軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

もう一つの変化

常夏の孤島を探索した。

島はそれほど大きくないが、密度が高い。海岸、密林、洞窟、山頂、そして──海底洞窟。水中に潜れるエリアがある。

水中探索は新しい体験だった。フルダイブVRの五感再現で、水の抵抗、冷たさ、水中の音がリアルに伝わってくる。

セレスは水が苦手らしく、トワのフードの中に潜り込んで出てこなかった。

「やだ、つめたい、ぬれる」

「お前は妖精だろう。水くらい平気じゃないか?」

「セレス、ひのようせいじゃない。つきのようせい。つめたいの、きらい」

「月の妖精が冷たいの苦手なのか」

「つきは、あったかい。よるの、あったかさ」

どうやらセレスにとって月は冷たいものではなく、温かいものらしい。

水中洞窟の奥に、光る珊瑚の壁があった。その中に──宝箱。

【海神の水晶(旅人専用最終武器素材3/3)を入手しました】

三つ目。最終武器素材が──揃った。

月蝕の結晶。影の残滓。海神の水晶。三つの素材。

【旅人の羅針盤】が──震えた。三つの素材が揃ったことに反応している。

【旅人の最終武器「果ての道標」の鍛造が可能になりました】

【鍛造場所:始まりの町・リベルタ「老旅人グランの工房」】

果ての道標。設定資料にあった最終武器。武器種を自在に切り替えられる可変武器。

──でも、今は鍛造を急がない。まずは、この島の探索を終えることが先だ。

島の山頂に登った。海が一望できる。水平線の向こうに、もう一つの島が見える。

ハルが隣に立っていた。

「トワさん。あの島は?」

「わからない。まだ行っていない。──行くか」

「行きたいです」

二人の旅人が、次の島を目指す。

夜。孤島の砂浜で焚き火を起こした。

ハルが隣で、自分の【見聞録】の練習をしていた。温度センサーを起動し、焚き火の温度分布を読む練習。

「トワさん、温度センサーの感度調整って、どうやるんですか? 情報が多すぎて、頭がくらくらしちゃって……」

「最初は視覚を切れ。温度だけの世界に慣れろ。それから一つずつ、他のセンサーを戻していく」

「視覚を切る……怖くないですか? 真っ暗な中で……わたし、ちょっと怖いかも」

「俺も最初は怖かった。それでも見えない中で見えるものを探すのが、旅人の仕事だ」

ハルが目を閉じた。温度センサーだけの世界に入る。

「……見えました! 焚き火が赤い。砂が黄色い。トワさんが──あったかい」

「それでいい、少しずつ範囲を広げろ」

「海は……青い、冷たい。でも、遠くに──何かあったかいものがある。ナミちゃんかな?」

鯨のナミが沖合で浮かんでいる。ハルは温度で鯨を見つけた。

「よくできたな」

「え……っ! 褒められた……トワさんに褒められちゃった!」

「褒めてはいない。事実を述べた」

「それ、褒め言葉ですよ! えへへ」

セレスが焚き火のそばで、串に刺した魚を焼いていた。孤島で釣った魚。セレスが焼き方を監督している。

「ハル、おさかなたべる?」

「いいんですか? ありがとうございます、セレスちゃん!」

「ハル、なかま。なかまには、ごはん」

セレスがハルに魚を渡した。ハルが嬉しそうに食べる。

「美味しい! これ、セレスちゃんが焼いたんですか?」

「セレスがやいた。トワがつった。きょーりょく」

「共同作業というほどのものじゃないがな」

「じゅうぶん、きょーどーさぎょー」

ハルが笑った。セレスも笑った。

二人目の旅人がいる旅で、トワはふとこう思う。

一人の時には気づかなかったことがある。教えることで、自分が何を知っていたのか、改めてわかる。ハルに温度センサーの使い方を説明した時、自分がいつの間にか身につけていた技術の多さに驚いた。

歩いてきた距離が、知識になっている。知識が、言葉になって他人に渡せる。

──これも旅の形なのか。

「トワさん」

「なんだ」

「わたし、旅人になってよかったです」

「……そうか」

「トワさんの背中を追いかけて、ここまで来れました。次の島にも行ける。──旅人って、すっごくいい職業ですね!」

冬夜は焚き火を見つめた。

いい職業。──二年前にそう言ってくれる人は一人もいなかった。旅人は最弱のチュートリアル職で、即転職するのが常識で、誰も見向きもしなかった。

今は、百人以上の旅人がいる。その中で、ハルのように自分の背中を追いかけてくる者がいる。

「ああ。──いい職業だ」

セレスが冬夜の膝の上で丸くなった。小さな手がトワの指を掴んで、離さない。

「トワ。セレスも、たびびと、すき」

「お前は旅人じゃない、守護精霊だろ」

「でも、トワのよこで、あるいてる。だから、たびびと」

波の音と、焚き火の音と、セレスの寝息。

南の島の夜は、温かかった。