軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百二十三話 揃い踏み

――強い……これが……アース・ラガンとその家族……

圧倒的な力を見せつけ、深海族の力も改造によって得た人工的な力も一蹴する。

その現実に鯨が驚愕の声を漏らした瞬間、

「はぁ? 当たり前でしょ? お兄ちゃんと妹は最強だっていうのをまだ分かってなかったの?」

「まったく、僕とお兄さんが組めばこの程度は当然さ」

「わぁ♪ アース、私、どうやらアースの家族としてカウントされているようなのです~♥」

「んぁ、クロンちゃんとおにーちゃんは最強夫婦なのん!」

と、誇らしげだったり嬉しそうにして笑みを浮かべてアースにまとわりつく一同。

鯨の援軍として現れたはずのクンターレや、その他の者も叩きのめされたままだ。

そして、ナンゴークでは荒れ狂う天変地異を操り無双していると思われるヤミディレ。

それを見て、トレイナは思う。

『鯨の中は『あやつ』が……そしてこの場もナンゴークももはや雌雄は決したと思われる……だが、まだ――』

これでまだ終わりではない。トレイナはそう考えていた。

そう、まだ深海の戦士は出尽くしていない。

『果たして、ツナの手から何人逃れたかは分からぬが……ゴクウもゲンブも生きていたのだ……オツも生きていた……なら、あとは――――』

まだ居るであろう伝説の住人たちを頭に過らせるトレイナ。

そして、そのときだった。

「おのれぇ……おのれぇ……ヤミディレぇ……! ぐぅ……おのれぇ! よくもわちしを……」

―――ぇ……!? え……

「「「「あれ? ……うわっ!?」」」」

鯨の背に飛び乗る一人の女。

顔を無残なほどにボコボコにされ、それが敵であろうと思わず目を覆いそうになってしまう凄惨な顔。

――オツ!? な、なんと……悲惨な……

「げぇ……な、ひ、ヒデー……」

「う、うわぁ……」

「仮にも女性の顔を……」

「い、痛そうなのです……」

「あ、あのお姉ちゃん、昨日の……めちゃんこ大けがなのん!?」

そう、それは命からがら逃げ飛んできた、傷だらけのオツだった。

――オツ、どうしてそこまで……ヤミディレはそれほど……

「あの女……計算外……まさかアレほどの……魔眼も通じぬ……わちしをよくも……イリエシマ様だけのわちしをぉ! 殺す! 殺す! 全てを破壊―――」

「大魔ニーハイキック!!」

「ばぶろっぷちゃっ!?」

―――オツッ!?

「「「あっ、ヤミディレ!?」」」

「お、お母さんッ!?」

怒り狂った形相で暴走寸前に喚き散らそうとしたオツだったが、その途中で高速の飛び蹴りが側頭部に直撃。

その威力に鯨の上を何度も転げまわり、そこにはもはや女や姫の扱いなど皆無。

「どこへ行く、不細工な海の豚よ……色々とちょっかい出しておいて分が悪くなると逃げるなど許されると思っているのか?」

黒い翼で舞い降りて、残虐な笑みを浮かべ、その体には夥しい返り血を浴びているヤミディレ。

「ヤミディレ、無事か! つか、アッチは……」

「うむ、改造ハゲが邪魔だったが……今は少し親子で話し合っている。私はその途中で見苦しくも逃げ出したブスを追いかけていたところ。数十分ほど時間を空けたが……クロン様は当然傷一つついてな――――」

もはや知り合いでなければ、こっちが悪魔にしか見えないほどの禍々しさを発していた。

だが、そのヤミディレもクロンの無事を確認した瞬間。

「お母さん!」

「あぁぁああ、クロン様、少し間を開けましたがお身体は―――」

「お母さん! 女性の顔を蹴るなど……ひどい!」

「ぬぬ、クロン様、アレは顔も心も不細工なのでノーカウントです」

「んもぉ、めっ!」

「あぅ……あ、かわ……あうぅ……」

「でも、無事でよかった」

「ハウぅううう」

オツの顔を蹴り飛ばしたヤミディレを諫めるも、とりあえず分かっていたとはいえヤミディレが無事だったことに喜ぶクロン。

それだけで悪魔は浄化されたように顔を赤くして狼狽し、アースたちも少しホッとした。

そして……

「ったく……だが、色々とアッチでもコッチでもあったけど……そろそろ決着ってことかな?」

『……油断はするな……向こうの頭がここにいるとはいえ、向こうのカードが全部出そろったわけではないからな』

油断大敵。

だがそれでも、アース、エスピ、スレイヤ、そしてここにヤミディレまでまた戻ってきた。

もはやボロボロのオツに、身動き封じられている鯨。

援軍に駆け付けたはずのクンターレや謎の人物は、ケガは修復されているが、意識の方は失ってしまっている。

「で、どうするんだ? まだやるのか? 正直、俺はこんな状態のお前らとこれ以上やるのは気が引ける。ゴクウとも仲良くなったし、もしお前らがこれ以上俺らにちょっかい出さねえなら……なぁ?」

