軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白竜騎士の実力は?

ルーデルたちが、辺境へと飛ばされてから数ヶ月――。

ベネッタの港町から少し離れた海上では、三騎のドラグーンが空で舞っていた。

その光景を眺めるイズミとミリアは、港町が見渡せる場所にいた。舞っているように見えるが、彼らは二対一で戦っていたのだ。

青いドラゴン二騎が、白いドラゴンの周りを飛び回っている。二騎のドラグーンに挟まれながら戦う白いドラゴンは、一見すると分が悪い。

「大丈夫かな」

ミリアがオロオロとしているが、イズミも心配そうである。元から危険だと分かっているが、実力を測るために仕方がないと決めた事だ。

できれば避けて欲しかったが、三人が納得していてはイズミやミリアに口を出せる問題ではない。三人とも、乗り気でこの戦闘に参加している。

「大丈夫……の、はずだ」

「絶対に? それ、私の目を見て言えるの?」

ミリアが疑いながらイズミへと視線を向ける。イズミは、ルーデルを信じていない訳ではないが、ミリアの目を逸らした。現在の実力を考えれば、何か問題が起きても不思議ではないのだ。

二対一だ。大丈夫だと思いたい。

二人が戦闘から目を離すと、海上で光が発生する。眩い光に二人は腕を出して光から視界を守ると、光が収まると同時にドラゴンたちの様子を見る。そこには、一対一で戦闘を行うドラゴンの姿があった。

視界を奪う程の光は、戦闘をしている三人には非常に厄介だろう。

「先にスピニースが落ちたのか!」

空中戦を得意とするキース、スピニースを先に倒したのは、間違いではない。だが、それを実行できる実力があればこそだ。

「嘘でしょ!」

イズミがドラゴンの動きから、スピニースが先に海に落ちた事を確認する。ベネットのドラゴンであるヘリーネは、サクヤから距離を取っていた。しかし、ブレスによる遠距離の攻撃は全てサクヤに届かない。

距離的には十分に届いている。しかし、サクヤは無傷のままだった。

やがて、サクヤは光り始めた。彼女の咆哮がイズミたちにまで聞こえるが、それは空気を通して振動すら伝えてくる。

不利を悟ったのか、ヘリーネはサクヤへと突撃してそのまま海面へと連れて行くと、海面が一気に凍る。まるでルーデルとベネットのために場所を提供したような形だ。

「ベネットさんが不利だと思ったのか」

まさに、氷の上はルーデルとベネットのための闘技場へと早変わりした。

「仕方ないじゃない。動きは早くても、飛んでいられる時間なんて短いし」

二人は、ルーデルよりもベネットの事を心配していた。

海上の上に出来た氷の足場では、ベネットが海に入る前に飛び乗っていた。

背中に持った木製のブーメランを構えると左右、そして上を確認する。サクヤと共に海に沈めたのは確認したが、ルーデルがどこから来るのかは不明である。

沈んで終わりという程、軟な鍛え方はしていなかった。すでに空中戦では自分では及ばなくなっている。馬鹿みたいに基礎ばかりしてきたルーデルだ。コツさえ掴めば成長は早いと思っていたが、ベネットの想像を遥かに超えていた。

「どこから……下か!」

ベネットが神経を研ぎ澄まして辺りを警戒していると、自分の真下へと顔を向けると急いでその場を飛び退いた。

その直後に、氷は破壊され、水柱が上がる。降り注ぐ海水を浴びるが、ベネットの表情は変わらない。集中してルーデルを探していた。すると、かすかに音が聞こえたので急いでブーメランを盾がわりにする。

魔力を流し込み強度を上げているのにも関わらず、軋む音が握った手から伝わってくる。これは折れると判断して、即座にブーメランを捨てると背負ったもう一つのブーメランを投げつける。

振動音が聞こえてくるほどの回転をしたブーメランが、ルーデルを追いかけるのだが、本人の残像を斬り裂いただけに終わった。すぐさま、腰に装備した木製の短剣を両手に装備する。交差させ、自分の真上から振り下ろされるルーデルの木剣を受け止めた。

