軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編 マーティを越えろ9

病室へと入ってきた人物たちは、イズミとミリアだった。

偶然にも保健室前で会ってしまった彼女たちは、目指す場所も同じという事で一緒にルーデルたちの病室へと来たのだ。

イズミもミリアも挨拶程度で、道中は非常に気まずい雰囲気だった。気を取り直して二人が笑顔でドアを開ければ、そこには床に座り込んだフィナとミィー、そしてソフィーナが顔を赤くして座り込んでいる。

「……何かあったの?」

ベッドの上ではルーデルがイズミに笑顔を向けるが、リュークとユニアスは二人から顔を逸らした。アレイストだけは、告白した事もあり顔を赤くしてミリアから目を逸らす。

ミリアが周りを見て不思議に思った出た言葉には誰も答えない。いや、ルーデルがミリアに説明をしようとした所で、イズミが溜息を吐いた。学園に来て五年も経てば、イズミの仕草も大人びてくる。

ルーデルたちも背が伸び、筋肉がついた事で体は大人だった。顔付も幼さが抜けており、四人とも大人の顔つきになってきていた。だが、中身は子供のままである。

「はぁ、ルーデル、今回は何をしたんだい」

腕を組んだイズミは、籠に入った果物を適当な棚に置くとルーデルを見つめる。

イズミの視線に、ルーデルは笑顔で答えるのだ。

「聞いてくれイズミ! 俺は遂に魔眼を扱えるようになったんだ。こう、目に魔力を集めて調整すると、撫でには及ばないが相手を気持ちよく……」

「ストップだよ、ルーデル」

ルーデルの説明を止め、イズミは座り込んでいる三人の下へと向かう。三人を病室にある椅子に座らせると、ルーデルのベッドの隣へと移動した。イズミの定位置である場所には、既に椅子が用意されており座るとルーデルと見つめ合う。

ルーデルもイズミを真剣な目で見るのだが、しばらくすると目を逸らした。自分が何か不味い事をしたのだと、その時に気が付いたのだ。

「……何か不味かったか?」

魔眼で盛り上がっていた男子たちは、ルーデルとイズミを見守る。

「色々とね。王女様を床に座らせるのも駄目だけど、魔眼を女性に使用したら駄目だよ」

「待ってくれ、イズミ! 魔眼を封じられたら、一体誰で練習すれば……」

病室を見渡すと、ベッドに横になる男子が目に入る。リュークとユニアスはすぐに目を逸らした。

「こっちを見るなルーデル!」

「お、俺にそんな趣味はねー!!」

二人は断固として拒否の姿勢を見せるが、アレイストは違う。目の前でルーデルの魔眼の実力を見ているのだ。そして病室には告白した相手、ミリアお見舞いに来ている。もしも間違いでも起きれば、アレイストは耐えられない。

魔眼の効果は切れているだろうが、アレイストはミリアの目を塞ぐべく両手で覆うために体を動かした。ベッドから無理やり立ち上がり、ミリアへと向かった所で激しい痛みが体に襲い掛かる。これまでとは比べられない傷を負ったのだ。

思う様に体が動かないのもしょうがない。寧ろ、よくベッドから動けたといった所だろう。

しかし、結果は散々だった。

「ミリア、危ない!」

「え? ……キャァァァ!!」

急にベッドから飛び出してきたアレイストによって、ミリアはその小さな胸をアレイストに鷲掴みされたのだ。アレイストの左頬には、ミリアの強烈な平手が飛んできた。

「……大丈夫か、アレイスト?」

ベッドに強制的に戻されたアレイストは、左頬を押さえながら心配するルーデルへ顔を向ける。

「大丈夫に見えるの? もう、色々とボロボロだよ」

落ち込んで答えるアレイストに、リュークは笑いを堪えながら会話に割り込んだ。ユニアスは笑いながらついでに参加する。

「主に精神面だな。まさかルーデルを超える大物がここにいたとはな」

「ルーデルもそこまで直接的な事はしないしな!」

「……あぁ。なぁ、イズミ。みんなは俺の事を何だと思っているんだ? 確かに女性には興味があるが、そこまで酷い事はしてないぞ」

「どうかな。周りから見たら、それ以上の事を平気でしているように見えるけどね」

リュークとユニアスの物言いに、何故に自分が引き合いに出されたのか納得できないルーデルがイズミに疑問をぶつける。イズミも、気付いていないだろうルーデルに、少し棘のある言い方をする。

