軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白魔導師、宿に泊まる

「……と言う依頼だが、今ので理解出来たか?」

「あぁ、大体は把握できた」

俺はそう言ってメモ帳を閉じた。

今回の依頼は簡単に言えば、依頼主であるマルクスと言う人の農園を荒らす、ハイウルフ達の討伐らしい。

ハイウルフ自体は、Bランクの冒険者パーティーでも十分に戦える強さのモンスターなのだが、今回出現したハイウルフの数が異常に多いため、難易度がAまで上がってしまったそうだ。

難易度A、つまりはAランクの冒険者パーティーでも受けることは可能らしいが、この街にはAランクの冒険者パーティーどころか、Aランクの冒険者すら一人もいないらしく、結果、Sランク冒険者であるユイ達がこの依頼を受けることにしたらしい。

「ハイウルフの群れか……」

普段は森の中で数匹で暮らしているモンスターだ。一匹や二匹なら農園に迷い混むこともあるだろうが、大勢で現れ、農園を荒らすなんて聞いたことがない。

しかも聞いたところによれば、農園は野菜のみを育てているらしく、家畜は育てていないみたいだ。

ハイウルフは肉食のモンスター。

野菜など食べるはずがない。

なら、ハイウルフの群れはいったい、何が目的で畑を荒らしているのだろうか……

問題はそこだけではない。

「ハイウルフの討伐って言うのは分かったんだけどさ……具体的な数が書かれていないのよね……」

ユイが依頼書を手に取り呟く。

そう、もう一つの問題がこの依頼書だ。依頼書には『異常な数』としか書かれていないのだ。

「異常な数と言われてもな……」

「そんなこと書かれても、分かんないよな」

「うーん。明確には分からないほど数が多いと言うことですかね?」

皆で机の上に置かれた依頼書を覗きこむ。

「まぁ、数が多いならシリカの出番よね……私達じゃ大勢を一気に倒すことは出来ないから」

ユイが退屈そうな表情をする。

おそらくユイは、自らが前線に立ち剣を振るい、戦いたかったのだろう。

だが、剣や弓では多数のモンスターを一気に倒せない。

ユイの職業である剣士や、クロスの職業、弓使いは今回の依頼には向いていない。

「そうですね……でも、広範囲に攻撃する魔法となるとかなり限られてきますし、魔力の消費も大きいですから、数によっては難しいかもしれません」

「そうなのよね。やっぱり、シリカ一人じゃきついか……ねぇ、ロイドは広範囲に攻撃出来る魔法は使えないの?」

広範囲に攻撃出来る魔法か……

使えないことはないのだが、やはり白魔導師では攻撃系の魔法職ほどの火力は出せない。

「使えないことはないが……ここは、魔術師であるシリカに任せるべきだと思うぞ」

魔術師は、攻撃系の魔法を得意とする職業だ。

「まぁ、確かに……ロイドの支援魔法には驚かされたけど、やっぱり白魔導師じゃ火力が出ないもんね」

「だから俺は下手に攻撃するよりも、支援魔法でのサポートに回るべきだろうな」

「ロイドの支援魔法か……少し楽しみかもしれません」

シリカが俺を見ながら言う。

しかし、楽しみと言われてもだ。俺にはその期待に答えられるほどの力がない。

ユイ達の足を引っ張らないようにするので背一杯だろう。

「……あまり期待はしないでくれ」

期待されるとプレッシャーになってしまう。それに期待させておいて、その期待を裏切るようなことだけは絶対にしたくない。

「うーん、もっとロイドは自分に自信を持っていいと思うんだけどな……」

ユイが俺の横顔を眺めながら、ぽつりと呟く。

「まぁ、いろいろあったんだろ……それに俺は実力があるからって威張る奴よりも、ロイドみたいな謙虚な奴の方が好きだしな」

「まぁ、確かにそうね」

クロスの言葉を聞いたユイが頷く。

「おい、ユイもクロスも……その話はそこら辺にして、本題に戻るぞ」

ダッガスが二人に注意する。

「そうね……脱線してしまったわ」

「あぁ、すまない。俺もつい……」

二人が軽く頭を下げる。

「それじゃとりあえず、俺の考えた作戦を簡単に話すぞ。まず、俺とユイでハイウルフ達の注意を引く。そして一ヶ所に集めたところをシリカが叩くってのはどうだ?」

