軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編 ユニアスとアレイスト 後編

「おら、どうしたぁ!」

洞窟内で爬虫類の頭部をした人型の魔物を相手に、ユニアスは大剣一本で向き合っていた。

相手は洞窟に住み着いていたのか、集団でユニアスたちを囲み始めていた。

手にしている武器は、斧とバックラーと呼ばれる盾である。魔物の大きさからすれば小さな盾だが、ユニアスが持てば大盾と呼べる大きさだろう。

そんな敵に囲まれた状況下で、ユニアスは笑っている。洞窟内でも敵が集団で襲える広さがある場所では、自由に大剣が振り回せていた。

同時に、アレイストの隊にいる騎士の一人が、魔法で洞窟内を照らしている。

後ろでは、アレイストが二刀を構えると、自身の影を使って魔物たちを串刺しにしていた。だが、敵の動きが戦いなれている様子で、森の中の様に上手く行っていない。

柄を握りなおすと、大きく斧を振り上げた魔物に剣の振りを小さくして斬りかかる。だが、それでは敵の皮膚に刃が食い込むだけだった。

しかし――

「まだまだぁ!」

食い込んだ状態から力任せに斬り伏せると、大剣の刃がボロボロになっていた。それだけ激しい戦闘を繰り返した結果だが、ユニアスは満足できない。こうしている間にも、ルーデルやリュークが先に進んでいる気がしたのだ。

実際に、キースの話ではルーデルが勝てなかった相手がいると聞き、このままではいられないと焦りも出ている。

(あいつは絶対に負けた相手を超えてくる。なら俺は? このまま腐って終わるのか? あんな騎士隊に配属されなければ、もっと強くなれたのか?)

自分自身に問いかけながら剣を振るうユニアスだが、その動きは敵に対して最適化され始めていた。

後ろにユニアスに気を配りながら、アレイストは指示を出していた。

「絶対に一対一に持ち込むな! 最低二人で、それが無理なら僕の方に回せ!」

二刀で魔物の斧を受け止めたアレイストは、そのまま左手の剣を敵に突き刺した。浅く、致命傷にもならない魔物の傷から煙がふくと、魔物が血の泡を吹いて倒れる。

「外が駄目なら中から、っていうのは基本だよね」

剣を構え直すと警戒した魔物たちが距離を取っていた。洞窟内で強力な魔法が使えないのは不利だが、それでもやりようはある。

相手の動きになれてきたアレイストは、余裕が出来たのかユニアスを視界にとらえる位置へと移動した。

(天才っているんだな)

動きを見ると、既に最初の動きとは違っている。敵を倒すために最適な動きをしていたのだ。

剣の天才というイメージが強いユニアスだが、アレイストはもっと違う物だと感じていた。

自身の婚約者の一人に、セリという元は貴族の少女がいた。彼女は、アレイストが知るゲームの登場人物であり、後輩の立ち位置だ。そして、剣の天才という設定を所持している。

だが、剣に関しては素晴らしい才能を持っている彼女を知るアレイストも、ユニアスと比べると二人の違いに気が付き始めていた。

あくまでも剣の天才であるセリとは違い、ユニアスは剣士以上に戦いに才がある気がしていたのだ。

正当な剣術を学び、それでいて風貌からは想像できない柔軟な剣捌きを見せている。

この任務中だけでも、魔法剣を飛ばす際に回転させて威力を高めていた。それも突きを飛ばすと考えだしてから、数日の内にそこまで可能としている。今も、力比べが難しい相手には、振りを小さくして斬りかかっていた。

両脇から飛び出してきた魔物に対し、アレイストはユニアスの方を気にしながら対処する。

自身の影から黒い腕を何十と出し、両脇の魔物を空中で捕えると締め上げていく。両手の剣に炎の魔法剣を用意すると、その場で一回転して斬撃を魔物へと飛ばした。黒い腕ごと斬り飛ばすが、斬撃は飛んだというよりも伸びたと言った方がいい。

アレイストの炎が洞窟を強く照らすと、ユニアスも戦闘が終了していた。

剣を腰にしまうと、肩で息をしているユニアスを見てアレイストは思う。

(次期大公で剣の才能があって……でも、それって意味が無くて。それを本人も理解していたから、あれだけ何か諦めたような性格だったのかな)

