軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【迷子】

裏世界の探索を始めて五日目。

記憶断片は十二個集まった。地形変化のサイクルは二十分まで延びている。裏世界のあちこちで、色彩が戻り始めていた。

その日は十人パーティのうち五人──トワ、セレス、タマキ、ハル、ゼクスでより深いところを探索していた。レナたちは表の世界で、ギルドの仕事がある。

宮殿の回廊を進んでいた時──地形変化が起きた。

でも、いつもと違う。通常の地形変化は予測可能だった。【星図】があれば次のパターンが読める。だが今回は、星図の予測と全く違う変化が起きた。

宮殿の床が──割れた。

回廊の真ん中で、足元が崩壊した。トワだけが狙い澄まされていたかのように落下していく。

肩に乗っていたセレスも、トワと一緒に。

「師匠!!」ハルの声が上から聞こえる。

「トワ!」ゼクスが手を伸ばすが届かない。

「トワさん!!」タマキの悲鳴。

そして、落ちていった。

暗闇の中を落下し──水面に叩きつけられた。

目が覚めると、暗い場所にいた。

地下水路のような空間だ。天井が低い、水が膝まで浸かっている。

HP──残り180。落下ダメージで半分削られた。

セレスは──いた。トワの胸元にしがみついている。翼がびしょ濡れで、ぶるぶる震えている。

「トワ……みず……つめたい……」

「すまない、大丈夫か」

「だいじょうぶ。でも、つめたい。みず、きらい」

セレスを胸ポケットの位置に移動させた。

周囲を確認した。【見聞録】を起動──

──反応がない。

【警告:裏世界の深層では、一部のスキルが不安定になります】

見聞録が使えない。温度センサーも、魔力感知も。

裏世界の深層はスキルが不安定になるエリアらしい。

つまり──目と耳と勘だけで動くしかない。最終試練の時と同じ状況だ。

でも最終試練とは違う点がある。──セレスがいる。そしてどこかに仲間がいる。ただし、はぐれた。

チャットを開いた。──繋がらない。チャットなどの機能も不安定になっているのか。

「セレス。【月光の目】は使えるか」

「やってみる。──……だめ。ここ、セレスのちからも、うまくうごかない」

【月光の目】も使えない。

完全に孤立した。

冬夜は水路を歩き始めた。方向はわからない。ただ、水の流れに沿って下流に行けば、どこかに出るはずだ。

「トワ。こわい?」

「怖くはない。暗い場所は慣れている」

「セレスは、ちょっとこわい。でも、トワがいるから、だいじょうぶ」

「ああ。大丈夫だ」

水路を歩く。暗闇の中、足元の水の音だけが響く。たまに壁にぶつかりながら、手探りで進む。

──こんな旅も、久しぶりだ。

BCOを始めたばかりの頃は、何もわからなかった。地図もなく、スキルも弱く、方角もわからない中をただ歩いた。あの頃と同じだ。

三十分歩いた。

水路が広い空間に出た。暗いが──遠くに微かな光が見える。

光に向かって歩いた。

光源は──壁に埋め込まれた記憶断片だった。

【ソルシアの記憶断片(特殊)を入手しました】

触れた瞬間、映像が流れた。

──ソルシア王国の地下水路。かつて旅人たちが使っていた秘密の通路。地上が崩壊した後も、この水路だけが残った。水路は──王国の中心、ノクスのいる場所に繋がっている。

「トワ。みえた。ここ、ノクスのとこに、つながってる」

「……偶然か。それとも──」

落ちたのは偶然だが、落ちた先がノクスへの最短ルートだった。

運がいいのか、悪いのか。

「行くか」

「いく? ふたりで? みんな、いないのに?」

「仲間と合流してからの方が安全だ。だが──この水路がいつまでもあるとは限らない。裏世界の地形は直ぐに変わってしまう」

「じゃあ──いま、いく」

「ああ、行こう」

二人で水路の奥へ進んだ。

一方、地上。

ハル、ゼクス、タマキの三人が──崩壊した回廊の縁に立っていた。

「師匠! 返事してください!」

ハルが穴に向かって叫んでいる。返事はない。

「チャットも繋がらない。深層に落ちたようだな」

ゼクスがチャット欄を睨んでいる。

「ど、どうしよう……トワさんが……」

タマキはあわあわと動揺している。

そんな時、ハルが立ち上がった。

「わたしが行きます」

「行く? どこに」と、ゼクスが聞いた。

「下に。師匠を探しに」

「この穴は深いぞ。お前のレベルでは──」

「大丈夫です。わたし、温度センサーが使えます。暗い場所でも、師匠を見つけられます」

ゼクスが、ハルを見つめた。

「……お前、度胸があるな。だが……ふむ。そうだな、俺も行こう」

「ゼクスさん……」

「トワが落ちた場所に、あいつを放っておけるわけがない。──だが」

ゼクスがタマキを見た。

「お前はどうする。ここで待つか、一緒に来るか」

タマキが──唇を噛んだ。怖い。暗い穴の底に飛び込むのは怖い。BCOを始めて十日目。レベルは5。戦闘力は皆無。

それでも、

「行きます。トワさんの回復は、わたしにしかできないので」

薬師の回復。Lv5の基本ヒール。大した性能ではないが、この三人の中で、回復ができるのはタマキだけだ。

「よく言った。行くぞ」

ゼクスの合図で、三人は穴に飛び込んだ。