軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七十話 いざこざ

カンティーダン。偽物も本物も入り交じり、超高価な物も激安な物もどう判断するかは売る側と買う側次第。

一銭でも値切ろうという買う側と、びた一文負けないという売る側のぶつかり合いがあちらこちらで繰り広げられていた。

「ほ~う……あの大魔王トレイナ直筆の文書か……」

「ええ! これは、魔王軍のゼッツメーツ領土を連合軍が制圧した際の現場で発見されたもので、大魔王トレイナが領土を取り仕切っていた部隊長に送った命令書です」

そして……

『そんなものを余は送ったことなどない。大体、余は直筆の文書は残さぬ。命令は魔水晶で行ったし、余が直接命令するのは六覇クラスだけだ。部隊長クラスに送ることなどまずありえぬ』

中には全知全能を誇るトレイナが知るものまで多くある。偽物交えて。

「これは二世紀前、滅亡したモナイ王国の国王が持っていた輝きの杖。歴史的価値から見てもとんでもないものですが、今なら何と……」

『ただのガラス細工が埋め込まれた偽物だな。そもそもあの国の王が持っていたのは、太陽の杖……』

「これは、かつてジャポーネが誇った伝説の剣士コンドゥの愛刀・コテツ!」

『本物はかつて余がへし折った』

というか、さっきからトレイナの話を聞いている限り……

「……偽物しかなくねーか?」

『まぁ、こんなものだ。カンティーダンは千三つというからな……』

「はは、千個あれば本物は三つってか?」

『いや、三つも言い過ぎかもしれんな。もっと少ないかもしれぬ』

最初は一攫千金……なんて考えていたが、現実はそんなに甘くなさそうだ。

だって、本物が無いなら儲けるもクソもない。

『しかし……余も実際にこの地に来るのは初めてだが……もう少し『裏』の気配があると思っていたがそうでもなさそうだな』

すると、トレイナもこの街に対して少し違った印象を感じたのか、そう呟いた。

「裏って?」

『裏と言えば裏だ。言ったであろう? この街は伝説級のお宝と偽ってコピー商品を売ったりしている詐欺まがいな犯罪が行われる一方で、経済効果があるために潰すこともできない街と』

「ああ」

『だが、潰すことが出来ないことにはもう一つ大きな理由があった。それは……『ケツ持ち』の存在だ』

「ケツ持ち?」

『うむ。こういった場所では、法的に禁止されているものも裏で取引されている。更には実際の価格とは違う偽物を売りつけたりな。だが、そういったものを扱えば当然トラブルが起こる。そういったトラブルを解決するにあたって、ケツ持ちをしている組織がある』

「……ああ……用心棒的な……」

『そうだ。そやつらは、庇護下に置いた店や商人から、みかじめ料を貰って成り立ち……時には自分たちが仲介者となって、各国の高官や、時には金になるなら魔界とも裏取引をしていた』

どこか『懐かしそう』に語るトレイナを見て、何となく俺もピンときた。

「なぁ、ひょっとして魔王軍も……」

『ああ。余は直接携わらなかったが……数十年前からこの街に居た組織は魔王軍と多少関わっていたな』

「おいおい……戦争中に人間が魔王軍と取引って……」

『まっ、世の中には様々な人間が居たということだ。法や秩序に従わぬ……『マフィア』という存在がな』

マフィア。その名なら聞いたことが……ん? そこで俺はあることを思い出した。

「あれ? そういや、マフィアで思い出した……確か、数年前、親父が率先して『マフィア排除活動』とかっていうので動いていて、大きな組織とそいつらと繋がってた大臣が処分されてたな……名前は……えっと……」

俺も幼かったし、あまり興味なかったし、まだテストに出ない範囲だったのであんまり覚えてない。

でも、帝国内でそういった大きな出来事があったことは認識していた。

『……『ボクメイツ・ファミリー』……か?』

「ああ、そうそう! それそれ!」

名前を言われてようやく思い出した。

そして、それはトレイナも知っている組織だったようで、少し驚いたような表情だった。

『そうか……奴らは滅んでいたか……』

「知ってんのか?」

『まぁ……利用していたしな。それに、組織のボスは武闘派としても知られた存在で、六覇の一人もその力を認めていたからな』

そう言って少し懐かしそうで……

『ボクメイツ・ファミリーのボス……『イナイ』はその剛腕で組織を大きくし、恐いもの知らずの大胆さで本人が魔界に乗り込んで直接魔族とも取引していたほどだったという話だ』

「ああ……イナイか……確かに、帝都でばら撒かれた号外ではそんな名前を見たな……帝国騎士が捕えたとか」

『そうか……ならば……もう……』

どこか複雑そうな表情をトレイナは浮かべた。

ん? どうしてだ? トレイナは直接取引はしてなかったって言ってたが、なんかそれだけじゃなさそうな気がする。

トレイナが嘘をつくとは思えないが、何か重要な取引でもして思い入れでもあったんだろうか?

