作品タイトル不明
「反響」
日曜日。対抗戦の翌日。
冬夜は久しぶりにぐっすり眠れた。心地いい疲労感だ。
スマホを見ると、メッセージが大量に来ていた。
ミコトだ。
ミコト:「昨日の配信、アーカイブ再生数が500万超えました。コメント欄が全部トワさんの話題です」
ミコト:「あと、私がゼクスを足止めしたところも結構話題になってて……嬉しい」
ミコト:「トワさんのおかげです。『5秒稼げれば俺が戻る』って言ってくれたから、怖くなかったです」
今度はレナから。
レナ:「トワさん!! フォーラム見て!! うちのギルド、一夜にしてめちゃくちゃ有名になった!! 入隊希望が百件超えてる!!」
そして、オーレン。
オーレン:「お前、団体戦でも無双したのか。もう何やっても無双するな」
蓮から電話もかかってきた。
『お前さー、配信見たぞ。50人の位置を全部把握して、リアルタイムで指示出してたやつ。あれ見たうちの大学のゲーム仲間が「トワって何者なんだ」って大騒ぎしてた』
「そうか」
『BCOやってないやつまで名前知り始めてるぞ。SNSで「Lv1旅人」がまたトレンド入りしてる』
「……フォーラムは見ない方がいいか」
『いや、今回は見ろ。お前に好意的な話がほとんどだ。──あとさ、料理スキル持ってるって話が出てて、「トワの料理が食べたい」ってスレッドまで立ってた』
「料理は下手だ。品質が普通だった」
『そういう問題じゃないんだよ……』
電話を切った。
──トレンド入り、か。
大したことではない。明日になれば別の話題に移る。
だが、フォーラムの反応を見ると、自分のプレイが誰かの楽しみになっていることは感じる。それを嫌だとは思わない。ただ、それを目的にする気もない。
自分は自分のペースで、歩きたい場所を歩く。それを見て誰かが楽しんでくれるなら、それはそれでいい。
午後、スーパーに買い出しに行った。帰り道、宮瀬からメッセージ。
宮瀬:「団体戦どうだった?」
冬夜:「勝った」
宮瀬:「おめでとう!! 来週のご飯、楽しみにしてるね」
冬夜は返信を打とうとして──少し迷った。
何を返すのが正解なのかわからない。ゲームの中なら、チャットで「了解」「ああ」と返すだけだ。だが宮瀬にそれは、なんとなく違う気がした。
冬夜:「楽しみにしている」
送信してから、自分の文面を見返した。
──楽しみにしている。嘘ではない。だが、自分がこういう言葉を打つとは思わなかった。
宮瀬からの返信は、ハートマーク一つだった。意味を考えようとして、やめた。
◇
夜。ログイン。
今夜は対抗戦もない。純粋な探索の夜。
銀月の草原に降り立ち、まず鹿に会いに行った。
【友好度が上昇しました:62/100】
鹿を撫でながら、ふと思った。この鹿と過ごした時間も、もう長い。最初に出会ったのは銀月の草原に来た初日だった。友好度1から始まって、毎日少しずつ。
──100になったら、何が起きるんだろう。
騎乗獣になる、と最初のシステムメッセージには表示されていた。だが、ここまで時間をかけて上げた友好度の報酬が、ただの乗り物だけとは思えない。
BCOの隠し要素は、いつも期待以上のものを返してくれる。旅人のスキル、低レベルアイテム、隠しNPC、料理システム──すべてが「誰もやらないことをやった人間」への報酬だった。
この鹿も、きっとそうだ。
鹿が顔を上げて、トワの手に鼻先を押し付けた。角の透明な部分が月光を通して、虹色の光が散る。
今日の景色も、きれいだった。