軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過去

灰色ドラゴンの背中に乗り、王都を目指すフリッツ。

「急げ……もっと急げよ!」

空の上を数百キロで移動する灰色ドラゴンだが、フリッツには遅く感じられた。

こうしている間にも、アイリーンが危機に瀕している。そう思うと、純粋に助けたいと思ったのだ。

最初は運が良いと思った。王女殿下に気に入られたことで優遇され、そして近衛隊の隊長から総大将まで……。

しかし、今のフリッツはそんな事をかなぐり捨てて、アイリーンを助けに向かうのだった。

「見えた!」

空の上から見下ろす王都。

巨大都市の中央にある王宮からは煙が上がっていた。遠くから見ても異常が起きているのは明白だ。

「すぐに助けに――」

灰色ドラゴンはフリッツのために王宮へと向かう。すると、王宮にある一つのバルコニーに追い詰められたアイリーンたちがいた。

周囲にはアイリーンの身の回りをする者や、見てくれだけはいい騎士が侍っている。だが、役になど立っていない。

王宮の各所で火の手が上がり、戦いが続いている様子だった。

「アイリーン!」

王宮へと近付くフリッツ。

そんなフリッツを見上げたアイリーンは微笑むのだった。

「フリッツ様!」

しかし、無情にもアイリーンたちがいた部屋へ敵がなだれ込んでくる。親衛隊を中心とした大公家の私兵たちが、近衛隊やアイリーン派閥の騎士や兵士を突破して流れ込んできていた。

アイリーンの傍にいた騎士や使用人たちはすぐに拘束されていく。

「くっ! やれよっ!」

アイリーンを救うため、灰色ドラゴンにブレスを放つように命じるフリッツ。だが、灰色ドラゴンが首を横に振った。

フリッツの命令を無視したのではない。

ブレスを放てば、アイリーンまで吹き飛ばしてしまうからだ。

フリッツの目の前で、アイリーンが捕らえられる。

敵はアイリーンを盾にして、フリッツが攻撃できないのを分かっている様子だった。

「卑怯者が!」

フリッツが剣を抜いて飛び降りようとすると、そこに反乱軍を率いているフィナが登場した。

周囲を上級騎士たちに守られたフィナは、無表情に空を見上げていた。

アイリーンがフィナに向かって叫ぶ。

「どうしてこんな事をするの――フィナ! 私は……私はクルトアをもっと良い国にしようと」

フィナはアイリーンに見向きもしない。ただ、周りの上級騎士たちは、盾を構えフィナの周りを固めていた。

「フィナ様、お下がりください!」

「相手はドラゴンです!」

「アイリーン王女を傍へ!」

どうやら無理をしてバルコニーへと出て来たようだ。フリッツがフィナを睨み付けた。

「こんな大事な時に反乱なんかして!」

フリッツの怒りを受け、フィナは口を開いた。

「こんな時だから、よ。貴方が姉上を助けたいように、私も師匠を――ルーデル殿を助けたいのよ。でも、貴方たちを放置すればルーデル殿が戻って来ても理由を付けて処罰してしまうでしょ?」

