軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白魔導師、支援魔法を使う

イシュタルから少し離れた場所にある森へと連れてこられた俺は、呆然と立ち尽くしていた。

何故、こうなってしまったのだろう。

勇者パーティーを追放され、職を失い、そして何故かこんな森の中で、腕を試されようとしている。

「さぁ、ロイド! あなたの支援魔法の腕を見せてもらおうじゃない!」

ユイがキラキラと目を輝かせながら、まるで何かを期待するかのように俺を見つめている。

はて。いったい何を根拠に俺に期待を寄せているのか。

一方でダッガス達は俺へ、哀れむかのような目を向けていた。

こっちはごく普通の反応だな。

「いや、急に見せてもらおうと言われてもな……」

ここに来る途中で知ったのだが、ユイ達のパーティーは全員がSランク冒険者だそうだ。この町では結構有名な冒険者御一行だそうで、街ゆく人は大体知っていた。

そのランクの冒険者がどれ程強いのかは知らないが、Sランクは冒険者の中では最も高いランクだったはずだ。

本当に凄い冒険者なのだろう。

また、それからクルムと言う人物もSランク冒険者だと推測出来た。

Sランク、か……。

さて。はたして、そんな人が使うような魔法を俺が使えるのだろうか。

ーー否だ。

そんな人が使うような魔法を俺が使えるはずがない。でなければ勇者パーティーを追放されたりはしていない。実力不足だなんて、言葉を投げかけられてはいないだろう。

ユイの期待に答えることは出来ない。

しかし、あそこまで期待されてしまうと今さらそんなことは言いにくかった。

「はぁ……」

本当に、何故こんなことになってしまったのだろう。

後悔と罪悪感が俺を襲う。期待を裏切ることは、目に見えているから。

どうせ期待には答えられないと分かっていても緊張するな。

ユイは俺に、どれ程難しいものを要求してくるのだろうか。

俺はごくりと唾を飲んだ。

「そうね、とりあえず……全員に強化魔法をかけなさい! あっ、一度に全員ってことね。一人一人かけていくのは禁止よ。強化魔法の効果は……まぁ、なんでもいいわ。そこはロイドの得意なやつで!」

「……へぇ?」

それを聞いた俺は驚きと困惑のあまり変な声を漏らしてしまう。

何故、俺が困惑しているのか。

その理由は、ユイの求めてきたものがあまりにも簡単過ぎたからだ。

強化魔法を複数人に同時にかけることは、俺でも容易に出来る。

そんな簡単なことでいいのか?

いったい、ユイはいったい何を求めているんだろう。

分からなくなった俺はダッガス達へと視線を向ける。

「おい、そんなの普通の白魔導師には無理だろ……」

「ほら、見てみろよあの反応。困惑してるぞ」

「ユイ……やっぱり、クルムが復帰するのを待ちましょう」

三人は俺へと哀れみの目を向けていた。

まるで、俺のことを可哀想だと言わんばかりの表情をしている。

それを見て、俺はますます状況が理解出来なくなってしまう。

「えっ、ロイド……もしかして出来ないの?」

ユイが心配そうに俺を見つめる。

「いや、一応出来るのだが……」

よし。とりあえず状況を整理しよう。

俺は今何故か、Sランク冒険者だけで結成されたパーティーに入れるか否かを試されている。

一時的にとは言えど、最高ランクの冒険者の仲間になるということであれば、かなり難しい魔法を要求してくるのが普通だろう。

だが、ユイが求めてきたものは予想に反して、かなり簡単な魔法だった。

そんな簡単な試験なら、大抵の白魔導師は受かってしまうのではなかろうか?

