軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白魔導師、とシリカ

唐突のシリカの来訪。

それに、リエが倒されたことで、今日の診断は早めに切り上げることとなった。

本当に急ぎ、処置が必要な怪我人のみ、俺が応急処置を施しておき、申し訳ないが、軽傷者には帰って頂く。

中には不満を語り、文句を述べる魔族もいたが、そこはシリカが睨みを効かせると、黙って去っていた。

シリカの倒したこの男らは、名のある傭兵らしいし、そんなシリカには迎える度胸と力量を兼ね備えた魔族は、文句を溢す奴らの中にはいなかった。

まぁ、以前、リエから聞いていたが、ここは実力さえあれば、大抵のことには困ることのない国家。

そして、ここの診療所に来るのはそんな国家で上手く生きていけない者たちがほとんどだ。

「ほとんど利にならない、厚意の診療所の恩恵に世話になっていながら、いざ、それが受けれないとなると文句、か」

正直、見ていて気の良いものではなかった。

しかし、リエはそんな言葉を気に留める様子もない。ただ、先ほど突き飛ばされ、転けた際にぶつかった場所を、痛そうに見つめながらさすっている。

「広い都市だ……そんな輩もいるさ」

「そんな人たちも、診てきたのか?」

「そうだ。ま、あんまりにも迷惑な奴らは、お帰りいただいてるけどね」

基本、怪我を負ってくれば、相手が誰だろうと助けるのがリエの信条らしい。

ただし、他の患者に迷惑をかける奴らは放置。

他の患者に迷惑をかけず、順番さえ守るのなら、それがどんな人であろうと診る。

シリカは、俺とリエの会話を、別の部屋から持ってきた簡素な椅子に腰掛け、不思議そうに眺めている。

「えーと、ロイドさんは、どうしてここに? そもそも、この施設の方とは、どういうご関係で……」

シリカが困惑するのも無理はない。

久しぶりに再開したら、何故か魔族と上手くやっている俺を見て、困惑を抱かずにはいられないだろう。俺も立場が逆なら、そう考えたはずだ。

「色々あってだな」

「色々、ですか?」

俺は、この地に大怪我を負いながら転移したこと。その流れで、リエの世話になったことを伝える。

そして、しばしの活動資金を得るために、ここで診療所の手伝いをしていることも。

「大怪我……ですか? えーと、その」

シリカは心配そうに、上から下へと視線を動かす。

しかし、今はもう治っているため、怪我の痕跡はない。

「そう言えば、シリカは怪我してないのか?」

肌の多くを隠しているため、断言はできないが、怪我をしている様子はない。

歩き方も至って普通だった。

「えーと、なんで怪我をするんですか?」

俺の怪我の話も、いまいちピンと来ていない様子で問い返される。

「えっ、あぁ……いや、なんでもないんだ」

悩んだ末、俺は会話を切り上げた。

何故、俺が大怪我を負い、シリカは無傷なのか。

その原因は大いに気になるが……

下手に話を掘り下げることでシリカに『ユイたち三人の誰かが大怪我を負っている可能性』を、悟らせたくなかった。

焦りを抱こうと、状況は好転しない。

この可能性を危惧するのは、自分一人で十分だ。

「そうだ。シリカの方は、どうだったんだ? さっきも言った通り、俺はこの都市に転移して……まぁ、色々あったわけだが」

「私の場合は、森の中に転移しました。本当に、木々が生い茂るだけの森の中にです。それからすぐに近くを探したんですけど、ユイたちの姿が見当たらなくて」

そこで、各々が別の場所へと転移してしまった可能性を考えた。

「それから少しして、襲われている行商人を見つけて。助けたお礼にと、その荷台に乗せてもらい、こことは別の街に」

「その時、顔は見られなかったのか?」

「はい。以前、帝都でのお祭りの時……ユイが、ロイドを驚かせたいとのことで。ロイドに見つからずに、お祭りを満喫するための変装道具を買っていたんです。それが、収納魔法の中にあったので」

それがこの、すっぽりと顔半分を隠せるフード付きのローブと、可愛らしい白と水色の狐のお面だそうだ。孤児院で見た時、お面はすでに外していたが、馬車での移動は念のために、このお面も装着していたらしい。街では、むしろ目立つために、流石に外したそうだ。