そのことを聞こうとしたとき……

「誰か~、助けてぇ~」

「ん? うおっ!?」

角を曲がったところに人だかりができていて、そこには網に捕えられた全裸の女が助けを求めていた。

その女を見た瞬間、俺はハッとした。

「テメエはさっきの詐欺女ぁァぁァぁ!!」

「へっ? げっ、さっきのガ……ボクじゃない。あれ~、ど、どうしたの怒ってるのかな?」

女が俺のことを見た瞬間、顔を青ざめさせやがった。

正直、どうしてこんなことになってるとか、今は全裸とかそんなことよりも怒りが勝っていた。

「おい、コラぁ! さっき俺からぶんとった5万を返せゴラァ!」

「ちょ、待って、もう無いのよ!」

「無いわけあるかァ! ついさっきだぞ!」

「本当よ、見てよこの格好を、スッポンポン! 変な女の子に『このお金は没収』とかって盗まれたのよ!」

そう言って裸の体と、何故か真っ赤に腫れあがって、まるで憎しみでも込められたかのように何度もビンタされたようなデカ乳は……っていかんいかん、そうじゃない!

また、乳とかに騙されんじゃねえぞ、俺!

「ざっけんな! 人の善意を踏みにじりやがって! 純情を! どうしてくれんだ!」

「な、べ、別に騙したわけじゃ……ちゃんと壺はあげたじゃない。あの壺が5万で納得してお金出したのは君でしょ?」

「二束三文の壺で、嘘の同情話を聞かせて金を持っていた奴が屁理屈こねてんじゃねえ!」

俺はまた惑わされねえように、手形の付いたオッパイ……乳房からは必死に目を背けながら、女に食って掛かった。

正直、女が何で強盗にあったのかは知らねーが、因果応報だろうとも俺の金は返してもらわねーといけねえからだ。

だが……

「いーや……盗んだわけじゃなく、ちゃんと壺という対価を渡されて金も渡した以上、取引は成立している。成立した後にゴネて野暮なのはお前さんだぜ、兄ちゃん」

「そういうこっと。成立した取引を暴力で解決しようってのは、街のルールに反するぜ?」

「ま、騙される方も悪いってことでよ」

その時だった。

人ごみを掻き分けて、三人の男たちが前へ出て来た。

「あん? なんだよ、あんたらは」

出て来た男たちは若く、俺よりは年上だろうが十代後半から二十代前半くらいか?

全員が何故かコートのような長い黒服を纏い、その服には何やらド派手な刺繍が施されている。

髪型も、バケットみてーなヘンテコな突き出した頭の奴も居るし……いや、ほんと何なんだ?

「よう、デイト。変な女に襲われたって聞いて駆けつけてみりゃ……どうなってんだ?」

「ちょ、遅いわよ! 『特攻グレン隊』! 早く下ろして、私から金奪った女を捕まえて! そのガキもどうにかしてよ!」

「ったく落ち着けって。大体、こいつはまだガキじゃねえか。ま~た、カタギを引っかけたか?」

そして、女とも知り合いと見える……というか、この街では有名なんだろうか?

「おっ、グレン隊の兄ちゃんたちだ」

「今日もダセえがイカした格好してるぜ!」

「よっ、お疲れ兄ちゃんたち!」

「おい、今日は『ブロ総長』はいねーのかい? 居たら、あとでいい酒が入ったから持ってってくれ」

街の商人たちがこの状況に笑みを浮かべて歓声を上げている。

だが、俺からすればヘンテコな男たちが急に邪魔してきたようにしか見えねえ。

そして、その男たちは馴れ馴れしい態度で俺に近寄ってきた。

「よう、兄ちゃん。この街にはルールがあってな。一度成立した取引を後からゴネる……ましてや暴力に訴えようとするのは御法度なんだよ。この尻軽女に騙されたのは気の毒だが、まぁ授業料だと思って諦めるんだな」

