軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お馬鹿な二人と分かれ道

「絶対に認められませんわ!」

貴賓室では、先程のアレイストとフリッツの試合内容にアイリーンが声を荒げて批判している。父である王は溜息を吐き、母である王妃は淡々と試合内容に問題は無いと語る。

「認められない? 試合開始後に黒騎士が動いただけでしょうに……まさかここまで無様な試合を見せられるとは思わなかったけれど、勝者は黒騎士です。アイリーン、あなたの目は曇っているのではなくて?」

ルーデルとユニアスの試合に興奮していた王妃だが、続く試合が瞬殺では面白くも無い。前回観戦した、ルーデル対アレイストの試合よりも決勝戦は明らかにルーデルが不利なのだ。

アレイストの実力から、負ける事も無いだろうと王妃は予想している。つまりは、最後の試合も王妃には結果が見えている。だからこそアレイストとフリッツの試合には多少期待していた。ここでフリッツが粘れば、決勝戦では少なからずルーデルにもチャンスが生まれると期待していたのだ。

「母上!」

「よさんか二人とも。それよりも、もうすぐ決勝戦だ。学園長、少し休憩を挟みたいのだがな」

「かしこまりました。決勝戦の前に休憩を挟みます」

学園長が王の指示で、貴賓室の外で待機している職員に休憩を挟むように指示を出す。決勝戦を前に、王からルーデルへの好意だった。アレイストも時間を稼ぐ事を公言していたので、少しだけ時間を与えたのだ。

貴賓室を飛び出したアイリーンに、近衛隊の護衛たちも後を追う。フィナは姉であるアイリーンが飛び出したドアを見ると、ソフィーナに耳打ちをした。

王妃は扇を畳んで溜息を吐くと、近衛隊の護衛にアイリーンを連れてくるように指示を出す。

「……決勝戦までにはここに連れてきなさい。全く、どうしてあんな子に育ったのかしら」

母の愚痴に、フィナは視線だけ母に向けて心の中で叫ぶ。

(逆に、どうやったらここまで酷いお姫様を二人も育てられるのか、私はそれが知りたいわぁ!! 父上も母上に言ってやって、言いたい事を我慢しないで……お前の教育が悪かったんだろ、って声を大にして言ってやって!)

自分の事を棚に上げて、先程の試合で内心で笑っているフィナは母の言葉に更にツボを刺激される。彼女に表情があれば、きっと泣きながら笑い転げているだろう。

(それより、フリッツ弱ぇぇぇ!! 瞬殺とか、私を爆笑させて笑い殺す気? 侮れないわね、フリッツ!!)

薄暗い闘技場の通路では、アイリーンが学園の関係者を捕まえてフリッツの居場所を聞いている。だが、フリッツが控室で寝込んでいる事を聞くと、職員に命令をする。

「は? ……真剣を使うのですか!」

アイリーンに指示された職員は、口を空けて驚いている。

「最後の試合でしょう。黒騎士にも白騎士にも、お互いに全力を出して貰わねば困ります。……いいですね、命令はしましたよ」

言いたい事だけ言うと、アイリーンはフリッツの下へと駆け出した。真剣を使えば、ルーデルとユニアスの試合ではどちらもただでは済まなかっただろう。白騎士と黒騎士が潰し合えばいいと、アイリーンがとっさに思いついて口にした命令だった。

対応した職員が、それなりに役職が高かったのもアイリーンには幸運だったのだ。まるで、望めば全てが叶う……アイリーンの行動全てが、大きな力によって守られていた。

一連のやり取りを聞いたソフィーナは、アイリーンが去った後に職員を捕まえてフィナの指示を仰ぐ事にした。

フィナに、姉であるアイリーン王女の行動を見張れと言われ、まさかとは思ったソフィーナだが、アイリーンの行動を見て流石に不味いと判断したのだろう。

職員を連れて、ソフィーナは貴賓室へと向かう。

控室から顔を押さえて出てきたフリッツは、ハッキリしない記憶を思い出していた。

試合開始の声を聞いた直後に、意識が無くなったのだ。アレイストが不正を働いたと思い、抗議しようと寝かされていた控室から外へと出たのだ。ドアの前で警備していた、親衛隊の騎士たちを押しのけてフリッツは通路を進んだ。

怪我自体は大した事が無く、軽傷だった。試合開始前から魔力で身体を強化していたので、大事には至らなかったのだ。

足元がおぼつかない状態で、誰か職員を捕まえようと通路を歩く。すると、そこに休憩で観客席から降りてきたレナと出くわしたのである。

「あ、瞬殺された人だ」

レナの言葉に、フリッツは怒りが込み上げてきた。

「違う! あれはアレイストの奴が卑怯な手で……」

首をかしげるレナは、自分が見た試合内容をフリッツに話した。二人で会話をした後に、怒ったアレイストが試合開始直後に蹴りを放ったと……ただ、それだけの試合だったと説明をする。

