軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

決勝前半(vs聖銀の盾)

ギルド王座決定戦、決勝。

〈深紅の牙〉 vs 〈聖銀の盾〉。

観戦者数二十五万人。配信視聴者三百万人。BCO史上最大のイベントが始まろうとしていた。

特設コロセウムの観客席は異様な熱気に包まれている。通常のギルド対抗戦の三倍の規模で設営された特別フィールド。広大な平原の中央に川が流れ、東西に自陣と敵陣が配置されている。

ミコトの配信が始まった。

『皆さんこんばんは! ギルド王座決定戦、決勝です! 〈深紅の牙〉vs〈聖銀の盾〉! 視聴者数が……三百万!? ちょ、ちょっと、桁がおかしくないですか!?』

> BCOの歴史が動く

> 中堅ギルドがここまで来るとは

> トワ効果だよな、完全に

> 相手は聖銀の盾。『シーズン一位』の王者だぞ

> アストレアがやばい。個人戦闘力は全プレイヤー中トップクラス

〈聖銀の盾〉が対面に並んでいた。白銀の鎧で統一された五十人。そしてその先頭に、一人の騎士が立っている。

『アストレア Lv90 聖騎士』

長い金髪のポニーテールで、全身を光り輝く白銀の鎧に包んでいる。腰に提げた剣は「聖剣ルミナス」──BCOの最上位レイドボスのドロップ武器で、聖属性の攻撃力がずば抜けて高い。

アストレアがボイスチャットを開いた。

「〈深紅の牙〉のトワ。噂は聞いています。Lv1の旅人がここまで来るとは、正直驚きました」

トワもボイスチャットで答えた。

「……驚かせるつもりはなかった。歩いていたら、ここに着いただけだ」

「ええ……あなたのその旅人としての言葉は、好きですよ。──ですが、今日は全力で止めさせてもらいます。この王座は、私たちが二年間守ってきたものですから」

二年間。〈聖銀の盾〉は前シーズンイベントでも優勝している。つまり、アストレアは、BCOの対人コンテンツの頂点に、二年間立ち続けてきた。

トワが二年間歩き続けたように、アストレアは二年間勝ち続けてきた。

トワは試合前に、味方の全員に【旅人の祝宴料理】を配った。

全ステ+10%、CT短縮20%。

セレスがトワの肩の上で、じっとアストレアを見ていた。

「トワ。あのひと、つよい」

「ああ……俺にも分かる。間違いなく強いな、あの人」

「セレス、わかる。あのひと、トワとおなじくらい、まっすぐ」

「そうかもしれないな」

【ギルド王座決定戦 決勝 開始 ── 制限時間30:00】

開始直後、〈聖銀の盾〉が動いた。

フィールドは誤魔化しのきかない平地、『大平原』。

両陣営が守るべき旗は、平原の奥の丘にそれぞれ立っている。

──全員が、一直線に向かってきた。

散開しない。分隊もしない。五十人全員が一つの槍のような陣形を組み、アストレアを先頭に突進してくる。

トワ:「敵、全軍突撃。五十人が一塊で来る。先頭にアストレア」

バルトが驚いた。

「全軍突撃!? 旗の防衛は?」

トワ:「防衛ゼロ。旗は無防備だ」

「……狂ってるのか?」

「狂っていない。自信だ。こちらの旗を取られる前に、うちの旗を取る。そういう戦い方だ」

〈聖銀の盾〉の戦術は単純だった。全戦力を一点に集中し、圧倒的な火力と防御で正面突破する。分散した敵を各個撃破するのではなく、 そ(・) も(・) そ(・) も(・) 分(・) 散(・) さ(・) せ(・) な(・) い(・) 。ギルド全員がアストレアを中心に固まり、一つの巨大な「盾と剣」として機能する。

だからこそ「聖銀の盾」なのだ。

バルト:「全軍、正面で受ける! 散開は逆効果だ! 密集して迎え撃て!」

五十人対五十人。正面衝突。

アストレアが先陣を切って突っ込んできた。聖剣ルミナスが光を放つ。

【聖剣スキル「光断」──前方180度・聖属性大ダメージ】

光の斬撃が扇状に広がった。前衛のタンク陣が盾を構えるが──

三人がまとめて吹き飛んだ。全員、ワンパンだった。

「タンクが三人も落ちたぁ!?」

「火力がおかしいだろ、何だあれ!?」

アストレアの攻撃力は、フォーラムの予想通り──いや、それ以上だった。トワの【見聞録】がアストレアのステータスを読む。

ATK:12,800。

トワのATK(セレスの加護込み)が約15,000。数値上はトワが上だが、アストレアの聖剣ルミナスには

「聖属性ダメージ1.5倍」の武器固有効果がある。実質的なDPSは、トワに匹敵する。

しかも、アストレアのHPは95,000。Lv90の聖騎士に、最上位装備の防御補正。対してトワはHP360。

火力は互角。耐久力は二十倍以上の差。

正面からぶつかれば、トワが先に倒れる。

──ならば、正面からぶつからない。

トワ:「バルト。俺が敵の陣形を崩す。レナはその隙に旗を取りに行け。敵の旗は無防備だ」

バルト:「だが、五十人が一塊だぞ。崩せるのか」

トワ:「崩すんじゃない。引き剥がす。アストレアを、 本(・) 隊(・) か(・) ら(・) 引(・) き(・) 離(・) す(・) 」

バルト:「……どうやってだ?」

トワ:「俺が一人で走る。するとアストレアは、最大の脅威を追うだろう。俺が逃げ続ければ、アストレアは本隊から離れる」

ゼクス戦の再戦で【死影覚醒】を走って耐えた時と同じ発想。しかし、今回の相手はゼクスの30秒ではなく──30分間、全力で追ってくる聖騎士たちだ。

バルト:「……お前、30分間逃げ続ける気か」

トワ:「逃げるんじゃない。歩くんだ。──少し速めに」

「トワさん、無茶だよ!」

レナが叫んでも、トワの自信げな顔はぶれなかった。

「無茶じゃない。俺が一番足が速い。そして、一番倒されにくい。被弾してもセレスの加護と糧食の回復がある。──これが、最善手のはずだ」

セレスがトワの肩から飛び上がった。

「セレス、いく。トワといっしょに、はしる」

「ああ、頼むぞセレス!」

セレスが【覚醒形態】に変わった。白金色の巨大な鹿。トワがその背に飛び乗る。

セレスの固有スキル発動――【銀月の疾走】

騎乗時の移動速度は通常時の3倍になる。更に【旅路の極意】の移動距離加算速度も3倍になる

奴らが全力でダッシュしても、馬に乗ってもおいつけない、三倍速のスピードだ。

白銀の鹿が、戦場を駆け抜けた。