「ちょ、お兄ちゃん甘くない? いや、だから好きだけども!」

「まったく……こういうところが平和ボケな時代のお兄さんだよ……だからこそ僕が一緒にいつもいてあげないと」

『さて……どうなることやら……』

「いや、殺すべきだ、アース・ラガン。貴様、自分の婚約者であるクロン様も危ない目にあったというのに、その甘さはいただけん! 生まれてくる子も甘ったれになるぞ?」

「あのぉ、お母さん気が早くて……で、でも、私はアースの考えに賛成です! これ以上の争いはどうにかなりませんか?」

「んぁ~……なんか、あのお姉ちゃん悲惨すぎて見てられないのん」

もう、どう見ても勝敗は決している。

これでどうにか終わりにできないかと願うアースと、厳しい意見を口にするヤミディレ。

いずれにせよ、もはや追い詰められて絶体絶命のオツにはこの状況を抗うだけの――――

「いやぁ~、ワリーな、俺様たちのオツちゃんが癇癪起こしてよぉ~……ほんと、俺様たちも監督ふゆなんとか届けってので、犬とかも先走ったり……いやマジで反省猿になりてーところだよ、アース!」

―――ッッ!!!??

その時だった。

聞こえてきた声とともに、再び海が揺れた。

「今の声は……」

「お兄ちゃん、どうやら……」

「まだ来るみたいだね」

「わわ、揺れているのです!」

「んあ~、もう終わりじゃないのん!?」

海の下から何かが浮上してくる気配を感じる。

そして、いま聞こえた声にアースたちは心当たりがあった。

「ちっ……今の声……ようやく邪魔な本命たちのお出ましか」

『……一人ではない……亀の背に乗り、果たして……」

ヤミディレ、そしてトレイナも気づいた。

何が浮上してくるのかということを。

「ふうふう……遅い、わちしがここまでになってようやく出てくるなど……どいつもこいつもわちしを何だと……だが、もう終わりなのはそっちだ、ヤミディレ! 貴様の方こそ不細工にしてやろう!」

絶望に染まっていたオツも、再び禍々しい笑みを浮かべてヤミディレに毒を吐く。

そして、ついに海面に浮上した。

「本当に先走りはやめて欲しいカメ……」

巨大な亀ことゲンブ。

さらにその背に乗るのは

「いよう、アース! また会えたな! ゴドラのアレ、見たぜ! マジかっこよかったぜ! エスピも! あ、あとクロンだ! うわ、初めまして! 俺はフィアンセイ推しだけど、あんたのことも嫌いじゃないんだ! アースの友達だからよろしく!」

ゴクウ。

「うお、ゴクウだ!」

「わ、ほんとだっ……来ちゃった……」

「いや、それだけじゃなさそうだよ、お兄さん……」

さらに、その両隣に見たこともない亜人。

「しかし……ブランク明けにこのレベルの戦争とは……これは本当にクマったことだベア……秘蔵の蜂蜜で手を打ってほしいベア」

全身を獣の体毛で覆われた巨漢の大男。

その下半身には、ジャポーネ文化特有の「ふんどし」のようなものを装着している。

「相手が人であれ、魔族であれ……受けた恩は返し、受けた屈辱は倍返し……さて、この場合はどうなるのかしら? ……なかなかきつそうだから、私の羽を使った手作りの布で手を打てないかしら?」

全身真っ白い肌と、真っ白い長い髪の美しい女。そしてジャポーネ特有の真っ白い着物を纏い、その両腕はハーピーのような翼。そしてその翼は天空族のように真っ白である。

「ぬっ……ゴクウに加え……ちっ……これはまた面倒な獣と鳥が……ん? ッ!? まさか……」

『……ッ!? ……ほう……これはまた……海神の父に刃向かい、星の奥底に封印されていたと聞いていたが……とんだ隠し玉……鬼でもなく蛇でもなく、龍が出たか……』

現れたゴクウと共に並ぶ二人に眉を顰めるヤミディレ。そのうえで、更にヤミディレは三人の後ろにもう一人いることに気づいた。

「もともとはワイの愚妹がやらかしたこと……ワビ入れてナシつけてケジメつけて、交渉やと思っとったけど……なんやこれ?」

そこには一人の男が立っていた。

「オツ! おどれ、あんだけデカい口叩くわ大物ぶって大将気取って勝手に出てった割にフルボッコやないかい! 説教しづらいわアホンダラ!」

「あ……ッ……兄上」

「とにかく、やらかしたのはこっちやから、菓子折りを玉手箱に入れてワビ入れに来たんやけど……これ、ちょっとやられすぎやあらへんか?」

それほど大柄なわけではなく普通の背丈の男。

喪服のような真っ黒い上着と真っ黒いズボンを身に纏い、その手足の裾を肘と膝まで捲っている。

そして、その捲った裾の下から見える両手足は人のモノではなく、緑色の鱗と鋭い爪を光らせた異形のモノ。

その頭部は手足と同じ緑色の髪と、二本の仰々しい角を伸ばし、

「まぁ、せやけど……こうなったら、ド突き合いで解決するしかなさそうやなぁ? 鯨の中も悲惨そうやしなぁ」

「「「「ッッ!!??」」」」

一笑み浮かべるだけで、空気が張り詰め、アースたちも瞬間的に臨戦態勢に入った。

『タツミヤ!』

トレイナもどこかゾクゾクしたような笑みを浮かべていた。