軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

通りすがり

星砂の廃都の探索を一段落させ、銀月の草原に戻った。セレスの【星渡り】で一瞬で移動できる。転送水晶がいらない生活は快適だ。

草原で鹿──普通の個体を眺めながら歩いていると、遠くで騒ぎが聞こえた。

【見聞録】で確認する。プレイヤー反応、八人。そしてモンスター反応、大型。

【草原の巨狼・変異種 Lv86 ── レアエネミー】

通常のLv84の巨狼の変異種。レアエネミーはランダムで出現し、通常個体より大幅に強い。

八人のプレイヤーは──レベルが低い。Lv70〜75あたり。このエリアに来たばかりのパーティだろう。巨狼の変異種には荷が重い。

一人が倒れた。二人目が倒れた。

「やばいって! 回復追いつかない!」

「撤退しよう! このまま──」

トワは歩いていた。

正確には、草原を歩いて横切ろうとしていた。マーサのところへ行く途中で、たまたまこの方向を通った。

巨狼の変異種がこちらに気づいた。Lv86の獣が、Lv1の旅人を見て突進してくる。

──邪魔だ。通り道なんだが。

三連斬。

12,400──12,400──12,400。

変異種が一撃で倒れた。セレスの加護でHP360になったトワの【旅路の極意】加算値は、連日の三倍速移動で日に日に上がっている。もはやLv86程度は一撃だ。

「…………」

八人が固まっていた。

「え、一撃?」

「あれ、Lv1って表示されてるんだけど」

「嘘だろ……待って。肩に乗ってるのって──」

「角のある女の子! トワだ!! あのトワだ!!」

セレスがトワの肩の上から八人に向かってぱたぱたと手を振った。

「セレス! フォーラムで見た! 本物だ!」

「トワさん、助けてもらったんですか俺たち!?」

トワはチャットを打った。

「通りすがりだ。気にするな」

「通りすがりで変異種を一撃って……」

「かっこよすぎない?」

トワは立ち止まることなく歩いていった。八人がぼうっと見送る。

その夜、フォーラムにスレッドが立った。

【体験談】銀月の草原で変異種にボコられてたら、トワが通りすがりに一撃で倒してくれた

──「通りすがりwww」

──「一撃で草」

──「トワのいつものパターンだな。助けたつもりはない、たまたまそこを歩いてた系」

──「セレスちゃんが手を振ってくれたって書いてあるのかわいい」

──「トワ自身は素通りなのに、セレスが手を振るの最高だな」

──「この温度差がいい」

──「って言うか、Lv86の変異種を一撃って、トワのATKどうなってんだ」

──「セレスの覚醒から移動速度3倍になってるから、【旅路の極意】の蓄積速度もえげつないことになってるはず」

──「毎日歩いてるだけで強くなる男」

──「もう一万五千超えてるんじゃないか? ATK」

──「草原を散歩してるだけで最強が更新されていく……」

──「これぞ無意識最強」

冬夜はフォーラムを見ていなかった。マーサのところで新しい料理を作ることに夢中だったからだ。

霧底の森。マーサの泉。

ベヘモルを倒した後、霧底の森の霧が少し薄くなっていた。完全には晴れないが、以前より視界が広い。

マーサが喜んでいた。

「おやおや、あの子を倒してくれたのかい。おかげで、この辺りも少し過ごしやすくなったよ」

「新しい料理を作りたい。レシピを教えてくれないか」

「そうだねえ。お前さんの腕もだいぶ上がったし──特別なのを一つ、教えてあげよう」

【マーサの友好度9到達──レシピ「旅人の祝宴料理」を習得しました】

レシピ名:【旅人の祝宴料理】

種別:消耗品(料理)。特殊タイプ:「全体料理」。

公式説明文:旅の仲間に振る舞う、旅人の祝いの一皿。

効果:パーティメンバー全員に全ステータス+10%(30分間)。さらに料理を食べたプレイヤー全員のスキルCTを20%短縮する。

素材:霧底の光魚×3、星草×10、砂漠の赤塩×5、清水×5。

全体料理。パーティ全員に効果が及ぶ。しかも全ステ+10%に加えてCT20%短縮。

CT短縮は他のプレイヤーにとっては貴重なバフだ。トワ自身はCTゼロだから恩恵はないが──仲間にかければ、パーティ全体のDPSが大幅に上がる。

そして素材の中に「砂漠の赤塩」がある。これは──星砂の廃都でしか採れない。

霧底の森のNPCのレシピに、星砂の廃都の素材が必要。つまり複数のエリアを行き来して初めて完成する料理だ。転送水晶を使えば行けるが──セレスの【星渡り】なら一瞬で両方のエリアを往復できる。

旅人の移動能力が、料理にまで活きてくる。

「セレス。星砂の廃都に行くぞ」

「いく! すなのとこ!」

【星渡り】。一瞬で星砂の廃都に転送された。

赤い砂漠の地面をセレスと一緒に歩いて、赤塩の結晶を採取する。セレスが砂の上を裸足で歩いて、きゃっきゃと騒いでいる。

「あつい! あつい! でも、たのしい!」

素材を集めて、また【星渡り】で霧底の森に戻る。マーサの泉で調理。

【旅人の祝宴料理】──完成。品質:上質。

一皿できた。光魚の輝きもあって、白身が幻想的に美しい料理だ。

セレスがすかさず寄ってきた。

「たべていい?」

「これはパーティ用だ。一人で食べるものじゃないぞ」

「ちょっとだけ!」

「……一口だけだぞ」

セレスが一口食べて、全身がぱあっと光った。

蛍光塗料を食った人間みたいだな、とトワは思った。

当然、そんなもの食った試しはないが。

「おいしい!!! トワ、おりょうり、じょうず!」

「マーサのレシピで作っただけだ」

「でもつくったの、トワ。──えらい」

頭を撫でようとしたら、セレスが角をぴょこぴょこ揺らして嬉しそうにした。

──こうやって料理を作って、誰かに食べさせる。一年前には想像もしなかったプレイスタイルだ。

次のギルド対抗戦で、レナたちにこの料理を振る舞おう。全員の火力が上がれば、戦術の幅が広がる。