試合には不正も無く、公平な物であった。

「……ッ! そんな訳が無い。それより、その恰好……お前も貴族だな」

「? う~ん、確かに貴族と言えなくもないかな」

レナが着ている服装を見て、フリッツは貴族だと判断した。薄暗い通路で、服だけを見て貴族と判断する事など不可能だ。フリッツは、自分を否定するレナを貴族だと思い込んだのである。

「どこの家だ!」

「え? アルセスだよ」

「はっ、やっぱりな。あの最低な家の関係者だろ。お前もルーデルや退学になったクルストと同じだ! 平民を苦しめて、甘い汁を吸う薄汚い貴族め!」

レナの目が真剣な物になると、フリッツは構える。年下の女の子相手に構えるフリッツも大人げない。だが、レナはフリッツを前にしても構えなかった。

「ねぇ、アンタは身分で他人の全てを判断できるの?」

「……なにが言いたい。それに、お前はアルセス家の人間だ。屑の家系なんだよ! 俺がどんなに苦労してきたか、お前に分かるか!」

フリッツはアルセス領の出身であり、アルセス家の統治に苦しめられてきた。レナも領内の状況は、兄であるルーデルから聞いている。恨まれている事も知っている。

だが、憐れんだ所で目の前のフリッツは、自分を拒絶する事がレナには直感で分かっていた。分かるだけに、口を出さずにはいられない。

そして、リュークからフリッツの事は大体聞いている。世間では、王女に取り入った平民出の男として認識されている。貴族からは嫌われ、平民からは期待の星として扱われていた。

フリッツが並べる正義の言葉を聞き、レナはフリッツが何を望んでいるのかを見抜く。貧しい人のため、平民のため……誰かのためにと口にするフリッツの本当の気持ちは……

「英雄になるために周りを利用してるつもりだろうけど、きっとアンタは英雄にはなれないよ」

「な、何を言ってる。俺は英雄になんか……」

「誰かのために頑張るのは凄い事だよ。でも、アンタは英雄には向いていない。もっと周りを見ないと、このままじゃあきっと後悔するよ」

フリッツは、まるで自分でも分からなかった心の奥底にある願望を見透かすレナが怖くなる。構えたまま一歩下がると、口から出ようとした自分の大義に疑問が生じた。

「お、俺は苦しんでいる人のために……」

迷うフリッツに、レナは言葉をかけようとした。すると、通路の向こう側から王女が率いる一団が現れる。足音にフリッツが振り返ると、一度だけレナの顔を見た。

観客席からの通路から光がさしており、レナが光を浴びているように見える。だが、フリッツは自ら薄暗い通路の奥にいるアイリーンの下へと向かった。

「大丈夫ですか、フリッツ様?」

「あぁ、ごめん。負けたよ」

アイリーンの下にたどり着いたフリッツが、再び振り返るとすでにレナはそこにいなかった。夢でも見ていたような気分に、まだ頭がスッキリしないのだと思い込む。

「……大丈夫ですよ。フリッツ様に恥をかかせた黒騎士は、私が必ず……」

アイリーンの言葉を聞き流すと、フリッツはアイリーンに導かれ薄暗い通路の奥へと進む。

決勝戦は、大方の予想通り白騎士と黒騎士の対決となる。

観客席には、治療を終えて逃げ出してきたユニアスが看護婦を伴って座っていた。逃げ出すのが分かっていた医師が、看護婦に逃げ出そうとしたら付き添えと指示を出していたのだ。

