軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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迫る敗北に一発逆転を狙う。まるで、じりじりと財布の中身が消えていく中、スロット台に最後の万札を入れる瞬間に似ている。

怖いとか焦るとかじゃなくて、なんか吐き気がしてくるんだ。こういうときは。

口が乾いて張り付きそうになる舌を回す。言葉は無料の弾だ。時間稼ぎでも、動揺を誘うでもいい。無駄でもいいから、撃てるだけ撃つ。

「でっけえ戦争するってのに、俺1人をシバくためだけに、王様の単独潜入か。やることねぇのか?」

「単独? 余がいつそんなことを言った?」

「うっそだろ、おい」

マジ?

これから街中で地獄の人狼ゲームが始まるのか?

「貴様が顔色を変えるのは愉快だな」

「笑ってんじゃねえぞ」

最悪だ。最悪なんて状態には幾らでも下があるが、その中でもかなり底に近い方の最悪だ。

相手が嫌がることをするのは戦いの定石だ。それは構わねえが、やり方が反則過ぎる。相手の変身待たないタイプの怪人だろ、これ。

「ダンジョンからモンスターが出てくるってのはよ、普通はゴブリンとかが群れで『わー!』って叫びながら出てきましたーって感じだろうが。お前らじゃねえんだよ、普通」

「 生憎(あいにく) と、人間の普通には 疎(うと) くてな」

そう言ったロボは、手元の壁材を握力だけで 毟(むし) り取り、振りかぶった。

「それも反則だろ!!」

思わず叫ぶも、 投擲(とうてき) は止まらない。白い粉を散らしながら飛んできた、 石膏(せっこう) のような建材。

下手にかわせば体勢を崩す。そうすれば、唯一の逆転の目を失う。なら、甘んじて受けるしかねぇ!

飛んできた 礫(つぶて) が左肩に当たる。予想を超える激痛に、目がチカチカとした。

「――っ」

漏れそうになる声を、歯を食いしばって抑えた。頭皮からぶわっと汗が噴き出す。

ロボが 嗤(わら) った。

「世界樹の苗は傷を塞ぐだけだ。痛かろう」

「そうだな。失恋の胸の痛みってこんぐらいかなって感じだ」

「減らず口を」

再び飛んでくる 礫(つぶて) 。顔面に飛んできたそれを、額で受ける。白い粉が散った。

垂れてきた血を舐めとる。

「白塗りにしてどうするつもりだよ。ちくしょーって叫べばいいか?」

冷めた目で俺を見たロボは、また 投擲(とうてき) 。

「いつまでもつか、楽しみだ」

「俺って結構、我慢強いんだよな。サウナでも最後まで座ってるしな」

爬虫類のぎょろりとした瞳が、すっと小さくなる。

苛立ちから、幾分と力の 籠(こも) った振りかぶり。それに合わせて俺もロープを投げつけた。俺が我慢強いわけねえだろうが。そもそもサウナは行かねえよ!

薙(な) ぐように飛ぶロープの先端を、ロボは床に手をついてかわす。そうだよな。隙だらけに見えても、そのくらいの警戒はする相手だ。

だが。

一足で大きく跳んで、ロープの端を空中キャッチ。元から投げ縄の要領で上手くいくなんて思っちゃいねえ。投げ縄込みで隙を作り、直接縛って外に捨ててやる!