ゲーム中のユニアスと、今のユニアスでは受ける印象が違っていた。今は、友達に負けたくないと我武者羅に剣を振り回している。何かを諦めたような性格ではなくなっていた。

「少し休んでから先に進もうか」

アレイストが声をかけると、ユニアスはその場に座り込んで腰に下げた水筒から水を飲んでいた。

「あぁ、悪いな。気を使わせて」

「いや、いいよ。こっちも余裕が無かったから」

ユニアスの所に敵を回し、後ろから襲わせないというのがアレイストの役割であった。

「最後の方はコツを掴んだろ? なら、迷惑をかけたって事だ。俺の護衛なのに、注文ばかりで悪いな」

息を整えると、ユニアスは自分の剣を確認する。ここから先に進むにしても、武器の調子を確認しておきたかったのだろう。

アレイストは部下が怪我をしていないか、荷物は大丈夫かを確認すると洞窟の外の様子を気に掛ける。

足手まといになるからと、キースだけは洞窟の外で待機しているのだ。ドラゴンもいるので、心配する必要はないのだが、自分から弱いと言うだけあり心配になっていた。

「それにしても、キースさんは大丈夫かな?」

そんなアレイストを、心配そうに見るのはユニアスだけではない。部下の、特に人間の部下たちが心配そうに見ていた。

「…………俺は色んな意味でお前が心配だよ」

「え?」

洞窟の最深部には、天井から光が差し込む部屋があった。

人が住んでいた形跡が残っており、ドアは鍵がされていたのだ。手先の器用な部下に鍵を空けさせると、そこには埃まみれの家具があったという訳だ。

「こりゃあ酷いな」

「……確かに、ね」

いくつかの家具……特に木製の物は形が崩れている。壺などは残っていたが、ベッドらしき物の上には、白骨化した遺体が存在していた。

「残っていたのが奇跡ですね」

アレイストの部下の一人は、一応と呟いて浄化という魔法を行使していた。アンデット系の魔物に効く魔法だが、悔いを残した様子はなかった。

全員で部屋を捜索すると、簡単に聖剣は見付かった。

アレイストの読み通り、聖剣は錆びて形を保っているだけだった。ゲームでもアイテム欄を埋めるだけの代物であり、特にこれといったシナリオが用意されている訳ではない。

主人公一行が、そんなに上手い話はないという落ちの付いた話で終わるのだ。

しかし、部屋の様子を見るとそんな事を呟いてもいられない。

「英雄の末路って所か? 数百年もここで人知れずに過ごしたのかよ」

ユニアスが呟くと、部屋に入った部下たちの表情も少し暗かった。アレイストは、部屋の中を見て回ると、古い文字で書かれた書物数点を発見する。

それを部下の一人に渡すと、読み始めた。

「これかなり古いですよ。私も知らない単語があるし……クルトア建国前の物かも」

聖剣を探すにあたって、アレイストの部下たちは必要と思われた者たちが揃っていた。アレイストは、その事を偶然とは思えずにいる。本来なら、この場には恋愛対象キャラで固められた人材が揃うのだが、代用できる人材が揃っていた。

「読める場所も少ないので簡単に説明しますけど、聞きます?」

部下の女性が魔法で光を用意すると、そのまま書物のページをめくる。自分に確認を取って来たので、アレイストは頷いた。ユニアスも聞きたそうに腕を組んで座り込んでいた。

「この部屋の住人は、クルトアよりも小さな国に住んでいたようです。多分、今のクルトア領内でしょうけど、地名は昔の物で分かりません」

部下の話では、当時は強大な四本の腕を持った魔物に酷く怯えていたという。ドラグーンもいない状況では、どうしても毎年大きな被害が出ていた。

そんな時に、この部屋の主は一人立ち上がったという。

どう戦ったかという記述は、読めなくなっていた。そして読める場所を探して部下が最後のページ付近をめくる。

「ここは読めるかな……え!」

「どうしたの?」

「い、いえ……この本を書いた人物の名前が」

驚いた部下の顔を見ると、何故か骸骨になったこの部屋の主人とアレイストの顔を交互に見る。

「え、え~と……最後の方は、ここにたどり着いた者に聖剣を託すと書かれていて、それ以外だとこの方の名前しか読めませんでした」

「へぇ……で、誰なんだよ、この英雄様は」

「……ハーディ。アレイスト・ハーディと書かれています」

「……え?」

「ちょ、それって……怖っ!」

驚いたアレイストと、いきなり立ち上がり怖くなったのか骸骨とアレイストを交互に見るユニアスと部下たち。アレイストにも訳が分からないが、どうやら部屋の主の名前はアレイスト・ハーディと言うらしい。