波に揺れる氷の上だが、その一撃の衝撃でベネットの足元にひびが入り、そして氷全体が、一度大きく沈むと浮き上がる。

ベネットが無理やり弾き飛ばして体勢を整えると、ルーデルが自分の前で着地した。すぐに蹴りを放つが、ルーデルはそのまま足を左手で握ると投げ飛ばす。

空中で体勢を立て直すと、左手の短剣をベネットは投げつける。ルーデルがそれを弾くと、ベネットは氷の上で軽く跳ぶ。

ベネットの癖の様な物だが、その直後に高速移動に入るため今までは弱点と認識してこなかった。

だが――。

(しまった)

気が付いた時には、ルーデルの左手が自分の顔へと伸ばされる。ルーデルは、ベネットを捉えていた。

残り一本の短剣で応戦するが、激しくぶつかり合うと力負けをしてベネットは押され始める。スピード、パワー、そしてテクニックとルーデルは成長していた。テクニックの部分では自分がまだ勝つだろうが、それ以外の差を埋める程ではない。

高速移動をしながらも、鋭く光弾が自分を捉えんと追尾してくる。粉々になる足場を考えれば、ベネットは勝負に出るしかなくなっていた。

(部下君も成長したね……けど、ここで負けてあげる訳にはいかないな)

ベネットの目が見開かれると、瞬間的に加速してルーデルの腹に蹴りを放つ。しかし、そこには小さな光の盾が発生していた。威力を失ったベネットの蹴りを受けたルーデルは、そのまま吹き飛ぶふりをした。

すぐに追撃をかけるために接近すれば、ルーデルが持っていた剣を投げつけてくる。そのまま格闘戦へと移行する二人は、互いに拳や蹴りを放った。しかし、どれも互いの残像を捉えるばかりで、本人にはかすりもしない。

第三者から見れば、速すぎて捉える事が出来ないだろう。見えたとしても、ベネットの回し蹴りが右足で放たれた後に、左足まで見える……錯覚を引き起こすはずだ。

だが、そんな接近戦も終わりを迎える。ベネットがルーデルに追いつけずに、腹部へ一撃を受けて吹き飛んでしまった。氷の上で転がりながら体勢を立て直して立ち上がると、ルーデルは動きを止めていた。

直後、ベネットはその場に立って短剣を投げ捨てる。両手を上げて降参のポーズをした。

「ここまでされれば認めるしかない。……お前の勝ちだ、ルーデル」

氷上の上には、空を埋め尽くすほどに配置された光の剣が輝いていた。全てが剣先をベネットに向けており、全周囲から襲い掛かられればベネットも流石に手が出ない。

ルーデルが立ち上がると同時に光の剣は全て光の粒になり風に流され消えていった。

「ありがとうございます。中隊長」

たったこれだけの期間で成果を出した自慢の部下は、嬉しそうに笑っていた。ベネットは、少しだけその笑顔を見て寂しくなる。教える事が無くなったのだ。もう、上司として見てくれないのではないかと、一瞬だけ不安になるのだった。

そこに、海から這い上がってきたキースが息を切らしながらルーデルに笑顔を向けていた。

「ナ、ナイスファイト」

「ありがとうございます! 小隊長!」

ルーデルが急いでキースを助けに行くと、キースは笑顔のままその場に倒れ込む。相当無理をしたのだろう。

戻ってきたドラグーン三名は、ずぶ濡れだった。

港ではドラゴンたちが上がってくると横になっている。体力を使ったので、休んでいるのだろうが、サクヤだけは元気だった。

『それでね。スピニースが来たところにサクヤがカウンターを決めたの!』

イズミに嬉しそうに自分の活躍を教えるサクヤは、拳を作ってシャドーをしていた。元気すぎる。

「そうか、サクヤも頑張ったんだね」

『そうだよ。水の中でもヘリーネと殴り合ったんだから!』

殴られたドラゴンたちは、元気なサクヤを見て大きく鼻で息をした。呆れているのだろうか。しかし、最後にヘリーネが……。

『アンタ、水中で私に負けたじゃない!』

疲れて横になるヘリーネは、どうやらウォータードラゴンの意地を見せたらしい。スピニースが顔を逸らしている事から、サクヤはスピニースには勝利したようだ。

『つ、次は必殺のワンツーフィニッシュで……』

『それ、私も使えるから!』

ドラゴンが殴り合う光景など想像できないイズミは、苦笑いをするしかない。半年でルーデルとサクヤは、竜騎兵団の実力者を倒したのだ。無論、それには二人の訓練が良かったのも事実だ。

