軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ

ルーデルたちが活躍した時代から、数百年の時が流れた。

クルトア王国は、クルトアという名前だけを残し王政や貴族たちが姿を消し、静かにその幕を下ろしていた。

かつて活躍したドラグーンたちの姿はなく、空には飛行船が飛び交う光景が一般的となっていた。

人はドラゴンを駆る事を止め、飛行船を利用するようになっていた。そして、技術の進歩はプロペラ式の飛行機を生み出す。

騎士団は廃止。軍が一般的となり、ドラゴンを運用するノウハウは失われていた。

飛行船、飛行機……それらを得た人々に、もはやドラゴンは不要になっていた。

だが、空の覇者は今も昔もドラゴンのままである。

広大なドラゴンの住処を巡り、人と争うようになったのはここ数十年の話だ。

湖がある神聖なその場所で、サクヤは自分と似た小さなドラゴンたちが周りで遊んでいるのを見ていた。

六枚に増えた翼、そして巨体は一回り大きくなっている。立派な額の宝石や角も大きくなり、かつてルーデルと過ごした幼い精神を持つサクヤはそこにはいなかった。

サクヤがその頭部を持ち上げ、空を見る。

すると、大きな声で一声鳴くのだった。それだけで、ドラゴンの住処は次第に騒がしくなり、次々にドラゴンたちが舞い上がる。

サクヤもその翼で空へと舞い上がると、かつて帝国と名乗っていた国から来た無礼な客人たちを目撃した。

三十隻は超える飛行船からは、次々に戦闘機が出撃している。

広大、そして肥沃な土地、更には資源も豊富とされるドラゴンの住処。人にとって、ドラゴンは友ではなく、既に敵と認識されるようになっていた。

サクヤはその光景を見て呟く。

『前に攻め込んで来たクルトアの軍が、どうなったのかもう忘れるか』

戦闘機へウインドドラゴンが襲いかかり、空中戦を演じた。だが、次々に戦闘機が撃墜され撃ち落とされていく。

レッドドラゴンは口から火を噴き、飛行船を次々に沈めていた。飛行船から大砲が姿を現し、サクヤへと砲撃が開始する。

しかし、砲弾はサクヤに傷一つ付けられない。

サクヤがその大きな口を開き、ブレスを放つと空中で拡散。次々に飛行船や戦闘機へと襲いかかり、撃墜させていく。

逃げようとする敵だが、先回りをされ次々に撃破されていく。

サクヤと似た白い、四枚の翼を持つドラゴンが近づいて来た。

『ママ、もう終わったよ。後は片付けだけだね』

サクヤはそのまま沈んでいく飛行船や戦闘機を見ながら、大きく舞い上がるとそのままどこかへと飛び去っていく。

気になったのか、サクヤの子供も一緒についていくのだった。

そこは、かつてクルトア王国の首都があった場所。

荒廃し、今は捨てられかつての栄華はどこにもなかった。

そんな場所に足を運んだサクヤは、ドラゴンから人の姿を模して降り立つと子供も真似をして人の姿となる。

サクヤの姿は、かつて女神と呼ばれたサクヤを大人にしたものだった。子供、金色の短髪に青い瞳。額に青い宝石が埋め込まれている。

サクヤと違って手が大きく、まだ完全に人型になれていなかった。

「ママ、どうしてこんなところに来るの? ここは少し前から人間なんかいないよ」

サクヤは「そうね」と呟き、瓦礫や砂に埋もれた王都を歩いた。

王都がここまで荒廃した理由。それは、クルトア王国の限界にあった。中興の祖、とまで言われるフィナ・クルトアや、宰相リューク・ハルバデスの時代に黄金期を迎えたクルトア王国。

だが、そこからはゆっくりと駄目になっていく。

名君も幾人か誕生したが、最後にはドラゴンに戦いを挑みサクヤ率いるドラゴンたちに首都は滅ぼされた。

そう、滅ぼしたのはサクヤである。

そんな場所を歩いていると、どこからか集まったのかゴブリンやオークが姿を現した。人の姿をしているサクヤたちを餌と思って近付いたようだ。

そんなゴブリンやオークを、サクヤの子供は前に出ると腕の一振りで輪切りにしていく。

「誰に刃向かうか、この劣等種共が!」

サクヤは自分の子供が、逃げ出すゴブリンやオークを追いかけて殺すのを止めた。

(……ドラゴンが地上最強の種族と思い、他を見下す子が増えた)

