軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七十九話 交換条件

ブロの後を追ってみると、飲食エリアで四人程度のいかつい奴らを背後に立たせ、バクバクと油っこいものを食っている肥えたオッサンが居た。

オークと見間違うようなブタ感丸出しのデブオヤジ。

俺は見つからないようにフロアのテーブルの影に隠れながら様子を伺う。

「やァ、ブロくん。儲かっているのかなぁ? かなぁ?」

「おつかれっす。ようこそ、シツツイ大臣」

口に物を入れながら汚く喋るオッサン。

見ているだけで不快になるのが、帝国の大臣の一人。シツツイ。

相変わらずだな……

「噂は聞いているよ。よ。客は、盛り上がっているようだね。だね。これも、君の人徳だね。だねえ」

「どーもっす」

「働いている娘たちも、体を売っている娘が『あまり居ない』のか、昔のように病気などでボロボロになっているのもいないようで、皆いつも健康的で大変よろしいねえ。ねえ」

シツツイの向いの椅子に座って苦笑するブロ。どうやら、ブロも褒められているものの、あまりいい気分ではないようだ。

すると……

「ただ……一部の客からは少し不満が出ているねぇ。ねぇ」

「……はい?」

「確かに楽しんでいるが、昔の方が熱狂して興奮した……とね。とね」

そのとき、最初はニコニコしていたシツツイだが、口元に笑みは浮かべているものの、眼光だけは途端に鋭くなった。

「昔って……女とヤリ放題……商人に言えば何でも手に入り、ギャンブルもデュエルモンスターも際限なく、ルールなんて無い怪宴のことすか?」

「そうさ。富裕層にとっては、金を使って法に触れることをすることで背徳感や興奮を得るものだね。だね。こんな健全な集いの場では、ワザワザお忍びで顔を隠してまでこの街に来る必要もない……とね。とね」

何やら話が急に怪しくなってきたな。あのオッサン、何をしようってんだ?

「客がどう思おうと、優先すべきは最低限のルールを守ることだ。この街を守るよう、俺たちが目を光らせる。それが、お前さんに与えられた俺らの使命なんじゃないのかい?」

ブロもまた、笑みが消えて真剣な表情で一歩も引くことなくシツツイに答える。

すると、シツツイはその言葉を待っていたかのように、いやらしい笑みを浮かべた。

「そう。ルールを守る……しかし、それは君たちも同じだね。だね」

「な、に?」

「これを見たまえ。まえ」

そう言って、シツツイは何かの紙の束をテーブルに放り投げた。

「情報が入ってね……当初のルールでは、オークション品を持ち込む商人や商会は必ず私が間に入って仲介することになっている。いる。商人の信用調査も必要だからね。らね」

「ああ。だから俺たちは……」

「しかし、私が聞いていない商人がここに出入りして、商品をオークションで売ったとね。とね。更に、その売り上げに関しては我々にマージンが入っていないとね。とね」

その言葉を聞いて、ブロは驚いたように紙を取って中を見る。

「んな、バカな。俺らはちゃんとお前さんを仲介させた商人しか出入りさせてねえ。それに、オークションの売り上げだって、あんたらに手数料として還元して……そんな『直営』はしてねーはず……おい、オークションの管理は……」

そのとき、ブロが勢いよくバケット頭に振り返った。

「ッ!? あっ……あ……」

すると、バケット頭は顔を青くして途端にうろたえ出した。

「おい……」

「あ、ブロ、その……俺……その……」

「ッ、お前さん……まさか……」

バケット頭には心当たりがあるのか……いや、心当たりというより……

「ち、ちげーんだ! 俺はただ……いつも、世話になってる商人のおっちゃんが、どうしても友達の商品を入れて欲しいって……すぐにまとまった金が欲しくて、帝国の審査を受けていると時間がかかるからって……信用できるからって……いや、俺、最初は断ったんだけど、どうしてもって……」