だが、それだけの潜在能力を持っていたのも事実である。馬鹿みたいに基礎を繰り返していたルーデルの才能が、ドラグーンとして開花してきていた。

当の本人は、気絶したキースを横に寝かせてベネットと話をしている。

「光で視界を奪うのはお前の考えか?」

「いえ、友人のアレイストがそのような事を言っていたので、自分なら実現できると思い練習しました」

「中々良かった。上手く連携できれば効果は跳ね上がる。それから――」

先程の戦闘に関する事で話をしていた。二人とも真剣そのもので、イズミは会話に入り込む事は諦める。キースが起きていれば、行動を起こしたかも知れない。

だが、ベネットの顔が歪む。

「ここも怪我をしていたか」

手袋を取ったベネットは、自分の右手の甲が腫れているのを見て呟いていた。折れてはいないようだが、戦闘中に気が付かない内に怪我したようである。

「中隊長、俺は治療魔法も使えます」

「そうか、ならば頼む」

ベネットがルーデルに右手を差し出すと、ルーデルがその手を握ろうとする。その光景を見たミリアは、少しだけ嫉妬しているようだった。だが、イズミの目は見開かれ、この後の展開を先読みしていた。

(ルーデルが治療魔法……いけない!)

飛び出すと、イズミはルーデルの腕を掴む。サクヤが話の続きを聞いてとせがんでくるが、それよりも止めなくてはいけない事があった。かなり力を入れてルーデルの腕を掴んだので、ルーデルは困惑している。

「イズミ、痛いんだが」

「ど、どうしたイズミ?」

ベネットも心配そうにしているが、イズミはルーデルの顔を見る。そこで、一つ一つを確認していく。

「ルーデル、いつから治療魔法を習得したんだ?」

「聞いてくれ! 実はミスティス様直伝の治療魔法だ」

「どんな効果があるんだ?」

「何を言っているんだ? 治療魔法だから、治療に効果があるに決まっているだろうに。……あ、治療中の痛みを軽減する試みを――」

そこまで聞くと、イズミは更に力を込めてルーデルの腕を強く握る。握るとずぶ濡れのルーデルの服から水がしたたり落ち、ギチギチと音が聞こえてきた。イズミは笑顔でルーデルに告げるのだ。

「ルーデル」

「な、なんだ」

「それも禁止だ」

「何故だ!」

ルーデルが同僚のエノーラに試したが、治療の効果はあったと告げるが、イズミは決して首を縦には振らなかった。ルーデルとの長い付き合いの中で、イズミの勘がルーデルの撫でに関する危険を防いだ瞬間である。

納得のいかないルーデルは、絶対に痛くしないからとイズミに頼み込む。しかし、イズミはそういう問題ではないと拒否し続ける。

「……あの、私はどうしたら?」

そんな二人を、ベネットは困ったように見ていた。

竜騎兵団でルーデルと同期のルクスハイトは、配属先から一時的に戻っていた。

理由は、報告と共に休暇を取るためである。ルーデルの隠れファンでもあるルクスハイトは、ベレッタの港町に顔を出そうと考えていたのだ。

久しぶりの王宮は、どこかギスギスとした雰囲気が感じられて好きではない。

「随分ピリピリしてるな」

報告書を持って王宮内の廊下を歩くルクスハイトは、文官がいる部屋の前を通りかかる。すると、嬉しそうな声が聞こえてきた。仕事部屋というよりも、休憩室的な場所であった。

『やったな、若旦那!』

『バーガス、若旦那は止めろと言ったはずだ。まぁ、今日は気分が良いから許してやる』

『だけど、やっぱりあの子は変わってるよな』

『まぁ、貴族関係の話が聞きたいというのは驚きだ。だが、これでお茶に誘える!』

『いや、若旦那がそれでいいなら、いいけどさ』

部下と上司の会話を聞き、平和な会話だと思いながらルクスハイトは先を急ぐ事にした。

文官は平和だね、と思いながら竜騎兵団の団長執務室へと向かうのだが、ルクスハイトはここで自分たちも人の事は言えないと理解した。何故なら、執務室の前には会議中という札がかかっている。