人と争い、そして自分たちこそが地上の覇者であると思うドラゴンも増えつつある。それがサクヤにとって大きな悩みにもなっている。

子供の手を引いて、サクヤはその場所に向かった。

かつての中心地。

そこには今は壊れた噴水が有り、そこにはフィナを中心にルーデルやアレイスト、リュークにユニアスというクルトア全盛期に活躍した人物たちの像がある。

サクヤは埃や砂を払い、そこだけを清掃してルーデルの像を見ていた。似ているかと言われると微妙だが、それがルーデルのものと言われれば無徳には出来ない。

「……ルーデル、私はもう貴方の顔もおぼろげにしか思い出せないよ」

かつて幼い時の思い出は、徐々に薄れていた。

ルーデルやイズミたちと過ごした時間など、サクヤにとっては一瞬である。その後、二人がいなくなるとしばらくしてミスティスや世話になったドラゴンたちがいなくなった。

いつの間にか、サクヤがドラゴンたちを率いるようになってからは人間との関係が上手く行かなくなる。

それがサクヤには辛かった。

子供はサクヤが眺めている像を見て、

「ママが人間を背に乗せたなんて信じられない。そんなのおかしいよ」

サクヤは右手で顔を隠し、子供にたずねた。

「貴方はその背に人を乗せたことがないものね。いえ、騎士を乗せたことがない。ドラゴンと人が心を交し、そしてドラグーンとなる。かつては普通だったのよ」

子供が頬をふくれさせた。

「人間なんて数が多いだけの無能だよ。僕たちならみんな焼き払えるのに」

サクヤはその言葉が悲しく、そしてドラゴンたちがそう思うほどに人との間に溝が出来たのだと実感した。

すると、急に空が騒がしくなる。

上空を何やら不気味な黒い影――生きているのか死んでいるのかも分からない、最近増えだした魔物でもない何かを、戦闘機が追いかけていた。

子供がヤレヤレと肩をすくめた。

「最近になって増えだした“虫”ですか。人間共にはいい相手ですよ」

虫の姿をしている不気味なソレを、戦闘機が追い詰め撃ち殺す。だが、戦闘機も被弾しており、火を噴いていた。

「落ちるわね」

戦闘機はそのままどこかへと落下していくが、パイロットはパラシュートでコックピットから飛び出し降下してきた。

奇しくも、サクヤたちがいるこの場所に、だ。

着地したパイロットはパラシュートをかぶり、そこからもがきながら出てくると拳銃を手に持っていた。

子供が腕を振るおうとすると、パイロットの顔を見てサクヤが子供の頭部に拳を振り下ろす。ゴツン、と聞こえる程、力を込めて振り下ろしていた。

「ママ、痛い!」

「……ごめんね。でも、待ちなさい」

言葉で言ったら、きっとその前に目の前の人間は死んでいただろう。パイロットはサクヤと子供を前に困惑していた。

頭部を覆う帽子を脱いで、ゴーグルも外して声をかけてきた。銀色の髪と青い瞳が特徴的なパイロットは、拳銃を構えたままだった。

「民間人か? それにしては随分とおかしなところにいる」

青年はそう言って子供の大きな手を見て、サクヤたちを観察していた。人から見れば、サクヤたちの軽装でこんな場所に来られるわけがなかった。

ただ、サクヤは目の前の青年を見て涙を流す。

「人の生は短い。だが、巡る……」

青年が近付くサクヤに拳銃を構えた。子供が威嚇するが、サクヤはソレを手で制す。

「ルーデル」

青年の頬に手をやり、サクヤは名前を呟く。青年は困惑しており、飛び退いて距離を取った。

「人じゃないな。魔物の類いか? それとも新種の虫か? どこで俺の名前を知った?」

顔だけではなく名前まで一緒と聞いて、サクヤは小さく笑った。そして、その場でドラゴンの姿へと変わる。

巨大なそのドラゴンの姿を見て、ルーデルが驚き目を見開いていた。ただ、怖がっている様子がない。

まるで興味津々だった。

「ドラゴン!? しかも竜の巣の主か!」

サクヤはルーデルをその手に載せると、空へと舞い上がる。

『せめて人の住む場所近くに送ろう。かつて、私もこの背に人を乗せていた。せめてもの恩返しだ』

手の平に乗ったルーデルが、サクヤを見上げていた。

「ドラグーンか! 本当にいたとは思わなかった。……面白い、俺もその背に載せろ」

なんとも堂々としたものだった。子供がドラゴンの姿へと戻り、サクヤの横を飛びながらルーデルに文句を言う。

『ふざけるなよ、人間が! 誰に対して口を聞いている! 小汚いお前らを、ママがその背に乗せるとでも思ったか!』

ただ、サクヤはルーデルと会話をする。

『ドラグーンを知り、この世情の中、なお私の背に乗ると言うのか?』

ルーデルは右手で胸を叩いた。

「当たり前だ。戦闘機よりよっぽど強い。お前に乗れば、俺はあの虫たちを殲滅できる!」

サクヤの子供が、今にもルーデルに襲いかかりそうだった。牙をむきだし、目を見開き隙があれば殺そうとしている。

それに、ルーデルは言う。

「それに細かい事はどうでもいい。俺がお前の背中に乗りたいんだ!」

サクヤは笑う。

人の生は短い。だが、巡る……かつて、マーティを失い、レナという相棒を得たミスティスの言葉だ。

それを実感し、そしてサクヤは掌を背に持っていき、ルーデルを背中に乗せた。

『いいでしょう。我が背に乗りなさい……新たなるドラグーンよ』

子供が叫ぶ。

『ママ!』

ルーデルがサクヤの背に乗ると、両手を広げ笑っていた。

「うん! なんかしっくり来た。これなら、どんな虫共でも殲滅できそうだ!」

ここに、ドラグーンが数百年ぶりに復活し、新たなる伝説を作り出すのだが――それは違う物語。

ドラグーンを目指した少年の物語は、ここでおしまいである。