軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勇者パーティーの崩壊②

「くそ! どいつもこいつも……役立たずばかりじゃねぇか!」

アレンが不機嫌そうな表情で、力強く机を叩く。

現在、アレンは勇者専用に設けられた例の建物の一室におり、目の前にある机の上には数十枚の紙が置かれていた。

その紙には、勇者パーティーのメンバーに志願する者達の詳細が記されている。

内容は、名前、年齢、性別、職業、そして使える魔法などだ。

アレンは依頼の失敗の後、失ったメンバーの穴を埋めるために、新たなメンバーを募集していた。

その採用条件は、依頼の後で抜けたリナの代わりになる者と、ロイドよりもはるかに高い技術をもつ支援職というものだ。

アレンは国王にも、志願する優秀な人材がいれば教えて欲しいと頼んでおり、その知らせが来るのを楽しみにしていた。アレンの募集の一声に、多くの志願者が集まる。これだけいれば、ロイドを超える支援職はいくらでもいるだろう。期待以上の人材を発掘できる可能性もあるとさえ思い、胸を高鳴らせていた。

しかしだ。

「なんなんだよ! リナほどの盾使いがいないのはともかく、あのゴミ……ロイドよりも使えない支援職ばかりなんて……いったいどうなってんだ!」

自分は大陸に四人しかいない勇者の一人だ。勇者はモンスターや魔族という脅威から人類を守る英雄と言われている。聖教国という大国には聖剣という武器があるが、あれを扱えるのも勇者だけだ。

それほどに、特別な存在なのだ。

だからアレンが募集の声をかければ、簡単に優秀な人材が簡単に集まるだろうと。

募集する前のアレンはそう楽観的に考えていた。

だが、現実は違った。

優秀な人材どころか、志願してくるものたちのほとんどは使えない役立たず。

いや、きっと中にはそれなりの人だっていたはずだ。

しかし、アレンが望むような人材は、志願者の中に誰一人としていなかった。

もともとアレンの望んでいる人材のレベルが高いというのもあるだろう。

だが、思ったような志願者が現れなかった理由は他のところにある。

それはやはり、数日前の依頼の失敗が原因だ。

あの後、勇者パーティーが依頼を失敗し、仲間が大怪我を負ったことは、すぐに街中に広がった。

そしてそれは旅人や商人を伝って、他の街にも広まり、この王国の中心部である王都にまで届いてしまっていたのだ。

そのため、有能な者ほどアレンの勇者パーティーに志願することはなかった。

優秀な者ほど、アレンには見切りをつけたのだろう。

「あの……どうしますか? あまりいい人材がいないみたいですけど……」

シーナがアレンの顔色を伺いながら尋ねる。

また、ミイヤとルルもびくびくとした様子で椅子に座っていた。

気不味い雰囲気が部屋の中に漂っている。

「っち……仕方ねぇ。とりあえず、リナの代わりになりそうなのは何人かいる。まぁ、リナよりも弱いが……これは仕方ねぇだろう。だが、問題はあのゴミの代わりだ。最低でも収納魔法くらいは使えないとメンバーには入れられねぇ……」

