軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「記録者」

フォルセイドを倒した夜、冬夜はログアウトしてからいつものようにフォーラムを確認した。

予想通り、騒ぎになっていた。

【速報】銀月の草原のフィールドボス、初日で撃破される

──「称号『銀月の狩人』持ちが五人確認された」

──「五人パーティってことは、ソロじゃないのか」

──「トワがパーティ組んだ!? あのソロの権化みたいな男が!?」

──「相手は〈深紅の牙〉ってギルドのメンバーらしい」

──「〈深紅の牙〉、中堅ギルドだぞ。トップギルドじゃなくて中堅と組むのか」

──「たまたま現地で会っただけじゃね?」

──「にしても、初日撃破はおかしい。Lv90のフィールドボスだぞ」

──「トワがいればおかしくないのが、もうおかしい」

冬夜はフォーラムを閉じてベッドに転がった。

天井を見上げる。

……五人で戦うのは、思ったより悪くなかった。

自分の情報で四人が動く。四人の火力が自分の切り札を補う。一人では見つけられない角度からの攻撃が、仲間の位置取りで生まれる。

ソロの旅が好きなことは変わらない。だが、「悪くない」と感じた自分がいた。

それは二年間で初めてのことだった。

翌日、大学の帰り道。

スマホにメッセージが来た。ミコトからだ。

ミコト:「フォルセイド討伐おめでとうございます! 五人パーティだったって聞きました。トワさんがパーティ組んでるの、ちょっと意外でした」

ミコト:「あの、一つだけ正直に言わせてください。実は昨日、トワさんが銀月の草原にいるのを見つけて……遠くから、フォルセイド戦を録画してました」

ミコト:「配信はしてません! 本当にしてません! 個人的な記録です。勝手に撮ったこと、怒ってたら消します」

冬夜は立ち止まった。

録画。フォルセイド戦を、遠くから。

少し考えた。怒りは──ない。ただ、なぜ録画したのかが気になった。

トワ:「なぜ撮った」

返信は速かった。

ミコト:「……うまく言えないんですけど」

ミコト:「トワさんの戦い方って、すごく綺麗なんです。無駄がなくて、全部の動きに意味があって。見てると、ゲームを見てるっていうより、何か一つの作品を見てるみたいで」

ミコト:「それを残しておきたかった。誰かに見せるためじゃなくて」

ミコト:「……ごめんなさい、気持ち悪いですよね。消します」

冬夜はしばらくスマホを見つめていた。

この人は──配信者なのに、配信していない。視聴者に見せるためではなく、自分のために記録している。

不思議な人だと思った。

トワ:「消さなくていい。ただし配信はするな」

ミコト:「!!! ありがとうございます!!!」

トワ:「………」

ミコト:「あの、もう一つだけお願いしてもいいですか」

ミコト:「トワさんの旅を、配信させてほしいんです」

来た。遅かれ早かれ来ると思っていた。

トワ:「断る」

ミコト:「ですよね! わかってました! すみません!」

ミコト:「でも、いつかもし気が変わったら、いつでも言ってください。待ってます」

冬夜はスマホをポケットにしまった。

──待ってます、か。

気が変わるつもりはない。だが、その言葉を不快には思わなかった。

その夜、ログイン。

銀月の草原は、プレイヤーの数が増えていた。フォルセイド討伐の情報が広まり、終夜の回廊を抜けてきたパーティが続々と到着しているようだ。

トワは人混みを避けて草原の端を歩いた。

目的は二つ。まだ灰色のまま残っている北西の端の探索と、銀月の鹿との交流だ。友好度は現在14/100。会うたびに撫でて、少しずつ上げている。

草原を歩いていると、レナからメッセージが来た。

レナ:「トワさん、今ログインしてる?」

トワ:「している」

レナ:「あのね、今日うちのギルマスが話したいって言ってるんだけど……」

レナ:「〈深紅の牙〉のギルドマスター、バルトって人なんだけど、昨日の戦闘のこと聞いて、ぜひトワさんに会いたいって」

トワ:「ギルドに入る気はない」

レナ:「あ、勧誘じゃないよ! ただ、お礼を言いたいんだって。うちのメンバーがフィールドボスの初討伐に参加できたのは、トワさんのおかげだからって」

冬夜は少し考えた。

礼を言われるためにパーティを組んだわけではない。だが、断る理由も特にない。

トワ:「短時間なら」

レナ:「ありがとう! 草原の入口の丘で待ってるね!」

丘に行くと、レナの他に一人のプレイヤーが立っていた。Lv90の騎士。大柄なアバターで、重厚な鎧を纏っている。ギルド名は〈深紅の牙〉。

「おお、あんたがトワか。俺がバルトだ。〈深紅の牙〉のギルドマスターをやってる」

バルトはボイスチャットで話していた。低く落ち着いた声だ。

「まず礼を言わせてくれ。うちのメンバーが無事に帰ってこれたのは、あんたのおかげだ」

トワはチャットを打った。

「全員の力だ。俺一人では倒せなかった」

「謙虚だな。レナから聞いたが、全域攻撃をアイテムで防いだらしいじゃないか。あんたがいなきゃ全滅してた」

トワは答えなかった。

「本題に入る。勧誘じゃない、安心しろ。あんたがソロで旅をしたいのは、フォーラムを見てりゃわかる」

バルトが少し間を置いた。

「ただ、一つだけ提案がある。〈深紅の牙〉は、あんたをフレンド登録させてもらえないかと思ってる。ギルドメンバーとしてじゃなく、外部協力者として。困った時にお互い連絡が取れる関係、それだけでいい」

「俺に連絡を取りたい場面があるとは思えないが」

「あると思うぞ。これから先、新エリアの攻略が進めば、ソロでも情報の共有が必要になる。それに──あんた、今フォーラムでかなり目立ってる。目立てば、良くも悪くも人が寄ってくる。味方がいて損はないだろう」

冬夜は考えた。

バルトの言っていることは合理的だった。ギルドに入るわけではない。ただフレンド登録をして、必要な時に連絡が取れるだけ。旅の自由は侵されない。

「……わかった。レナ、カイン、リゼ、マルクだけだ。フレンドリストに入れる」

「俺は?」

「一緒に戦っていない」

バルトが大笑いした。

「筋が通ってるな。いいだろう、それで。レナたちが窓口になる。──あんたの旅、邪魔はしない」

バルトは手を振って去っていった。

レナが駆け寄ってくる。

「フレンド登録ありがとう! 嬉しい! あのね、私たちもう今日は終夜の回廊の探索に行くんだけど、トワさんは?」

「草原を歩く。まだ全部見ていない」

「うん、トワさんらしい。じゃあまたね!」

レナが手を振って走っていく。残りの三人も会釈をして去った。

一人になった。

フレンドリストを開いた。オーレンの名前の下に、四つの名前が増えている。

……二年間で、フレンドが四人増えた。

多いのか少ないのか、よくわからない。

だが、リストに名前が並んでいるのを見て、少しだけ。

本当に少しだけ、悪くないと思った。