軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八十六話 最後のケジメ

これまで頑なに譲らなかったブロだが、喧嘩の敗北で観念し、一方でどこかスッキリとした表情でシツツイに反発した。

「俺はもう……あんたに飼われる犬をやめさせてもらうよ……」

「ブロ、お、お前、お前! 世話してやった恩を仇で返しおっておって!」

「ああ、だからすまねーな」

「ッッ!?」

怒り心頭で真っ赤になる豚。シツツイ。

そして、ブロは呆然としているスケヴァーンたちに振り返り……

「そして……こいつらも、もう自由にしてやってくれ」

「な……にィ!?」

「聞けば、割りに合わねぇぐらいの罰は受けているみてーだし……むしろ、こいつら使って私腹を肥やそうとしていたのがバレたほうが、お前さんの都合も悪いんじゃねーのか? まあ、俺の予想だと、こいつらの罪に関しては、公式に公平に裁かれず、お前さんの一存で色々と裏で手を回して陥れているもんだと予想してんだけどな」

「ふ、ざけるなるな! ドサクサに紛れて何を都合のイイことを言っているいる! 帝国のゴミクズでもある貴様が、この私に意見するとは何事かかか!!」

もちろん、そんなことをシツツイが受け入れるはずもない。

「よいか、何ゆえ今の世が平和であると思っているのか、のか! なあ、アースよ、お前の親父のおかげか、げか? あんなの、戦争のない時代ではただ穀潰しと同じ……そう、戦争のない時代、その戦争のない平和の世を継続させるのは我ら政治を行う者たちたち! その私の作った平和を享受している分際で、私に恩を返すどころか、意見するとは不届きものどもめ、もめ!」

「まぁ……その仕事の尊さはよく分からんが……ちゃんとケジメは付けるさ。俺とお前さんでな」

これはこれで開き直った様子でブロたちを激しく非難するシツツイ。

そうか……噂では、議会では昼寝ばかりしていると聞いてたけど、こいつは一生懸命仕事をしていたわけね。

まぁ、たとえどっちだったとしても……つか、ケジメ?

