軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

雷鳴の暴走

ソルシア北部の雷原。

踏破率を上げるために北部の未踏エリアを歩いていた時──異変が起きた。

空が、紫に染まった。雷雲が渦を巻き、稲光が地面に連続して落ちている。

「きゃっ、何が起きているの!?」タマキが悲鳴を上げた。

「落雷が……おかしい! これは、自然現象じゃない!」ハルも空を見て叫んだ。

雷原の中央に──雷の精霊ライトがいた。

様子がおかしい。金色の髪が逆立ち、身体から雷が四方八方に放たれている。

【雷の精霊ライト──暴走状態】

「ライトが、ぼーそーしてる!」

セレスが飛び出した。

「ライト! やめて! ライト――!」

ライトが、セレスに雷を撃った。セレスが月光で弾くが、ライトは立て続けに攻撃している。

目に、光がない。暴走して、自分が何をしているかわかっていないのだろう。

「トワ。ライトのからだのなかに──やみがまじってる。すこしだけ。でも、それがライトのちからをくるわせてる」

闇が──雷の精霊に影響を与えている。あの穴から漏れ出した闇が、精霊の力に干渉して暴走を引き起こしている。

「タマキ! 浄化薬は──」

「ダメです! 【闇】には浄化薬が効きません! 試しましたけど──消えちゃいました!」

浄化薬が効かない。光の封印とは関係ない【闇】には、浄化の力が届かない。

「じゃあどうする」ゼクスが短剣を構えた。「倒すか?」

「倒さない。精霊を倒したら──ソルシアの自然が壊れる、セレスも悲しむだろう。だから、鎮静化する方法を考える」

ライトの雷が大地を焼いている。放っておけば北部が壊滅する。だが攻撃すれば精霊を傷つける。

セレスが──【覚醒形態】になった。

「トワ。わたしに考えがある。──ライトの暴走は、【闇】が精霊の力を増幅しているせい。【闇】を取り除けなくても、精霊の力を一時的に抑え込めれば──暴走が止まる」

「抑え込む方法は?」

「【銀月の揺り籠】。──影を守る力は、光を抑える力でもある。ライトの雷を月光で包んで、出力を下げる」

「やれるか」

「やる。──でも、ライトに近づかないと月光が届かない。近づくと雷を喰らう。いったい、どうしたら……」

「大丈夫だ、俺が引きつける」

冬夜は【果ての道標】を構えた。影銀形態ではなく、通常の白銀。雷属性の相手に影は効果が薄い。

「ライト! こっちを見ろ!」

トワが、ライトの雷の前に飛び出した。

雷が直撃する。HP360のうち、300が一瞬で消える。

ダメージ軽減が加見された上で、これだけのダメージか。

「トワさん!」タマキが回復を飛ばす。HPが戻る。

もう一発。また300削れる。タマキが回復。削れる。回復。削れる。回復。

「タマキ、回復が追いついている、大丈夫だ! このまま行くぞ!」

「は、はい! でも、MPが──!」

タマキのMPが減っていく。回復を連打し続ければ、当然枯渇する。

ハルが一歩前に出た。

「師匠! 浄化薬は【闇】に効きませんが──ライトの身体の【闇】じゃない部分なら! 精霊の本来の力を強化する薬なら──【闇】に負けない状態にできるかもしれません!」

「そんな薬、あるのか!?」

「マーサさんに教わった強化系の調合薬──【精霊の滋養薬】! 精霊に飲ませると、精霊本来の力を一時的に高めます!」

「持っているのか!?」

「三本だけ!」

「頼む、送ってくれ!」

ハルがアイテムトレードで薬をトワに送った。

「これをライトに届けるには──セレス、行くぞ!」

「うん、まかせて!」

セレスが月光を全開にしながら、ライトに突進した。暴走する雷の嵐の中を、銀色の鹿が駆け抜ける。雷がセレスの身体を突く。角が火花を散らす。だが──止まらない。

「ライト。──わたしだよ。セレスだよ」

突進し、セレスが動きを封じたところに、トワが薬の瓶の蓋を開ける。

「お薬、飲んで。──あなたの本当の力で、【闇】を追い出して」

トワがライトの口元に薬を運んだ。一瞬だけ、ライトに目の光が戻った。

金色の光が──ライトの身体から溢れた。本来の雷の精霊の力が増幅される。【闇】の干渉を──内側から押し返す。

ライトの身体から、黒い霧が抜けていった。徐々に、徐々に、闇が排出されていっている。

暴走が──止まった。

雷雲が晴れ、空が青色に戻る。

ライトが小さな姿に戻って、セレスの腕の中で泣いていた。

「ごめんなさい、ごめんなさい……わたし、みんなに雷を、撃っちゃった……」

「だいじょうぶ。──ライトのせいじゃない。やみのせい」

「闇……? そういえば、わたしの中に……何か、冷たいものが……」

「うん。でも、もうだいじょうぶ。おくすり、きいたよ」

トワは二人の精霊を見つめた。闇の気配はない、もう暴走する心配はなさそうだが……。

「根本的な解決にはなっていないな」

タマキが頷いた。

「ライトさんの中の【闇】は排出できましたが、その【闇】は──まだそこにあります」

タマキが指差した先──地面に落ちた黒い霧が、ゆっくりと大地に染み込んでいく。

闇は消えない。移動するだけ。精霊から出しても、大地に戻る。

根本的に【闇】を消すには、【闇の源】に辿り着く必要がある。深淵。世界の底。

「セレス。六人目の精霊のこと──そろそろ、教えてくれないか」

セレスが小さな姿に戻って、トワの肩に座った。ライトはタマキに預けた。

「……うん。はなす。──でも、なまえはまだいえない。だから、あだなで」

「あだな?」

「むかし、みんなであのこをよんでたあだな。──『よるこ』」

夜の子。

「よるこは──よるのせいれいだった。セレスがつきで、よるこはよる。セレスのいちばんのともだちだった」

月と夜。最も近い存在だ。

「でも、あのたびびとがしんえんにふれたとき──よるこも、のまれた。よるが──やみにかわった」

夜と闇は似ているが、違う。夜には月が浮かび、星が光り、影が生まれる。闇には──何もない。

「よるこは──いま、ソルシアのいちばんふかいところにねむってる。ふういんのした。もっとした。──しんえんのいりぐちに」

深淵の入口に、闇に堕ちた精霊が眠っている。

「よるこを──たすけたい。やみからだして、もとのよるこにもどしたい。──でも、どうすればいいか、セレスにはわからない」

冬夜はセレスの頭を撫でた。

「わからなくていい。歩いていれば、きっと答えは見つかる。いつもそうだっただろ」

「うん。──トワといっしょなら、ぜったいみつかる」

ソルシア踏破率92%。残り8%。その最深部に──【闇】が眠っている。