当然のように「だから反乱を起こした」などと言うフィナに、フリッツは唖然としていた。

「……狂っている。そのためだけに反乱なんか起こして!」

フィナが両手を軽く広げ、そして無表情でフリッツに降伏を勧めてきた。

「人に言えないと思うのだけど? まぁいいわ。さぁ、投降しなさい。今なら騎士として斬首に出来るわ」

フィナにとってそれは恩情かも知れないが、フリッツにとってはそんな事は受け入れる事が出来なかった。

「馬鹿にするな!」

フィナは手を下ろした。

「そう。残念ね」

右手を掲げたフィナは、指を鳴らす。

アイリーンがフリッツより更に上を見上げ、そして叫んだ。

「フリッツ様、逃げてっ!」

フリッツが空を見上げると、そこには六騎のドラグーンが迫ってきていた。灰色ドラゴンがこの場から勝手に退却をする。

「ま、待て! まだアイリーンを助けて――」

バルコニーから離れていくフリッツを、アイリーンが絶望した表情で見ていた。フリッツは右手を伸ばし。

「アイリーン……」

力なく呟くのだった。

フリッツが遠のいていくと、三騎のドラグーンが追いかけて行く。

フィナはそれを見送り、バルコニーから部屋の中へと戻るのだった。

傍にいたソフィーナが汗を拭っている。

「いくらなんでも無茶をしすぎです」

フィナの無謀な行動に、ソフィーナは苦言を述べた。それを受け、フィナは無表情に淡々と返事をする。

「そうね。ごめんなさい、ソフィーナ」

「まったく反省していませんね」

フィナとの付き合いが長いだけに、ソフィーナはフィナの感情を読み取っていた。

「まぁ、ちゃんとドラグーンは控えさせていたし、姉上を盾にすれば攻撃しないと分かっていたわ。フリッツの乗っていたドラゴンは温厚だからね」

ドラゴンにも個体差がある。

フリッツの乗っているドラゴンは、比較的温厚で相棒である騎士の命令には従う頭の良いドラゴンだ。

扱いやすいドラゴンを、フリッツに与えたから当然である。

「ブレスの一撃で王女殿下お二人が吹き飛ぶこともあったのですが?」

すると、フィナは興味なさげに髪をかき上げた。

「それでもやって起きたかったのよ。でないと、フリッツは――」

騎士たちに取り押さえられたアイリーンが、フィナに向かって叫ぶ。

「フィナ! 貴方、自分が何をしたか分かっているの! それにフリッツ様になんてことを」

フィナはアイリーンへと向き直る。

「……だからあの場で投降すれば斬首にすると言ったじゃないですか。それとも、極悪人として拷問の末に処刑がお好みですか?」

アイリーンが膝から崩れ落ちた。

「ご、拷問なんて……」

フィナがアイリーンを見ていると、ハルバデス、ディアーデ、両大公が部屋へと入ってくるのだった。

「これはフィナ様、どうやら目的を達成できたご様子で」

白々しく近付いてくる両名に、フィナは内心で溜息を吐いていた。

(タイミング良く入ってきて……まぁ、いいわ)

両名はアイリーンの無事を確認しに来たのだろう。責任をとらせるために処刑するにしても、しっかりと確認しておきたかったのかも知れない。

フィナが歩き出すと、両大公がフィナの両脇に並んで歩き出す。

「さて、アイリーン様への対処はどうされるおつもりで?」

ディアーデ大公がそう言うと、フィナは少し考えた後に。

「……表向きは処刑。その後は幽閉ね。私に子供が産めるかまだ分からないのなら、保健は必要でしょう」

ハルバデス大公が頷いていた。少しだけ嬉しそうに見えた。

フィナに王族としての判断が出来る事が嬉しいのだろう。いや、予備がいるためにいつでもフィナの代わりがいると思ったのかも知れない。

(こいつら、私が馬鹿すぎれば担ごうとするし、下手に頭が良いなら殺しに来るわね。まったく、だから力を削ぎたかったのに)

アイリーンを殺してしまえば、クルトアの直系はフィナだけとなる。そうすればフィナの安全は守られるが、子供が産めない場合は大公家が次の王家として即位するだろう。

アイリーンが生存している場合――フィナが大公家に対して強権を振るえば、アイリーンを担いで反乱する可能性もある。

何が言いたいかと言えば……どちらに転んでもフィナには厳しい状況だった。

(どっちにしても警戒しないといけないのよね。あ~あ、だからこいつらが来る前に終わらせたかったのに)

そうして、フィナは王宮での勝利が確定すると、すぐに援軍を送る準備に入るのだった。

「……さて、帰る場所は確保しましたよ、師匠」

小さく呟くとフィナはすぐに準備に取りかかるのだった。

フリッツは、空の上で何度もドラゴンの背中を叩いていた。

「なんで逃げたんだ! すぐに戻れよ! 戻れ!」

泣きながら叩いているフリッツだが、あの場に残ってもアイリーンを助けられなかったのは分かりきっていた。

それでも誰かを責めたくてしょうがなかった。

自分のせいではないのだと。自分の責任ではないのだと思いたかった。

「……俺は」

気が付けば敵前逃亡をしており、頼みの綱であるアイリーンは既に捕らえられ権力を失っていた。

ドラゴンを持つフリッツをドラグーンが血眼になり探し出すだろう。そうして捕らえられた先に待つのは……。

「ハハ、アハハハ……くそっ! なんてつまらない人生だ! ここまで来て……ここまで来たのに」

待っているのは絶望だ。逃げ出したところで行き場などない。帝国に亡命でもしようかと考えていると、周囲に黒い煙が集まっていた。

「な、なんだ!?」

フリッツが周囲を見ると、灰色ドラゴンが咆吼した。

そこには、翼を持つ巨人――ゴーラが誕生していた。

四本の腕を持つ頭頂部が禿げた巨人は、灰色ドラゴンよりも更に大きかった。ゴーラの拳が灰色ドラゴンを殴りつけ、フリッツたちは地面へと叩き付けられた。

(なんだって言うんだ……)

意識が遠のくフリッツ。

(あ、あれ……生きている?)

