軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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地下23層と24層の間の階段まで、大所帯だからこその数の暴力で強行突破した。

誰もが激しい連戦に疲れ切っていたのだろう。キャンプの用意をすると、それぞれがテントに潜り込んで、すぐにいびきをかいて寝始めた。

太めの木材で組まれた焚火が、時折バチッと弾ける。煙が組まれたバリケードを通り抜け、ゆっくりと階段を上がっていった。

「ナガ、寝ないの?」

「もう少しすれば寝るさ」

意味もなく、バールを火搔き棒代わりに焚火をつつく。

「悩み事?」

隣に人が座る気配がした。

「悩み事っちゃ悩み事だな。別にセンチメンタルな気分になってるわけじゃねぇが」

燃え上がる炎に細い薪を放り込めば、すぐに燃え上がり、ぐにゃりと反り返った。

「ただ、今が機会なのかもしれねぇな。スイ。お前、しばらくダンジョンに潜るな」

狼男と戦ってから、考えていた。

ダンジョンの入り口が生まれてからの歴史は短い。だが、狼男の口ぶりからして、ダンジョン内という世界はずっと昔から存在している。ぽっと発生したものじゃない。

なぜ、俺たちの世界は繋がったのか。

ダンジョンの上層の方が 易(やさ) しい環境で、潜るほどにモンスターが強くなるのはなぜなのか。

世界樹の苗もそうだ。

ダンジョンは不可解に包まれているというのに、命の奪い合いに関してだけは、あまりにも都合がいい。まるで神様が「殺し合え」と言っているかのようだ。

「それは、私が力不足だから?」

「戦闘力って話なら十分だろ。そうじゃねえ」

「じゃあ、なに?」

「これからのダンジョンは、もう楽しい冒険の場じゃねえ。人狼との戦いもそうだし、世界樹だのなんだの、キナくせえんだよ。真っ当な人間が潜る場所じゃなくなる」

肌感覚でしかない。根拠に欠けるし、勝手なことを言っている自覚はある。だが、近い将来のダンジョンは、もっと命が軽くなる。そんな気がすんだよ。

「心配してくれてるの?」

「違う。もったいねえんだよ。お前らみたいなちゃんとした人間が、立派な理由を持ってダンジョンに潜る。それが、なんか 違(ちげ) ぇんだ」

俺はこんなときにまでカメラを回しているドローンを軽く 睨(にら) んだ。

配信があって、キラキラした人気商売になっちゃいるがよ……殺し合いのショーなんつーのは、元は奴隷の仕事だろうが。

いうなれば、俺は今の日本社会において新参者だ。だからこそ、あるものをあるがままに認識していた。だが、そうも言えなくなってきた。

剣を手にモンスター相手に立ち回り、未知の世界を切り拓いて、地上に帰れば人気者。いいことだ。夢のある話だ。

――だが、そんな夢物語に、あんな狼男との殺し合いはあったのか?

「ヒルネがよ、狼男を刺しただろ」

「……うん」

「最高だったな。あの一撃がなけりゃ、俺たちジリ貧だったかもな」

「そうだね」

「斥候の身軽さを活かした、最高の攻撃だった。小さな刺し傷なのに、戦局を変えたな」

「うん」

「あれ、見てて気持ちのいいモンだったか?」

スイは口を閉ざした。

そうだよな。あれは戦闘でも狩りでもない。これ以上なく「殺し合い」を意識させるものだった。外側から眺めている視聴者たちには、この感覚は伝わらないかもしれない。けれど、現場で対面していたスイにはわかっているはずだ。

皮肉にも、スイに殺しを意識させたのは、敵ではなくてヒルネだったんだと思う。一緒に頑張って来た同年代の女の子がした動きだからこそ、我が事として突き刺さる。

「これからはああいうことも増える、んじゃねえかなと思う。こういうことをするのは、もう 暴力(これ) でしか生きていけない人間だけでいいじゃねえか」

細い薪は炎の中に崩れ、どこにあったのかももう分からない。

スイが俺の手元に積んである薪に手を伸ばした。細い薪を3本まとめて手にとり、炎に投げ込む。

「ナガ、面白くないよ。大人みたいなこと言うじゃん」

「めちゃくちゃ大人だろうが」

横を向き……思わず息をのんだ。真っすぐな、澄んだ瞳だ。初めてスイと目があったような錯覚さえ覚えた。

「一緒に戦っていい? って聞いたよ。ナガは『当たり前だろうが、サボんな戦え』って言った」

「それは…………いや、言った。確かに言ったな」

それとこれは違う、そんな言葉は嚙み砕いて飲み下す。そんなもん口から出したら、それこそガキにとっての『大人みたい』じゃねえか。

「ナガってさ、ちょいちょい怪我するよね」

「まあな」

「あと、ちょいちょい追い込まれるよね」

「別に戦闘力に特化してるわけじゃないからな」

「なのに、私たちを庇うような戦い方をする。トウカが言ってたみたいに、自分の心配ができてない」

「おいおい、俺の心配をしてくれてんのか?」

「してる。私の言葉で混ぜっ返さないで」

強い言葉に、今度は俺が口を閉ざした。文章として形をなさない言葉たちが、脳の表面を上滑りしていく。

「ナガは見た目はヤバいし、言葉も荒いし、やってることもヤバいし、妙なもの食べるし、変なのに寄生されてるけど、それでもいい人だって思ってるし、感謝もしてる。少しでもナガの助けになるなら、私はもっとナガと一緒に戦いたい」

「俺は……別にいい人間じゃねえよ」

流されやすいだけだ。

周りに流されて進学し、就活に失敗したら非正規雇用を渡り歩き、周りに流されてるうちに立派な荒くれ者の出来上がり。ダンジョンの環境に慣れれば野蛮人に仕上がって。

今は単に、年下との状況に流されて、保護者っぽくなっているだけだ。俺自身の善性なんてねえんだよ。そもそも性根の部分に芯なんてねえんだから。

「何度もナガに命を救われてる。逆に、私だって何度もナガの命を救ったと思う」

「ああ。助けられちゃいるよ」

否定できねえことを持ち出すなよ。

「これからだって、それでいいでしょ」

「俺の話、聞いてたか?」

「聞いてたよ。面白くないって。ヒルネとトウカがどうかは知らないけど、これからあんな戦いが増えるならなおさら、私はナガに1人で戦って欲しくない」

ほんのりと、狂気すら感じるような声色に、俺は溜息をついた。いや、溜息をつくことしかできなかった。

「そうかよ」

ほら、また流された。

弱いから邪魔だ、とでも言えればよかったんだろうか。突き放すべきだったのかもしれないのに。30以上年下の子の言葉に、こんなことしか返せない。

手慰みに放り込まれた細い薪たちは、後先なんて知らない様子で、強く燃え盛っていた。