軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白魔導師、女性冒険者と出会う

一年の間お世話になった建物を出た後、俺はこのイシュタルの街の中心にある広場のベンチに腰掛けながら、立派な銅像を眺めていた。

銅像の台座についているプレートには『マーリン』と書かれている。

勇者パーティー時代は、忙しさのあまり、こんな目立つ銅像でさえまじまじと見る機会はなかった。

それにしても、どことなく、師匠に似た銅像だな。

しかし、同時に違和感も覚える……どこか俺の知る師匠とは違って感じる部分もある。

「あれは……師匠なのか?」

銅像の名前は、俺の師匠と同じなのだが、顔と体型が少し違う気がする。

特に違和感があるのは胸の大きさだ。

師匠の胸は間違いなく、あそこまで大きくはなかったはず……。

それに、こんなに格好良くはない気がするのだ。似た顔でありながら、俺の師匠にはない格好良さがこの銅像からは滲み出ている。

他人の空似、というやつだろうか。

にしても、似ているが。

「ねぇ、あなたもマーリン様のファンなの?」

銅像を眺めていると突然、知らない女から声をかけられる。

ピンクの髪の女は、腰に剣を携えていた。華奢であるようで、引き締まった体…剣士と言ったところか。

「いえ、違いますけど……」

「あっ、そうなんだ……」

女が少し残念そうな顔をした。

いったい、誰だろうか。

一瞬、知り合いかとも思ったが、記憶にはない。一年程度しかこの街にはいないため、忘れているということもないはずだ。そしてそれ以前となると、もっとない。

「で、でも当然、マーリン様のことは知っているでしょ?」

「まぁ……」

知る知らない以前に、俺に魔法を教えてくれたのはマーリンだ。

俺はここに来るまで、師匠のことをただの自堕落な魔法使い程度にしか思っていなかったのだが、どうやらこの街ではかなりの有名人らしい。

街の至るところに、実際よりも胸の大きな師匠の銅像が建てられていた。

「今年でマーリン様が姿を消してから、ちょうど十六年が経つのよね」

女が銅像を眺めながら呟く。

確かに、幼くして捨てられた俺が師匠に拾われてからだいたい十六年が経つ。

当時はまだ一歳だったため、全然記憶にはないのだがな。

「はぁ……一回だけでもいいから、マーリン様に会ってみたいわ……」

見知らぬ女はうっとりとした表情で銅像を見つめていた。

この街で、師匠に会いたいと言う人はたくさんいる。

むしろ、会えるならば会ってみたいと言う人がほとんどだ。

しかし、何をどう思えば、あんな人間に好き好んで会いたいと思うか。俺にはまったく理解することが出来なかった。

毎日、すべての家事を任せられるし、魔法の研究にも付き合わされる。

師匠が「老化を止める魔法を創る!」なんて言い出した時は、魔法で眠らなくても大丈夫な身体にされた後、一週間もの間、無理やり研究に付き合わされたのだ。あれは地獄だった。眠らなくても大丈夫だが、疲労は着実に溜まっていくし、興味がない魔法の研究は飽きる。

それでも、そんなこちらの心情などお構い無しに、協力を要請する師匠には、まさしくサイコパス、という言葉がよく似合うだろう。

学べることも多かったが、本当に地獄のような毎日だった。

俺はそれが嫌になり、このそこそこ人の多い街に逃げてきたのだ。

師匠は何故か人の多いところを、異常なまでに嫌がっていたからな。

「会わない方がいいと思うんだが……」

周囲には聞こえないほど小さな声で呟く。

「って、そうだ! 私、こんなところで休んでいる場合じゃなかったんだ……」

「何かあるのか?」

「いやね。昨日、パーティーの白魔導師が体調を崩しちゃって。今受けようと思っている依頼があるんだけど、かなり遠くて……明日には出発しないといけないの」

依頼と言うことは、おそらくは冒険者なのだろう。

なるほど。この女は、代わりになる白魔導師を探していたのか。

「その、一応俺も白魔導師なんだが……」

「えっ、ほんとに!?」

「あ、あぁ……」

それを聞いた女は、じーっと俺のことを見つめていた。

特に俺の服や腕を入念に確認している。

「冒険者……ではないわよね?」

「まぁ、そうだが……」

俺がそう言うと、何故か女は嬉しそうに笑った。

同時に、俺はしまったと後悔した。

「いや、しかし……俺なんかじゃ、その人の代わりは勤まらないと思うぞ」

つい先程、実力不足と言われ、パーティーを追放されたばかりだ。

期待を裏切ったばかりだ。今の俺には、実力がない。

同じ失敗を二度繰り返すほどバカではない。

それにパーティー戦では、メンバーのことをどれだけ理解しているかが重要になってくる。

そういう意味でも俺なんかではその人の代わりは勤まらないだろう。

「た、確かに……あの依頼の難易度は、結構高いわね……」

この様子から察するに、依頼の難易度もまぁまぁ高いらしい。

やはり、俺がパーティーに入ったところで足を引っ張るだけだ。

「だからすまない。他を当たってくれ……」

「まぁいいわ! 難しいことはあとで考えればいいわね。あなた、ちょっとついてきてくれない?」

女はそう言うと俺の腕を掴んだ。

「へぇ?」

俺は突然のことに驚き、思わず変な声を出してしまう。

「こっちよ!」

「えっ、あっ、はい?」