軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

空の上では、ルーデルが邪竜と戦っていた。

一方的とも言える戦いだったが、邪竜を追い詰め止めを刺そうとする。

サクヤがその大きな口を開き、そしてブレスを放とうとすると邪竜が笑った。逃げるのを止めてルーデルとサクヤに振り返ったのだ。

ルーデルとサクヤ――ドラグーンとなった一人と一頭を前に、ボロボロにされた邪竜。

しかし、今は勝ち誇った顔をしていた。

『よくここまで頑張った。褒めてやろう……ドラグーン』

ルーデルをイレギュラーとしながらも、そこには一定の評価をした邪竜の姿がある。

しかし、ルーデルは――。

「そうか、ならば消えろ。サクヤ!」

問答無用でサクヤにブレスを放たせた。

『おりゃぁぁぁ!!』

圧縮された魔力が大きく膨れあがり、放たれ光の渦を巻いた流れが邪竜をのみ込んでいく。

イズミがその威力を前に、目を細めた。

「地上にぶつかれば大変だな」

その威力……確かに周囲を巻き込むため、他から離れて正解だった。

周囲にあった雲はそのブレスの勢いに吹き飛び、分厚い雲は晴れて戦場を光が照らしていた。

だが、ブレスを受けた邪竜が、体のほとんどを失いながらも宙に浮く。そしてボロボロで骨が見え、不気味な恰好で笑うのだ。

『貴様は強い。いや、貴様“ら”は強い。いいだろう……認めてやる』

ルーデルが嫌な気配を感じ、即座にサクヤに第二謝を放たせようとすると。

『もう遅い!』

地上から上ってくる黒い煙が、邪竜を包み込む。そして、宙に浮いたアスクウェルがルーデルを見ていた。

ルーデルは眉をしかめる。

「しぶといな。アレイストが討ち漏らしたか?」

しぶとい、では片付かない問題なのだが、ルーデルは内心でまた倒せばいいと思っていた。

事実、そうするしかないのだ。

アスクウェルが口を開く。

「お前は――」

「サクヤ、撃て」

「ちょっ! ルーデル!」

イズミが止めに入るが、間に合わない。

ルーデルはアスクウェルの言葉を聞く前にサクヤに第二謝を撃たせたのだった。

『吹き飛べぇ!!』

サクヤのブレスが黒い煙とアスクウェルに襲いかかる。しかし、ブレスはアスクウェルによって片腕でなぎ払われた。

それを見て、ルーデルは即座に対策を考える。

(ブレスを片腕で? リュークの使う魔法に、よく似たものがあったな。あいつは接近戦で叩くか?)

アスクウェルは驚いた様子もなければ、ルーデルの行動を咎めない。まるで、そうする事を予想していたようだ。

そして、言葉を続ける。

「お前は悔しくないのか?」

「……悔しい? お前たち帝国軍の侵入をこんな場所まで許したことが、か? それとも俺一人で勝てなかったことが、か?」

どちらも悔しい。役目を果たせなかった。国を守れなかった。

だから、アスクウェルを打ち倒し、帝国軍を王国領内から追い出さなければならない。

それがルーデルの仕事だ。

アスクウェルは小さく笑った。

「アレイスト、だったか。あのろくでもない存在のために、俺もお前も苦労をしてきた。人生の踏み台だったお前……私は敵という存在を押しつけられた。こんな理不尽があっていいものか!」

アスクウェルの声は真剣そのもの。魂の叫びだった。

「俺がどれだけ帝国の民を救おうとしても、それが全て無駄だったのだ! 戦いに出れば勝ち続けたのも、この日のため。自分の力ではない! あいつのために……あんな奴のために、どれだけの人間が苦しんできた! お前は悔しくないのか!」

目の前の皇子を見て、ルーデルは思案する。

(なにを言っている?)

