軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白魔導師、告げられる

グラトニースライムを討伐し、迫る恐怖は消えたものの、課外授業は一時中断となった。

仕方ない。

現状、多くの学生は課外授業の続行は不可能だろう。こんな状況でもまだモンスターを狩れる気力が残っている奴がいるとすれば、ユイかギースくらいだ。俺も体力的にはまだ余裕があるし、魔力回復ポーションを使えば魔力もそれなりに回復できるが、気力があるかと言われれば別だ。

精神的に疲れた。

「中断ってことは、結果はどうなるんだろ?」

「最悪無かったことになるかもな」

「えー、そんなぁ。せっかく頑張ったのに」

「仕方ない、死者も出てるんだ」

生徒に被害は及ばなかったものの、聖騎士の犠牲者が一人でた。

勝負は白紙になってもおかしくない。

今、そのことも含め、レイヤ先生たちはこの後のことを聖騎士と話し合っているようだ。早く帰るべきではあるが、あと一時間もしないうちに、ラミスが聖騎士を率い駆けつけてくれるそうなのでそれまで俺たちは待機することが決まっている。

「それにしても、カンナの死霊魔法ってやつ、凄かったわね。ロイドの強化魔法なしの、素の状態がわからないから断言はできないけどさ。あの力を磨けば、多分二年もかからずに、Sランク冒険者になれるんじゃない?」

多くの冒険者を見て、かつ、Sランクの称号を持つユイが賞賛するほど、カンナの力は凄まじく強力なものだった。

「俺は冒険者のランク事情には詳しくないが、強力な魔法なのは間違いないな」

だが、同時にラミスが言っていた懸念というのも理解できた。

今回、取り込まれた聖騎士は死霊化しなかったが、もしカンナが死霊魔法を使いこなし、死者の力すら扱えるようになったらと思うと、正直恐ろしくも思う。死後、時間が経過しすぎてると死霊化はできないため、死体を持ち歩くような戦法は使えないが、それでもたった一人で戦況を覆すような力であることは間違いない。

戦場で散っていった軍勢を、再度蘇らせ、不死の軍勢とし戦かわせられるとすれば……

「強力だが、使い方を一歩間違えると危険な魔法だ」

「そうね、多くの聖騎士学校が彼女の入学を拒む理由、分からなくもないかも。この国では生かしにくい力ね」

「冒険者なら?」

「モンスターが相手なら重宝されると思う。冒険者は実力主義な人も多いし、私もそれでモンスターの被害に悩まされる人が救われるなら良いかもって思った」

それでも、彼女は聖騎士を目指すのだろう。

「辛い道のりになるだろうな」

今、疲れ果てたカンナはテントで眠っている。

あのあと、カンナはその場で倒れてしまった。魔力の激しい消費もあるが、体力的にも精神的にも疲労が溜まっていたのだろう。

様子を見に行こうかと、ユイと話していると、悲鳴が聞こえてきた。

「あっちは学生が集まっている方よね? 何があったのかしら」

「さぁ、なんだろうな。モンスターではなさそうだが」

騒ぎの方向へと向かうと、顔面にいくつも痣を作り、血を流す男と、その男を鬼の形相で容赦なく殴り続けるギースの姿があった。

悲鳴は一連の出来事を見ていた生徒の者のようだ。

「カルティゴ……テメェ、よくも余計なことをしてくれたなぁ!」

カルティゴという男の腹部に強烈な一撃が叩き込まれる。

カルティゴは咽せながら、地面に両膝をついた。

「っ……し、仕方なかったんだ! だって、このままじゃ俺たちは勝てなかった……ギ、ギース、お前だって優勝したかったんだろ?」

「だから、余計なお世話だって言ってんだろ!」

カルティゴの胸ぐらを左手で掴み、無理やり立ち上がらせる。

「で、でもお前だって、ラタールたちにわざわざ絡みにいったじゃないか! どんな手を使ってでも勝ちたいと思ったから、そうしたんだろ!」

「あ? んなつもりで出向いたんじゃねぇよ。俺は、本気のあいつらと戦いたかっただけだ。あの女を馬鹿にすりゃラタールが動く。それに感化され、あの女の本気を見せればそれでよし……そのまま意気消沈し消えるような奴らなら、それまでの奴らだって見切りをつけるだけだ」

