軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「鏡を割る」

レヴナントのHP、残り462,000。

ゼクスの一撃で18,000を削った。だがまだ九割以上残っている。長い戦いになる。

レヴナントが体勢を立て直した。ゼクスの奇襲を受けても、瞬時に対応を修正してくる。

【レヴナント学習更新:「体温消去アイテムによるステルス接近」をパターンに追加】

「──学習されたか」

ゼクスが舌打ちした。同じ手は二度通じない。

「一回限りの奇策ってことか。厄介だな」

「想定通りだ。同じ手は一度しか使えない。──だから、手数で勝負するんだ」

トワはチャットに打った。

トワ:「全員聞け。レヴナントは一度受けた攻撃パターンを学習する。つまり、同じ技は二度目から対応される。全員が初見の攻撃を一回ずつ当てていく。手札を出し惜しみするな。一巡したら、俺が新しい手を出す」

「新しい手?」レナが聞いた。

「やったことのない戦い方だ。レヴナントのデータにない動きだが……」

「やったことないって……練習してないのに大丈夫?」

「問題ない、ぶっつけ本番だ」

「トワさんらしい……でも、そこがいいよね!」

セレスが肩の上で小さくガッツポーズした。

「トワ、かっこいい! いけいけー!」

「応援はありがたいが、耳元で叫ぶな」

「ごめん! いけいけー!」

声量は変わっていなかった。

一巡目。全員が一発ずつ、初見の攻撃を叩き込む。

カインの【毒刃連撃】──暗殺者の毒スキル。レヴナントのデータにはない。命中。毒が入る。

レヴナントのHPが毒で削れ始めた。毎秒15。

【レヴナント学習更新:「毒刃連撃」をパターンに追加。二回目以降は回避率急上昇】

レナの【聖剣陣・突破】──剣士の上位突進スキル。レヴナントが旅人のデータしか持たないため、剣士固有の踏み込みパターンに対応が遅れる。

11,000。

【学習更新:「聖剣陣・突破」追加】

リゼの【凍結陣】──範囲魔法。レヴナントが0.17秒で杖に切り替えて相殺しようとするが、リゼの魔法は「遅延発動型」だった。杖を構えた瞬間には既にリゼの魔法は別の方向から展開されている。

8,500。さらにレヴナントの足元が凍結。2秒間の行動制限。

【学習更新:「凍結陣・遅延発動型」追加】

マルクの【聖光の裁き】──僧侶の攻撃スキル。回復職のマルクが攻撃に転じるのはレヴナントの想定外だったようで、直撃。

6,200。

ミコトの【貫通矢】──弓使いの上位スキル。通常の矢と違い、防御を貫通する。レヴナントが剣で受けたが、矢が剣ごと穿った。

7,800。

ゼクスの二手目──【影縫い】。地面に影を縫い付けて移動を封じるスキル。カインの毒が効いている状態で動けなくなったレヴナントに、全員が追撃を叩き込む。

一巡目合計ダメージ:約70,000。

レヴナントHP:残り約392,000。

「一巡で七万か。悪くないが──」カインが数えた。「あと五巡以上必要だ。しかも、同じ技は二度効かないんだろ?」

「だから、俺が出る」

トワが前に出た。

レヴナントとトワが向かい合った。

同じ顔。同じ装備。同じ構え。

それでもトワは、剣を構えなかった。

代わりに、両手を空にした。

『え、トワさん、武器を!? しまった!?』

思わずミコトも動揺を隠せなかった。

> 武器しまったぞ!?

> 何するつもりだ

> 素手!?

> 舐めプか!?

> なんかあんじゃね、流石に

> いや、だけど……なんかあるのか?

> 分からない、とりあえず見て見ようぜ

> いったい、何が始まるんだよ……

レヴナントが困惑したように動きを止めた。トワの全戦闘データにおいて、「素手で戦う」パターンは一度も存在しない。学習データに素手の対処法がない。

【レヴナント:該当パターンなし。対応策を検索中──】

その隙に、トワが動いた。

素手で──レヴナントの剣を掴んだ。

ミコトの矢を素手で掴んだ時と同じ要領。フルダイブVRの反応速度を極限まで使い、刃を避けて柄を握る。

レヴナントの旅立ちの剣を──奪った。

「は?」

「剣を奪った!?」

レヴナントが剣を失い、一瞬硬直した。武器を奪われるパターンもデータにない。

トワは奪った剣を投げ捨て、自分の【旅立ちの剣】を抜いた。

三連斬。

12,400──12,400──12,400。

レヴナントは剣がない。アイテムストレージから新しい武器を取り出す0.3秒の隙──その間にもう一度三連斬。

12,400──12,400──12,400。

【学習更新:「素手による武器奪取」追加──以降、武器奪取に対する警戒を強化】

学習された。次はもう通じないが、一回分のダメージは入った。

「やったことのない戦い方」を次々に繰り出す。一度きりの手札を、一枚ずつ切っていく。

次。

トワは【旅人の手記】を取り出した。──レヴナントにぶつけた。

手記はダメージを与えるアイテムではない。だが「しおり」が設置される。レヴナントの足元に。

しおりの効果:設置したエリアのステータス微量上昇。

──レヴナントに効果が乗るのか? いや、しおりの効果はトワのステータスに加算される。だが手記をぶつけること自体がレヴナントの想定外の行動だ。手記をぶつけられたレヴナントが一瞬「攻撃なのか、アイテムなのか」の判定に迷う。

