるなんて、幸運な子供ね」

「そうでもないだろ。教えることに関して言えば、初心者も同然だし」

ユイとそんな会話しているとアシリアがやってきた。

「二人とも、お疲れ様です」

「アシリアさんこそ、お疲れ様」

「見たところ、お二人ともうまく子供と接しているようですね。ただ……」

アシリアが俺の方を見た後に、俺が魔法を教えていた少女に目をやった。

「ロイド様……ユリハに杖を与えたのはマイナスですね」

ユリハ、と言うのはあの黒髪に赤いリボンが特徴的な少女の名前だろう。

そう言えば、名前を聞き忘れていたな。

それに、マイナスとはそう言う意味だろう。

「ん? そうか?」

「はい。誰か一人だけ、特別なものをもらった、と言うのは喧嘩の火種になりかねませんから。ここの孤児院はありがたいことに、様々な方からの支援のお陰でお金には困っていませんが、それでも子供たち一人一人にそうポンポンと高価なものを与えられるほどの余裕はありません」

「すまない……それは失念していた」

確かに誰か一人にだけ物を渡すと言うのは不公平だ。

今後は気をつけるとしよう。

最もそう言う機会があれば、の話だが。

「ところで、二人は冒険者、と言うことですが、宿泊先はもうお決まりでしょうか?」

「「あっ」」

アシリアにそう言われ、自分たちの帰る場所がないことに気がつく。

そしてユイは自分に十分なお金がないことを思い出す。

「ない、わね」

「ない……」

ユイと俺の返事を聞いたアシリアがにこりと微笑む。

「でしたら、今日はこの孤児院にお泊りください。使われていない部屋がいくつか余っていますし、子供達にとっては二度とない機会です。子供たちもまだ話し足りないでしょう」

「それは助かるが……いいのか?」

「はい。まだあの子も、ロイド様とお話しし足りないようですし」

「あの子?」

アシリアの視線を追うと、先ほどまで魔法を教えていた少女がこちらを見ていた。

しかし、目が合うとすぐに視線をさらされてしまう。

やはり子供というのは難しい。

「アシリアさんは今まで何してたの?」

「教会で回復魔法を使って治癒して回った後、出資先から呼び出しがあったので、そちらの方に出向いていました」

「へぇ……大変なのね」

「そうですね……今日は少し、疲れたかも知れませんね」

普段からきっとこんな多忙な日々を過ごしているのだろう。

昼間は教会で魔法を行使し続け、夜は子供達の世話。

他にもお金の管理や人材の確保、出資のお願いをしに行ったりなど、運営に関する仕事もあるだろう。それらを一人で全てやっているということは流石にないだろうが、だとしても色々とアシリアにしかできない仕事もあるはずだ。