そんな周りの反応に、アレイストではなくミリアが顔を赤らめる。告白をされたので、一応は答えるのが義務だと思い見舞いに来たのだ。しかし、病室はとても答えを言える雰囲気ではなかった。

(うぅぅ、断れる雰囲気じゃないわね)

確かにアレイストは将来有望だが、ミリアは長寿のエルフである。人間と違い、卒業後に結婚となるにはまだ早いと思っていたのだ。貴族は卒業すると、家庭の事情で婚姻関係が結ばれる。遊んでいられるのも、今だけと言う事だ。

しかし、一般学生であるミリアは違う。武官や文官として、クルトアで働くために学園に来たのだ。これは亜人がクルトア王国に従う姿勢を見せる物であり、忠誠を持って働いているとは言いがたい。

だが、一人前になったので、自分の実力を学園の外に出て確かめたいという気持ちがミリアには有ったのだ。

頭を抱えたくなるミリアに、今まで黙っていたフィナが近付いてきた。

「ミリア先輩でしたわね」

「は、はい!」

急に話しかけられた事で、ミリアは声が裏返る。慌てて姿勢を正すと、フィナは学園で公の場ではないから気にしなくていいと付け加えた。

そして、フィナは、アレイストの前でミリアに勧誘を行ったのだ。

「ミリア先輩は卒業後の進路は決まっていますか? (まぁ、辺境へ向かうのは知ってるんだけどね。でも、丁度いい感じにアレイストがいるし、ここで勧誘しよう)」

「は、はい。辺境へ配置される事が決まっています」

少しばかり思う事がある配置だが、それでも辺境で頑張れば認められると淡い期待も抱いていた。そんなミリアに、フィナは当然の如く親衛隊への勧誘を行うのだ。

「そうですか。先輩のような実力ある騎士が辺境ですか……勿体無いですね」

「勿体無いですか? 辺境も大事だと思うのですが」

「いえ、確かに辺境で頑張って下さる、騎士や兵士の方には頭が下がる思いです。しかし、先輩の実力は今回の大会で拝見させて頂きました」

「あ、アハハハ」

苦笑いになるミリアは、感情が高ぶって王族の前で恥を晒した事を思い出す。だが、フィナの感想は思っていたものと違った。

「黒騎士を相手に退かない姿勢は見事でしたよ。そこで提案なのですが、新設された親衛隊に先輩の力が欲しいのです。私が設立に『多少』絡んでいるので、是非とも将来有望な騎士を集めたいのです」

フィナの演技に、ミィーとソフィーナは小声で話し合う。

「凄いですね、姫様。あんなに真面目な勧誘が出来るんですね」

「えぇ、本当は多少どころか、黒幕よね。普段からまともでいて欲しいわ」

二人の小声で話す声を聞いていたフィナは、アレイストがミリアの進路に食いついている事を確認すると、ミリアの手を取って無表情な顔を向ける。

「先輩、どうですか? (その耳をハムハムしてぇぇぇ!!)」

「え、え~と、急に言われても困ると言いますか……」

煮え切らない態度に、アレイストでなくルーデルが口を挟んだ。ルーデルが会話に割り込んだ事で、フィナは一端勧誘を止める。

「ミリアさんは親衛隊が嫌なのか?」

「嫌と言う訳じゃ」

真剣な表情で自分を見るルーデルを見て、ミリアは顔を逸らしてしまう。未だに諦めきれない気持ちがあるのか、ここに来て揺らいでいた。

「何か理由が無いのなら、このチャンスは活かすべきだ。実力がある騎士は、活躍できる場を求めるのも大事だよ。チャンスが巡ってきても、それを掴めなかったら後悔する事になる」