バケット頭の言い訳のような言葉に、ブロは目を瞑ってパシッと自身の頭を叩いた。

「申告してねーんだろ? ……お前さん……それで、謝礼は貰ったのかい?」

「ッ、い、いや……も、貰ってねえ……」

定めたルールに従わずに隠れて違反を行った。そのことについて、謝礼は貰ったのかというブロの問いに、バケット頭は慌てたように首を振る。

だが、態度を見れば明らかだ。

そしてその様子を眺めながら、シツツイは告げる。

「この商人は……異大陸の闇の組織と密接に取引を行っている……つまり、『反帝』の関係者だ。だ」

「はん、てい!?」

反帝……つまり、反帝国組織。

マフィアたちのような存在だ。

「皇帝陛下が率先して、帝国と反帝との繋がりを絶って、反帝を撲滅して国を浄化しようというのに、これはどういうことだね? だね?」

「そ、そんな……俺、反帝だなんて全く知らなくて……」

「ふふふ。これで、もし、反帝から金銭を受け取っていたりしたら、更に問題になる。なる」

シツツイの言葉にバケット頭は全身を震わせて脂汗を流している。

自分のやってしまったことの重大さを理解した様子だ。

「……貰ったんだな?」

「ぶ、ブロ……俺……」

「貰ったんだな?」

全てを確信しているかのようなブロの真剣な問いに、バケット頭も観念したのか力なく頷いた。

「すまねえ、ブロ……お、俺……いきなりポンと渡された金に……ダメだとわかってても、単なる小遣いだから大丈夫なんて言いくるめられて……それで……」

「あ~……あ~……ったく~……」

椅子の背もたれに体を預けながらズルズルとずり落ちて溜息を吐くブロ。

そして疲れたように顔を上げて、シツツイに尋ねる。

「で、どうしろと? クビ……って言うために、お前さんが来るとは思えないんだが……」

その問いにシツツイも食事の手を止めて身を乗り出した。

「確かに、このことを明らかにし、陛下の知るところとなれば、この賭博場も終わりで、君らの居場所は無くなるだろう。ろう」

「そうすね……」

「だが、ここは私としても潰したくないし、何より私は君たちを家族だと思っている。いる。不良というヤンチャな子供である君たちだが、その一度の過ちで大人が庭を奪うのは忍びない。ない。親である私が何とかしよう。よう」

ルールを破った不良たちには罰を、ではなく、何とかしようと口にするシツツイ。

だが、「家族」なんて言葉を使っているシツツイにまるで温かみは感じない。

むしろ、あくどい匂いがプンプン漂っている。

「しかし、父親である私が色々と苦労して罪を許すのだから、君たち子も親である私の願いを少しぐらいは聞いてもらいたい。たい」

ほらな。案の定、「交換条件」を持ち出してきた。

ブロもそれは予想できていたようで、大して驚くことなく黙って聞く。

そして、シツツイの持ち出す条件は……

「この賭博場におけるルールを一部ゆるくしたい。たい。正確には、デュエルモンスターとオークションだ。だ」

その言葉に、ブロは「やっぱり」といった表情でガックリと項垂れた。

そして、その時だった。

「さあ、皆様! 今日のデュエルモンスターの前半の部の終了。後半を始める前に、ようやくお待ちかねのオークションを始めるっす!」

賭博場中央で魔物同士を戦わせていた檻の前で、不良の男が声を上げると、貴人たちが一斉に歓声を上げた。

「魔物同士の戦いに興奮した皆さん、それだけで満足できない。見るだけじゃない。自分が魔物のマスターとなって、自分の魔物を戦わせたり、育てて強くしたりして、デュエルキングになりたいというお方に向けられた……魔物のオークションを開始します!」

魔物のオークション。

「今回購入した魔物、または既に魔物をお持ちの方は、本日のデュエルモンスター後半の部に自らのモンスターを参加させて戦うことができます! デュエルキングを目指す男の中の男……居るんなら、出てこいやぁ!」

ジーさんの話を聞いて予想していた通りだった。

自分が魔物の主となる。つまり、魔物を購入するためのオークション。

「まず最初は、竜族にも勝るとも劣らない強烈な顎を持ち、あらゆる物を噛み砕く凶暴な肉食種。水陸ともにその力を発揮し、イカした口ひげを生やした魔界鰐……ダンディクロコダイルだ! さあ、最低落札価格500万からっす!」

「550万!」

「600万!」

「630万!」

「700万!」

首輪や口輪で拘束されながら連れてこられた魔物。興奮した貴人たちが一斉に立ち上がって手を上げてセリ落とそうとする。

そう、これが「オークション」ってやつだ。

そして、その現在行われているそのオークションのルールを改正するのが、シツツイの要望。

「実は犯罪者を収容する帝国大監獄では……地上で罪を犯した犯罪者の魔族を多数抱えている。オーガ。ダークエルフ。魔人族。サイクロプス、ミノタウロス、ヴァンパイア等々、それら知能のある魔族も、デュエルモンスター及びオークションの対象にしたい。たい」

