軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白魔導師、生徒を救出する

グラトニースライムは赤いジェル状の体をを持ち、その大きさは家屋すらも飲み込めるほどある。

また、体は半透明ではあるものの、中央部分へ行くほど色濃くなり、向こう側は透けて見えない。

その赤い巨体に飲み込まれたモンスターは内部で溶かされ、スライムの栄養分として消えていく。

何体の生命があの中と吸収されていったのか……

「あんな見た目のくせに、だいぶ移動が早いわね……」

遠目から赤いスライムを眺めながら、ユイがそんな言葉を溢した。

聖騎士五人と教師三人がなんとか進行を食い止めようと試みているが、あまり効果はなさそうに見える。

決して八人が弱いわけではない。

グラトニースライムが強力で厄介すぎるのだ。

聖騎士が剣を振るうと、その巨体に大きく深い傷が出来上がる。しかし、それはものの数秒で、何事もなかったように再生してしまう。魔法もダメージは与えられているようだが、同じく、すぐに再生されてしまうようだ。

唯一、火属性魔法のみ有効そうに見えるが、それでも決定打には至らない。

「俺たちの手に負える奴ではなさそうだ」

「そうね……仕方ない。生徒の避難誘導に専念しましょう」

「戦うって選択肢もあったんだな」

「ま、いけたらいこうかなぁくらいにはね」

探知魔法で生徒の気配を探り出す。

まだこの近くにニ十人ほどいるな。

自力で逃げている生徒はいいだろう。

動かない気配が気になる。恐怖に飲まれ動けなくでもなているのか。

「ねぇ、この方向って確か」

「あぁ、不味いな……」

現時点でどれほどの生徒がリタイアしたかは知らないが、リタイアした生徒とそのパーティーは病気や大きな怪我でもない限り、スタート地点近辺に集まっている。課外授業期間中は、リタイアした生徒も安全が確保されたエリアの中で野営することにはなっていたはずだ。どれくらいの生徒がリタイアしているのか、残念ながら見当はつかないが、今日は四日目。多くの生徒がそこにいるはずだ。そうでなくとも、多くの生徒は聖騎士や教師が待機しており、比較的安全まエリアを目指し避難しているだろう。

だが、そこに職員や聖騎士が待機していたとしても、こんな化け物相手では期待できそうにない。

一体、ラミスは何をしているんだ?

