軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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カルカ――正確には、彼らリザードマンに付きまとうメンヘラ破壊神のヴリトラ。

あの馬鹿げた破壊力とタフネスがありゃ、相手が神格だろうがぶっ飛ばせる……のか?

何もかもわからん。が、こういうものだ。死なない限りの試行錯誤を尽くせば良いのさ。

久々の感覚に、肩がぶるりと震える。思い返せば、馴染み深い感覚だった。理解不能な相手とのチェイスは、ダンジョンで彷徨っていた頃の日常だ。

「しっかし、遅いな」

「敵がですかー?」

「ああ」

ジョギングくらいの速さで走りながら撤退しているが、どうも追われている感じがねぇな。

不気味ではある。何がしたいのかも分からねえし、どんな能力を有しているのかも、いまいち判然としない。

ただ、こちらの攻撃が通じないことだけが確かで、あとロボ基準では神格を有しているってことだけ判明していた。

「ダンジョン探索って感じがしてきたな」

「これがですかー?」

ヒルネは嫌そうな表情をしたが、ユエは納得のいった顔で頷いた。ダンジョンが存在する時代に生まれた子と、ダンジョンが後からやってきた世代の違いかもしれねえ。

オークだのエルフだのゴブリンだの……見た目に分かりやすくてシンプルな能力をした奴らだって、初遭遇時には不気味で意味不明な存在だった。

魔法の知識がねぇもんだから、初めてレイスと遭遇したときは、マジで意味不明だった。

冒険者たちは未知と出くわすたびに、半分くらいがブチ殺されて、もう半分が逃げ延びては少しずつ情報を集めて対処したんだ。

「ダンジョン探索は逃げるとこから、って教えるべきだったか?」

そう呟いたとき。頭の奥がズキンと痛んだ。ジジ……と電子的なノイズじみたものが視界を走る。液晶を押し潰したときのように、極彩色のヒビが空間に走った。

すぐにそれは静まり、何の変哲も無い普段のダンジョンが返ってくる。

冷や汗がこめかみを伝った。

「ユエ」

「どうしたのだ?」

「いや……ちょっと嫌な予感がする。認識に影響する攻撃を受けたかもしれねえ。視界がざらつく」

ユエは眉を寄せる。心配そうに俺をちらりと見上げてから、すぐに正面を向いた。

重たい声色で言う。

「目を合わせたときからか」

「……だな。あの女と目が合ったときに、瞳の奥に、霧がかかった都市が見えた。魅了みたいな効果も感じたぞ。目を合わせるのをトリガーに、認識や意識に刷り込む幻術みてぇな魔法があるかもしれねえ」

「神格ならば、さもありなん」

神格ならば、か。

「神々は迂闊に縁を結んではならぬ相手が多い。それこそ、リザードマン一族とヴリトラのような関係が分かりやすい。そして、目を合わせる……あるいは名を知られることは、縁を結ぶ行為として認知されやすいのだ」

「どうする。どうすればいい?」

「逃げ切りつつ、縁を切るか上書きするのだ。敵は王を追跡のビーコンにしているであろう。味方と離れた方が良い」

なるほどな。

神との縁か。アヌビスはフットワーク軽すぎて、縁を結んだとは言えないか。王権持っている奴がいる場所にはひょいひょい顔を出しそうな感じだしな。

「……世界樹は?」

「元の性質が根を広げる存在だ、個々との縁は重視しておらんのだろう。執着を持つ神もいれば、無関心な神もいる」

「あの女は執着強そうだな。メンヘラか~?」

ユエも面倒くさそうな顔で頷いた。

「王は地上に上がらぬ方が良いであろうな。認識に関与する攻撃を受けているならば。地上で王が錯乱して暴れでもしたら、自衛隊や隼人――あるいは総長なり連れてこねば止められんぞ」

「チッ。神殺しを成すまでダンジョン放浪か? 25年じゃ済まねぇぞ」

「良い機会ではないか」

ユエが小さく息を漏らすように笑う。

「王はモンスタートレインの結果、地下深くまで潜ったのであろう。今回は神々をトレインすれば良い。そして、世界樹にぶつけてしまえ」

「……なるほど。そいつは傑作だ」

俺は足を止めた。ユエ、ヒルネも立ち止まる。他の探索者たちは、そのまま地上を目指して走って行った。それで良い。

「分担するか。ヒルネは地上に帰って、スイたちと連携してくれ。解体した建物を、協会とエルフの里に分けてそれぞれで分析させてくれ。そこから分かるものもあるはずだ」

ヒルネが頷く。

「ユエは……」

「王と共に地下を目指そう。未知の相手には手札が多い方が良いであろう」

「そうか」

俺自身では目視できない存在も敵に含まれている。ユエはいた方が正直助かる。

「ナガさん、経路とかはどうするんですかー?」

「エルフの里には近寄らねぇようにしつつ、カルカがいた場所を目指すかな。場合によっちゃ、そのままさらに地下を目指す」

「じゃあ、これ持っていってください」

ヒルネからバッテリーが入ったポーチを渡された。

シンプルな黒色の合皮で出来ており、腰のベルトに簡単に引っかけられるようになっている。

「長丁場だ。地上からの支援頼んだ」

「まっかせてください!」

ピコン、と俺のスマートウォッチに通知が入った。差出人は支部長ちゃんからだ。

『未知の神格との遭遇、こちらでも把握しました。クトゥルー神話関連だとすれば、地上への影響は計り知れません。最大限の支援を確約いたしますので、地下での撃退を要請いたします』

ま、そうだよな。相変わらずの支部長ちゃんムーブだ。

「じゃ、散開!」

ヒルネは軽く片手を上げると、地上に向けて走り出した。

他の探索者と足並みを合わせなければ、誰よりも速い。

俺とユエも方向を変え、別のルートの階段から地下を目指した。

「なーるほど、また変なことやってるなあ」

八王子市。ガレージ風に改造された平屋で、山里がホログラムの映像を眺めていた。

配信映像の光に照らされた部屋には、ソファとテーブルを中心に、シャベルやクロスボウなど様々なガジェットが転がっている。

「依頼が回ってきそうだ、はぁ」

チームやんばる斧使いの比嘉が、シェーカーを傾けてプロテインを一気飲みした。

山里は困り顔をしながらも、ゆっくりと言葉を選んで言う。

「よっぽどな依頼が回る前に、うちから営業かけるぞ。主体的に仕事をとれば、一緒に神殺しやりましょうとは言われないさ」

「何をするんだ?」

「深層と地上の連携が必須だろ。俺らで深層に通信ビーコン立ててやろう」

ソファーの背もたれに後ろから覆い被さっていたシャベルマンが、すっくと体を起こした。

地下で起きた理解不能な異常事態。ナガが引き起こしたそれに合わせ、地上から対応を始めることに、多摩支部の探索者たちは慣れていた。

トラブルに驚く時期はとうに過ぎている。最前線にいない者たちも、各々の経験則で戦い方を模索する時期に来ていた。