軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

弟と少年と狂王女たち

三学期も残す所わずかとなり、学園は卒業生や次に来る新入生たちを受け入れる準備に慌ただしくなっていた。そして、アルセス家とフリッツの約束が果たされようとしていた。第一王女のアイリーンが学園を訪れ、フィナも貴賓室で姉と共に決闘を観戦する事になる。

基礎課程のクラス対抗戦よりも闘技場には多くの生徒たちが集まり、客席は貴族と平民に大きく分かれていた。フリッツを応援する生徒たちが大声でリング上のフリッツに声援を送り、逆に向かい合うクルストには冷やかしやヤジが飛ぶ。

「ぶちかませぇ、フリッツ!!!」

「クルスト、怯えてないで何かいえよ」

「貴族なんかに負けるなぁ!」

生徒数では圧倒的に平民出の生徒が多い。貴族側の応援席には、三公であるリューク、ユニアスを中心にして貴族の子弟が苦々しくこの状況を静観していた。

ユニアスの隣には友人と共にアレイストが座り、リュークの隣にはイズミが座っていた。ルーデルがクルスト側で控えており、リングのすぐ近くに居るため客席にはいない。

「クルストはずいぶんと人気だな」

リュークが本を読みながら会場の雰囲気に皮肉をいうと

「いや、俺たちに対してのあてつけだろ? それに知ってるか、こいつフリッツをボコボコにしたからクルストが代わりにボコられると思って心配してるんだぜ」

「ち、違うからな! 確かにボコボコにしたけど、フリッツだとかクルストの事なんか気にしてないからな!」

ユニアスは興味無さそうにリングを眺めた後、隣に座るソワソワしたアレイストを指を指して笑っていた。そんなユニアスに慌てふためきながら言い訳するアレイスト。イズミはそんなやり取りを聞きながらクルストを見るルーデルを見ていた。

「何事も無ければいいんだが……」

貴賓室では王女である二人がそれぞれ応援する男子を見つめていた。アイリーンは微笑んみながらリングに立つフリッツを、フィナはリングの外で控えるルーデルを無表情で見つめていた。護衛である上級騎士たちや、学園長もそこから生徒たちを見守っている。

「あぁ、フリッツ様……必ず勝利しますわよね?」

隣に控える上級騎士に確認を取るアイリーンに対し、フィナは

「ソフィーナ、あなたの見立てではどちらが勝ちますか?」

「はい、フリッツという平民出の生徒が有利だと思います。クルスト様も鍛えられたようですが、基礎が違います。一年も無い期間では追いつく事すら難しいかと」

「そう……」

(どうでもいいけどね。正直、クルストが負けようがフリッツが負けようが問題ないのよ。次に戦う師匠さえ無事なら無問題よ! それにしても完全に骨抜きか……姉とはいえこっちが大問題よね?)

しかしソフィーナの言葉を聞いたアイリーンが、今度はルーデルに対しての評価を聞いてくる。フィナの護衛として学園に居る上級騎士の評価を知り、フリッツが勝つという確信が欲しかったのだ。だが……

「そちらの上級騎士、あなたから見て次の試合はどう見ますか? あの男も強いのでしょうが、フリッツ様も大分鍛えたと思うのですが?」

「いえ、流石に私の意見など……」

いい難そうにするソフィーナに、無表情のフィナは内心で笑いながらその状況を楽しむ。

(ほらいえよ! お前の愛しのフリッツ様がどう評価されてるかいえよ! アレイストにもボコボコにされた癖に、アレイストはユニアスにも負けて、師匠が最強だって教えてやれよ! まぁ、いったら顔と名前を憶えられていじめられるだろうけどね!)

リング上では、向き合う二人が周りの歓声を聞きながらお互いに睨みあう。正確には睨みつけるフリッツに対して、クルストは目を逸らし少し震えていた。

「今日をどんなに待ちわびたか分かるかい? 幼い時から苦しめられた恨み、厳しい税金の取り立てにどれだけ苦しんでいるかも知らないで遊び回る貴族様に教えてやるよ」

木剣を構えるフリッツに対し、クルストも構える。両者の間に立つ審判が開始の合図を知らせると、フリッツは踏み込んで木剣をクルストに振り下ろした。

「し、知るかよ!」

クルストが振り下ろされた木剣を防ぐが、すぐに次の攻撃がクルストに襲い掛かる。縦横と縦横無尽に繰り出すフリッツの木剣を受けるクルスト。

防いでも、避けても、それ以上に身体に届くフリッツの攻撃……それをルーデルはただ見ていた。

「お前も、お前の兄貴も屑だ! どれだけ苦しんでいる人間がいると思っているんだ!」

そういって振り下ろすフリッツの木剣に、クルストは吹き飛ばされる。木剣を手放し、倒れるクルストにフリッツは追撃をかける。木剣だけではなく、足で蹴り飛ばしだす。

「ハァハァ、何とかいえよ! 苦しんでいるみんなに、ごめんとか、すまないとかいえよ!」

開始から数分でボロボロにされるクルスト……しかし、クルストは何もいわずに立ち上がる。そして木剣を拾おうとして、またフリッツに蹴り飛ばされた。それは一方的な試合展開だった。見ている平民も、貴族も、最初の歓声は無くなり、ただ静かに試合を見ていた。

「……謝る? ならお前が先に謝れよ」

「あ?」

クルストは、フリッツの足にしがみついていう。それは息が荒く、ほとんど周りには聞こえない声で……

「に、兄さんの事を屑っていったのを謝れっていってんだよ」

その瞬間、また蹴り飛ばされる。クルストがその瞬間に思い出したのは、見捨てられた自分を最後まで見捨てなかった兄であるルーデルの事だった。

(取り巻きもクラスメイトも見下してきた。周りの人間全員も屑だといってくる……父や母も手紙すらまともに返してこない。最後の最後に見捨てなかったのは兄さんだけなんだ!)

