軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百二十五話 天性のモノ

エスピたちの悲鳴が上がる。

「お……お兄ちゃんッ!?」

「そんな、お兄さんが!」

「アース!?」

「んあー!?」

一撃必殺。今のアースにもてる最強の技。

やりすぎてしまう恐れのある力。

しかし、決まればそれが勝利に直結する。

実際、深海族たちのボス格と思われるタツミヤの腕を吹き飛ばしたのだ。

アースが勝利を確信したのも無理はないことだった。

「が……あ、え? あ」

痛みよりも、意識と思考が混濁した。

(おれ、あれ? 今日も天気が、カリー、エスピ、スレイヤ、あ……れ? なんか、チカチカ光って、クロンはえっちで、あれ?)

自分でも何を考えているかも分からない中……

「おら、もういっちょぉ! グシャッといっとこーかァ!」

「あ―――――」

野性味溢れる眼光と、鋭い牙を光らせる異形の存在。

荒々しく振りかぶった竜拳をアースの顔面に―――

「アース、避けるのですぅ! アースぅ!」

アースの耳に入る声。

状況がまるで分らないが、ただ体に染みついた習性からか、気づけば最小限の動きで最短距離を駆け抜けた、アースの『置き』にいっただけの右拳が――

――カツン

「ッ!? ……ぬ……お……」

先に、タツミヤの下顎を軽く打ち抜いた。

「お、おう、……お……」

その瞬間、タツミヤの動きが止まる。振り抜こうとしたパンチが繰り出せず、そのまま両足がガクガクと震える。

「カ、な、ん……やと?」

そう、右腕をふっ飛ばされても欠片も臆することのなかったタツミヤだが、ほんのわずかに触れられただけの拳が脳内を激しく揺らし、精神の問題ではなく肉体がアースにトドメの一撃に踏み出せなかったのだ。

「ウキーッ! アースがタッちゃんの腕ふっ飛ばして、タッちゃんがアースの顔面ぶっ潰して、タッちゃんが、あれ? もう分かんねーけどすげー!?」

「……こ、これは……無意識で!」

アースのその予想外のカウンターに、今度はゴクウとツウが驚きの声を上げる。

そして……

「……か……神技だ……さすがはアース・ラガン……しかし……」

あのヤミディレが、全身に鳥肌を立てたようにゾクゾクとした表情で驚愕していた。

「最大最強の技の直後に、最小の技で……お見事カメ……だが……」

自身の背の上で起こった事象を、ゲンブも舌を巻いた様子。

だが……

「お、か……おどれ……顎……ッ、知るかボケぇ!」

顎を打ちぬかれたタツミヤだが、その震える足を自身の左拳で殴った。

その衝撃が、タツミヤの震えを止めた。

「は、やってくれるやないか……せやけど、もうそないな小細工も通用せぇへん! 何故ならワイが欲しいのは、これもちゃうからやァ!」

強引な力技で足の震えを抑え、アースの技もカウンターを受けてもタツミヤは正面からアースに再び殴りかかる。

「アース、起きるのです!」

「あ……え?」

クロンも必死に叫ぶ。そして、自分でも何が起こっているかまだ把握できていアースは、再び襲い掛かってくるタツミヤを見て……

「……はっ?! ちょっ!? ごあ、な、なんだァ? 頭、い、いてえ、つか、なんだこりゃ!?」

ようやく意識を覚醒。しかし、意識が戻ったことで殴られた激痛を一気に実感し、むしろアースは先ほどよりも混乱した。

(殴られ? 手ぇふっとばした、だけど構わず殴りかかって、やられた? 俺? 痛い。鼻、潰れ? いや、つか構わずこいつ襲い掛かって、ステップ、だめだ、効いちまって、足がまだ―――)

激痛の中、必死に現状を整理しようとする。だが、タツミヤも待ってはくれない。

「おらぁ、潰れんかいィィィい!」

「ッ、だ、大魔スリッピングアウェー!」

再び顔面に襲い掛かるタツミヤの左拳。

しかし、軌道丸見えで馬鹿正直な攻撃だったことが功を奏し、首捻りでアースはいなす。

「よけんなやァ!」

「大魔スェーバック!」

首ひねり、上体逸らしで何とか直撃を回避する。

「避けた、お兄ちゃん! だ、だけど……ちょ、パンチの拳圧が……」

「海まで!?」

竜の腕から繰り出す喧嘩パンチ。

その勢いの余波は空振りでありながら、海面に激しい衝撃を与える。

そんなパンチをモロに顔面に受けたアース。

そんなパンチをまたくらったらどうなる?