「気概だけは認めよう。だが……」

顔面が木っ端みじんに吹っ飛ばされるような衝撃が走った。視界が真っ白に染まり、世界から音が遠くなる。鼻の奥から焦げ臭いにおいがした。

「が、ぁ……」

「足りていない」

うっすらと見えるシルエット。そこにいたのは、尻尾を振り抜いた姿勢のロボだった。

「くっそ。何が慣れてないだ。バチバチに活用してるじゃね……かはっ」

往復ビンタのように反対側から振られた尻尾に殴られ、壁に叩きつけられる。衝撃に、肺から全ての空気を吐き出した。こいつも相手が弱ったら追撃入れるタイプかよ。

俺がめり込んで砕けた壁の中に、水色のコードが見えた。とっさに握り、引っこ抜く。千切れた線が剥き出しになったコードの先端をロボに見せつけた。

「はは、俺もツイてるな。てめえのお陰で、逆転の策が出来たぞ」

「……電線、だったか?」

俺に変身していたときの、俺本体の記憶が残っているのだろうか。ロボは不快そうに言った。

「人間ってのは、道具を使って足りないモンを補えるから強いんだよ。バチバチと活用してやんよ」

「たかが100ボルト……いや、どうだ?」

ロボは俺が持つ電線が、自分に致命傷を与えられるかを気にしているようだ。いいぞ、迷え。時間は俺の味方だ。

「……まあ良い。貴様を殺すのはあくまで副次的な目標だ。ここは引いてやろう」

「逃げんのか?」

「はははははは。構って欲しいのなら、次は貴様から来い」

ちっ。時間稼ぎすらさせてくれねえか。

ロボはくるりと背を向けると、堂々とした足取りで去っていった。

手に持っているコードをよく見ると、透明なグラスファイバーがはみ出している。思わず力が抜けて座り込み、コードを放り投げた。

「通信用じゃねーか」

あぶなかった。自覚無しの、ただのハッタリだったらしい。ロボの人間社会への知識が俺ベースで良かったよ。なにせ、俺は現代社会に一番無知な日本人とも言えるからな。

部屋に静けさが戻った。床にこぼれた、飲みかけの缶ビールがしゅわしゅわと音を立てている。

大きく息を吐いた。

死ぬかと思った。完全な敗北。言い訳のしようがない。

そうさ。世界樹の苗だなんだと言ったって、所詮は人間。生身の力なんてたかが知れている。どれだけ殺し合いの経験を積んだところで、獣相手には勝てねえ。

今生きているのは、大きな奇跡だ。

―― 傲慢(ごうまん) になっていたのかもな。

知識として強者たちのことは頭にあったんだが。

戦いの中で生き延びてきたということは、逆説的に、俺は全ての争いに勝ってきたってこと。

水不足やら金欠やら、昔を振り返れば就活やら、目に見えないものに負けることがあったにせよ、力で捻じ伏せられたのは、初めてかもしれない。

掌(てのひら) をぼんやりと見た。

大きな爪もなければ、鱗もない。柔らかな皮と肉しかない。こんなモンスターがダンジョンにいたら、初心者向けの練習台だろ。

にわかに玄関が騒がしくなった。応援の到着か?

拳銃を構えながら入って来たのは、懐かしの田辺巡査部長と、3人の警察官。その後ろに、細剣1本だけひっさげたスイ。あと探索者っぽい知らない男女。

俺は片手をあげた。

「永野、無事か?」

「よお。嫌になるね、ほんと。タコ負けしたさ」

「ナガ! 大丈夫!?」

「貧乏なのにビール無駄にされて、マジ泣きそう」

へらへらと笑うと、スイは泣きそうな顔をした。今の俺、赤と白にまみれて、ピエロみたいに笑える顔してるはずなのにな。

「田辺っち、市街地にワーウルフが紛れ込んでるらしい。人間に化けている可能性もあるし、野生動物に化けてる可能性もある」

「安心しろ、もう上に伝わっている。あと、誰が田辺っちだ」

「あとな。たぶん、拳銃程度じゃ話になんねえよ」

「承知の上だ。だが、今のお前は守るべき市民の一人だ」

すげえ覚悟だ。警察官の覚悟は、探索者の覚悟のそれと種類が違う。無駄死にだろうが、とにかく助けには行くっつーことかよ。

応援に来た探索者のうち、女の方が俺の前に進み出た。おかっぱの日本人形みたいな顔したガキだ。

「無様な姿」

初手喧嘩腰かよ。

「喧嘩か? やるか?」

おじさん、女子どもでも、フルパワーで殴れるタイプだぞ。もちろん男も殴るぞ。

「先に喧嘩を売ったのはそっち。私は 鬼翔院(きしょういん) 柚子(ゆず) 」

「僕は鬼翔院 隼人(はやと) 」

黒豹を思わせる、引き締まった肉体の男も出てきた。

っていうか、鬼翔院!?

俺が配信で地雷踏んだ相手じゃねーか!