そして、そのとき……

「更に、雌の魔族を性欲処理の道具としてオークションするのも面白いかもしれない。ない!」

ニタニタと下衆な笑みを浮かべながらそう語るシツツイの姿に……

『……ふん……やれやれだな……』

「ッ!?」

俺の傍らに居たトレイナが、表情こそ変わらないものの、明らかにその身から溢れる感情には怒気が漂っていた。

「戦争の捕虜ではなく、犯罪をして捕まった罪人。本来死刑の対象になってもおかしくない存在、収容しているだけで施設の維持のために税金が投入される。れる。こんなバカな話はないからな。らな」

そんな、大魔王の怒りを知ることもなく、法に外れたことを饒舌に語りだした。

「知能の高い魔族に対してはそれが認められてない……それがバレたらどっちにしろ、勇者ヒイロも黙ってないだろ」

一方でブロは目を瞑りながら、気の進まない様子で言葉を返す。

しかし、その言葉に構うことなくシツツイは言う。

「その心配が無くなりそうでね。でね。勇者ヒイロは間もなく権力を剥奪される。れる」

「あっ……」

「奴の息子がやらかしたおかげで、今、ヒイロは全ての責務を放棄している。いる。いかに陛下とヒイロが七勇者同士の無二の友であろうとも、その責任の追及は行うであろう。ろう」

そして、その中で俺と親父のことが出てきた。

その話は、ここに入る前に貴人たちが言っていたこと。

色々と俺も複雑な気持ちにさせられる。

「ためしに、今日の後半の部のデュエルモンスターで、数体の魔族を使ってみたい。たい」

「ぬ、な……今日からだと?」

「そうだ。うだ。驚くな。な? ぐふふふふふ、とんでもないバケモノたちを今日は用意した」

そう言って、シツツイは背後に居るいかつい奴らに振り返る。

「おい。おい。奴らを運んで来い。こい」

「畏まりました」

そう言われて、一人の男がその場を離れてどこかへ行く。

そして、シツツイがもう一度ブロに振り返ると……

「ぐふふふふ、楽しみにしたまえ。きっと客たちも気に入る」

「断る」

「そう、かつてあの大魔王も……え? な、ええ?」

上機嫌に身を乗り出して提案をしていたシツツイだったが、ブロのその一言で目を丸くして狼狽する。

「な、え、……はぇ?」

まさか断られると思っていなかったのだろう。そんなシツツイに、ブロは強い目で告げる。

「悪いことをしたのは、『俺ら』だ。ならば、やるべきは許してもらうことじゃなくて、ケジメを付けることだ。その結果、ペナルティや、クビや、居場所が無くなってしまうなら仕方がねぇ」

「ッ!?」

「そして、俺が頭だ。なら、俺がケジメを取る。給料半額でもクビでも……指だろうと腕だろうと好きなもん持っていけ。その代わり、ルール改正は受け入れねぇ」

迷うことなく、答え……指?? あいつ、何を言ってんだ!?

「俺ら不良は世の中の常識や評価に囚われねぇ。テメエが心に決めた生き様にこそ従う。だから、罪を許してもらう代わりに望まねぇことを交換条件にされるんなら、断らせてもらう」

「ば、バカな! な! お前は自分が何を言っているのか分かっているのか、のか!」

「バカ? 誰に言ってんだい? 不良がバカは分かりきったことだろう? それこそが、お前さんが利用しようとした不良という種族さ」

罪は償う。ただし、交換条件は飲まない。

そこには、ブロという男の信念のようなものが宿っていた。

「貴様ぁ……連帯責任で全員クビにするぞ? ぞ? 私にはその力がある。ある!」

「それもまた、しゃーねーさ。だが、お前さんの要求は受け入れねえ」

「ッ、ブロ……きさま……」

そして、当然そんな不良の言葉を素直に受け入れないのも、また大人だ。

シツツイが手を上げると、後ろにいた奴らが前へ出た。

いや、そいつらだけでなく、この賭博場のフロア中に配置させたのか、ゾロゾロと強面の大人たちが一斉にブロの周囲に集まりだした。