両者がリングに上がると、闘技場はまたも歓声が上がる。流石に決勝であるので、観客も第一試合よりは声が出ていない。

そんな決勝戦だが、ユニアスはある事に目が行く。リング上に、数多くの武器が用意されていたのだ。

「おい、ふざけんなよ……」

ユニアスの驚きに、リュークも同意して反論した。

「あぁ、狂ってるな。ルーデルとアレイストに武器なんか持たせたら、最悪どちらかが死んでも……」

リュークが決勝で武器を使用する事を認めた学園側を非難するが、ユニアスの意見は違った。

「俺の時にも出せよ! なまくらでも鉄なら、ずっと剣術の勝負に持ち込めたのに……」

本当に悔しがるユニアスを見て、リュークは理解できないといった顔をする。そこに、休憩から戻ってきたレナが合流した。

「あれ? なんでユニアスさんがいるの。頭抱えてるけど大丈夫?」

本気でアレイストを羨ましがるユニアスに、周りは呆れかえるばかりだ。真剣での試合など、危険でしかないからだ。

イズミが心配そうにルーデルを見つめていると、審判が大声で決勝戦の特別ルールを説明する。

『決勝戦は特別に、刃引きした武器の使用を許可します。ただ、これは選手に一任するものであり、強制は……』

どうやらルーデルとアレイストの意志に任せるようだが、イズミやバジルは嫌な予感がした。ミリアなど、選手に一任するのなら危険な武器は手に取らないだろうと思っている。

しかし、相手はルーデルである。説明を受けると、喜んで刃引きした武器を選び出した。釣られるように、アレイストも武器を選んでいる。

「ちょ、ちょっと馬鹿じゃない! 刃引きしたって鉄の塊で攻撃したら、最悪死んだっておかしくないのよ!」

観客席から立ち上がって叫んだミリアだが、イズミとバジルは予想が当たって溜息を吐いている。レナは、流石兄ちゃん、などと憧れた視線を向けていた。

叫んでいるミリアに、包帯を体中に巻いたユニアスは淡々と説明する。

「別に問題ないだろ。それにルーデルの奴、木剣でも岩を斬り裂くぜ。俺にも本気で斬りかかってきたし、鉄で出来てるなら最後に殴り合う事はないかもな。はぁ、羨ましい」

「まったく、お前たち脳筋の行動は理解できんな」

呆れ顔をしているリュークだが、止める様子すら見せない。寧ろ、喜んでいるレナを見ていた。ミリアは、自分がおかしいのかと本気で頭を抱えてしまう。

しかし、ユニアスはアレイストが剣を二本選んだのを見て立ち上がって叫ぶ。リュークの表情も、心なしか怒気を孕んでいる。

「あの馬鹿!!」

「よし、俺はこの剣と盾にする」

「え、もう決めたの……じゃあ、僕はこの剣と、あとこれも」

ルーデルが剣と盾を選び出すと、アレイストは剣を二本手に取った。本当は二刀流など遊びでしか扱った事が無いのだが、黒騎士は二刀流であったと書物に書いてあったのを思い出したのだ。

特に意味はなく二刀流の構えを取る。

「……アレイスト、二本の剣を使うのか?」

「え? ルーデルも盾持ってるだろ?」

ルーデルは、猪から盾を貰っているので、盾の扱い方も勉強している。未だに期間は短いが、それなりに扱えた。だが、アレイストは興味本位で選んだだけなのだ。

興味本位と、ルーデルに対しての負い目からアレイストは二本の剣を手に取った。服の下には包帯を巻いているのが分かり、魔力はどこまで回復しているか分からない。自分がもっと時間を稼げればという思いから、全力を出せないスタイルを選択してしまった。

「……いや、お前の好きにしろ。俺が口を出す事でもないな」

頭を振ると、武器を持ってルーデルはリングの中央へと向かう。アレイストも二本の剣を持ってリングの中央へと向かった。

向かい合う二人だが、表情のすぐれないアレイストを見てルーデルは声をかける。

「どうした? 俺が相手では不満か」

「い、いや……でも、流石にこれは卑怯と言うか……僕がもっと時間を稼いでいれば」

身体中がボロボロのルーデルと違い、アレイストの状態は完璧に近い。このまま勝負をしても、勝敗など分かり切っている……アレイストはこのまま戦うのが不満なのだ。

「そんな事を気にしているのか? なら俺からも言わせて貰う。アレイスト、王族を待たせるのは不敬だ。時間稼ぎなど必要ない」

「で、でも、お前はそれに納得するのかよ!」

「納得? 当然だ。寧ろ感謝している。イズミとも戦う機会に巡り会え、全力でユニアスとも戦えた。そして最後はお前と戦える。これのどこに不満がある? お前が本気を出せない方が、残念でならないくらいだよ」

笑顔で言い切るルーデルに、アレイストは苦笑いとなる。すると、左手に持った剣をリングの外へと投げ捨てた。

「加減はしなくていいんだよね」

「アレイスト、王族の前で手を抜くのもどうかと思うぞ」

アレイストの目が真剣な物となり、刃貫された剣を構える。ルーデルも、左半身を前に出した盾を前面に出した構えを取る。

「これより決勝戦を開始します!!」

審判が合図を出すと、そのまま一目散にリングから退散した。リングの外へと出ると、投げ捨てられた剣を回収して離れた所から二人の試合を見守る。

すると、ルーデルとアレイストは開始直後に踏み込むと、互いの武器を激しくぶつけ火花を散らしていた。

決勝戦が開始され、二人の物語を超えた試合がそこで繰り広げられる。