軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

59.変わってるひと【回想】

ヴェリュアンは、色んな話をしてくれた。

彼は、私の知らないことをたくさん知っている。

お肉や魚は鮮度が大事なのだと得意げに話す彼に、私は驚いて彼の話を聞いた。

私が知っているのは、既に調理されたお肉やお魚ばかり。お魚は、白くて四角い形をしているのだと思っていたら、なんと丸と三角を組み合わせたような形をしていると言われた。

驚きだ。

まさかお魚がそんな形をしているなんて。

私が知っているのは、既に捌かれた後の姿らしい。

彼の話を聞く度に驚く私に、彼は不思議そうな顔をした。

「アリアドネは何でそんなにものを知らないの?」

年下のくせに、失礼な子だと思った。

年齢は聞いていないけれど、恐らく年下だ。

生意気だけど、年下だから許してあげよう。

私は広い心で答えた。

「ヴェリュアンはたくさんものを知っているのね。先生に教わったの?」

「は?先生……?いや、村の子なら誰でも知ってるよ。なんでアリアドネは知らないの?」

「私だって、あなたの知らないことを知っているわ。例えば……そうね。てんとう虫はとても目立つ色をしているでしょう?それなのに鳥に食べられないでいるのは、苦い成分を体内に持っているからなの。どう?知らなかったでしょう?」

私は誇らしげに年下の少年に虫の生態を教えてあげたが、しかし彼の反応は素っ気ないものだった。残念なことだ。

「ふーん。知らなかった。でも、それ、何の役に立つの?」

「え」

「知らなくても困らないよね」

「それはそうかもしれないけど……」

なんて口が回る子供なんだ。

私は自分が子供であることを棚に上げて、彼を困った子供だ、と思った。

「でも、知っていたらもっと世界が楽しく見えるわ」

「世界が?」

また、ヴェリュアンが訝しげに言う。

役に立つか立たないかで言ったら、きっと役に立つことはないだろう。

でも、知っていたら少しだけ、世界の見え方が変わる気がするのだ。

ヴェリュアンがまたそのことを知らないのなら、私は彼にそれを教えたいと思った。

「ヴェリュアンはまだまだね。世の中にはもっと面白いことがあるのよ」

「面白いことって?」

「例えば、ミツバチは花から花粉を集めたあと、身体中に花粉がついて、とても可愛いの。私も図鑑でしか見たことがないけど、ふわふわで真っ黄色なの。それにね、ミツバチはひとに懐くらしいのよ」

「虫に、蜂……」

彼がぽつりと呟いた。

私は首を傾げる。

「なぁに?素敵なことだと思わない?ミツバチって、可愛いの。近くで見たことはないのだけど……あなたは見たことある?」

「遠目になら」

「そうなの!羨ましいわ。私は、ないから。やっぱり黄色いの?お腹はしましま模様?」

私が食いつくと、ヴェリュアンは私の様子に気圧されたようで、仰け反りながら答えた。

「遠目だから分かんない」

「それじゃあ、あなたも知る楽しみがひとつ増えた、ということね。実際に見たらきっと、驚くわ。刺されたらいけないから、あまり近付いてはいけないけど……花粉を集めているところとか、見てみたいわ」

「アリアドネは虫が好きなの?」

「花も好きよ!私、お外が好きなの。木の香りとか、草の匂いとか。雨の日の香りとか……そういうものが好きなの」

「変わってるね」

「そう?ヴェリュアンは知らないだけだわ。知ったらきっと、あなたも好きになるもの。木の香りも草の匂いも、とっても素敵なのよ。……日向ぼっこしていたくらいだから、あなたも自然が好きなんだと思ったのだけど」

尋ねると、彼は気まずそうに視線を逸らした。

「いや……日差しが気持ちよかっただけだよ。別に特別好きとかじゃ」

もしかしたら、正直に認めるのが恥ずかしいのかもしれない。彼は、結構照れ屋なようだから。

私はちいさく笑った。

「そう。でも……日向ぼっこはとても気持ちが良さそうだったわ。私もしてみたい!」

日差しの下、すやすやと眠っていた彼は実に気持ちが良さそうだった。

今日はいつもより気温が低いから、昼間でも気持ちが良さそうだ。

そう思って言ってみると、彼がちら、と私を見た。

やっぱり、綺麗な子だ。

こんなに可愛いのに男の子だとは、未だに信じられない。

「……今度、アリアドネも寝てみる?」

「いいの!?」

彼の提案に、私は嬉しくなって言った。

ヴェリュアンは、また気まずそうに──おそらく、恥ずかしがって、まつ毛を伏せた。

「別に、俺のものってわけじゃないし」

「そう……。それなら、お言葉に甘えて!またここに来るわ」

彼にそういった時、私はようやく、ここに来た目的を思い出した。

お母様に持って帰るレモングラスを探していたのだ。

つい、ヴェリュアンと話し込んでしまったが──早く戻らないと、城では私を探しているかもしれない。

騒動になっているかも、と思い当たって、今更ながら私は焦った。

「ね、ねえ、ヴェリュアン」

「なに?」

ぶっきらぼうに彼が答える。

彼は、言うことは辛辣だし、話し方もあまり優しくないけれど。

尋ねれば、ちゃんと答えてくれる。

心根は心優しい少年なのだろう。

「このあたりで……レモングラスが生えているところを知らない?」

「は?……レモングラス?」

彼は驚いたような、困ったような顔をした。

だけど、レモングラスの群生地の場所は知っていたようで、簡単に教えてくれる。

そうして、私はレモングラスを摘むと慌てて城に戻ったのだが──。

麓の丘をあちこち歩いて、下ったせいだろう。角度のためか、城がどこか分からなくなってしまい、私は途方に暮れた。

お母様のためにレモングラスを摘んだはいいものの、帰れなくなってしまった。

ヴェリュアンとはもう別れてしまったし、私は当てどなくあちこち草原を歩いた。

進めば進むほど、知らない景色が広がり、心が折れそうになった時だ。

「お嬢様!!」

悲鳴のような大声が聞こえてきて、パッと振り返った。

そこには、見慣れた騎士の顔があった。

彼は私を見ると、慌てて駆け寄ってくる。

既に視界が潤んでいた私は──レモングラスを片手に掴んだまま、彼に走り寄ったのだった。