それは本当に素朴な疑問だった。

そして理解する。

「そうか、お前は上手く行かないのをアレイストの責任にしたか。良かったな、言い訳が出来て」

アスクウェルが目を見開く。額に血管が浮かび上がり、青筋を作っていた。怒り、そしてルーデルの言葉への驚き。

色々な感情が渦巻いている顔をしていた。

「同情して欲しいのか? この戦いが終わったらいくらでもしてやる。だから……死ね」

ルーデルが左腕をアスクウェルへと向けると、黒い煙とアスクウェルの周りに攻撃的な盾がいくつも出現した。

スパイクの着いた盾が、一斉にアスクウェルたちを押しつぶすように周囲から押し寄せる。

「そうか……夢を叶えたお前は、俺とは」

数百枚の大きな盾がアスクウェルたちを押しつぶし、爆発していく。爆風を受け髪が乱れたルーデルは、目を細めながらアスクウェルを見ていた。

「俺から言わせて貰えれば、お前の方が理不尽だ」

ルーデルの少し妬ましそうな表情の先には、邪竜の背に乗ったアスクウェルの姿があった。

そして、邪竜の姿はサクヤの姿に酷く似ている。紫色の光輪を背に浮かべ、六枚の翼に四本の大きな腕。

サクヤとの違いはその攻撃的な刺々しい鱗や目付きだろう。

(……ちょっと乗ってみたい)

必死にドラグーンになったルーデルからすれば、あっという間にドラグーンの真似事をしているアスクウェルに文句の一つも言いたかった。

それがお門違いだったとしても、だ。

邪竜が口を開く。

『これで互角と思わないことだ。全ての面で我々はお前たちを凌駕している。お前たちをこの場に呼び込むため、お前たちがより異常性を増せば増すほどに、我々は強くなる』

ルーデルが腕を組んだ。

「なる程、別に万能でもないわけだ。ならばやりようもある」

イズミが落ち着いているルーデルに妙案があるのか聞いてきた。

「策があるのか?」

だが、ルーデルは即答する。

「ない! だが、こうなると今の自分たちよりも強くなるしかない。そうすれば相手を超えられる」

イズミが溜息を吐いた。

「だから、こちらが強くなれば向こうも――」

「ならその次も超えればいい。安心しろ……強い奴と戦うのは慣れている」

ルーデルが笑みを浮かべると、イズミは口を閉じるのだった。

そして邪竜とアスクウェルの方向を見る。

刀の柄を握りしめた。

「分かったよ。私も手伝おう。少しは役に立たないといけないからね」

ルーデルが笑った。

「これで数の上では二人と一頭だ! 俺たちの勝ちだな」

地上では、クルストの指揮の下にクルトア王国が帝国軍と戦っていた。

アレイストが最前線で戦い、なんとか崩れずに持ちこたえている。

それだけだ。寄せ集めのクルトア王国の軍勢では連携が取れない。取れても帝国の練度の前には付け焼き刃も良いところだ。

「基本を徹底させろ。それしかこちらには出来ない!」

クルストが簡単な指示を出し、それを徹底させる方針に出たのも集まっている兵士の質もバラバラだからだ。

特に、動きの悪い軍勢はアルセス家の軍勢だ。

ろくに訓練をしていないため、足手まといになっていた。

(黒騎士やその周りの精鋭がいなかったら完全にまずかったな)

空を見上げれば、二頭のウォータードラゴンが空から来るワイヴァーンの相手をしていた。

地上に被害が及ばないように戦っており、空からの流れ弾で死ぬことはない。ただ、そのために帝国軍と乱戦状態になってしまっている。

おかげでドラグーンの支援を受けられない。

辺境に追いやられ、そこで学んではきた。しかし、クルストも規模が大きすぎる軍勢を指揮して焦りが見えていた。

「空はドラグーンが守ってくれる! 俺たちは俺たちの仕事をするんだ!」

同時に思う。

(帝国軍の練度がここまで高いなんて)