エスピたちがゾッとする一方、回避しながらアースは必死に自分に言い聞かせて改めて状況を整理しようとする。

(こいつ、恒星大魔螺旋で右腕ふっとんだよな……それにひるまずに、無防備な俺の顔面殴ったのか? しかも、目から火花が飛んだみてぇだった……痛すぎて、むしろ意識が途切れなかった……つか、海が……なんつーデタラメなパンチ……ゴウダを思い出すぜ)

体の芯まで響くほどのタツミヤの拳。

それをまんまとくらってしまったことに、アースは歯ぎしりした。

(くそ、油断したわけじゃねえのに、気が緩んだのは間違いねぇ……くそ、こんな見え見えのパンチに殴られるなんて)

あらゆるステップや回避テクニックを駆使して戦ってきたアース。

その際の集中力もアースの武器。

それが、アッサリ殴られたことに自分の失態を恥じた。

(気の緩み……だが、もうくらわねえ。左腕一本、こんな分かりやすい攻撃……集中!)

恥じて、悔しがり、そして切り替える。

頭を冷静に働かせ、そして自分の状態を冷静に見極める。

(もう少し、インターバルを置いて、もうすぐ……もうすぐ足が動く。よし!)

全身の状況を見極め、反撃に備える。

そして……

「しゃらくさいわァ!」

「ここだ! ブレイクスルー!」

「あん?」

「からの~、マジカルステップ&大魔ジャブッ!」

ブレイクスルーを駆使しての高速のステップワークで、アースはタツミヤの拳から離脱。

「ウキ♪ アースが回復した~」

「おお……ブレイクスルー」

さらに、回避と同時に側面からジャブの連打を叩き込む。

「へへん、ブレイクスルーと足が使えるようになったら、お兄ちゃんを捉えられるわけないんだから!」

「ああ。あんな大雑把な攻撃、油断さえしなければお兄さんにはもう当たらないよ」

猪突猛進の如く襲い掛かるタツミヤをヒラリと回避して、同時に攻撃まで仕掛ける。

その華麗な動きに周囲は舌を巻く。エスピたちも「もうこれで大丈夫」と安堵。

「ちぃ、お待ちかねのブレイクスルー……せやけど、かゆいわァ!」

「大魔クロスオーバーステップ」

エスピたちの安心に応えるように、アースがスピードを上げる。

もはや、その速度にタツミヤはついてこれずに振り回される。

(よし、こいつのスピードはゴクウの比じゃねえ……確かにパワーはヤバい。だが、もう当たらねえ。こんな下手糞な力任せのパンチの振り回し、軌道も丸わかり、先読みもしやすい、ましてや左手一本だけのパンチ。大丈夫、問題ねえ! だが、油断せず、集中!)

