軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ソルシアの空の下で

ソルシアの封印が解除されてから三日が経った。

裏世界は──もう「裏世界」ではなかった。封印が消えたことで、ソルシアは表の世界と同じ地位のエリアとして正式に統合された。表の世界からソルシアへの転送ゲートが各地に設置され、全てのプレイヤーが自由に行き来できるようになった。

ソルシアの街は──賑わっていた。

旅人だけでなく、剣士、魔法使い、僧侶、弓使い、聖騎士、暗殺者──あらゆる職業のプレイヤーが街を歩いている。NPCの商人たちが露店を開いて、酒場で冒険者たちが酒を交わして、図書館で古代の本を読む者だっている。

冬夜はソルシアの王宮の屋上に座っていた。ソルシア全土が見渡せる場所。セレスが膝の上で丸くなっている。

「トワ。ソルシア、にぎやか」

「ああ」

「むかしのソルシアみたい。──ううん、むかしよりにぎやか。いろんなしょくぎょーのひとが、あるいてる」

「ノクスに見せたかったな」

「うん。──ノクス、みてるよ。きっと。へきがのなかから」

壁画のノクスは、今日も笑っている。

土曜日。現実世界。

冬夜と宮瀬が、大学近くのカフェにいた。いつもの窓際の席。

「ソルシアの、完全攻略おめでとう」

宮瀬がコーヒーカップを掲げた。

「完全攻略じゃない。ソルシアの封印が解けただけだ」

「でも、大きな区切りでしょ? 千年間封じられてた世界を蘇らせたんだよ。──すごいことだよ」

「俺だけの力じゃないさ」

「知ってる、みんなの力だよね。──でも、歩き始めたのは久坂くんだよ」

宮瀬がコーヒーを飲んだ。

「ねえ。わたしの浄化薬、役に立ったでしょ」

「もちろん、役立ったぞ。宮瀬がいなければ、楔に近づけなかった。最後のカルディア戦も、宮瀬のポーションが三十秒を作った」

「えへへ。薬師……やっててよかった」

「ああ。──それもこれも、宮瀬のおかげだ。宮瀬には、感謝してもし切れないな」

宮瀬の頬が、少し赤くなった。

「久坂くん、最近そういうこと普通に言うようになったよね。前は絶対言わなかったのに」

「成長したんだろ」

「ゲームの中だけじゃなくて?」

「ゲームの外でも、誰かさんのおかげでな」

宮瀬が口元を緩めた。見るからに嬉しそうだった。

「ねえ久坂くん。──ソルシアが蘇って、これからどうするの?」

「ソルシアの探索はまだ続く。復元されたエリアにも、まだ行っていない場所がある。それに──」

「それに?」

「──新しい場所が、見えてきた。まだ行ったことのない場所が」

冬夜は、窓の外を見た。何か言うべき言葉を探しているような、そんな素振り。

「宮瀬」

「なに?」

「一つだけ、言いたいことがあるんだ」

宮瀬のコーヒーカップを運ぶ手が、ぴたりと止まった。

「えっと……なに?」

「ずっと考えていた。オフ会の帰りに──『いつか違う言葉が見つかるかもしれない』と言っただろう」

「うん。覚えてる、忘れてないよ」

「それがいま、見つかったんだ」

宮瀬は息を詰めた。

彼の言葉に集中して、そして冬夜が選び抜いた言葉とは――。

「お前は──俺の、仲間だ」

「……え?」

「もう友人じゃなくて、仲間だ。一緒に歩いている。ゲームの中でも、現実でも。──俺の隣を歩いてくれている人を、友人とは呼ばないだろう」

……なんとも言えない沈黙。

宮瀬の顔の硬直が緩み、じとーっとした目つきに変わると、今度は頬を膨らませ始めた。

「ねえ、久坂くん……もしかして、それだけ?」

「それだけとは、どういう意味だ?」

宮瀬は「はあぁ~」と額に手を当てた。

分かってはいたが、やはり彼には、まだそういうのは早いらしい。

「仲間……仲間、かぁ……」

宮瀬の微妙な顔。物足りないような……でも、友人以上になって嬉しいような、残念なような。

「久坂くん──仲間って、セレスちゃんも、ミコトさんも、ハルちゃんも、ゼクスさんも、みんな仲間だよね」

「ああ、そうだな」

「わたしも、みんなと同じ『仲間』?」

「同じ……ではない」

ぱちくちと、宮瀬がまばたきをした。

「同じでは、ない?」

「俺もよく分からないが……宮瀬は、特別な仲間だ。ゲームの外にいる、唯一の……現実で俺の隣を歩いてくれている、唯一の仲間だと……そう思う」

「……ずるい。久坂くん、ずるいよ」

「何がだ?」

「仲間って言いながら……特別とか、唯一とか付けるの、ずるいよ」

「事実を述べたまでだ」

「そうやって簡単に言っちゃうところも、一番ずるいんだよ……」

宮瀬はもじもじとしながら、でも冬夜の顔を見つめる。

「……もう少し、待ってていい? わたしも──言葉を、探してるの。久坂くんに返す言葉を」

「もちろん、急がなくていい」

「久坂くんが七千時間歩いて言葉を見つけたんだから……わたしも、もう少し歩かないと」

「ああ、いつまでも待っているさ」

「いつまでも、ね」

「どうした?」

「ううん、なんでも」

二人でコーヒーを飲んだ。

ソルシアは蘇り、言葉も見つかった。それでも旅は、まだまだ続いている。