軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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一瞬逃げ腰になる体をぐっと踏みとどまらせる。

この階段で一直線に、グレンデルを挟み込めている現状は好機だ。ぶっちゃけグレンデルの奥にいる総長の方が怖いが、ともかく敵はグレンデルだ。ここで仕留められたら美味い。

『いえ……この狭さであれば長い刃物は使えな――』

総長がすっと刀を横に振る。

なんの抵抗も感じさせない滑らかさで、切っ先が壁を通り抜けた。

『は?』

俺も同じ気持ちだよ、グレンデル。

このジジイ、何気ない仕草で壁を斬りやがった。まるでゲームの判定バグで、すり抜けを起こしているかのようだ。

グレンデルの視線が彷徨う。

下には不気味な脅威。そして上には俺。

「ああ、すまんな、グレンデル。こういうときの立ち回りで、正解を見たことあるんだよな」

切り札っていうのは、有利状況で切るためにある。不利を引っくり返す為ではなく、リターンを最大化するタイミングでぶっ放すもんだ。

トランプの大貧民だってそうだろ?

ジョーカーは、トドメを刺すコンボに使うのが一番強いのさ。

「借りるぜ、ロボ」

犬歯が伸びる。全身の構成が入れ替わっていくのを感じた。視線が高くなっていき、頭が天井にめり込んでいく。

皮膚の感覚がなくなっていく気がした。体が大きくなりすぎて、這いつくばるような姿勢で階段を塞ぐ。

「いや、借りるぜカルカ。こっちが正解か」

巨体と頑健な肉体を誇るリザードマンの王。変身で借りたのは、カルカの姿だった。

屋内戦で強いのは、ギリギリ動けるサイズの巨体なんだよ。

『飛竜以外にも変身出来たとは。誤算でした……ッ!』

「さて、力比べといこうぜ」

姿を変えたことで傷も癒えた。最高に体調がいい。

段差を掴む指の一本一本にすら、自分にはない逞しい力が漲るのを感じた。無理な姿勢にも構わず、右の拳を握り固める。

「殴るぜ、グレンデル。後ろには下がれねえからな」

スマートな豚面に冷や汗が伝った。下からゆっくり迫ってくる総長をちらりと見てから、グレンデルは大きく息を吐き出す。腹を括ったのか、拳にきつく鎖を巻き付けた。

『いえ、下がらせて頂きますよ』

くるりと俺に背を向け、総長に向けて手を伸ばしかけ――すぐに引っ込めた。カツン、と軽い音が響く。グレンデルが手に巻いていた鎖がバラバラになり、金属片が階段に散らばった。

グレンデルの手首から血が噴き出し、すぐに止まる。

『鋭い。が、鋭すぎて世界樹との相性は悪いといったところでしょうか』

「そうでもねえさ。俺らは完全な切断には弱い」

グレンデルの背中を突き飛ばすように殴りつけた。よろめきながら落ちていく。その胴体に横一線の斬撃が走った。

綺麗に上下に分割された体が、総長を巻き込むように下に落ちていく。ストライクってな。

壁をカルカの怪力で殴り、打ち破った。瓦礫と共に屋外にまろび出る。驚いた顔で俺を見るゴブリンを鷲掴みにし、近くを這っていたアラクネに投げつけた。

建物の入り口に手をかけ、剥ぎ取るように破壊する。マジでカルカの肉体は便利だな。力任せになんでも出来る。

「よお、グレンデル。生きてるか?」

『このようなところで……!』

まだ生きてやがったか。流石にしぶとい。

上半身だけで這って逃げようとするグレンデルの頭を、総長が掴んだ。喉元に刀をぐいと押しつける。

「首を取らねばならんのぅ。大将首じゃぁ」

『人間ごときに、負けるわけにはいかないのですよ……!』

グレンデルが目を剥きながら叫ぶ。

豚鼻が伸び、牙も大きくなったような気がした。首筋に冷たいものが触れたような錯覚を覚える。

これは、危機感。スズメバチの羽音に思わず首を竦めるような、誰もが身に備えた防衛本能。

俺と総長が同時に跳び退った。

グレンデルの肉体から、何かが放射されている。熱でも光でもなく、五感では知覚できない圧力だ。人によっては「覇気」や「オーラ」とでも例えるのかもしれない。一番わかりやすく表現するならば「緊張感」が近いかもしれない。

元から大きかった体がさらに肥大化する。筋肉質で締まっていたところに脂肪の丸みが乗り、分厚く膨らんでいく。プロレスラーのような体だ。

つるつるしていた皮膚に、灰褐色の毛がびっしりと生え揃う。額が丸く盛り上がり、大きなコブを形作った。

まるで猪だ。豚から、先祖返りしたかのような姿。

「王権、か?」

ロボは不完全ながらも、神すら模倣する変身能力を持っていた。そして、ロボから王権を継いだ俺にも変身能力が宿っている。

不死者達を率いるユエは、あらゆる死体を動く亡者に変えることが出来る。

無限に成長する爬虫類の特色を持つカルカは、他のリザードマンを圧倒する巨躯を手にした。

仮に王権が、その種の特性を煮詰め凝縮させた力だとすれば――。

『ゴォォォォォッ』

グレンデルが短く吼えた。

上腕だけで体を支え、切断された腹を引きずりながら頭を起こす。力に満ちた姿だった。

もはや、切り落とされた下半身など気にも留めていない。ただ真っ直ぐに、敵である俺たちを見据えていた。

オークは素早い生き物じゃない。

オークは魔法を使わない。

オークは特別賢いわけでもない。

オークは甲殻を持たない。

オークは毒も糸も炎も出せない。

ただひたすらに、好戦的でタフな生き物なのだ。そして、ただそれだけで森の頂点捕食者になり得る生き物でもあるのだ。