アレンは志願者のリストを確認する。

しかし、志願者の中にそんな者はいなかった。

「ん……どうする? とりあえず、無しでいく?」

「あぁ……当面は盾使いだけパーティーにいれ、支援職は無しでいく。最悪、シーナがいれば回復は出来るしな」

そう言いながら、アレンは一枚の紙を手に取った。

盾使いの志願者のリストだ。

「こんなかじゃ、こいつが一番マシか……」

アレンが不満そうな顔をしながらそう呟いた。

その時だ。

この家の玄関の扉が力強く、ドンドンと叩かれる。

ただでさえ不機嫌なアレンは、より深く眉間に皺を寄せた。苛立ちをさらに募らせる。

「ミイヤ、見てこい」

「ん……了解」

アレンに指示を出され、ミイヤが部屋を出る。

そして数秒後。

数名の王国騎士達が部屋の中へと入っきた。

皆、かなり慌てているようで息が切れている。

「王国騎士団か……いったい、何のようなんだ?」

いくら不機嫌とは言え、王国に使える彼らに横暴な態度を取れないことくらい、アレンも分かっている。

だから、冷静にそう尋ねた。

「探知魔法を使い、森の調査をしていた騎士から連絡がありました……現在、モンスターの大群がこの街に向かって進行しているそうです! 数は、およそ三万ほどとの……」

「はぁ!? 三万だと!?」

驚いたアレンが大声を上げ、立ち上がる。

シーナ達もかなり驚いているのがその表情から伺える。三万のモンスターなんて、想像さえできない。ただ、漠然と恐ろしいことがわかるのみ。

「それを、どうしろと……」

ここにそんなことを伝えに来る理由など、一つしかない。

アレンがごくりと唾を飲む。

「えぇ……今回は緊急依頼ということで、勇者様方にもご助力願いに来ました」

騎士達が一斉に頭を下げる。

「っち……緊急依頼か」

緊急依頼。

冒険者ギルドの出す一般的な依頼とは違い、緊急依頼とは、騎士団が緊急事態の時にだす依頼のことである。

そして緊急依頼が出された場合、原則として勇者パーティーは強制的に参加しなければならないこととなっている。普段の依頼とは訳が違う。

見るからに分かるほどの怪我や、よぼど酷い体調不良でない限りは参加しなければならない。

冒険者も緊急依頼は受けることが可能だが、冒険者の場合は自由だ。一方、勇者派強制。

そこが、一般的な依頼と緊急依頼の違いだと言えるだろう。

「くそ……」

一応、アレンは断ることも可能である。

しかしその場合、アレンは勇者の称号を剥奪されてしまう。

称号が剥奪されるとどうなるのか。

例えばアレンが勇者の称号が剥奪されてしまうとしよう。するとアレンは、職業が勇者だったとしても、国からの支援を受けることが出来なくなり、勇者と名乗ることも禁じられてしまう。

アレンとしては、勇者の称号が剥奪されることだけは、避けたいところであった。

勇者なだけで、国民からはちやほやされるし、高い金だってもらえるからだ。

また他にも、アレンが断れない理由がある。

それは、アレンに対するイメージだ。

この緊急依頼を断れば、勇者という称号を失うだけでなく、依頼を断り街を見捨てた元勇者だというレッテルを張られてしまい、どこに行っても冷たい目で見られるようになるだろう。

それもアレンの場合はなおさらだ。

アレンは国民の前で「魔族を殲滅する!」と公言したこともあったからだ。ここで、断れば逃げたと思われて当然だろう。

「くそ、こんな時に……」

これまでにないほど、最悪なタイミングでの緊急依頼。

断るだけの真っ当な理由はない。だから、断ることは出来ない。

「では、勇者様方。我々は街のものに避難を呼び掛けながら外でお待ちしております」

騎士団はそう言うと部屋を出ていった。

部屋を後にする騎士達をアレンは、何も言わず、静かに見守った。

「おい、これを断ればどうなる?」

アレンが分かり切った問いをシーナに投げる。

「私達の活動資金や報酬のほとんどが国のお金、つまりは国民の税金なので……剥奪は間違いないと思います。それに……」

「国民からは非難され、勇者ではいられなくなるか……だが逆に、活躍すれば、あの失敗を帳消しにすることも出来るんだよな?」

「えっ……」

アレンの放った予想外の言葉にシーナが驚きを隠せず、変な声を出してしまう。シーナは先の失態が未だ脳裏に強く残っており、今のままでは三万の敵は無謀だと考えていた。

そんなシーナのことはお構いなしに、アレンは話を続ける。

「なぁ、シーナ……出来るんだよな?」

「は、はい……今回は緊急依頼です。しかも街の存亡がかかっていますので、成功すれば帳消しだけでなくアレン様の立場も、他の三方の勇者より上のものになると思います」

最強と称される『氷晶の勇者』さえもを超えるチャンス。

「そうか……」

それを聞いたアレンが不気味な笑みを浮かべる。

「ねぇ、アレン。もしかして……」

ルルが不安そうな顔で尋ねる。

嫌な予感がするのだろう。当然だ。今、勇者パーティーの面々は、不調であることを理解している。

不安を感じているのはルルだけではない。

シーナとミイヤが「何をするつもりなの?」と言いたげな顔でアレンを見ている。

「よし、お前ら……さっさと準備してこい。モンスターどもを蹴散らしに行くぞ。ここで活躍して、国民どもに俺が最強だと分からせてやるんだ」

アレンはそう言うと、戦いの準備をするため、部屋を足早に後にした。

また、そんなあまりにも楽観的なアレンの姿をシーナ達は心配そうな目で見つめていた。