ルーデルは亜人でるミリアは、今後辺境で活躍できるとは思っていなかった。上司に恵まれれば違うだろうが、実力は有っても活躍できる場が無い騎士は多い。また、活躍しても正当に評価されるとは、今のクルトアでは思えなかったのだ。

実家が亜人を毛嫌いしている事もあり、ルーデルはその辺りの話をよく聞いている。実家にいた兵士たちが、亜人の手柄を横取りしたと言う自慢話を酒を飲みながらしていたのだ。

これはミリアを気にかけてと言うよりも、辺境よりもチャンスを掴めるであろう親衛隊を進めたかった。人の醜い所を見たルーデルだが、学園に来るまでは自分に関係ない他人には興味が薄い人間だった。

しかし、他人を気にかける事が出来る様になったのは、大きな成長であろう。俯くミリアに、フィナは声をかける。

「この場で答えは求めません。そうですね……二学期までは待ちましょう。それまでに、ミリア先輩が納得できる答えを出してください。(師匠に邪魔されたけど、ここで無理しなくてもいいわ。アレイストが食い付いただけでも十分だしね! もしも親衛隊に来たら、その耳をハムハムしてあげる!!)」

無理やり勧誘して、親衛隊に放り込もうとしたフィナだが、目的は果たせたとここは退く事にした。

「ふっ、あの時にレナの機転があればこそ、私はバリアを維持する事が出来たのだ。天井に穴を開ける事で、ルーデルとお前の魔力を上空に逃がしたのさ。もうこれは、私とレナの相性が良いという事だろうな。二人の共同作業と言っても良い!」

リュークがアレイストに対して惚気話をするが、これはユニアスも何度も聞いている。バリアの天井に穴を開けて衝撃を観客のいない天井に逃がす。これによりバリアを維持したリュークは、何とかハルバデス家の意地を見せる事が出来たのだ。

アレイストも、入院して数日目で三度もこの話を聞いている。告白の話でからかわれ、惚気話で同じ話を聞かされ続け、逆隣りはピンク色の雰囲気を放つルーデルとイズミが存在する。

果物の皮をむくイズミは、ルーデル以外にもカットした果物を配っている。しかし、明らかにルーデルの物のみが手が込んでいるのだ。

カットされた果物を食べながら、リュークの惚気話を聞くのは隣でイチャイチャするルーデルとイズミの邪魔をしないためでもある。ユニアスもリュークの話は聞き飽きたのか、寝る振りをして逃げ出していた。

リュークの話を黙って聞いているのも、反論しようものなら理詰めで返されるからだ。リューク以上に弁の立つ者が病室にいないので、誰も言い返す事が出来ない。黙って聞いている方が、マシだからである。

リュークが満足して話を終えると、今度はアレイストにルーデルが話しかける。前に頼んだ鎧の件で、ルーデルが確認を取ってきたのだ。

「アレイスト、鎧のサイズの件はあれで良かったんだよな?」

「え? あぁ、鎧の事ね。うん、サイズの変更は無しで良いよ。ある程度違っても、微調整してくれるんだろ?」

「あぁ、もう取りかかっている。後はこの前測ったお前のサイズに変更が無ければ、卒業式の前には届くと言っていたぞ」

東方の職人に依頼したアレイストの鎧は、アレイストも気にかけていた。どんな鎧が出来るのか、今から楽しみにしているのだ。

ルーデルと話すアレイストに、今度はイズミも加わる。

「あの職人たちの事かい? ルーデルは鎧も調整しているね」

「あぁ、俺のは微調整と、向こうが見たいと言ってきたんだ。予想よりも時間がかかっているが、一度こちらに会いに来た時は、アレイストの邪魔をするのも悪いと思ってその時には聞かなかったんだ」