その0.1秒で──背後からカインの短剣が突き刺さった。

14,000。

「手記をぶつけて隙を作るとか、発想がおかしいだろ」カインがドン引きしながら笑った。

「使えるものは全部使う」

次。

【マーサの霧底スープ】をレヴナントの顔面にぶちまけた。スープが顔から地面に滴り落ち、レヴナントの足が滑った。

「スープを武器にしてる!!」レナが叫んだ。

「料理で攻撃する旅人は初めて見た!!」リゼが笑っている。

『皆さん! トワさんが料理を床に撒いてレヴナントを滑らせました! こんな戦い方ありですか!?』

> スープで転ばすwwwwwwww

> これは笑う

> 旅人の戦い方が自由すぎる

> レヴナントのデータに「スープで足を滑らせる」はないだろうな

> そりゃない

> もうトワの発想力が一番の武器だろこれ

滑ったレヴナントに全員で追撃。

──こうやって、一手ずつ、データにない行動で隙を作り、仲間が叩く。正攻法ではない。美しくもない。だが、効いている。間違いなく、着実に。

戦闘開始から十五分。

レヴナントHP:残り約180,000。半分以上削った。

けど、こちらの消耗も激しい。レヴナントの反撃は的確で、全員がHPを削られている。マルクの回復MPが底をつきかけている。

「回復の余裕がない。あと五分が限界だ」マルクが報告した。

五分で180,000。──一分で36,000。厳しいが、全員の火力を集中すれば不可能ではない。

トワが告げた。

「最後の手札を切る。──セレス」

「うん!」

「【覚醒形態】になれるか」

「うん! もうげんきだもん!」

セレスが光に包まれ──白金色の巨大な鹿の姿に戻った。

トワがセレスの背に乗った。

三倍速の突進。レヴナントに真正面から突っ込む。

レヴナントはこれを知っている──セレスの騎乗突進はトワの戦闘データに含まれている。しかし、レヴナント自身にはセレスがいない。同じ速度で回避できない。

突進しながらトワが剣を振る。セレスの角が光り──

【セレスの覚醒形態・攻撃スキル:銀月の角撃】

セレスの巨大な角がレヴナントを打ち上げた。

「セレスの攻撃!?」

「守護精霊が直接攻撃できるのか!!」

打ち上げられたレヴナントに向かって、全員が空中の敵に攻撃を叩き込む。

ゼクスが跳躍して短剣の連撃。レナが剣を投げる。カインが背後から急所を突く。リゼの魔法。ミコトの矢。

空中コンボ。地上でどんなにデータを学習しても、空中に打ち上げられた状態の対処法はデータにない。

レヴナントのHPが凄まじい速度で削れていく。

150,000。120,000。90,000。

レヴナントが地面に落下した。すぐに体勢を立て直そうとする。

【学習更新:「銀月の角撃→空中コンボ」追加。二回目以降は──】

──二回目はない。

トワがセレスの背から飛び降り、レヴナントの真上から急降下した。

全武器の連携。剣──弓──槍──杖──剣。0.17秒の高速切り替え。落下の運動エネルギーを乗せた五連撃。

これはアストレア戦でも、ゼクス戦でもやっていない。高所からの急降下連撃──初めての技だ。

【該当パターンなし──対応不能】

28,000──22,000──19,000──15,000──31,000。

合計115,000。

レヴナントが凄まじい勢いで、地面に叩きつけられた。薄暗い闇が消えていく。

──HP、ゼロ。

【影踏みのレヴナント HP:0】

【フィールドボス「影踏みのレヴナント」討伐】

【初討伐ボーナス:称号「影を超えた旅人」を獲得しました】

【ドロップ:影の残滓(旅人専用最終武器素材2/3)を入手しました】

【ドロップ:世界地図の欠片(4/7)を入手しました】

最終武器素材の二つ目。そして欠片の四つ目。

レヴナントの身体が光の粒子に分解されていく。闇が消え、光だけが残る。

最後に──レヴナントの口が動いた。

「──いい、旅だった」

それだけ残して、消えた。

シンと、濃密な静けさが広間に漂う。

さっきまで戦っていた七人は立ち尽くし、しばし呆然としていた。

そして最初に声を上げたのは、レナだった。

「……勝っ……た?」

「ああ、勝ったな」

そのカインの返事に、レナが我に返った。

「勝ったああああああああああああああああああああ!!!!」

レナが跳び上がり、リゼと抱き合って泣いた。マルクはへたり込んだ。ゼクスは腕を組んで後ろの方で笑っていた。ミコトは配信中ということも忘れて、口をパクパクしていた。

『か、勝ちました……! 影踏みのレヴナント、討伐……! トワさんのコピーを──トワさんと仲間たちが、倒しました……!!!』

> 勝ったぞおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

> 「いい旅だった」って言った!? 最後に!?

> レヴナント、消える時にトワに旅の言葉を贈ったのか

> 泣くわこんなの

> 自分のコピーが「いい旅だった」って……

> スープで転ばしたのも急降下連撃も笑ったけど、最後の台詞で全部持っていかれた

> BCO、名場面の宝庫だな

セレスが小さな姿に戻り、トワの肩に降りた。

「トワ、かった!」

「ああ。みんなで勝った」

「セレスも、がんばった?」

「ああ、一番頑張ったぞ」

「えへへ。じゃあ、おやつ、ちょーだい?」

「帰ったらな」

「おやす、ちょーだい?」

「帰ったらな」

「もーっ、トワのケチ!」

セレスの頭を撫でてあやしながら、トワは肩の力を抜いて、地面に座った。

「これが……パーティーでの討伐、か」

ソロでは味わったことのなかった、充足感。

味方と戦うことも、旅の醍醐味だろうか。

なかなかどうして、これも悪くないと思えた。