勇者候補者である俺を、聖教国が放置するとは考えに行くいが……

だが、今はそれを考えていても仕方がない。

それを考えたところで、俺に何かができるわけではない。

それより、今は目の前の問題への対処が優先だ。

「こいつから逃げてるモンスターの一部が、スタート地点の方に向かっている。しかも、厄介そうなのもいるな」

何故か、課外授業のエリア内にはいるはずのない、渡されたリストにはないモンスターが何体もいる。

教師や聖騎士はグラトニースライムの相手に精一杯で、そちらにまでは手が回っていない様子だ。

「それも確かに気になりはするけど、とりあえず今は、動いていない気配のところに急ぎましょ」

俺たちは動いていない数人の気配の塊の元まで走った。

そこには五人組のパーティーがいたが、恐怖で足が竦んでで動けなくなってしまったらしい。

「あなたは、確か最近入学した……ということは過去最高得点を叩き出してるっていう噂のパーティー?」

トップを独走する俺たちと合流できたことに安心したらしく、ほんの少しだが顔色が良くなる。

自分たちより、強いパーティーに安堵する気持ちは分からなくもない。

本当はこっちも余裕はないが、安心させるため決して不安を過剰に表には出さないよう心掛ける。

「察しているとは思うが、この場にいるのは危険だ。走れるか?」

「が、頑張ります」

そう言い、頑張って立ち上がるが、こんな状態で走っても追いつかれてしまうだろう。

杖を握りしめ、強化魔法を発動する。

「身体強化の魔法をかけた。多少、足が速くなっているはずだ。これなら逃げ切れる」

「い、いつの間に……」

「念の為、スタート地点までの直線ルートは避けてくれ。あのスライムは、スタート地点を目指しているっぽいからな」

「は、はい」

走り去る五人の姿が見えなくなるまで見守りながら、次の行動を考える。

俺たちにできる最前は、逃げ惑うモンスターの処理だが……

そんなことを考えていた、その時だ。

予想外の事態が起きた。

グラトニースライムが当然木々を薙ぎ倒し、轟音を響かせながら加速を始めた。

「ユイ、一旦離れるぞ。グラトニースライムが加速した」

「う、うそ……なんで急に」

「どうやら、よほどスタート地点の方向へと向かいたいらしい」

ここまで執着するには何かしらの理由がありそうだが、手持ちの情報では見当がつかない。

一度、グラトニースライムの進路から外れ、猛進を回避する。

教師陣がグラトニースライムを必死に追いかける姿が見えるが、追いつけそうにはない。

「ロイド、向かいましょう!」

「あぁ、ついでに教師と聖騎士も回収しよう」

身体強化の効果を強めれば、余裕で追いつける。魔力消費はその分、大きくなるが、ポーションで回復すればいい。とにかく、今はグラトニースライムに追いつくことが優先だ。

グラトニースライムに追いつこうと走る聖騎士たちの背中を追いかけ走る。

戦闘を走る中年の聖騎士が俺たちの様子に気がつくと、なぜか一瞬、目を見開き驚いたようなそぶりを見せた。

「き、君たちは……ってか、なんか、君たち足早くないか?」

「強化魔法を使っている」

「そ、そういう問題なのか……いや、それは今はいい。それを俺たちにもかけられるか?」

「勿論、そのつもりで来た」

強化魔法で聖騎士の身体能力を強化する。

「無詠唱……しかも、こんなにも体が軽く……とにかく、助かった。これで、あのスライムい追いつける。そうか、君たちが噂のパーティーか」

「おそらくそのパーティーだ」

「そうか……本来であれば、学生に頼るべきではないんだろうが、手を貸してくれるか?」

一応、そのつもりではあるが、念の為チラリとユイたちに視線を向け確認する。

「えぇ、勿論!」

「僕たちのできることがあれば、是非」

最後にカンナだが、もう覚悟は決まっているようで、力強く頷く。

「私に策があります」

スタート地点の野営地は、混乱状態だった。

すでにグラトニースライムや、それから逃げるようにこの地へ向かってきているモンスターの話は広まっており、多くの学生が冷静さを失ってしまっている。

教師としてレイヤはなんとかして混乱を落ち着かせ、冷静になるよう促すが、避難してきた人が増えるにつれ、混乱は増していく。

「レイヤ先生、少し話が……」

今回の課外授業に加わった聖騎士の中では最も地位が高く、それに見合う実力を持つすヒッツという男が小声でレイヤへと話しかける。ヒッツは四十代行半とそこそこの年ではあるが、それを感じさせないほどの鍛えられた体躯の持ち主だ。

経験豊富で、この場で最も頼れる存在と言っても過言ではない。

魔族との戦闘経験もあり、今回ラミスがロイドをも守るために投入した聖騎士の一人でもある。

だが、そんなヒッツですら焦りを覚えるほど現状は最悪だった。

生徒たちに聞こえない場所まで移動したのち、ヒッツは現状をレイヤへと告げた。

「レイヤ先生、このままじゃまずい。聖騎士の一人に探知魔法が扱えるやつがいるんだが、どうやらモンスター何十体と、グラトニースライムがこちらへと向かってきているようだ」

「そんな⁉︎ ここにはまだ多くの学生が……しかも、彼らのほとんどはまだ戦闘の経験が浅いし、慣れない野営で疲労も溜まっているんです」

「あぁ、状況は最悪と言っていい。グラトニースライムは正しい対処法に従えば、討伐はそう難しくない。だから、冒険者からも優れた魔法の使い手を集め、聖騎士と協力し、火属性魔法をメインに一斉攻撃を仕掛け、中心のコアを露出させて破壊する予定だったんだ」

「他に、対処方はないんですか?」

縋るような思いでそう尋ねるが、ヒッツは首を横に振った。

「ないこともないが、現実的ではない。グラトニースライムは強い酸性を持っている。相打ち覚悟の突撃も無意味だろう。コアにたどり着く前に体が溶ける。とは言え、あれだけの巨体。弓矢じゃコアまでは到達できない」

「グラトニースライムの討伐は不可能だと、そう考えているのですね」

「現状の戦力ではな。援軍が来れば、話は変わるが……何かあったのだろう。救援信号は送っているが、援軍が来る気配がない」

現状が最悪である理由の一つがこれだ。

なぜか、援軍が来ない。ラミスには口酸っぱく、何かあれば知らせろと言われていた。すぐに援軍を送ると。だからこそ、現状には違和感と不安を覚える。

ラミスが動けないだけの何かが、聖地で起こっているのではないかと想像してしまう。

「そんな……人が、それも同じ時を共にした人が死ぬ姿を見たくないから、教師になったというのに……」

「そう言えば、レイヤ先生は元聖騎士でしたね。それも、かなりの腕利きだったとか」

「……昔の話です」

苦虫を噛み潰したような顔でそう言葉を返す。

「ヒッツ隊長、グラトニースライムから逃げてきたモンスターたちが接近してきます!」

「数は?」

「正直、我々だけで対処するには数が多いです。目立って強いモンスターはいませんが、それでもそこそこ対処が面倒な奴らも多く……」

「まずは、そっちをなんとかせねばな。レイヤ先生、生徒たちを下がらせてくれ。そのあとで、我々に協力を」

「はい、分かりました」

学生を後ろへと下がれせ、待機していた教師と聖騎士が総出で迎え撃つ。

だが、手が足りない。

この先に抜けられれば、生徒の命が危ない。

そんなヒッツの嫌な予感は現実となってしまう。

一人の聖騎士が、二メートルほどある蜥蜴のモンスターと対峙している間に、もう一匹がその横を通り抜けたのだ。

「く、しまった……」

しかし、ヒッツはヒッツで前足が大きく発達した熊に似たモンスターの相手に必死で、追いかける余裕はない。

どうすればいいのか、頭を働かせていた……次の瞬間、蜥蜴は大きな悲鳴をあげ、力無くその場に倒れた。その胴体には、巨大な剣が突き刺さっており、蜥蜴を貫通し、地面にまで深く突き刺さっていた。

「おいおいおい、おもしれぇ展開になってきたじゃねか!」

ギースは歓喜に声を振るわせ、大剣を勢いよく引き抜いた。

鮮血が吹き出すが、気にすら留めてない様子だ。

「君は確か……」

「聖騎士さんよぉ、協力するぜ」

「危険だ。君も下がれ」

ヒッツが厳しく忠告するが、ギースは下がらない。

それどころか、堂々とした態度でさらに一歩前へと踏み出す。

「はぁ……俺を他の生徒と一緒にすんんじゃねぇ。全く、聖騎士になろうってやつが、この程度のことで怯えやがって。どいつもこいつも腑抜けで、呆れるやつらばかりだぜ。ま、そうじゃない奴らもいたみてぇだがな」

モンスターと対峙するギースの表情に恐怖はない。

むしろ、この状況を心の底から楽しんでいるような笑みを浮かべていた。

「ポイントにならねぇやつばっかりなのが残念だが……いいぜ、俺が相手してやるよ!」