だからわざわざ焚き付けるような言葉を吐いた、と。

「な、なんだよ、それ……」

「別に、推薦状なんかおまけだ。あんなもんに頼らずとも、聖騎士と戦う方法はあるしな」

そう言い、ギースは右拳に力を込め、顔面を勢いよく殴りつけ意識を刈り取った。

カルティゴという男のせいで多くの人が被害を受けた。そのため、一連の出来事に恐怖を示す人はいても、それを止めようと身を張る者はいなかった。

ギースが気絶したカルティゴを投げ捨てたタイミングで、会議を終えたヒッツが駆けつける。

「こ、これは……」

「例のスライムを呼び寄せた責任を取らせただけだ」

「なぜ、そう断言できる? それ相応の証拠はあるんだろうな?」

ギースはヒッツの問いに「今の話、聞いてなかったのかよ」と愚痴を溢しながらも、面倒くさそうに説明を始めた。

「あぁ……昨晩、のことだ。こいつがこっそりとテントから出たのには気がついていたんだ。そん時はトイレかとも思ったが、あんまりにもその時間が長くてな。まぁ、別にどーでもいいと思っていたが……」

普通、パーティーのメンバーが長時間戻ってこなければ何かあったのではないかと不安に思い、探すんじゃないかと思うが……

ギースからすれば、仮にメンバーがモンスターに襲われていようとどうでもいいことなのだろう。

自己責任。弱い奴が悪い。

怪我をしてもそう言い、無理強いし、続行するに違いない。

「んで今日、例のスライムの噂を聞いてからこいつ、どうにも挙動が不審で、しまいには体調が優れないだなんだと言い出し始めた。スタート地点へ行こうって五月蝿くてな。それでだ、まさかと思ってブラフをかけてみることにした。それとなく、やんわりと昨晩何をしていたのかを知ってるふりして脅した。そしてらよぉ、こいつあっさりと吐いたぜ。昨日、閃光の魔法を使ったのをスライムに見られたかもしれない、あいつの怒りの矛先は俺で、狙われてるって。助けて〜ってな」

「そ、そうか……」

「あぁ。当初の予定じゃ適当に肉食のモンスターが好むポーションを使いエリア内に誘き寄せる予定だったらしいが、まさかモンスターの怒りを買い、自分が標的になるとは思わなかったそうだぜ?」