運命めいたものを感じていただけに、この瞬間一気に寒気がした。

その場が急にアレイストの過去がどうとか、前世がどうのと言う話になる。

「きっと隊長は英雄様の生まれ変わりなんですよ!」

そう言って興奮する部下に、それだけは無いと言い切るアレイストはこれからどうするかを考えていた。

「いや、僕的に前世は英雄じゃないっていうか、これは絶対に偶然と言うか……(ゴメン、僕の前世は英雄じゃなくていじめられっ子です)」

必死に話を逸らそうとする中で、ユニアスだけは頷いていた。

「……英雄色を好むって言うからな。いいんじゃないか、英雄アレイストは両刀だって言われても」

「両刀? 確かに今は二刀流だけど、それって関係ないだろ!」

こいつ分かってないなみたいな顔をその場でされると、アレイストは兎に角この場を収拾する事にした。

「と、兎に角! このままは酷いから、ここにお墓でも作ってあげようよ。光が刺すこの辺りが良いと思います! 聖剣を墓標に――」

「いえ、見つけたのですから、遺言通りにアレイスト隊長が持つべきでは?」

「……え?」

「確かにそうだな。錆びてはいるが、遺言だとここを訪れた者に託すって書いてるんだ。同姓同名のお前が引き継ぐのも運命だろ」

笑いながら肩を叩くユニアスに、アレイストは部下が持ち出した聖剣を見る。いかにも使えなさそうな聖剣を前に、どうするべきか悩んでいた。

数日後、アレイストとユニアスの一行は、ベレッタの港町を訪れていた。

あの後、部屋の主のために墓を作ると、持っていた荷物からお供え物をして洞窟を後にしたのだ。

そこからは、キースのドラゴンに乗って空の旅である。

「ここがベレッタの港町かぁ」

海を久しぶりに見たアレイストは、もう少し暖かければ海に入れたのにと残念に思う。

「これから中隊長に報告に行くけどついて来るかい? ルーデルもそこにいると思うよ」

「あ、なら俺も行くわ」

ユニアスに肩を組まれると、アレイストは無理やり同行する事になる。部下である女性騎士たちには、先に予定していた宿に行くようにと指示を出した。

そうして向かった場所は、騎士の詰め所とも言える場所である。複数の騎士団が使っている詰所は、王宮勤めのアレイストには雑多に感じられた。キースが見張りをしている兵士に声をかけると、若い兵士は嬉しそうに対応している。

「キースさんは人気物だね」

「お目出度い奴だよ。ルーデルは大丈夫かな」

周りを見渡してルーデルを心配するユニアスは、視線の先にイズミとミリアが入っていた。

「よぉ!」

右手を上げて挨拶をするユニアスに気が付いた二人は、そのままアレイストとユニアスの下へと歩いてくる。

「まさか二人が来るとは思わなかった。元気そうだな」

イズミが驚いていると、ユニアスは力こぶを見せて元気さをアピールする。

「おうよ! 目的地でドラグーンにあったから、そのまま送って貰ったんだ。それにしてもそいつが凄すぎて……あれ? キースの野郎はどこだ?」

「え? ……本当だ。いないね」

詰所を見渡しても見つからないでいると、イズミの様子が激変する。今までニコニコとしていた彼女の顔つきが、一気に無表情へと切り替わった。

「キース……もう戻ってきたのか、あの変態」

アレイストは、怖くなると久しぶりに出会ったミリアに話しかける事にする。イズミを出しにして悪い気はしたが、話しかけにくかったのだ。

「ね、ねぇ、何かあったの?」

「さぁ? ここに来てからっていうか、エルロン小隊長と仲が悪いのよ。ベネットさんとは仲良しなのに、不思議よね」

話す事が出来て嬉しいアレイストは、離し続けるためにミリアが名前を出した人物に食いついた。

「ベネットさんって……お、男?」

「馬鹿、違うわよ。ドラグーンの中隊長さんで、ルーデルの上司。凄く可愛いんだけど……」

ホッとするアレイストだが、可愛いという上司の話をする時に言い難そうにするミリアの姿に何故か不安になる。

「ルーデルと最近はずっと一緒なのよね」

(で、ですよねー)

落ち込むアレイストは、肩を落としていた。

「ほら、戻って来たわよ」

ミリアがアレイストに入り口辺りを指差して見せると、そこには先程からいなくなったキースとルーデルの姿が確認できる。上着を肩にかけて嫌々報告をしている姿は、いつものキースには見えなかった。

だが、ルーデルとキースの視線の先には誰もいないように見える。

「それで、ベネットさんとやらはどこよ?」

ユニアスもベネットを探すが、見当たらない。すると、イズミがため息を吐いてもっと下だとジェスチャーをする。

ドラグーンで中隊長と聞けば、それなりに大きい女性騎士を想像したアレイストだが、詰所にある机や棚から見える小さな少女の姿を確認する。

「……思っていたのと違うな」

「そうだね」

アレイストは、あれがドラグーンの中隊長かと見ている。見た目は銀色の長い髪をした少女であり、小柄で線が細く儚い印象だ。しかし、聞こえてくる声は軍人らしいものである。