彼女が大聖人と呼ばれる所以はきっと高い回復魔法のスキルだけじゃない。

そういう人間性もあって、大聖人と呼ばれているのだろう。

相当な疲れが溜まっているはず。

「今日は私が子供達の相手をするから、アシリアさんはゆっくり休んでいていいわよ」

「ですが……」

「大丈夫って、ね? ロイド」

「まぁ、俺は人気ないし、多分ほとんどユイが相手する形になると思うが。ユイがいいんなら俺からは何も言うことはない」

「ならオッケーね」

そう言うわけでアシリアのお手伝いをビクターの指示の下やることになったのだが、実際、夕食中もその後もユイは大人気だった。

ユイを見て、聖騎士ではなく冒険者になりたいと言い出す子供まで現れるほどだ。

ユイには周囲の人間を惹きつける魅力がある。

一方、俺の方に話しかけに来たのはユリハという女の子だけだった。

彼女は周囲の子に比べても人一倍、魔法に興味関心が強いらしく、様々な質問を投げかけられた。

今もそうだ。

就寝まで残り少ないと言うのに、俺の言ったことをメモまで取って聞いている。

そう真剣にメモまで録られると、なんというか話しにくい。

そう思う時点で、俺は誰かに教えるのは向いていないのかもしれないな。

「ユリハはなんで、そんなに必死になって魔法を学ぶんだ?」

「……それは、絶対に答えなければなりませんか?」

「別に。答えたくないなら答えなくていい」

俺は所詮は部外者だ。

込み入った事情であるのなら、深入りしすぎるのも良くない。

「大した理由じゃないです。ただ、いつかアシリアお姉ちゃんのお手伝いをして、少し楽にさせてあげたいだけです」

役に立ちたい、という前向きな感情よりは罪悪感に近い感情がユリハから感じ取れた。

ある程度聡い子供であればアシリアが普段から忙しく、疲労が蓄積していることに気がつけるだろう。

自分がこうして楽しく、不自由なく過ごせているのはアシリアが頑張ってくれているお陰だと。

そんなアシリアのお陰で成り立っている自分の生活に罪悪感を感じるのも無理はない。

ユリハはまだ子供だ。

大人に頼ることに罪悪感なんて感じなくていい年頃のはずだが。

優しいんだな。

「私に、なれるでしょうか?」

「さぁ、どうだろうな」

無責任に、なんの根拠もなく、俺みたいな人間が放った一言が、彼女の将来に影響するかもと考えると、そう言うしかなかった。

そんな俺の返答が不服だったのか、むすっとした表情でこちらを見つめてくる。

「悪い。本当に判断つかないんだ。ただ……」

「ただ? なんですか?」

「俺よりは凄い回復魔法の使い手にはなれる」

そう言うと何故か、ユリハは僅かにだが嬉しそうに笑った。

「そうですか。それはよかったです」

「そんなにか?」

「はい、あなたよりも上になれると言うことは……つまり、問題ないと言うことです」

俺より上にさえなれればいいって。

ユリハ……こいつも大概性格が悪いのでは?と思ったが、相手は子供だ。

その言葉はそっと胸の内にしまっておいた。

ユリハは満足げな表情で手帳をパタンと閉じ、スッと席を立ち上がる。

「おやすみなさい」

「あぁ……おやすみ」

ユリハや他の子供達が部屋から出ていくと、ユイが俺のところへとやってきた。

「いやぁ、子供に手を出すのは犯罪ですぞ?」

「はぁ……そんなわけないだろ」

「その割には、あの子に随分と肩入れしているようじゃない?」

「俺が不人気すぎて、あの子しか話しかけてこないだけだ」

「分かってる。揶揄っただけよ」

分かってる、の部分が俺が子供に手を出さないことにかかってるのか、あるいは不人気であることにかかっているのかによって意味合いが大きく異なってくるが、俺がそれを追求するより先にユイが口を開く。

「子供立ちも就寝するみたいだし、私たちも行きましょう」

「あ、あぁ……そうだな」

この後、俺たちは院長室へと向かった。

数回ノックし院長室の扉を開けると、二人がけのソファーの上で横たわり、ぐっすりと眠るアシリアの姿があった。

「寝てる……」

「あれだけ魔法も行使して、その上、孤児院の支出者とも話してきたんだ。疲れるだろうな」

「そうね。それにしても大聖女……まさか寝顔にまで癒し効果があるなんて」

確かにアシリアの寝顔はかなり可愛く、ユイの言いたいこともわからなくはなかった。

「そうかもしれないが、あんまりまじまじと見つめてやるな」

「えへへ……どーしよーかな」

ユイがツンツンと頬を突くと、瞼が動き、数秒かけて意識がゆっくりと覚醒していった。

「あっ、起こしちゃった?」

「えーと、私は……」

体を起こしながら、周囲を見回す。

そうして、自分が疲れ切って寝てしまっていたことに気がついた。

「そうです! 子供達は……」

「みんなちゃんと時間通りに自分の部屋に向かったわ」

「そ、そうですか」

子供達の様子を聞き、ほっと安堵する。

「なるほどな」

「どうか致しましたか?」

「いや、別に」

ユリハがどうして魔法の練習をしているのか、その理由を俺も身をもって理解できた。

毎日、自分たちの面倒も見ながら、大聖人として教会での勤めも頑張るアシリアの姿は格好良くもあるが、心配にもなる。

「ねぇ、良ければこれからも少しの間だけどお手伝いしようか?」

「それはありがたい申し出ですが、ユイ様にもご用事が」

「明後日はちょっと依頼があるけど、他は今のところないから心配無用よ! 本来はもう少し学院にいる予定だったからダッガスたちはまだまだこなさそうだし、あの人もまだ時間かかるだろうし」

帰る宿も、泊まるお金もない、と言うことは言わないでおこう。

流石に三度目の蹴りは耐えられそうにない。

「ロイド様は……」

「ユイがいいっていうなら」

どうせ、苦労するのはユイだ。

俺はまた今日と同じく、探知魔法も使用しながら子供達の動向を把握、そしてユリハに魔法を教えるだけだろう。

「では、お願いいたします」

「えぇ、任せなさい! それと別に様ってつけなくていいわよ」

「分かりました……ユイさん、ロイドさん」

それから、俺たちはアシリアが用意してくれた部屋へと向かった。

明後日の依頼。

リョウエンがその回復職を連れて来れるかは怪しいところだが、こればっかりは俺にもユイにもどうしようがないため、上手くいくことを祈るしかない。

「最悪依頼が受けられなければ、本屋にでも寄って回復魔法の教科書でも買ってみるか」

そんなことを考えながら俺は眠りについた。