「あれ? こんな札がかかっているって話は聞いた事がないけど」

団長の執務室で会議など普通はせず、会議室を利用するのが普通だ。ルクスハイトは出直す事を考えるが、部屋の中から声が聞こえてくる。

気になって耳をドアにあてて話を聞く事にした。廊下には誰もいない事を確認しており、好奇心からの行動だ。

そして後悔した。

『な、なん、だと……』

『だから危険なのです! ルーデルは、亜人に対して絶対的に有利だと姪っ子が言っていました!』

『お、俺の兄弟も同じ事を言ってました!』

どうやら団長と数名のドラグーンで話し合いをしているようだ。ルーデルの名前が出たので、ルクスハイトも興味がわいてくる。しかし、話しはどんどん逸れていくのだ。

『ベネットちゃんが危険ではないか! あの野郎、女には興味ありません、みたいな感じで、実は狙ってやがったな!』

『いや、辺境に飛ばしたのは団長ですよね! どうするんですか! このままだと、ベネットちゃんを見守る俺たちの立場が……』

『学園時代は女子寮に顔パスで堂々と入っていたって! 何故か機密扱いで、調べるのに苦労したんですよ! ルーデルは、虎族まで手懐けた猛者ですよ!』

(……あ、これは俺たちも人の事を言えないな)

ルクスハイトが話の内容を察すると、先程の文官たちに謝りたい気持ちになった。すると、ルクスハイトの肩に手が置かれる。

振り返ると、そこには副団長であるアレハンドが微妙な顔をして立っていた。ルクスハイトの行動を咎めたいのだろうが、それ以上に竜騎兵団の秘密を知ったルクスハイトの今後を悩んでいる様子である。

「お前、聞いたのか」

平気で辺境に飛ばしそうな副団長を見ながら、ルクスハイトは冷や汗を流した。

「……」

ここで否定して無意味だと悟ったルクスハイトは、副団長の表情から下手な事は言えないとも察していた。

「いいか、絶対に今日の事は――」

「副団長、俺に良い考えがあります!」

副団長の様子から、ベネット中隊長へこだわりがないと察したルクスハイトは賭けに出る事にした。

これ以上、遠くへと飛ばされても面倒なルクスハイトは、団長たちの秘密の集まりを潰す計画を副団長に進言するのだった。

ベレッタでは、ルーデルたちが王宮への招集がかけられていた。

「以前の魔物討伐の勲章が出るんですか?」

「あぁ、こちらには送ってきて終わりだと思ったが、どうやら王宮で渡すらしいな」

ベネットが手紙を読みながら、ルーデルとキースを前に日程の確認までしていた。現状、港町の開拓に遅延はない。ドラゴンを使っての開拓は、余所以上に進んでいた。

三人が一時的に抜けても、心配はないだろう。

ルーデルも、戻ればユニアスやリュークがいるので、退屈しないだろうと考えていた。キースも同じである。

「王宮かぁ……団長と副団長に会える!」

嬉しそうなキースを見て、ルーデルは団長と副団長を凄く尊敬しているのだろうと、勝手に勘違いしていた。間違いではないが、微妙に方向が違っている。

しかし、ベネットは浮かない顔をしていた。

「どうしたんですか、中隊長?」

「いや……私はどうも団内では嫌われているからな。行けば厄介事が多いんだ」

「そんな! 中隊長は立派ですよ!」

ベネットが嫌われる訳がないと、ルーデルは信じ込んでいる。そんな奴がいる事が信じられないので、名前を聞く事にした。

「いったい誰が中隊長を嫌うと言うんです?」

「ルーデル、そういうのは聞いちゃ駄目だよ」

キースがルーデルに注意すると、ベネットはクスクスと笑いだす。

「人間好き嫌いは誰にでもある。私は気にしないから大丈夫だ」

「……分かりました」

ベネットは予定を組むと、二人に出発の日時を伝える。段取りの変更もあり、しばらくは忙しくなると二人に告げた。

「王都では休暇も取る。まぁ、夜間飛行ができない訳でもないが、無理する必要もないからな」

そうして、王都での一日休暇が言い渡されたのだった。