一対一なら、帝国軍の方がクルトア王国よりも優れていた。戦えているのは、黒騎士であるアレイストがいるため。

加えて、帝国軍の兵士たちがまるで死兵のように戦っている。

乱戦状態だからドラゴンから攻撃されない。それもあって、上にいるドラゴンと戦うより、目の前のクルトア兵士の方が怖くなかった。

そして、彼らは退くことが出来ない。

本当に死兵だったのだ。

「……兄さん、あんまり長くは持たないぞ」

自分に指揮を押しつけた兄を恨みつつ、クルストは出来る事をやるしかなかった。

「このっ!」

馬上から双剣を振るい、次々に帝国の騎士や兵士を斬るアレイストは返り血で酷く汚れていた。

ゴーラが黒い煙となって消え去り、アスクウェルまで空に逃がしてしまった。

追いかける手段などない。

だから地上で戦っているのだが、死兵を前にして苦戦を強いられていた。

ハーレムメンバーも強いのだが、敵の死に物狂いの攻勢に尻込みを見せている。

「普通はこれだけの被害を出せば退くんじゃないのかよ!」

全体の二割以上。その被害をとっくに超えている帝国軍だったが、退く気配が見えていない。

むしろ、逃げ場を失った死兵である。

流れはすでにクルトア側にあるが、それでもこのままでは双方大きな被害を出してしまうだろう。

アレイストが味方を助けつつ、敵を自分の方へ集めていると空から白い巨体が迫ってきた。

サクヤだ。

「……ちょっと待ってよ」

戦場に落下してくるサクヤは、表面が焼け焦げたような跡が見えた。分厚い灰色の雲が渦を巻き、そこからは黒くサクヤに似た邪竜がゆっくりと姿を現す。

「くっ!」

愛馬のヒースを走らせ、サクヤの落下コースから離れようとするアレイストはキラリと光るものをみた。

空から落ちてきたのは、刀を構えたイズミである。

「イズミさん!」

すると、イズミは地面を見て刀を構え、そして一閃する。

「はっ!」

アレイストの周りにいた帝国兵を斬り飛ばし、そして着地をすると息を切らして空の上を見上げるのだった。

アレイストは馬から下りて、イズミから事情を確認する。

「空の上で何があったのさ!?」

イズミは即答する。頬についた汚れを拭いながら、空での戦いを説明するのだ。

「七回だ」

「七回?」

「……ルーデルとサクヤ、そして私で七回はあの黒いドラゴンを追い詰めた。だが、その度にあいつは強くなって蘇る。流石の私たちでも対処しきれなくなった」

両軍がサクヤの落下する場所から離れていた。

戦いが一時中断したが、空を見上げればそこには黒い邪竜が自分たちを見下ろしている。邪竜の頭部にはアスクウェルの姿も見えた。

禍々しい鎧を着用し、槍を持って腕を組んでいる。

サクヤが落下すると、それを下から支えるためにルーデルが何枚もの光の盾を作りだし勢いを緩めてから落下させていた。

「ルーデル!」

アレイストが声をかけるが、ルーデルの方は悔しそうにしている。

空の上から声が聞こえてくる。

「ここまでよく耐えた。だが、これで終わりだ。お前らを倒し、俺は正しい世界を手に入れる」

アスクウェルの苦々しい表情は、アレイストに向けられている。

双剣の柄を握り直すアレイストは、ここまで来て勝てないのかと顔を歪めた。

(僕のせいで……なら、決着は僕が……)