「そういうこっと。ちゃんとルールを守らねえと、俺らみたいなのが来るってわけだ」

そう言って、男たちは俺の肩を組んだり、頭をポンポン叩いたりと……イラっとした。

だが、同時に何となく俺もこいつらのことを理解した。

「あんたらか? この街のケツ持ちってのは。ボクメイツ・ファミリーってのが滅んだと思ったら、まだあんたらみてーのが沸いてるってわけか?」

親父が既に滅ぼしていたはずの、街を取り仕切る裏世界の組織。

だが、それが滅んだと思っても、また新しい代わりの組織が出てくる。

キリがねーこった……

「はははは……おいおい、俺らをボクメイツのクソどもと一緒にするんじゃねえよ」

だが、俺の発言はどこか気に食わなかったのか、野郎たちの眉がちょっと動いた。

「あ? いたいけな10代のガキからなけなしの金をぶん取っていった女を擁護する野郎どもは、滅んだ組織の奴らよりももっと高尚な存在とでも言いてーのか?」

俺も正直イラついていたこともあって、売り言葉に買い言葉みてーに現れた野郎たちに挑発気味の言葉をぶつけてやった。

だが、そんな俺の言葉に……

「ちょ、おい、そこの兄ちゃん、待てよ!」

「そうだそうだ! どこの子供か知らねーが、あんま事情も知らずに特攻グレン隊のことを――――」

意外にも先に反応したのは、野郎たちではなく街の商人たちだった。

誰もが俺の言葉にムッとしたような表情を浮かべ、俺の言葉に反論しようとする。

だが……

「まぁ、待ちなよ、おっちゃんたち。この街で俺らに喧嘩売るとはなかなか世間知らずなんだろうが、シャバ僧にしちゃ~いい度胸してやがる」

その反論の声をあえて自分たちで制した野郎たちは、一人だけ前へ出て拳をパチンと鳴らせて俺に向き合う。

「いいぜ。ルールを破る奴らの仲裁だけじゃねえ……売られた喧嘩を買うのもチームのルールだ。さぁ、こいよ!」

ここまで来れば、鈍いとか言われている俺でもここから先どうなるか分かる。

つまり、喧嘩しようぜってことだ。

「いや、ちょっと待て。俺は別に暴力する気も喧嘩する気も……ただ、五万を返して欲しいだけだ」

「ああ。だが、事情を知らねーとはいえ、俺らを小馬鹿にするのは喧嘩を売ったと見なす。それが嫌なら、土下座で詫びを入れるんだな」

「ああ? 詫びを? やなこった」

変な女に胸を押し付けられたり、偽物か本物か分からねえ商品を売ろうとする商人たちよりも、よっぽどシンプルで分かりやすい。

「じゃあ、かかって来いよ、シャバ僧! その体と頭と心に、俺たち特攻グレン隊を刻み込んでやる!」

そう言ってバケット頭の男が両拳を上げて構える。同時に周囲に人垣が出きて歓声が上が―――

「覚えておけ! 俺は、特攻グレン隊の第三特攻戦士、名は―――」

「しらねえよ」

「ッ!?」

「つか、山の向こうの帝都にすら響いてねーんだから、その程度だろ?」

……歓声が上がる前に、そして誰かさんが名乗る前に、俺は一瞬のステップインで相手の懐に飛び込んで、左のスマッシュ……の寸止めをしてやった。

「なっ、え……え?」

「「「「…………え??」」」」

本人だけでなく、今から、何故か慕われているような何とかって組織の喧嘩が見られると期待した商人の連中が口開けたまま固まる中、俺はバケット頭の横を素早く抜けてその後ろにいる他の二人へ走る。

「ちょっ、な……なんだこのガ―――ッ!?」

「おせーよ!」

「ッ!?」

焦ったように野郎は反撃の右拳を繰り出すが、俺はその右拳に交差させるようにカウンターを男の顔面スレスレに……

「大魔ライトクロス」

……の寸止めをし……

「な、あ、あ……こ、こいつ―――」

残る一人には即座に振り返って、何か言い終わる前に顎と右のテンプルにスクリュー気味のパンチを寸止め。

次の瞬間、誰もが言葉を失い、現れた三人の野郎たちは呆然とするどころか腰を抜かしている。

まぁ、こんなもんだろう。

トレイナの求める真贋とやらには少し違うが、喧嘩前には物腰や筋肉やたたずまいで既に三人が俺と勝負にならねえことは分かっていた。

だから俺は呆然とする三人に……

「商人の街だろ? なら、あんたらも……喧嘩する相手の力を見極める真贋を身に着けねーとな」

ちょっと、見下すかのように言ってやった。