そのくらいのことなら俺にだって可能……

いや、違うな。

ユイ達はそれ以上の何かを求めているんだ。

「おい、強がるのは止めてくれ。そう言うことを言うと、ユイが期待してしまうだろ」

ダッガスが俺のことを力強く睨み付ける。

「あぁ、出来ないなら素直にそう言うべきだぜ。ハードルが上がるだけだ」

「私もそう思います」

ユイのパーティーの弓使いであるクロスと魔術師であるシリカが口を揃えていう。

「えーと……」

よく分からないが、早くやれと言うことだろう。

そう解釈した俺は収納魔法を発動し、身長と同じほどの長さの杖を取り出した。

収納魔法『ストレージ』。

それを無詠唱で発動する。

「えっ!? ねぇ、今のって……」

「それじゃ、かけるぞ」

驚くユイを他所に、俺は四人へ強化魔法をかけた。

かけた強化魔法の数は五つ。俺が同時に複数人にかけれる強化魔法の数は最大で六つだがそれだと魔力の消費量が多くなってしまうので、控えさせてもらった。

諦めず、限界に挑んでもよかったんだけどな。

どうせ、試験には落ちるんだ。

ここで魔力を無駄に消費する必要はないだろう。俺には新たに職を探すという、やるべきことが残っている。

また、これを期に分かったことがある。

「ふぅ……まだまだだな」

それは俺がまだまだ未熟だと言うことだ。師匠なら、もっとできる。

このままでは、どのパーティーに入っても足を引っ張るだけだろう。

もっと鍛練を積む必要があるだろう。

俺がそんなことを考えていると、ユイがこちらへと近づいてきた。

「ねぇ、ロイド……今、杖を何処から取り出したの? 何も無いところから急に現れたように見えたんだけど……」

ユイが目を丸くしながら尋ねてくる。

「いや、収納魔法を使っただけなんだが……」

別に驚くほどのものではないだろう。

杖なしでも使えるし、魔力消費もかなり少ない、簡単な魔法だ。

そんなことよりも、俺は早くこの場から解放されたかった。

気が重い。今朝のこともあり、俺のメンタルは疲弊しきっている。

「それでどうだ? 強化魔法をかけてみたんだが……」

「えっ、もうかけたの!? でも詠唱はしてなかったし……確かに身体が軽い気もするけど」

ユイが身体を動かしながら何かを考えている。

おそらく、何の強化魔法がかけられているのかを確認をしているのだろう。

「あっ、ちょっと待っててね」

ユイはそう言うと腰にさしてある剣を手に取った。そしてその剣を近くの木に向かって振り下ろす。

「えっ、嘘……」

するとその木は、スパッという音とともに綺麗に切断された。

まぁ、俺の強化魔法ならこんなものだろうな。

木ぐらいは容易に斬れるはずだ。勿論、剣の切れ味がよほど悪くないのが条件だが。

「これって……」

ユイが剣を見ながら呟く。

「今、ここにいる全員に強化魔法を五つかけた。効果は身体強化、魔法威力上昇、魔法消費量軽減、防御力上昇、そして状態異常耐性の五つだが……」

思っていたような反応すら帰ってこない。

おそらく、クルムと言う人と比べて、低レベル過ぎる俺の強化魔法を見て、言葉すら出ないのだろう。

やはり、俺なんかがパーティーに入れるはずがない。ユイには申し訳ないが力になってやることも出来なさそうだ。

「と言うわけだ。ユイ、俺にこのパーティーの白魔導師は務まらない。やはり、実力不足のようだしな。期待させたみたいで悪かった……」

試験の結果は聞くまでもない。

そう思った俺は杖を先の魔法で異空間へと収納し、街へ帰ろうとする。

さぁ、職を探さねば。

「あっ、ちょ、ちょっと待って!」

ユイが帰ろうとする俺の肩を力強く掴む。

期待を裏切ったことを怒っているのだろう。

「あのな。確かに、ユイには悪かったとは思っている。期待された時、はっきり断らなかったのは俺だ。だがな、勝手に期待したユイにも非があるんじゃ……」

「ねぇ、ロイド。あなたさえ良ければ正式に、私達のパーティーに入らない?」

「……えっ?」

唐突にユイが放ったその言葉の意味を、俺は理解することが出来なかった。