命に替えても仲間を守ろう。そう思った時だ。

ゆっくりとサクヤがその巨体を立ち上がらせ、ルーデルがこちらに来ていた。

その表情は、どこまでも真っ直ぐで――。

「流石にアレとやるのに俺一人ではどうにもならない。アレイスト、お前も来い。俺たち二人とサクヤでアレを仕留める」

アレイストが困惑していた。

「……え? そんな事を言われても、何をすればいいのか」

「大丈夫、問題ない。取りあえず、お前も手を貸せ。追い詰めてもすぐに再生して厄介なんだ。再生する前に吹き飛ばしたいが俺だけでは火力が足りない」

ルーデルとサクヤのコンビで火力が足りないなど、アレイストからすれば悪夢である。そんなところに自分が助けに入っても、などと思っていると。

「ほら、行くぞ。イズミ、悪いがクルストの手伝いをしてやってくれ。多少無理をするから、これ以上の同乗はお勧めしない」

イズミが肩をすくめた。

「そうかい。残念だよ」

見上げれば、サクヤの掌が二人へ迫っていた。器用に掴まれ、そしてサクヤの背中に乗り込むルーデルとアレイスト。

ルーデルはサクヤの背中に再び乗り込むと、アレイストと二人で邪竜を見上げていた。

「もう少しなんだ。もう少しというところで七回も再生させてしまった」

悔しそうにしているルーデルを見て、アレイストが首を横に振っていた。

「だからって僕に頼られても困るんだけど? 僕に出来る事なんて影を操るとか、その辺だからね。無限の魔力なんてもうないんだからね!」

するとルーデルは笑顔をアレイストに向けた。

「あぁ、問題ない。死にかけた時にサクヤが言っていた。お前の培ってきたものまでは失われない、ってな。それに、魔力ならサクヤが持っている」

ルーデルがサクヤを見下ろし、そして微笑んでいた。

「サクヤ、って女神の方だよね? あの世の入口でルーデルを待っていたと思えば、なんと言えば良いのか……まぁ、いいか」

ゆっくりと顔を上げると、邪竜が体から次々にワイヴァーンを放出していた。その光景は悪夢そのものだ。

「止めを刺さないのは余裕だからかな?」

アレイストが敵は余裕を見せていると思っていると、ルーデルは告げる。

「どうかな? 余裕があれば止めを刺しに来るはずだ。それが出来ないくらいには弱っているのかも知れないな」

サクヤがゆっくりと翼を広げ、咆吼するとルーデルはサクヤに流れる魔力を感じた。

「アレイスト、サクヤの魔力を操ってやれ。サクヤの魔力を操り、形を作れば後はサクヤが勝手にやってくれる」

アレイストは困惑しながらも、身を屈めサクヤの背中に触れた。

「勝手に、って言われても。本当にどうなっても知らないからね」

ルーデルとアレイストがサクヤの背中に手を触れると、サクヤの体に白と黒の紋様が浮かび上がり表面を魔力が駆け抜ける。

二人が立ち上がり、そしてルーデルは右手を。

アレイストが左手で拳を作って軽く互いにぶつけると、サクヤが大きな翼を羽ばたかせ空へと舞い上がった。

背中に光輪が再び姿を現す。

黄金の鎧がサクヤを守るために出現したが、今度はそればかりではない。六枚の翼が出現し、サクヤの両肩から新たに腕が出現した。

黒く、黄金に守られた腕には金色の武器が握られている。

そして、サクヤにワイヴァーンたちが押し寄せると、黒い腕から蛇の頭部が何百と出てワイヴァーンに食らいつき、そして食いちぎっていく。

「凄いな。自動で迎撃してくれるらしい」

ルーデルが嬉しそうにしていると、アレイストは周囲を見て困惑していた。

「ちょっと不気味じゃない? いや、僕が作り出したのは分かるんだけど、なんていうか……」

サクヤが再び邪竜と同じ高さまで舞い上がると、互いに睨みあう。

アスクウェルがルーデルとアレイストを見て、槍の穂先を向けてきた。

「何度立ち向かって来ようが同じだ。お前たちに勝利はない」

邪竜の周りに新たに数百を超えるワイヴァーンが出現しており、地上ではまた戦いが再開しようとしていた。

そんな中で、ルーデルは。

「他人に何度も無理だと言われてきたが、俺はこうしてこの場に立っている。それにお前のその言葉は何度目だ? もう信用がないな」

ルーデルの言葉に、アレイストがアタフタとするのだった。

「そうやって相手を煽らないでくれるかな!」

分厚い雲が渦を巻き、雷で光や音が発生している。雨が降ろうとしている戦場で、ルーデルは空を見上げた。

「……それと、だ。お前は時間をかけすぎた」

アスクウェルに向かい、まるで勝利を宣言するかのようなルーデルはそのまま空を指差す。

そこからは次々に野生のドラゴンたちが飛び出し、ワイヴァーンの駆逐を終えて手助けに来たところだった。

アスクウェルが眉をピクリと動かす。

「たかがそれだけの助けを得ただけで――」

ルーデルは笑う。

「いや、それだけじゃない。だけじゃないぞ、帝国の皇子!」

野生のドラゴンの他には、背にドラグーンを乗せた灰色ドラゴンたちが登場する。竜騎兵団まで到着したようだ。

アレイストが地上を見る。

「地上にも味方が……父さんたちまで」

アレイストの実家であるハーディ家を始め、各地から動ける軍勢が集まってきていた。

ルーデルはアスクウェルに降伏を促した。

「……終わりだ。味方が到着したということは、もう一つの戦場もこちらが勝利した。お前たちに勝利はない。降伏しろ」

ドラグーンが救援に来ている時点で、もう片方の戦場では勝利が確定しているとルーデルは予想した。

事実、そうなのだ。

だが、アスクウェルは声を張り上げた。

「まだだ。まだ終わっていない。俺がここにいる。帝国に勝利を……帝国の未来のため、俺は勝利を手に入れる!」

ルーデルはアスクウェルに向かって、小さく呟くのだった。

「そうか、残念だ」

サクヤが咆吼し、ルーデルもアレイストもその場で腰を落とした。サクヤと邪竜が互いにぶつかり合い、その衝撃波で周囲に突風が起きる。

互いに距離が近付き、アスクウェルがサクヤの背中に跳び乗ってルーデルたちに迫ってきていた。

ルーデルは剣と盾を、

アレイストは双剣を構え、そしてサクヤの背で武器をぶつけ合う。

「――これで終わりにする」

ルーデルがそう言うと、アスクウェルが歯を食いしばる。

「終わらせてやる。この冗談のような運命も――そして、お前たちとの因縁も!」