フリッツに負けてから周りに見捨てられたクルスト。しかし、ルーデルだけはクルストの為に時間を割いて鍛えた。そして今も自分の試合を見ている。

(なんで……ここまで情けない。兄さんの前でこれ以上情けないままでいられないんだ)

必死にフリッツの足にしがみつくクルスト。それを足で蹴り飛ばすか、木剣で叩くだけの試合が続く。その試合にクルストの血が舞うと、少なからず悲鳴が聞こえだす。

貴賓室では興奮気味のアイリーンをフィナが冷ややかな目で見ていた。フリッツの活躍で周りが見えていないのが分かると、フィナは無表情のまま貴賓室から見える会場の雰囲気に呆れる。

(正義の味方の戦いじゃないわよねぇ。姉の白馬に乗った王子様がチンピラに見えて笑える。見事なブーメラン劇に笑しか出てこないわね)

まるで強者が弱者に対し力を振り回す試合は、フィナには貴族が平民を虐げる力関係を示しているように見えた。一方から見ればフリッツは正しいし、アルセス家は悪である。しかし、違う見方をした時……国の法からしたらアルセス家は被害者となり、フリッツは加害者となる。

王族や貴族が支配するクルトアで、大貴族であるアルセス家に弓引くフリッツは犯罪者である。そして弓引く理由は他の貴族や王族にはとても認める事が出来ない理由だ。自分たちを支配する貴族には資格がない、そういっているのだから……

(例えアルセス家が悪党でも、白馬の 王子様(フリッツ) のやり方だと不味過ぎる。でも、この会場の雰囲気だとカリスマがある訳でもないし、客観的に自分を見れていない。補う人材がいない 王子様(フリッツ) は怖くない)

フィナの思う通り、一方的な試合に周りは引いていた。フリッツの戦いに誰も正義だと思えない。空気の読めない輩が、静かな闘技場でヤジを時々いう。それでも会場の雰囲気は悪くなる一方だ。

(それよりも黒髪! あいつが憎い……師匠に一言でナデナデを封印させ、師匠を虜にする女狐、は、可愛いから黒髪でいいか。黒髪が憎いぃぃぃ!!! フリッツよりも王国は、あの黒髪を何とかしないと国宝を失ってしまう!!!)

リュークの横に心配そうに座るイズミを無表情で見つめるフィナ……

動かなくなったクルストに攻撃を繰り返すフリッツを審判が止める。気を失ったクルストを確認する審判は、そのままフリッツの勝利を宣言した。

「上がってこいルーデル!」

木剣を構えるフリッツが叫ぶ中、ルーデルは倒れたクルストを背負って会場を後にしていた。その行動に腹を立てるフリッツだが

「弟を運んでくる。その間は休憩でもしていろ」

そのルーデルの一言で、不機嫌になりながらもリングから降りて休憩する事にした。

会場からクルストを背負って出ていくルーデル。その背中に背負われるクルストは、意識を取り戻して負けた事を理解する。

「……はは、あんなに頑張っても結局負けかよ。才能ないな」

自虐するクルストは、涙を流して悔しがる。一撃も当てる事が出来なかった自分に腹が立ち、兄を馬鹿にされても足にすがる事しか出来なかった自分を責める。

「最後もみっともなく負けて、このまま辺境で死ぬんだ」

悔しくて泣き出すを黙って運ぶルーデル。しかし、ルーデルは保健室にクルストを運ばなかった。運んだ先は闘技場の客席であり、リュークやユニアスが座る場所だった。

「すまないが空けてくれるか?」

観客席に座るリュークとユニアスに、そういって願い出るルーデル。

「ルーデル……何でここに運んでくるんだよ」

呆れるユニアスが、リュークとの間に隙間を作ると、それに合わせて横一列全員がスライドするかのように動いた。そしてその隙間にボロボロで目の周りを赤くはらしたクルストを座らせると、ルーデルはそのまま客席からリングに跳んだ。

呆れるユニアスは、そのまま横で呆然とするクルストに声をかける。気まずい空気を察しての行動だった。

「お前の兄貴の喧嘩を見てろ。不器用なあいつなりにお前にしてやれる事を考えたんだ……仲良くしろとはいわないが、せめてルーデルを認めてやれ」

その言葉を聞いて何かをいおうとするが、クルストは言葉を飲み込んでリングの上の兄とフリッツを見た。

「きっと面白味のない試合になるな」

リュークは読んでいた本を閉じて、視線を向かい合う二人に向ける。横に座るイズミも視線を向ける。だが、アレイストだけはその言葉が気になった。

「面白味が無い? フリッツはそこそこ強いだろ。僕がボコボコにしてから鍛えたって聞いてるよ?」

「はぁ、だからお前は壁を越えられないんだよ。恵まれてるくせに、そこが駄目だから……」

ユニアスはアレイストに対して溜息を吐く。人を超えた魔力を持っているのに使いきれていないアレイストに、周りも同じ意見なのか呆れた視線を向ける。

「な、何なんだよみんなして!」