ダッガスが俺達に問いかける。

ユイとダッガスが一箇所に誘導すれば、シリカはハイウルフを効率的に殲滅しやすくなる。

確かに、いい案だ。

それを聞いたクロスが手を上げた。

「なぁ、俺はどうすりゃいいんだ?」

「クロスにはシリカとロイドを守ってほしい。それと、余裕があれば遠くから、俺とユイもサポートしてくれ。ロイドはパーティー全体に支援魔法と回復を頼む」

「……分かった」

ダッガスの出した案に、他の面々が何も言わないところを見るに、この作戦に賛成なのだろう。

これで、仮のリーダーはユイなのか。こうしてまとめている姿を見ている分には、ダッガスの方がリーダーっぽい。

何はともあれ、シンプルな作戦だが、俺もこの作戦に異論はない。

「まぁ、細かいことは現地に行かないと分からないからな。ハイウルフの数や地形など……今回はあまりにも情報が少なすぎる」

ダッガスの言う通り、情報が少なすぎるため現時点で細かいことは決められない。本来、難しい依頼となれば、下調べをするべきなのだろうが、場所が遠いこともあってかあまり情報が手に入らなかったそうだ。

今回の依頼は想像以上に難しいかもな。

「えぇ、後のことは現地に行ってから決めましょう。私らからすれば、一ランク低い依頼なんだし」

「そうだな……」

「それじゃ、とりあえずこれで決まりね」

ユイが嬉しそうに笑みを浮かべながら言う。

そして机の上にあるジョッキを手に取った。

「と言うわけで……今日は、ぱーっと飲みまし…」

そこまで言いかけたところで、ダッガスがユイをひょいっとつまみ上げる。

「なっ、何をする!?」

「明日からは大切な依頼があるのに、二日酔いにでもなられたら困るからな。今日は帰るぞ」

「そ、そんな……私はまだ」

何かを言おうとしているユイを持ったまま、ダッガスが席を立つ。そのままダッガスは、会計をするためにレジへと向かった。

「やだー! 私はまだ飲み足りないんだ!」

「はぁ……五月蝿いな。今日は帰るぞ」

「い・や・だぁー!」

ダッガスは騒ぐユイを片手に会計を済ませると、居酒屋を後にした。ユイは駄々をこね、暴れていたが、ダッガス達により強制的に宿へと連れていかれることとなった。

現在ユイは、ダッガスに引きずられながら宿へと向かっている。

部屋は違うが、四人で同じ宿に泊まってるそう。

後ろから楽しそうに会話するダッガス達を見ていて、俺は少し羨ましく思った。

そこには、俺の憧れた仲間の形があったから。

俺もいつか、あの輪の中に入れるのだろうか……

「あっ、そう言えば」

そんなことを考えていて、俺はあることに気がついた。

明日の集合場所を聞いていなかったのだ。

「なぁ、ダッガス。明日の待ち合わせ場所を教えてくれないか?」

「ん? 同じ宿には泊まらないのか……って、そうか。金が無かったんだな」

今の俺には金がない。

無一文なのだ。だから、ダッガス達と同じ宿に泊まることは出来ない。収納魔法の異空間の中に野営用の道具があるためイシュタルの近くの安全な森で一夜を明かすつもりだ。別にダッガス達の魔力を覚えてしまえば、探知魔法で探せないこともないのだが、依頼前から無駄に魔力を使うのは避けたい。

「あぁ、だから……」

「ほら、これ使えよ」

ダッガスが何かの入った袋を投げてくる。

それを取り、中を見るとそこには金が入っていた。これで泊まれと言うことだろうか……

だが、居酒屋での食事代を奢ってもらって、その上宿代まで奢って貰うなんて流石に出来ない。

「俺はこの金を受けとれな……」

「安心しろ。その分は報酬からしっかりと引いておく。どうせ、あげるって言っても貰ってくれないだろ?」

ダッガスはそう言うとニヤリと笑った。

なるほど。金を受け取りにくい立場である俺のことを考えてくれたのか……

本当に、このパーティーのメンバーは優しい人ばかりだな。

「あぁ、そうだな……この分は働いて返す」

お金の入った袋の縁を握る手に、力が籠る。絶対に、役に立たなければ。

俺はダッガスから受け取った金を収納魔法でしまう。

そしてダッガス達と同じ宿へ足を進めた。