軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九十一話 教会

正直、何があったか分からなかった。

ただ、ブレイクスルーが切れて魔力が無くなり、トウロウやブロとの戦いで消耗していた体力やら疲労が限界に達した。

追いかけてくる母さんとサディス。

二人の呼び止める声に、ついに俺の足が止まりそうになった時、途端に黒い渦のようなものが目の前に現れて、俺は飲み込まれちまった。

何かの魔法? 母さんかサディスの力? トレイナが直前に何か叫んでいたようだが、今となってはもう何だったのか分からない。

俺はそれほどまでに力を出し尽くしていたため、もう碌に抵抗もできずにその渦に身を委ね、気づけば意識も遠のいていた。

一体、何だったんだろう……

「……で……どーなってんだ?」

そして、気づけば再び意識が覚醒した。

背中はフカフカのベッド。温かいシーツ。そして、見慣れない天井。

体を起こして部屋を見てみると、まるでアカデミーの校舎内にあった保健室を思わせるような部屋だった。

医務室的な?

「……俺、捕まったのか? ってーと……まさか……帝都か?」

もしそうであるならば、最悪だ。

だが、すぐに俺のその予想は否定された。

『いいや。ここは帝都どころか……帝国ですらない』

「おう、オッス」

『随分寝ていたものだな。まぁ、それほどまでに力を使ったということだが……』

ベッドの脇には「ようやく起きた」とため息を吐いているトレイナが居た。

「しかし、帝国じゃねえ? 俺、結局どうなったんだ? あの渦は?」

『アレか……アレは色々とな……そして、貴様は……余が言うのもなんだが……相当面倒なことになっている』

「え?」

寝起きで伸びをしている俺に対して、いきなり神妙な顔でそう告げるトレイナ。

思わず俺もドキッとして、目が一気に覚めた。

「どういうことだ?」

『まず。貴様は、マアムとメイドに捕まる寸前、ある女の魔法によって遠くへ転移させられた……それが、あの渦だ』

「……え? な、なに? て、転移?」

『そうだ。ハッキリ言って、時空間を利用した移動は『ギガ級』以上の超高等魔法……空間や時を捻じ曲げるほどの魔力ゆえに禁忌とされていたものだが……』

「ちょ、ま、ええ? く、空間を? じゃあ、ここは本当に帝国じゃねーのか!? しかも、誰がそんなことを? まさか……シノブじゃねーよな?」

『あの忍ではない。そして……もっと面倒な存在だ』

シノブより面倒な存在だと? シノブより面倒な女がこの世に……いや……でも……シノブって結構いい奴だよな。

っていうか、何だろう……トレイナ……知り合い? 誰か知ってるのか?

「それに……その……母さんや……サディスはその……」

気になるのは、俺はこうなっちまったが、あの二人は?

『どうなったかは知らんが……まぁ、問題はないだろう。『奴』もマアムには恨みこそあるだろうが、今は復讐する気はないのだろう。だから、貴様をあんな大魔法で攫ったのだろう』

「え? さ、攫われ……おれ……攫われたのか?」

『ああ……』

「って、誰だよ! 一体、誰が俺を、そして一体どこに連れ来たってんだよ!」

『それは……ん?』

「あっ」

そのとき、トレイナも俺も、この部屋に近づいてくる気配に気づいた。

気配は……二つ……

「あらよっこいしょっと……さーせん、はいりやーす……って、うお、あんた起きてたんすか!」

「……ん……」

身構えていた俺だが、急に肩透かしを食らったかのように力が抜けた。

部屋の扉を開けて入ってきたのは、シスターの礼服に身を包んだ二人の女……いや、女は女だが……二人とも俺よりも……

「あ、初めましてっす。私、『カルイ』っていうっす! カクレテール魔法学校に通う13歳っす! そして、あるときは教会のシスターだったりと、マジ清楚な乙女っす!」

俺より歳下だと思ったら、まさにその通り。二つも下。そして、明るくウザイ。

赤毛の短いショートで、能天気で馴れ馴れしい態度でいきなり接してきた。

そして……

「……『アマエ』……ん」

カルイの後ろに姿を隠しながら、俺をのぞき込んでくる小さな女の子。

シスターのフードを深くかぶって目まで隠そうとしている。

一応、名前と思われるものを呟いて、無表情に俺に会釈だけしてすぐにカルイの後ろに隠れた。

「なははは、いや~、すまんっすね。こいつ人見知りでさ~、でも、慣れたり心を許したりしたら態度も変わるから、頑張って心を開かせてよん!」

そう言って、アマエという名の小さな子供の頭を撫でながら、カルイがケラケラと笑った。

いや、頑張れって……いやいや、その前に……

「つか、待て……その、色々あるんだが……まず、ここどこ? 俺、何でここに居るんだ? で、お前らは何? ……って、ちょっと待て。そういえば、お前……今……『カクレテール』って……」

そう、まずは状況確認だ。色々な「何」が過って整理がつかない。

「ああ、そうっす。国で言えば……ここは『カクレテール国』っす。そして、ここは首都にある『大教会』の医務室っす」

「……か、カクレテールッ!? そ、それって、あの鎖国している大きな島国のことか!?」

「うん、それっす!」

「って、じゃあ、俺、まずいんじゃねーのか?」

カクレテール。それは名前だけなら俺も聞いたことがある。

地上世界の海に浮かぶ島国。

他国とはほとんど交流をしないために、情報が遮断されている国。

かつて、魔界との戦争で人類のほとんどの国が結集して作られた連合軍にも参加せず、独力で魔王軍に抵抗していた。

鎖国しているからこそ、密入国をしたら処罰されるし、許可がなければ足を踏み入れることを許されない。

って、俺、この国に居るのマズイんじゃねーのか?