タツミヤを分析しながらも細かい連打を積み重ねるアース。

殴られながらもタツミヤは左を振り回すが、アースに触れることすらできない。

「大魔フリッカー」

「うぉっぷ、おっぷ、おっ」

素早い連打から、鞭のようにしならせたスナップパンチでこちらの軌道を読ませない。

まさに息もつかせぬ滅多打ちだった。

そして、左の連打で翻弄し、隙を見つけて……

「ここだ! 大魔コークスクリューッ!」

確実に当てられると判断し、強く踏み込んだ渾身の右拳をタツミヤの顔面に――――

「はっ! 秘技・ガチンコカウンターッ!」

「ッ!?」

アースの渾身の右拳。それは、タツミヤの左テンプルを打つ。

激しい音。骨に亀裂の走る音。

「はいった! これはたまんないよね!」

「いや、でもエスピ……なんか今一瞬、あの男が変な動きを……」

「流石なのです、アース!」

「おにーちゃん、ちょっと心配だったけど、やっぱりつよつよなのん!」

これはたまらないだろう。アースの勝ち。そう思った。

だが、そんな中で……

「ウキキ、ポキッて……いった」

「ふふふふ、太古のころから変わらない御方……」

ゴクウとツウはほくそ笑み、そして……

「ぐあァ!? がっ……いっつぅ……」

「「「「ッッ!?」」」」

殴ったアースの方が苦悶の表情を浮かべながらうめき声を上げ、即座にタツミヤから距離を取る様にバックステップ。

「お兄ちゃん、どうし……ッ!?」

アースに何があった? エスピたちが戸惑ったとき、一同はアースの拳に驚愕する。

「いってぇ……こ、こいつ……堅い……いや、それより今の……」

アースの右拳が青く腫れていた。明らかに指の骨に異常があったことが分かる。

そして苦悶に染まるアースに対し……

「ふん……お行儀ええのぉ、オドレ……努力家やなァ……」

「な……なに?」

「反復練習しとるんやろなァ……綺麗すぎて教科書通りっちゅうやつか? だからこそ、どこ殴ってくるか分かったわ! せやから……こめかみにメッチャ力入れて、逆に『こめかみでオドレの拳を殴ってやった』わ」

「……は?」

血にまみれた顔で笑みを浮かべるタツミヤにアースは動揺した。

相手の攻撃を受けながらのカウンター。たまにアースが、相手の拳をヘッドバットで受けて、逆に相手の拳を痛めつけたりする。

それと似て、それよりも捨て身の技。

攻撃される箇所。それがたとえ急所だろうと、その箇所に力を込めてぶつけ返す。

「ほな……もう一本いこか? チマチマうるさい左を叩いとらんで、また右の大砲を撃たせたる。ワイが出すのはただの左や。クロスカウンターとかいうのでおもくそ殴ってええでぇ!」

「は? いや、おま……ッ!?」

攻撃を宣言して真っすぐ走るタツミヤ。

一瞬、何かの策略なのかと思ったアースだが、タツミヤにそんな思惑はない。

本当に真っすぐ走り、渾身の力を込めた左の真っすぐをアースに向ける。

(こ、こいつ、本当に……何考えて、避けるか? いや、今のをもう一度やられたら? 拳折れる? 避ける? いや、だけど……あー、もう!)

タツミヤがあまりにも馬鹿正直すぎるがゆえに、逆にアースに迷いを生んだ。

その結果、アースはクロスカウンターを躊躇した挙句、素早くタツミヤの右側に回り込む。

「ワリーな、空気読まねえ!」

「あら」

「大魔ジャブ!」

右腕を失っているタツミヤには何もできない安全地帯。

そして、回り込んだと同時に今度は叩きつけるのではなく、断ち切る様に素早くタツミヤの下顎を目がけて左を―――

「んだろあァあああ!」

「んなっ!?」

アースの左がタツミヤの下顎を掠める直前に、タツミヤが下顎を思いっきりアースの拳に叩きつけた。

「こ、こいつ、また―――――」

「しゃらくさいて言わせんなやァァァ!」

「ッ!?」

二度目のカウンターに、アースは再び驚くが、その驚きと同時にタツミヤはすでに態勢を直して左の渾身のフック気味のパンチをアースに繰り出していた。

「大魔スウェー! つ、お、おお、おお!?」

ステップする暇もなく、慌てて上体逸らしで空振りさせる。

だが、その渾身の左のフックは強烈な衝撃波を生み出して、直撃は避けたもののアースはふっとばされた。

「はん、なんやまた避けるんかい。頭突きで受けてはくれへんのやなァ~」

「い、いや、いやいやいや……」

吹き飛ばされるも態勢を立て直して着地するアースだが、その表情は明らかに戸惑っていた。

「怒羅ぁぁぁぁあ! 怒羅怒羅怒羅ァァァァァ!!!!」

そんなアースの戸惑いにも構わず、タツミヤは左腕をブンブン振り回す。

「ちょ、こい、つ! なんなんだぁ」

アースはステップで回避しながら、タツミヤのことをまるで理解できずにただ戸惑うばかりだった。

そして、更にアースが戸惑うことが起こる。

「怒羅亜!!」

「っ、大魔スウェーッ!」

眼前で繰り出されるパンチ。それを上体反らしで回避するアース。

だが、そこでハッとした。

(ちょっと待て……今、俺はスウェーで避けた……なんで? ステップで避ける余裕がなかったから……なんでだ? こいつのスピードは大体分かって――うおっ!? こいつ、空振りした直後に強引に軌道を変えて、いやいや……片腕だぞ、こいつ! なんで片腕だけの攻撃に、スピードだって……だけど、読めない!)