目の前で顔を晴らし、血を流すカルティゴに同情の余地はない。

彼のせいで、ヒッツは大切な一人仲間を失った。

だから、彼の行いを心から否定することはできなかった。

それでも、彼の行動や考えを肯定するのも正しいとは思えない。

「君は何故、聖騎士を目指す」

ギースの存在は明らかに異質だ。

他の聖騎士志願者とは考え方が大きく異なる。

だから、聞いてみたのだろう。

「俺が聖騎士を目指す理由は、魔族ってのと戦ってみたいからだ」

魔族という言葉に、実際に魔族との戦闘経験があるヒッツは反応する。

「何か、恨みでもあるのか?」

そう問いながらも、そうでないと半ば確信を持っていたヒッツ。

目の前のギースはとてもそんな感情に縛られる人間には見えない。

「別に。ただ強いんだろ? 魔族ってのは。俺は強いやつと戦いたい」

ギースはいかにもギースらしい回答を返すとユイと俺を一瞥し、その後、ざわつく生徒たちを鬱陶しく感じたのか、どこかへと消えて行った。

「変なやつに目をつけられたみたいね」

「俺はそういうの御免なんだが……」

それから十数分後、ラミスが聖騎士と集められる限りの教職員を率いやってきた。

二十名ほどの聖騎士と、同じくらいの数の武装した教師。

学院の二、三年も帰宅させ、動かせる教員を全て投入したそうだ。

ラミスを見た生徒たちには安堵し、歓喜の声を上げた。教師や聖騎士も、援軍の到着にほっと安堵しているようだ。

「すまない。聖地でも色々と問題が起こっていて、到着が遅れた」

「何か、あったんですか?」

ヒッツの問いに、ラミスは答えない。

いや、この場では答えられない、というべきか。

「生徒の前では話せない。それに関する話は後だ。それより、今は急ぎ、聖地へと学生を送り届けることに集中しろ。生徒の誘導を手伝ってくれ」

「承知いたしました」

教職員が聖騎士と協力して生徒を誘導し、聖地へと向かう。

カンナは馬車に揺られながら戻るが、その他の生徒は歩いての帰還だそうだ。

そんな中、俺とユイは職員の一人に連れられ、こっそりと馬車へと乗り込んだ。

乗り込むと、難しい顔をしたラミスの姿があった。

かなり深刻な様子だ。

「まず、初めに。急ぎ救出に向かえず、すまなかった」

そういい、頭を下げるラミス。

あまり、自分では言いたくはないが、俺は一応勇者候補者。あんな金庫のような部屋を用意するような国だ。俺の身に何かあれば、すぐにでも駆けつけるはず……

だが、実際はそうはならなかった。

つまりは、勇者候補者の危機を差し置いてでも、解決に当たらなくてはならない問題が発生したと予想できる。

「何があったんですか?」

「……聖剣が盗まれた」

「「はぁ!?」」

ラミスの口から出た衝撃的すぎる話に、俺もユイも声を抑えることができなかった。

「盗まれたって、誰に?」

「アレンだ」

アレン。

何をやっているのか、最近は話題にすら上がってこなかったが、まさか、こんなことをしていたとは……

「聖剣って、三大国の宝でしょ? そんな、簡単に盗み出せるようなものじゃないんじゃ……」

俺もユイと同じ意見だ。聖剣という、超国宝級の武具が、そう易々と盗めるはずがない。厳重に管理されているはずの聖剣がこうもあっさりと盗まれるなんてことがあるのだろうか?

「すまない。情けない話だが、完全に油断していた。聖剣はわかっている限り、この大陸で四人しか扱うことは愚か、触れることすら叶わない代物。管理に携わっていた連中は、聖剣そのものの基本性能に、そんな厳重なセキュリティーが組み込まれているから盗みは不可能だとたかを括っていたそうだ」

勇者以外は触れることすらできない……確かに強固なセキュリティーにも思えるが、逆に、勇者であれば簡単に盗み出せてしまう。

「前々から気にはなっていたんだけど、聖剣ってそんなに凄い剣なの?」

「あぁ、聖剣には魔力を生み出す力があり、聖地中心に立つ城はその魔力を用いた結界で護られている」

魔力を生み出す力……そんなの完全に俺の魔杖の魔力の貯蓄の上位互換ではないか。

正直、羨ましい。

「それで、アレンの行方は?」

「聖地の聖騎士の八割が動いているが……事態は深刻だ。アレンは今回の計画を相当しっかりと練った上で行なっている」

「計画?」

「これも情けない話だが、この国には勇者というだけで異常に信仰心を示す連中もいてな。そういう奴が監獄の見張り番についているタイミングを狙い堂々と侵入し、囚人を解放。そうしてこの聖地にパニックを起こした。その隙に、聖剣を奪い、混乱に乗じて逃げたってわけだ」

勇者は大陸の最高戦力であり、魔族から大陸を守る存在だという激しい思い込みが、アレンの思惑を隠した。

考えたな……

「今も行方は追っているが、聖騎士も混乱し、捜索はうまくいっていないのが現状だ。聖騎士の中には、いまだアレンの犯行を信じられないとほざいているやつまでいる始末……」

ラミスが呆れ、ため息をつく。

「それで、俺を呼んだ要件は?」

「聖教国の勝手な都合で振り回してすまないが……勇者候補の件は一旦、白紙とすることが決定した。聖教国内ですら、勇者という存在への不信感が過去にないレベルまで高まっている。強く勇者を信仰する奴らもいるが、そうでない奴らも増えているのが現状だ。本当に彼らは魔族に対する最高戦力なのか。そこまで優遇するような存在なのか。そんな声も上がる中、ロイドを正式に新たな勇者を迎えます、なんて話は火に油を注ぐような行為にもなりかねない」

聖教国としては、勇者支持派と反対派の二つの勢力の論争が俺の存在の投入により、激化するのを避けたいのかもしれない。

「でも、魔族の侵攻への抑制にはなるのでは?」

「そうかもしれないが、今はそのタイミングではないという判断らしい。それに、ロイドが勇者候補に値しないという判断を国として下しておけば、魔族もあえてそれが誰かを血眼になってまで探そうとはせんだろ。ロイドを殺しても魔杖は彼らのものにはならないしな。悪いが、今はアレンと聖剣の捜索、脱獄囚の逮捕や国民の混乱を抑えたりで、勇者候補者に力をさけるほど余力がない」

「なるほど……」

ラミスの言い分は理解できるし、勇者候補者の身分の剥奪は、俺としても嬉しい報告だった。

短い間ではあったが、この重荷から解放される。

「それでなんだが……ロイド」

「はい」

「お前、退学な」

退学。なるほど、退学か……って、

「え?」

確かに、いつかは退学できればと思ってはいたが……

あまりにも唐突すぎる退学宣告に、俺の頭の中は真っ白になった。