「いんや~、とりあえず、私もよく分かんねーっすけど、あんたのことは『大神官様』が連れてきたから、いいんじゃねーんすか? 『内戦』が終わったこの国では、大神官様が一番権力を持ってるっすからね~」

「……だ、大神官?」

大神官? しかも、サラッと内戦って……おいおい……

「まぁ、そういうことだ」

「「「ッッ!!??」」」

「気兼ねなくするがいい。まぁ……己を高めもせずにダラダラされても困るがな」

そのとき、俺は色々と頭が痛くなりそうだったのに、すぐにすべての考えが吹っ飛んで、気づけば反射的にベッドの上に立って身構えていた。

「えっ、あ……な……」

「ふっ、いい反応だ。それでいい。もし、私が敵だったら、あと数秒警戒が遅ければ死んでいたかもしれんのだからな……」

全身に汗が一瞬で噴き出た。

そこに居たのは、一人の美しい女。

長い黒髪を靡かせて、豊満で魅力的な肉体を黒い神官服で覆っている。

その手には、輝く錫杖。

一見すれば、ただの「美人でセクシーな女」という印象を抱くはずが、俺はこうして身構えている。

目の前の女から感じる異様な力に、俺の体が反応したからだ。

「だ、誰だ、あんたは……」

強い。そして、今まで出会った誰よりも禍々しい……キレたアカさんよりもずっと……深く濃い……

「私が……大神官……本名はいずれ教えてやろう、アース・ラガンよ」

「ッ、お、俺の名前を……っ、そうか……あの渦の魔法で俺をここに連れてきたのは、あんたか……」

「そうだ」

「……ふざけやがって……おい……その……母さんたちは……」

「安心しろ。マアムには色々と因縁もあったが、何もしていない」

「……本当……だろうな?」

「ああ」

チラッとトレイナを見ると、腕を組んだままジッと女を真剣な顔で見ている。

やっぱ、トレイナの知り合いか?

まぁ、こいつ……人間じゃなさそうだしな……

「まあ、しばらく体を休めるがいい。だが、さっきも言ったがあまりダラダラはしないでもらう。貴様をこの国に連れてきたのは……やってもらうことがあったからだ」

「……な、え、なにい?」

「それまでは、この教会に住むがよい。身の回りのことは、ここに居るカルイとアマエと……ん? おい、カルイ……『ツクシ』はどうした」

で、いきなりなんだ? 俺にやってもらうこと? それに、なんか、まだこの教会に他に女が……

「ああ、姉貴はたぶん、道場の方だと思うっすよ? 今でも健気に大好きな『マチョウ』さんに差し入れとかしてんでしょうね~……『副賞』のことを知らないマチョウさんが『あの大会』で優勝しちゃったら……二人は結ばれない……そんな悲しい運命なんすけど……って、ちょっと待つっす! 大神官様、今、このあんちゃんをここに泊めるって言いやした!? いやいやいやいや、ここは女の園っすよ!?」

「ふっ……そう言うな。この男は特別に許可をする。何よりも……この男こそが……マチョウとツクシを結ぶキューピットになるかもしれんのだからな。この男……少なくとも現時点ですでに……ブロよりも強いだろう」

「……えっ!? そ、そうなんすかっ!? いや、うえええ、マジっすか!? ブロさんより!? いんや~、ブロさんが居なくなったときはマジでどうなるかと思ったっすけど、マジすか!」

って、いきなり盛り上がりだした。

何なんだ?

ブロのことも知っている?

カルイって奴は目を輝かせて俺に詰め寄り、アマエとかいう奴もキランと目が光って興味津々そうに俺を覗き込んできた。

何が何だか分からない俺に、大神官は笑みを浮かべて……

「三か月後……この国で、ある大会が行われる。『魔極真流闘技大会』……貴様には、その大会に出て、そして優勝をしてもらう。それまでは、貴様をこの国から外へ出さん。まぁ、逃げられんように色々と仕掛けはさせてもらったが……」

「はっ!!??」

「優勝の特典は『莫大な財宝』……そして、『副賞』が付く。まぁ、副賞は優勝してからのお楽しみだ。大会運営を行う私と教会の者しか知らんが……良いモノだ……絶大なる名誉あるものだ。楽しみにして、励むが良い」

まきょくしん? 魔極真……それって、ブロが使っていた……いや、大会? しかも優勝? なんで俺が?

つか、……何で勝手に連れて来られた俺がそんなことまでするんだ?

だめだ……頭の中が何も整理できてなくて、ツッコミができねえ。