「おい、ブロ、あんたまだ―――」

すると……

「キキギギギギ、ギ、ギイ……ギイ!!」

「「「「ッッ!!??」」」」

奥の部屋の扉が開き、中から恐る恐ると小さな影がひょっこりと顔を出した。

それは、いつの間にか姿を消していたゴブリン。

「ヤサシ! あんた、何やってたんだい!」

スケヴァーンも驚いた様子で尋ねると、ゴブリンはビクビクとしながら姿を出し、そしてその後ろには……

「ガルルルル」

「きゅぴ? きゅい? きゅい」

デュエルモンスターで戦っていた、魔狼や虫などの魔物たちだった。

「お、おいい、貴様、何をしている、いる! それは、全部私のもので、中には今夜のオークションで買い手も付いたのもあるんだぞ、だぞ!!」

「ギッッ!?」

「醜悪なゴブリンが、何を勝手に檻から出している、いる!」

シツツイの怒鳴り声にビクッと怯えるゴブリン。

だが、それでも逃げる様子もなく、そして……

「ギギギ……ギギギーギ(ムッツァーゴウロ)……」

『……ん? ……ほう……『使える』のか』

何か、自身に魔法を放った。

一瞬、何かと俺たちは目を見開いたが次の瞬間……ゴブリンはブロに向かって……

「私はお願いします。この子達も助けてくださいと」

「「「「ッッッ!!??」」」」

なんと、ゴブリンが言葉を発した。

ゴブリンには知性があり、ちゃんと村や部族や文化が存在し、人間の言葉も理解する。

しかし言葉を理解しても、人間の言葉を発しない……と、図鑑で読んだことがあるが……

「なっ、しゃ、しゃべ……」

「私は話を聞きました。この子達の話を聞きました。彼らは何もしていないのに森で急に捕まえられた。そう言っています。私はかわいそうだと思いました。助けてください」

「な、な……なにいい!?」

人の言葉を発するゴブリンは、なんと魔物の気持ちまで代弁する。

「彼らは家族が居ます。言ってます。故郷に帰りたいと言ってます。戦いたくないと言ってます」

「……カ~……マジか……」

そんなゴブリン……ヤサシの言葉に、ブロは頭を抑えて複雑な表情を浮かべた。

「魔物は動物と同じだと思って……世の中にゃ闘犬だ、闘牛だ、闘鶏だもあるし、これぐらいならばと……なんてこったい……」

人の言葉を発しない動物や魔物だからこそ、心もあまり痛めなかったのかもしれない。

人間だって、牛や豚は言葉を発しないから何も考えずに食える。

でも、こうして言葉を聞いちまったら……

「は、はははは、これはいい、いい! 人の言葉を喋るゴブリン……お前がそんな希少だとは知らなかった、った! 見世物小屋でもオークションでも金になりそうだ、うだ!」

とはいえ、そんな悲痛なゴブリンの言葉はシツツイには届かなかったようだ。

なんか、ここまで来ると、なかなかこいつもブレないやつだと思ってしまう。

そして……

「ったく、ようやく中に入れたぜ?」

「おいおい、あいつらやられてんじゃねーか? 情けねえ」

「おーい、大臣様、無事ですか~い?」

「おっ、でも見ろよ。なんか、バケモンも忌々しいあのブロのガキもボロボロじゃねーか」

「俺らの出番はなしか~?」

そして、その時だった。

「っ、遅いぞ、いぞ! 何をやっていた、いた! 金を払っているのに、何をしている、いる! もう少しでこの私が、死んでいたかもしれないのだぞ、だぞ!」

「ワリーっすね~、大臣。入り口がごった返しで中々入れなかったんすよ~」

「言い訳はいい、いい! 早く、このゴミクズどもをどうにかしろ、しろ!」

今度は賭博場の入り口からゾロゾロと大人の男たちが何十人も現れた。

誰もがカタギを思わせず、今、この床で転がっているシツツイの護衛たちと同じ雰囲気を感じさせる。

「おいおい……なんだい、こいつら……って、こいつら!」

そして、大人たちの姿を見てブロの表情が変わった。

「そうか、ここに転がっているやつらも……どこかで見たことあると思ったら……ボクメイツファミリーの!?」

ボクメイツファミリー? それって、壊滅したはずじゃ……

「ふふふふ、そうだ、うだ。幹部たちは流石に無理だが、下っ端の構成員だったこいつらは短い収監で済んだのだ、のだ」

「な、にい!?」

「最近は護衛に公式の戦士を雇うのも苦労し、何よりも裏で何かをするにも監視されて、マジメで融通の利かない奴はすぐに陛下やヒイロに報告しようとするので不便でね、でね。その点、こいつらは金さえ払えば何でもするので、便利だ、だ」