「どうして五日も時間をかけた? 三日で終わる任務だっただろう」

「いやいや、これには深い理由がありまして……そう! 僕は日頃の疲れを癒すために水浴びをしていたんです。どこかの誰かさんが、無茶な任務を押し付けるので疲れがたまって大変なんです」

「白々しい。貴様なら二日でも余裕を持ってこなせたはずだ。私の部下なら殴り飛ばしていた所だぞ」

「以後気を付けますよ。それよりもルーデル、元気だったかい?」

「はい。自分は問題ありません」

「そんな畏まらないでくれ。僕と君の中じゃ――」

「お久しぶりです、エルロン小隊長」

「……あぁ、君ね。本当に久しぶり過ぎて気が付かなかったよ。で、誰だったかな?」

三人の中に入っていたのは、イズミである。

ルーデルとキースを遮るような形で割り込むと、口元は笑っているが目が笑っていなかった。何気に、腰に差している刀に手が添えられているのが怖かった。

「……何あれ?」

ミリアに確認を取るが、ミリアも首を横に振っていた。ただし、ユニアスだけは安心した様子であった。ルーデルを見た後に、ユニアスは憐れんだ視線をアレイストに向けてくる。

「ルーデルはイズミがいれば安心だな。問題なのはお前だけだ」

理解できないアレイストとミリアは、互いに首をかしげるのだった。

夕食時には、アレイストたちが泊まる宿――空き家にベネットが用意した食事を持って訪れている。

人数が多かったので、食材を用意して庭でバーベキュウをする形になっていた。ベネットがその場を仕切って肉や魚に野菜を料理している。

「ベネットさんってそんなに強いの?」

「意外だな」

アレイストやユニアスが驚いている姿を見て、ルーデルは自分の事の様にベネットを褒めて嬉しくなっていた。

「俺では歯が立たなかった。キース小隊長も空戦では歯が立たないし、俺もまだまだって事だな」

「その割に嬉しそうだな」

ユニアスが笑いながら肉を口に運ぶと、ルーデルは頷く。

「あぁ、何しろ目指す目標が出来たからな。先ずは地上戦でベネット中隊長に勝つ事が目標だ!」

嬉しそうに告げたルーデルだが、その後ろにはエプロンをしたベネットが立っていた。

「随分と余裕があるな、ルーデル。今日も地面に何度も抱き着いていたのを忘れたのか?」

「中隊長!」

驚いて振り返るルーデルに、ベネットは三人の次の料理が乗った皿を渡してくる。魚と野菜の炒め物のようだが、海老名や貝なども入っていた。男三人という事もあって、一つの皿でも量が多い。

器用に三人に料理を配ると、ベネットは空いた皿を回収していた。自分が片付けると申し出たルーデルに、ベネットは手で制するだけだった。

「友人との話も大事だ。今日は大目に見てやる」

それだけ言うと、また料理をしに戻っていく。イズミを筆頭に、女性陣が手伝いをしているが手元が怖かった。

「……あの娘は完璧だな」

「だね」

「普段から厳しくて優しい中隊長だ。俺はあの人の様になりたいと思っている」

新しい料理に手を出しながら、ルーデルはベネットを褒めるのだった。すると、ユニスがキースの事をルーデルに聞いてくる。

「なぁ、それよりもキースの事だけど。お前に何かしてこないか?」

「小隊長が? いや特に何もない。優しくて頼りになる上司だな。まぁ、直属の上司はベネット中隊長だが……あ!」

「何かあったか!」

心配そうな顔をするユニアスに、ルーデルは前にあった事を話し始める。

「いや、風呂に入る時にやたら訪ねてくるんだが、流石にいつもタイミングが悪いから謝ろうかとイズミに相談したんだ」

「ふーん。なんかタイミングってあるよね」

「この馬鹿二人は……」

ルーデルに同意するアレイストを見て、ユニアスは食べ終わった皿を置いて眉間を指で揉んでいた。

「そしたらイズミが、風呂に入る時は必ず言えと言って来たんだ。それからは風呂場の前でイズミが見張りをしてくれる。これはどういう意味だろう?」

「それは代わりに対応してくれてるんじゃない? ほら、ルーデルは風呂で対応できないから」

「違うに決まってるだろうが!」

ユニアスの叫びは、全く二人に理解されないのだった。