「別にいいのに」

「……私の刀も一度見て貰おうかな? 貰った時から手入れはしているが、卒業前に見て貰いたいんだ」

イズミのお願いに、ルーデルは即答で答える。

「構わないぞ。俺も予備の武器を依頼する予定だし、ついでに頼んでおこう」

「武器かぁ、僕は両親が有名な鍛冶師に頼んだって言ってたな」

アレイストが鎧の事をルーデルに頼んだのは、鎧を作る職人を実家が抱えていないからである。有名な鍛冶師は抱えるのも相当な金がかかる上に、どこの家も抱えたいと探し回っている状態だ。

抱えなくても依頼すれば良いのだが、三公が勧める職人ならと両親も納得している手紙を受け取っている。代わりに、武器だけは有名な鍛冶師を探し出したと書かれていた。

「鎧の方は卒業式前と言っていたが、乗り気だったから予想よりも早いかもな。凄く良い物が仕上がってると喜んでいたぞ」

ルーデルの言葉にアレイストは喜ぶが、イズミの表情は少しすぐれない。ルーデルが、そんなイズミの表情を気にする。

「どうした、イズミ?」

「……いや、大丈夫だとは思うんだが……その、東方の職人は腕は確かだと思うんだが……」

ハッキリしないイズミだが、この時は曖昧にごまかした。ルーデルもアレイストも、少し気になったが心配ないと言われてそれ以上は聞く事をしなかった。

後日、この事をアレイストは酷く後悔する。

鎧はルーデルの予想通り、相当早くに仕上がった。

最後の長期休暇を前に、アレイストの下へと届けられたのである。だが、アレイストは届いた鎧の前で膝をついていた。

「どうだい大将! この鎧の出来栄えは、半端ねーよな!」

「全くだぜ! ここまでの出来はそうはねーよ。完璧って感じだな!」

「この角なんかあり得ねーよ! もう、最高だろう!」

職人といった感じの、頑固そうな中年や壮年の男が真顔でそんな言葉を口にする。理由は簡単だ、東方からクルトアに来た時、彼らはスラムのような場所で生活していた。そこで覚えた言葉は、どうしても上品と言う訳にはいかないのである。

本人たちは真面目なつもりで発した言葉だろうが、酷く軽い言葉を並べている。

アレイストの鎧が届くと言う事で、ルーデルとイズミも顔を出していた。目の前には漆黒の鎧に、黄金の二本の立派な角が頭部から生えている。一見すると、味方と言うよりも敵の総大将……魔王を連想させる禍々しい鎧に仕上がっていた。

「いやぁ、ルーデルの兄貴から黒騎士って聞いて、俺たちなりに想像したらこんな形になりやがった。でも、格好良いだろ?」

物凄く怖い顔をした職人が、そんな口調で同意を求めれば……。

「……格好いいです」

アレイストは反論する事は出来ない。イズミは額を手で押さえると、やっぱりといった顔をする。

「すまない。まさかここまでやるとは思わなかった」

アレイストに謝るイズミに、ルーデルは首をかしげる。

「何故だ? 格好いいだろう」

不思議そうにするルーデルの前には、磨かれた白騎士の鎧が置かれている。明らかに正義の騎士といった感じの鎧に対し、アレイストの鎧は魔王といった感じだ。しかも金色の角や赤いマント、そして施された金細工が妙に禍々しさを出している。

ダークヒーローや魔王、そう言った方が分かりやすい鎧だろう。

「流石兄貴! 分かってるぅ!!」

「ルーデルさん、流石っすね!」

「兄貴が言うんだから間違いない!!」

真面目な顔で軽い言葉を使う職人たちを、アレイストは無表情で眺めるのだった。