刑期の短かったチンピラを雇って私設の護衛団を結成し、さらにはそれを使って裏でコソコソ。

もう大臣というより、完全にこいつの方がマフィアという感じだった。

「へっ、任せてくださいよ、大臣。ブロにはかつて煮え湯を飲まされていたんでね」

「バケモンは生け捕り、あとはズタボロで問題なし?」

「ん? ガキがもう一人……ん? どこかで見たことあるような……」

そして、ゾロゾロと現れた大人たちが笑みを浮かべて俺たちを取り囲もうとしてくる。

明らかに暴力的な空気を醸し出している。

で、こっちはこっちで、ブロはもう喧嘩できる体じゃねーし、他のやつらも……

「ハニー……今こそ、初めての共同作業よ」

「いや……お、お前……」

と、俺の隣でものすごいやる気満々なシノブ。どうやら、俺と一緒に暴れる様子。

まぁ、いいけどな……

「仕方ねえ、それじゃあ――――」

思い通りにやられるものかと、俺は大人たち全員を蹴散らそうとした……が……

「もういいよ……お前さん」

「ブロ!?」

そう言って、ブロは壊れた両足を引きずりながらシツツイの元へ。

そして……

「不良のブロは……これで今日限り店じまいだ!」

「ッッ!?」

ブロは、これまでの戦いで一度も見せなかった、拳を使った。

「「「「「ッッッ!!!???」」」」」

俺との喧嘩では蹴りしか使っていなかったブロ。

足にこだわりを持っていた。

その男が両足を痛めているとはいえ、自分の引退宣言と共に握った拳でシツツイを殴り倒した。

「ぷえ、ぱ、あ……きしゃまあああ!」

頬を腫らし、鼻血を吹き出し、涙目になってシツツイは床をのたうち回った。

その光景に俺も、そして大人たちもすぐに反応できなかった。

そんな状況の中、ブロはスケヴァーンたちに振り返り……

「こんなもんで済むとは思わねえが……お前さんたちの恨みは、どうかこれで治めてくれやしねーか?」

「あ、あんた……」

「そして……あとは全部……帝国に委ねるさ」

どこか覚悟を決めた表情をしたブロは、のたうち回るシツツイの胸倉をつかんで無理やり引き起こす。

こいつ……

「おい、ブロ! あんた何をしようと……」

「このままこいつを引きずって、俺は帝都に出頭する」

「は……はぁ!?」

「この賭博場での魔物を使った催しや取引……反帝との繋がりも含めて、すべて証言する」

それが不良を卒業すると言ったブロのケジメ。

だが、それを口にした瞬間、当然大人たちからは怒号が上がった。

「なっ、っざけんな、このクソガキャ!」

「おうおう、俺らの金づる……大臣……そして、この賭博場を潰す気か?」

「これからまた、ファミリー復活へ向けてガッポリ稼ごうって時に……」

「ちっ、んなことさせるか! おい、お前ら、やるぞ!」

「おう、このガキャ、ぶっ殺してやる!」

そうだ。そもそも、そんなことをこいつらが許すわけがない。

そして何より……

「ぷっ、ぎゃは……ぐわははは、ば、ばかめ、かめ……わ、私を誰だと思っているか、このクズめ……」

「……ん?」

ブロに引き起こされたシツツイが涙目になりながらも、嘲笑の笑みを浮かべた。

「私は大臣だぞ、だぞ! か、仮にこのまま帝都に私を連れて、帝国騎士に引き渡したとして、だ、誰がお前のようなクズの証言を信じると思っている?」

「…………」

「甘い、そしてこの愚か者め、め! そして貴様は今回の暴動事件の首謀者で、何よりも偉大なる大臣たる私を殴ってただで済むと思うな、うな! 必ず死刑台送りにしてくれる、れる!」

そうだ。相手は腐っても大臣。

そもそも、何かあったとき、いつでも切り捨てられるように、ブロたち不良を賭博場で働かせていたんだ。

野蛮な不良の証言と、帝都中央の大臣の言葉。どっちを世間は信じる?

俺は? だが、もう今の俺じゃ……

「ふぉっふぉっふぉ、それまでになさい」

「「「「ッッ!!??」」」」

ゴブリン、大人たち、そして今度は一体誰だ?

次々と新たに現れる連中に俺は「またか!?」とツッコミそうになったとき、俺はその人物を見て、ハッとした。

「情熱を燃やした若者の煌き……ついつい、見入ってしまっておったわい。ゆえに、これ以上は蛇足……それまでにするのじゃな」

そこに居たのは一人のジーさん。

「そちらのハーフの青年……君の証言が正しいことは、このワシが証人となろう。君がケジメを取って全てを語るというのなら……その発言は、ワシが守り、そして公正公平に裁かせるよう、ソルジャ皇帝に直接伝えよう」

俺を中に入れてくれた、あのジーさんだった。

「…………あっ……ど……ドウシテ?」

「……シノブ? どうした?」

「……ハニー……またあとで…………好きよ♡ ドロン」

「お、おい!?」

ジーさんを見た瞬間、俺の傍らに居たシノブが声を出し、なんか後ずさりし、最後はドサクサに紛れて俺に恥ずかしいことを言い、投げキッスをしながら煙に包まれて姿を消した。

いや、なんで!? 知ってるのか? そういや、このジーさん、ジャポーネ出身ぽかったが……

「おい、今度は何だ、客と不良のガキどもは全員外に出したんじゃねーのか!」

「どこのクソジジイだ、テメエ!」

「おいおい、なんだ~? あんた、お客さんかい? どこのどなたか存じませんが、ちょっと今は内部のゴタゴタでして、危ないので退席していただけませんかね~?」

「そう。これは、あくまで帝国内での問題。どこの国の貴人様かは存じませんが、深入りは禁物ですよ~?」

「オラ、さっさと出てかねーと、沈めるぞ!」

大人たちは貴人のジーさんに容赦なく罵声を浴びせて「関係ない奴はすっこんでろ」と言っているような言葉を放つ。

そう、ジーさんがどこの何者でも、恐らくは他国の人間。

そしてこれは、「帝国内での問題」である以上、干渉するものではないと釘を刺す。

だが……

「だまらっしゃい! 事が魔族という種族を越えた問題が関わっている以上、同じ地上に住む者として国境は関係ない! 人類共通として定められている国際法の違反の疑いあらば、帝国のみの問題にあらず! そして、シツツイ大臣……為政者にあるまじき言動や暴言、そして権力を使っての度を越えた行いについては到底看過することはできぬ」

ジーさんが初めて声を荒げた。

「シツツイ大臣。この賭博場を色々と調べさせてもらった。おぬしが仲介して招き入れた商人たちは、実はそのほとんどが反帝……そして、反『連合軍』の関係者ばかりじゃった」

「ぬっ……な、ぬっ……」

「先ほど、一人の青年がおぬしを仲介させずに取引をし、それが反帝関係者ということで問題視しておったようじゃが、それもすべておぬしが仕組んだことであろう? 目的は青年たちに賭博場のルールの改定を受け入れやすくさせるため」

「うぐぅ!? ちょ、な……そ、それは……」

「連合軍加盟国の為政者でありながら、魔族の人権を無視して、反帝・反連合組織の資金源ともなっているこの場を提供しているおぬしを、お天道様もワシも決して許さぬ!」

このジーさん、やっぱり只者じゃねえ。そして……

『あ……こやつ、まさか!? そうか……そういうことか……』

トレイナも何か気づいた様子だ。