空を切るタツミヤのパンチ。だが、タツミヤは思いっきり拳を振り切ってつんのめりながらも、その勢いをして体を反転させて無理やりもう一度殴る。

姿勢もバランスもメチャクチャなパンチ。

トレイナの指導で美しいフォームから繰り出し、正しくパワーの伝わるパンチを学び、修練し、そして実戦を経て積み重ねてきたアースからすればあまりにもメチャクチャであった。

しかし、メチャクチャだからこそ、そしてどんどんタツミヤのパンチが雑でメチャクチャになるにつれて、徐々に軌道が分からなくなり、アースの先読みからズレたパンチをタツミヤが繰り出し始めた。

その結果、アースが足を使って余裕で回避することができなくなり、ついには……

「怒羅ッ!」

「つおっ!? 大魔クロスアームブロック」

ついに、防御の上からではあるが、アースの身体にタツミヤのパンチが触れた。

しかも、それは……

「つっ、こいつぅ……こんなメチャクチャなパンチで……なのに触れただけで……」

防御の上からでも響く、触れただけでも驚異のパワーにアースは歯ぎしりする。

さらに……

「怒羅ぁああああああ!」

「くそ、だ、から、お前、なんつー汚いフォームで、メチャクチャに!」

構わず、むしろ更に大きく、本当に子供のようにガムシャラに拳を振り回し出すタツミヤ。

アースは冷静になって対処しようとするが、しかし二つの戸惑いが先行してしまう。

(カウンター打ち込めそうな隙は何度も……だが、なんかまたワザとコイツが殴られる箇所で思いっきり叩きつけてくるというか……つか、どこ殴ればこいつの意識飛ぶんだ? しかも、こいつ自身は恒星大魔螺旋の時もそうだったが、恐怖心が欠落してんのか、マジで相打ち覚悟で飛び込んでくるし……一歩間違えたら俺が……それに何より……こいつ―――)

アースの得意とするカウンター。しかし、そのカウンターに対してむしろ相打ちで捨て身の攻撃を繰り返し、それでいてあまりダメージを見せないタツミヤの精神や耐久力に戸惑うのが一つ。

そして最大の戸惑いは……

「怒羅怒羅怒羅ぁあ!」

「っ、大魔スリッピングアウェーッ! ぐっ、なんか、こいつ段々……」

アースのスピードや動きについていけないと思っていたタツミヤのパンチが、徐々にアースの身体に触れ始めたのだ。

『ふふ……戸惑っているな、童。まぁ、ムリもない……奴は、ある意味で、『天性の才』の塊だからな』

その現象に、トレイナはまるで初めからこうなることが分かっていたかのように笑った。

『訓練と実戦経験で戦闘スタイルを確立した童に対し……タツミヤは少し違う。ボロボロになりながらも闇雲振り回しているはずが……何故か当たってしまう……野生の……『天性の当て勘』……というものだ……』

その直後、タツミヤの左拳がアースの左頬を皮一枚削り取る。

『そして、あの『天性の耐久力』と、仮にその耐久力を上回る攻撃や腕の欠損だろうとも、命の危機になろうとも一切の恐怖心を抱くこともない、『天性の精神力』……そして全身で攻撃を受け、相手の動きを間近で見ることによって、この僅か数分の攻防でタツミヤは童の大体の動きや戦い方に慣れて来た……すなわち、『天性の適応力』……』

そして、タツミヤの左アッパーが、アースを両腕のガードごと吹っ飛ばした。

『そして、技も組み立てもプロセスも関係なく……一発当たりさえすれば戦局を覆す理不尽なほどの種族ならではの『天性のナチュラルパワー』……』

「ハッハー、ほんまにバチバチのド突き合いしてくれへんのなら、このまま潰したるでぇえええ!」

飛ばされるアースに牙をむき出しにして笑いながら追撃をしかけるタツミヤをトレイナは懐かしそうに眺め……

『そして、『天性の闘志』と『天性の暴力性』……さぁ、童よ。この理不尽な存在を、貴様はどう捌く? この理不尽さは、貴様の良く知る『あやつ』に通じるものがあるぞ?』

アースがどうするのかを見守った。