軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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倒れた総長を回収しながら、小松が困ったような顔で訊く。

「あれは……知り合いか?」

「1.5人が知り合いだ」

「その半分はなんだってんだ」

「わかんねえ」

俺も知りてえよ。半分人間やめた知り合いの数え方って、どうすんのが正解なんだ?

ブランカをじっと見ると、すっと視線を逸らされた。逃げんなコラ。説明責任を果たせ!

「……斬るか?」

「一応待ってくれ」

斬った方が話が早そうなのがなんともって感じだな。

「ブランカ。これがゴブリンマザー……で合ってるのか?」

「知らない。マジで知らない。全部、なんかこいつがやっただけだし!」

ブランカは必死に前足でシャベルマンを指した。謎の貫頭衣を着て、新興宗教の教祖みたいになったシャベルマンが、ひらりと飛び降りる。

シャベルを背負い、ぶよぶよした芋虫みたいな生物を叩いた。

「わんわんお」

「すまん、もっかい」

「わんわんお」

聞き間違いじゃなかったか。つーか俺の指示が聞こえてるなら、絶対に日本語分かってるじゃねえか。

「日本語で頼む」

「恐らくゴブリンマザーだ。複数体のアラクネ、オークに保護されていた」

「日本語で言えるじゃねえか、ふざけんな!」

ちゃんと話される方が頭に来るのはなんでだ!?

意味の分からない苛立ちに地団駄を踏んだ。

「それにしても、これがゴブリンマザーか。どうにも気色悪い見た目してんな」

シャベルマンが連れてきたものをしげしげと眺める。

一見して全長8メートルの芋虫ってところだが、頭部のみがゴブリンに似ている。といっても似ているのは形だけで、サイズは2メートルほど。圧が半端じゃない。

下顎が大きく周囲の筋肉が発達しているせいで、どこか獣じみた印象が強まっているな。おそらくは、出産のためのエネルギーを摂るためだろう。

通常ゴブリンとの最大の違いは、体を支える腕や足が4対あることだろうか。どういう進化をしたらそうなるのやら。

「監禁されていた場所には無数の卵と、ゴブリンの幼体がいた」

「卵生かよ。まさに社会性昆虫みてえだな。マザーは産卵だけに特化してるから、シロアリ女王みたいな姿なんだな」

シロアリの女王なんかも、腹部がデカすぎて芋虫みたいになってるもんな。

そこで生まれた多数のベビーゴブリンが食料を持ち帰ってくる。一部はオドアみたいに独自の進化を遂げて、ダンジョン内の他種に抗えるような力を手に入れていくっつーことか。

『クルルルル……クルルルル……』

ゴブリンマザーが鳴いた。小さな声だった。俺たちからすれば、キモい生き物が小鳥みたいに鳴いて驚いただけ。しかし、この場には意味を理解する者がいた。

大鉈を抱えるオドアが、おずおずとゴブリンマザーの前に歩み出る。まるで神を目の前にした信徒のような振る舞いだった。

ゴブリンマザーが大きく口を開く。巨大な歯と歯の間に、唾液が糸を引く。その中に、オドアが自ら足を踏み入れた。

「おいおいおい」

オドアの動きに躊躇はない。あっという間にゴブリンマザーの食道に消えていった。静止しようとした手が宙ぶらりんになる。

ごくり、と喉を動かしたゴブリンマザーは激しく身を震わせた。大鉈も一緒に飲み込んだからじゃねえか?

「つーか、オドアの野郎死んだか?」

「まさか。腹減ったから食わせろとか、そんなことはあるまい」

そう言う小松も理解出来ていない様子だった。

シャベルマンのせいで、一度に情報量が多すぎるんだよ。元凶を叩こうとしたらひょいっと避けられた。うぜえ。

「何やってんのか理解出来ねえのは嫌だな」

未知は恐怖だ。

「ブランカ、変身してみてくれ」

「嫌。とにかく嫌。何が何でも無理」

人狼の価値観でもあれは気持ち悪いのか。あと気持ち悪い生物に変身したくない、という価値観があるのも意外だな。

もしかすると、人間社会で暮らしていたのが影響しているのかもな。

「おい、動きがあるぞ」

小松がマザーを指さした。

腹が伸縮するようにうねり、大きなものを押し出すような動きを見せる。腹の先端がぐぽりと開き、ちょうど人間がすっぽり収まる大きさの卵を産み出した。

爬虫類の卵によく似た、白く柔らかい殻に包まれた楕円形のものだ。粘液に包まれ、ぬらぬらと光っている。

ざくり。銀色の刃が殻を切り裂き、中からゴブリンが這い出てきた。

五体満足。まるで新品のように磨かれたチェーンメイルと、ところどころを補強する骨の装甲板。片手には剥き出しの日本刀を携えていた。

どことなく顔立ちや立ち姿に見覚えがある。

「……オドアか?」

『で……ある』

「しゃべったああああああ!」

シャベルマン以外の全員が叫んだ。

ゴブリンが喋ることあるのかよ。つーか総長の動きの学習みたいな、小さな変化の積み重ねかと思ったら、こうやって劇的に変化することもあるのな。

まるで芋虫が脱皮をしながら大きくなり、サナギを経ると急に蝶に変化するようだ。

小さな変化は個々で行い、経験値を蓄積したら、マザーの胎内を通じて大きな変化を遂げると。

『マザー……望む。オベロン麾下の首』

筋肉量こそ相変わらずだが、どことなく人間の骨格に近づいたオドアが、俺たちの前に跪く。

『洞窟ゴブリン……ケル氏族は……第0層種族に全面降伏致す』

刀の柄が、俺に差し出された。