フリッツが目を覚ますと、目の前には翼がもがれ体から血を流している灰色ドラゴンの姿があった。

酷い怪我をしている灰色ドラゴンの背中を見て、フリッツが起き上がる。

「な、なにが……」

灰色ドラゴンの向こうでは、ゴーラが胸部に穴を開け膝をついていた。

「お前がやったのか?」

自分の相棒が凶悪な魔物と戦い、そして勝利した事がフリッツには信じられなかった。灰色ドラゴンなど、野生のドラゴンからすれば格下だ。

ルーデルのドラゴンと比べ、みすぼらしいとさえ思っていた。なのに、そんなドラゴンは相棒であるフリッツを守るために命懸けで戦っていたのだ。

「お前……なんで!」

気を失っているフリッツを守りながら戦い、そして灰色ドラゴンは致命傷を受けて既に飛び立てそうにもない。

口から血を流していた。

『……私はクルトア王国に生まれたドラゴンだ。それも初期に』

今まで会話をしなかったドラゴンが、急にフリッツに語りかけてきた。

『大事に育てられた。だが、私の兄弟たちはもういない。病で死んだ者もいるが、多くは戦死だった』

フリッツが灰色ドラゴンに触れる。今まで疎ましく思い、会話などしなかった。

そのため、自分の相棒であるドラゴンのことをまったく知らなかったのだ。

「なら、なんで俺なんかを助けた。俺を差し出してしまえば――」

『私にも意地がある。ドラゴンとして……相棒を守るという意地が。何度か相棒である騎士を失った事がある。その度に後悔した。中には酷い騎士もいた。だが、多くは私を相棒として扱ってくれた。だから、どんな相棒でも守ると決めていた』

フリッツが何かを言おうとすると、ドラゴンが最後に――。

『……最後に一つだけ言わせて貰おう。君はもう少しだけ周りを見るといい。手遅れかも知れないが……君には才能があるのだから』

ドラゴンが最後に大きく呼吸をすると、そのまま倒れて死んでしまった。

フリッツが涙を流すと、今度はゴーラの口が動き出す。

『灰色のドラゴン風情が……。だが、貴様はもう必要ない。全ては予定通り……』

胸を貫かれ死んでいたゴーラの口が動き、フリッツは剣を抜いた。その剣を見て、ゴーラは目を細めた。

『それは貴様の武器ではない。そして、お前も用済みだ。代役はここで消えて貰おう。既に準備は整って……』

ゴーラが黒い煙になると、そのままフリッツをのみ込んでいく。

「や、止めろ! 俺にはまだ――」

黒い煙はフリッツをのみ込み、そして最後に言葉を残して消えていく。

「全ては予定通り。いずれ“剣”をアレイストに届けるために……」

気が付くと、黒い煙にのみ込まれたフリッツは荒野に座り込んでいた。

「……え?」

そこには敵であるゴーラもいなければ、自分の相棒の亡骸もない。今までいた場所とは少し違う様に見えた。

混乱するフリッツが立ち上がると、後ろから移動してくる集団を見た。商人や旅人の一団だが、どうやら魔物たちに襲撃されている。

「なんだ、あの集団?」

ただ、集団を見たフリッツには違和感があった。とても古くさい装備をしており、戦い方もどうにもおかしかった。

見ていられない。

そう思って剣を抜いたフリッツはその集団を助けるのだった。

――その後。

一団の荷馬車に乗せて貰い、言葉は通じない事を知った。

更に言えば、案内される村や街もどこか違う様に感じた。

まるで知らない世界に飛ばされたように感じるフリッツ。

それから数年後、自分がいる場所が過去であることを知るのだった。

一方。

ルーデルのいる戦場では、不思議な光景が広がっていた。

「まいったな」

困ったように笑っているルーデルの目の前には、黒い煙に取り込まれたアスクウェルがゴーラと融合して目の前に立っていた。

だが、そんな事で困っているのではない。

皮肉とでも言えば良いのか……ゴーラの真上には、黒く赤いラインの入った禍々しいドラゴンが大きな翼を広げ羽ばたいていた。

ルーデルが困っている理由は、黒い煙が集まりそれがドラゴンへと変貌したためだ。

ドラゴンがルーデルを見下ろす。

『貴様にはここで消えて貰う』

最後に来て、まさかドラゴンと戦う事になるとは思わなかったルーデルは笑っていた。

「まったく、なんて皮肉だ……」

ドラグーンを目指したルーデルの運命の敵は、最後にドラゴンの姿でルーデルと向かい合っていた。