「まぁ、お祭り用のお面じゃ、目立つよな」

「はい、まだ、フードを深々とかぶり、俯いて歩く方がマシかと」

ちなみに、初めに森で魔族を助けた際、隣町までの護衛ということで、僅かだが賃金ももらったそう。

それを用い、一番近い五大都市の一つであるここまで、馬車で訪れたと。

「この街に来た方法はわかった。それじゃ、俺のことはどうやって……」

「とりあえず、人が多く、有名な街を目指しました。当然、大都市ともなると、魔王軍の目もあるかとは思いますが……数多くある、目立たない集落で縮こまっていても、合流は不可能です」

とりあえず、名のある都市に足を運ぶ。

各々が五大都市を目指したとして、大都市と称される街は五つしかないのだから、合流できる可能性は相当に高い。

それぞれが、それぞれの都市にでも行ってしまわない限りは、合流できる。

「それに、互いの顔が知れているような集落よりも、人が多く住まい、出入りも激しい都市の方が、目立たずに潜伏できます。クロスやロイドさんあたりは、そう考え、動くだろうと推測しました」

それで、この都市にやってきた、と。

「それじゃ、俺がいることはどうして」

「この街に辿り着いて、人々の話に耳を傾けていると、ある噂が聞こえてきたんです。リエという方の開く、ほとんど無償の孤児院に、顔を隠した白衣の回復魔法の使い手がいるって。だから、今なら怪我をしても早く見てもらえる、と」

どうやら、俺のことはちょっとした噂になっているらしい。

「しかも、そんな不審者が現れたのは、ほんの数日前という話です」

シリカはこの街で情報収集する中で、明らかな不審者の情報を得た。そして、こっそり覗きに行った結果が、先ほどのアレである。

「それでか」

「つまり、もし、ロイドさんが敵地にも関わらず、目立つ動きをしていなければ、私は見つけることができなかった、ということです」

「なんか、棘がないか? その言い方」

「そりゃそうですよ……一歩間違えれば、どうなっていたか」

心配半分、呆れ半分な表情で言う。

「それは……すまない」

「事情もあったんでしょうが、無理はほどほどに、お願いします」

シリカに釘を刺され、俺も軽率だったことを反省する。

リエは何かと有名ではあるみたいだし、何せ、あの格好だ。

この短期間で噂が立つ程度には、悪目立ちしていたのは違いない。もし、魔王軍に余裕があれば、素性を調べられるのも時間の問題だったかも知れない。

「それにしても、まさか二人も人間が、私の部屋を訪れるなんてね。少し前までは、想像もしていなかったよ」

リエが俺とシリカを交互に眺める。

「さて、それで? どうするかい? この街を立つかい?」

シリカが加わったことで、事情は変わった。取れる手段は一気に増えた。

それはそうなのだが、厄介な問題が未解決なままである。

結局のところ、資金がない。シリカの方は、多少あるそうだが、潤沢とは程遠い。

そして、一番厄介なことに、資金を稼ぐ術がない。

俺も、シリカも。

「それともまだ、何か課題が?」

「そう、ですね。資金も問題ですが、やはり、一番の課題は私もロイドも、身分を明らかにできない、ということでしょうね。こんな格好です。ここに来るために、馬車を利用したのですが、かなり怪しまれました。その時は、追加で金をお支払いしたら、黙って見過ごしてくれましたけど。物やサービスを買うにしても、資金を稼ぐために素材を売るにしても、身分を徹底的に隠している身では、何かと不便です」

