軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「対策」

王座決定戦まで十日。

ゼクスの「索敵を封じる手段を用意した」という言葉が、頭から離れなかった。

冬夜は大学の講義中にも、トワの索敵が無効化された場合のシミュレーションを走らせていた。比較文化論のノートの端に、フィールドの配置図を描いている自分に気づいて、慌てて消した。

──【見聞録】が封じられたら、何が残る。

温度センサーと魔力感知は【見聞録】の機能だ。本体が封じられれば、それらも使えなくなる可能性が高い。

セレスの【月光の目】は? あれはセレスの能力であって、【見聞録】とは別系統だ。封じられるかどうかは、ゼクスの「手段」次第。

最悪を想定する。索敵が完全にゼロになった場合。

──五十人の敵が、どこにいるかわからない状態で戦う。

今までのギルド対抗戦は、索敵があるから勝てた。それがなくなれば〈深紅の牙〉は中堅ギルドのままだ。〈黒翼騎士団〉の平均レベルは89。正面からぶつかれば不利。

しかし、索敵がなくても勝つ方法がないわけではない。

夜、ログイン。コロセウムの練習場。

〈深紅の牙〉の主要メンバーが集まっていた。バルト、レナ、カイン、リゼ、マルク、そしてミコト。

「全員に話がある」

バルトが切り出した。

「ゼクスが索敵封じを宣言している。具体的な手段は不明だが、最悪を想定して──トワの【見聞録】が使えない前提で戦術を組む」

緊張した空気が張り詰めた。

「【見聞録】なしって……今までの試合、全部トワさんの情報で動いてたのに」

リゼが言った。

「だからこそ、対策が必要なんだ」

バルトがフィールドマップを展開した。

「索敵なしで50人を動かすには、分散ではなく集中が基本になる。偵察部隊を複数出して、人の目でカバーする。──カイン、お前が斥候のリーダーだ。五人の偵察班を組め」

「了解。盗賊系を五人集める」

「レナ、攻撃部隊は二十五人を維持するが、指揮系統を二重にしろ。お前と副隊長の二人が、それぞれ独立して判断できるように」

「わかった。練習するね」

「ミコト」

「はい!」

「お前は防衛部隊の弓で援護射撃だが──もう一つ仕事がある。弓使いに偵察スキルがあったよな」

「【鷹の目】ですか?」

スキル名:【鷹の目】

種別:弓使い専用アクティブスキル。

効果:矢を撃った地点を中心に、半径50メートルの敵情報を10秒間取得する。

「矢を撃った場所の周囲が見えるスキルです。範囲は半径50メートルで、10秒しか持ちませんけど……。索敵性能は【見聞録】の足元にも及びませんよ」

「ないよりましだ。矢を各方面に撃って、簡易的な索敵網を張ってくれ。──トワ」

冬夜が顔を上げた。

「お前は索敵ができなくなった場合、何ができる」

「戦う。一対一なら、誰が相手でも負けない」

「ゼクスにも?」

「ゼクスにも」

「ならお前の役割は遊撃から切り込みに変更だ。索敵ができないなら、個人の戦闘力で局面を打開しろ。敵の陣形に穴を開ける役目だ」

「了解した」

「あと一つ。──セレスの能力はどうなる」

セレスがトワの肩からぴょこんと顔を出した。

「セレス? よばれた?」

「ああ、ようやく出番が回ってきたらしいぞ」

トワがセレスの頭を撫でながら、

「確かに、セレスの【月光の目】は【見聞録】とは別系統の能力だ」

「月光の目とは、なんだ?」

バルトの問いかけに、トワが答える。

「セレスの感知能力を通じて、半径1キロメートルの全情報を【見聞録】に取り込むスキルだ。ゼクスの封じ手が【見聞録】だけを対象にしているなら、【月光の目】は生きている可能性がある」

「なにっ、こんな見た目でそんな破格の性能を持っているとは……」

「こんな見た目じゃない。セレス、トワのあいぼー」

「流石は、旅人の妖精だということか。ちなみに……能力は、他にもあるのか?」

「あと三つあるが、それは実際にやってみてからのお楽しみだな」

「……もはや突っ込むまい。色々と試す価値はあるということだけは、分かった」

バルトがうむとひとりでにうなずく。

「よし。索敵あり・索敵なし、両方のパターンで練習する。残り十日。──全員、覚悟を決めろ!」

『おおおおおおおおおおおおぉ!』

かくしてギルドでの練習試合が始まった。

まず索敵なしパターン。トワが【見聞録】をOFFにした状態で、25人vs25人の模擬戦。

結果は惨敗だった。

敵の位置がわからない。どこから攻撃が来るかわからない。カインの偵察班は機能したが、五人で広いフィールドをカバーしきれない。情報の粒度が【見聞録】と比べて桁違いに粗い。

「ダメだ。全然動けない」

レナが膝をついた。

「索敵なしだと、こんなに違うのか……」

リゼも呆然としている。

「これが現実だ。トワの索敵がこれまでどれだけ大きかったか、今日わかっただろう。──だが、俺たちはトワがいなかった頃から戦ってきた。中堅ギルドなりの戦い方がある。それを思い出すんだ」

とにかく、練習を繰り返した。三回、四回、五回。少しずつ──カインの偵察報告に基づいてレナが動き、ミコトの【鷹の目】が死角を補い、バルトが全体を統括する形が見えてきた。

完璧ではないが、崩壊はしなくなった。

練習後、トワはセレスと二人で草原を歩いた。

「トワ、だいじょうぶ?」

「わからないが、やれることはやった」

「セレス、がんばる。【月光の目】、ぜったいつかえるようにする」

「頼む」

セレスがぎゅっとトワの首元に抱きついた。

「トワ。まけても、セレスはトワのそば」

「……ありがとう」

「でも、かって」

「努力する」

「かって!」

「ああ……勝つ」

セレスの角がぱあっと光った。