作品タイトル不明
11 「それで? どうなったの?」
今回の事の顛末。
ユーリーンはジェラルード学院を退学した。最後の日、彼女は風のように学院から去っていったとのことで、別れの挨拶ができた生徒はだれもいなかったそうだ。
もっとも、本性を見せた彼女に声をかける友人がいたかどうかはわからないけれど……
それからしばらくして私のもとに小包が送られてきた。
なかには蔓薔薇の見事な刻印があしらわれた口紅が一本入っていて、添えられていたメッセージカードにはこんなことが書かれていた。
『ロゼリア・ルリジューズさまへ
あらためて私がしたことをすべて謝ります。ほんとうにごめんなさい。
この口紅はまだ発売されていないものです。あなたに似合うと思いえらびました。どうか受けとってください。
あなたの未来に幸多からんことを。
――Y.M.より』
口紅は燃えるように赤い色をしていた。あのパーティーの日、私が着ていたドレスみたいに。
もし出会い方がちがったらユーリーンとは仲よくなれたかもしれない。
鏡のまえで口紅を塗ってみながらそう思った。彼女がえらんだ口紅は、驚くほど私によく似合ったから。
そして、フォニス。
彼との婚約は正式に解消された。理由は簡単。
遅れてやってきた私の両親と(ふたりが大講堂にきたときにはもうクライマックスでとても合流できなかったそうだ)、一部始終を見ていた彼の両親の意見が合致したからだ。
いわく『なにが真実の愛だ。結婚を舐めるな』。
今回のことは全面的にフォニスの責任だけれど、彼の両親が丁寧に謝ってくれたし、フォニスはこってりしぼられて反省文も書かされたというからカルセドア家に賠償を求めるつもりはない。これからのつきあいというものもあるし。
それに私も婚約が解消されてほっとしていた。だって――
『来週末のパーティーだが、もしロゼさえよければフォニスの提案を受けいれてくれ』
ブラッドにあらかじめそう言われていたから。
『きみの言うとおりあいつはロゼとの婚約をなかったことにするつもりだろう。ロゼにはつらいだろうが……でも、俺はそれでいいと思っている』
『どうして……?』
『それは……』
恥ずかしそうにブラッドは口ごもり、けれどごまかさずに言ってくれた。私のことを大切に想っているから、と。
『言っておくが、血のつながらない妹のようにとかそんなんじゃない。女性として、だ』
『ブラッドおにいさま……』
『……できたら、その呼び方は最後にしてくれ。きみにはひとりの男として見てほしい』
『…………』
『きみとフォニスの婚約が決まったときからだ。もしあいつがきみのことを幸せにできなかったときは横からかっさらってやろうと思ってた。……現実にならなければいいとも思ってたけど』
『……そう、でしたの』
『いますぐじゃなくていい。俺とのこと――ゆっくり考えてみてくれ』
彼にまだ返事はしていない。ブラッドのことはもちろん好きだけれど、心の整理にもうすこし時間がかかりそうだから。
でも、いつかは必ず……。
ブラッドとの図書館での勉強会はいまもつづいている。
以前と変わったのは、そこにいろいろな生徒が入れかわり立ちかわりやってくるようになったこと。私に相談が持ちこまれるようになったことだ。
「ロゼリアさま、どうかお願いします。ハロルドとミリアを仲直りさせてください」
「知らないわよ。自分たちで話しあわせなさい。次」
「あのー、私の万年筆がないんですけどー……」
「鞄の中にでも落ちてるんじゃないの。次!」
どうもこれは大講堂でユーリーンの本性を暴いたことが影響しているらしい。
それが噂になって、最終的に『ロゼリアさまに相談すればなんでも解決してくれる』という話になったようだ。
――私とブラッドの時間が……!
でも、いろいろな生徒(たまに先生もくる)に頼られて悪い気はしない。ハナが私の話を広めてくれたのだろう、下位クラスの生徒もやってくるし。
こうしてみんなの話を聞いていればユーリーンがハナにしたようなことを未然に防ぐことができるかもしれない。期待には応えなければ。
「そういえば知ってる? フォニスさまだけど」
窓の外が暗くなってきたあたりで今日の相談を締めきった。私たちはブラッドたち男性陣に寮のまえまで送ってもらい、談話室で一息つく。
そこでフォニスの話になったのだった。
彼は顔を合わせるたび『あのときはすまなかった』『私にはロゼだけだ。ロゼ以上の女なんていない。やりなおしてくれ』と言ってくるが私は完璧にスルーしている。
クラリッサは私たちの破局の一因が自分にあると申しわけなく思っているのか、または野次馬根性なのかは知らないがフォニスの情報を仕入れてきては私に報告してきていた。
今回は――
「どうも、留学して見識を深めて人間としての器をひとまわり大きくしたいらしいわよ。だから先生たちとそのことについて面談したって」
私は自分の髪をつまんで枝毛をチェックする。
「……そう。それはいいわね、がんばって」
「もうちょっと興味持ちなさいよ!?」
だってどう聞いてもただの思いつきじゃない……。
今度はブラッドに影響されたのだろう。興味はないけどクラリッサが聞いてほしそうだったので、「それで? どうなったの?」と尋ねる。
それがね、と彼女は声をひそめた。
「断られたらしいわ。なんでも、シャツの裾がでてるようなみっともない生徒を我が国代表として送りだすわけにはいかないって」
「あらそうなの」
私は苦笑した。
「可哀想に。きっと、身だしなみを注意してくれるほど愛のある方が周りにいないのね」
【終わり】