軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勝った後

勝った。

PvPランキング一位を、3.2秒で倒した。BCO史上最大の番狂わせだと、フォーラムでは騒がれているだろう。

だが──冬夜の胸の中には、思ったほどの高揚がなかった。

嬉しくないわけではない。ゼクスの先制攻撃をかわせた時、確かに手応えはあった。煙幕の中で温度センサーだけを頼りにゼクスを見つけた瞬間、血が沸くような感覚があった。

だが、それだけだ。

レイドでグラオザームを倒した時も同じだった。フォルセイドを倒した時も。倒した瞬間は確かに手応えがあるが、その後に残るのは──空白。

何かが、足りない。

勝利は、旅の途中の出来事に過ぎない。通過点であって、目的地ではない。

──俺は何を探しているんだろう。

その問いが、初めて明確に浮かんだ。

これまでは考える必要がなかった。「まだ歩いていない場所がある」。それだけで足が動いた。だが今、ふと思う。全ての場所を歩き終えた時、自分は何を感じるのだろう。

スマホが鳴った。蓮からだ。

『お前、勝ったんだって? すげえじゃん! フォーラム見たかよ! お前の煙幕戦法の解説スレが五十個くらい立ってるぞ!』

「見てない」

『お前、勝った後もいつも通りだな。もう少し喜んだらどうだ?』

「……嬉しくないわけじゃない。ただ──」

『ただ?』

「勝っても、景色が変わらなかった」

蓮が電話の向こうで黙った。

『……お前、たまに詩人みたいなこと言うよな』

「そういうつもりじゃない」

『わかってるよ。──景色が変わる場所を探してるんだろ? お前はいつもそうだ。新しいエリアを見つけた時だけ、テンション上がるもんな』

「……そうかもしれない」

『じゃあ歩き続けるしかないな。お前にとっての「新しい場所」がどこかにあるはずだ。──ゲームの中か、外かは知らないけど』

電話を切った。

──ゲームの外。

蓮の言葉が、妙に引っかかった。

大学。三限の比較文化論。

教室に入ると、いつもの席に宮瀬が座っていた。冬夜が近づくと、宮瀬が顔を上げた。

「久坂くん、おはよう。──なんか今日、顔色よくない? 大丈夫?」

「大丈夫だ。寝不足なだけだ」

「ゲーム?」

「……まあ」

「無茶しないでよ。ご飯ちゃんと食べてる?」

「カップ麺を食べている」

「それはご飯じゃないよ!」

宮瀬が呆れた顔をした。

「今度、ちゃんとしたご飯食べなよ。食堂のご飯とか。もし良かったら一緒に食べよ? 一人でカップ麺より、誰かとご飯の方がいいでしょ」

「……一人でも別に」

「いいから。明日のお昼、食堂ね。定食おごるから」

「おごられる理由がない」

「ノートのお礼。まだちゃんとしてなかったし」

冬夜は断る理由を考えたが、見つからなかった。

「……わかった」

「やった!」

宮瀬が嬉しそうに笑った。

冬夜はノートを開いて講義の準備を始めた。ペンを持つ手が、一瞬だけ止まった。

──さっき、宮瀬の笑顔を見た時。

ほんの少しだけ、景色が変わった気がした。

気のせいだろう。