魔王軍の目に止まればアウトだろう。

幸い、今は魔王軍の魔導国内への監視は弱まりつつあるそうだが。

「ま、あんたらのその格好じゃ、物を売る時、盗賊か何かと勘違いされても、文句言えそうにないね」

実力至上主義とは言え、窃盗まで許容しているわけじゃない。

「盗品は、流石に扱えないだろうし……とは言え、潔白を証明できる身じゃない」

「少しでも叩かれれば、埃が出る身ですからね」

「叩くどころか、軽く触れても終わりなレベルだね」

リエが冗談めかしていうが、まさしくその通りである。

そんな会話をしていると、部屋の扉がギィと音を立て開いた。

シリカは慌てて杖を取り出し立ち上がるが、俺はそれを手で制する。

扉を開けて入ってきたのは、トレーに三つのカップと、冷えたお茶の入った容器を乗せたハイドだった。戦闘態勢をとるシリカを見て、ハイドは足を止める。

「シリカ、だったか。別に、ここに人間がいることを、魔王軍に密告するつもりはない。さっきも、助かったしな。正直、あいつらには俺もうんざりしていたんだ」

部屋をくるりと見回し、ちょうど良さげな未開封のなんらかの箱を見つけ、部屋の真ん中に箱を置いた。

その上に、トレーをそっと乗っける。

「何でも屋の方はいいのかい?」

リエがハイドに問いかける。

「あいにく、今日は俺が出るような依頼がない」

「そうなのかい?」

「リエのやってる診療所とは違い、こっちはきっちり、依頼に見合うだけの金を回収してる。不景気になればなるほど、殺到するリエのほとんど無償の診療所とは違い、こっちは順当に客がめっきり減る」

「なら、傭兵試験でも受けてみたらどうだい? ハイドなら、金級はいけるんじゃないかい?」

意地悪な笑みを浮かべながら、尋ねるリエ。

「分かってるだろ、そんなことをしてるほど余裕がない。それより、孤児院の清掃を手伝う。それに、子供に稽古を頼まれてる」

そう言うとハイドは、さっさと部屋を出て行ってしまった。リエは何か言いたげに口を開けるが、後ろ姿を見て、言葉を飲み込む。

「ハイドさんって、強いんですか? 体格は中々よく、鍛えられているなと、印象を受けましたが」

ハイドの背丈はダッガスと同じか、少しだけ低いくらいで、引き締まっている分、細く見えるが筋肉量は相当なものと見える。

俺より身体能力が高いのは確かだろう。

シリカの問いかけに、リエは難しい顔を浮かべる。

「そうだね……強い方ではあるよ。でも、さっき来たチンピラに勝てるか怪しいくらいってとこだろうね」

「そう、なのか?」

「一見すると、先ほどの方より強そうですが……」

「素材はいいんだ。筋力なら、あいつに勝る奴は、この都市にさえそうはいないだろう。でもね、肝心なものが欠けてるんだ。分かるかい?」

俺もシリカも、うっすらとその回答を察する。

「実践経験、ですか」

「そうだ。いくら素材がよく立って、やってる仕事が引越しの手伝いや重たい荷の運搬、庭の手入れやリフォームの手伝いなんかじゃ、いつまで経っても強くなるはずがない」

「モンスター討伐は?」

「それは傭兵の仕事だ。それに、そう言う仕事は基本やってない。そもそも、そう言う依頼に対処できるのがハイドだけ……長期的に見れば、受けない方がいい。それで話題になって客がつくと、何かと面倒だし、何でも屋としてのスタンスも曖昧になる」

何でも屋が、モンスター討伐で話題になると困る。目立ち過ぎれば傭兵ギルドに目を付けられかねないし、そう言う名前の売れ方をしてもハイドしか、その仕事をできない。

あくまでも、何でも屋は孤児院に世話になる年長らの仕事だ。彼らのできない依頼が増えても仕方ない。

名前を売るにしても、売り方は考える必要がある。

「なるほどな」

ハイドは己の才能より、孤児院の子供らの未来を選んだ。

輝かしい上級傭兵になるだけの才能を持ちながら。

まぁ、能力があるからといって、その道に進まなくてはならない義務はない。

「さてと、話はこの辺にして。どうするんだ? ロイドとシリカは」

「そうですね……実は、つい先ほどまで馬車に揺られていて、今日は疲れもありますし、まだお金には余がありますので、適当に宿でも探します」

「私と同じ部屋でいいなら、泊まってもいいよ」

リエの提案を受け、シリカはチラリと俺に視線を向ける。俺はリエの人となりを少し走っているが、シリカはほぼ初対面。

しかも、リエは三大国内では敵とされる魔族だ。これまでずっと、魔族は敵だと叩き込まれてきた三大国の人間にとって、受け入れ難い状況ははず。

いくらシリカが強いとは言え、寝ている時はどうしても無防備になってしまう。

リエが信頼に値するか、疑念を抱く気持ちは十分に共感できた。

その意を汲んだ上で、俺は頷いた。リエなら、心配はないと。

「そうですね。では、お言葉に甘えさせていただきます」