軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百七十八話 恒星

カクレテールで鑑賞中だった、冥獄竜王バサラは武者震いに震えて立ち上がった。

「ふふふふ、ぐわははははははははは、どこまで……どこまでワシを痺れさせよる! そしてどれだけ気に入られとるのじゃ、あの小僧! 大魔螺旋から、ソコの領域に足を踏み込ませるか! どこまで育てるつもりじゃぁ!」

激しく興奮し、笑いが止まらない様子のバサラ。

それほどまで機嫌よくなるバサラを見て、フィアンセイたちは寒気がした。

「し、師匠……アースがやろうとしていること……何かご存じで? 我には、大魔螺旋……というより、小型の渦を纏っているようにしか……」

そう、普通に見れば「大魔螺旋の失敗」にしか見えないのである。

だが、目を凝らせばそうでもない。

「ううん、姫様。アレ……すごい……どんどん際限なく……魔力が凝縮されていってる……アレだけ魔力をため込んで……だけど大きさが変わらないってことは……どれだけ圧縮されて……」

一流の魔導士であるフーはすぐに分かった。

そして、フーに言われて目を凝らすと、フィアンセイやサディスもハッとした。

「確かに……そのようですね。しかし、何故あのような……坊ちゃまは一体何を……」

別に大魔螺旋の失敗ではないというのは分かった。

だが、それなら何をしようとしているのか?

それが分からない一同の中、全てを分かっているバサラは自分の腹を擦った。

「かつて再生にどれだけ時間がかかったことか……エグイのぉ、疼くわい……ぐわはははは、いずれにせよ弟子共……せーぜい、あの小僧をこの世界に対して闇落ちやら絶望やらさせてやらぬようにすることじゃな……世界が滅ぶぞ?」

「「「「「……え?」」」」」

『必要なのはバランス。膨張し続ける大魔螺旋を圧縮させる。だが、ただ圧縮させるだけでは潰れて四散する。だからと言って圧力を弱めると何も起こらぬ』

トレイナは高揚している。

集中し、目の前で小型の圧縮された大魔螺旋を構築しているアースの姿に。

「……スゴイやお兄ちゃん……そんな小さなものに、なんかすっごい中身が詰まっているっていうか……」

「……ふふふ、小さくした方が寒気がするなんて……お兄さん、いつからそんなことができたんだい?」

大魔螺旋と言えばとにかくデカい螺旋であるという認識は、エスピもスレイヤも同じだった。

しかし、今目の前でその真逆で、尚且つ今まで見た大魔螺旋以上の強さを感じるソレに二人も寒気がしていた。

一方でアースは目を閉じて集中しながら、口元に笑みを浮かべた。

「いや、できてなかったよ……昨日まで」

そう、この技はトレイナに教えてもらったばかりであり、まだまともに訓練していたわけでも、ましてや実戦で使うなど初めてである。

唯一、お試しでやったものをノジャの尻に突き刺したぐらいである。

しかし、アースはもうこの技術を実施できるレベルに達していた。

「でも、ここでデキなきゃよ……なんせ俺はほら……お兄ちゃんだからよ」

「「ッッ!?」」

「そして……ま、ほら、あれだ……俺がとっておきなわけだしよ! 俺が! とっておき!」

『…………………///』

大事なことだから二回言ったアース。

アースはいきなり自分がこの場でデキると分かっていたわけではない。だが、やるしかないと思っていた。

エスピとスレイヤに負けられない。

何よりもトレイナにとっての一番は自分であるという自負。

やるしかないという思いだった。

『あ~、コホン……さて、童。ゆくゆくはそれを投げたり撃ったりするものではあるが、まだそこまではできぬだろうから、直接叩き込んでやれ。あのデカブツに。その形態を維持しながらだ。だいぶ神経を削ることになるが、フットワークとレーダーで潜り抜けていけ』

「押忍ッ!」

そして、アースは走り出した。

エスピとスレイヤの攻撃でまだ混乱状態のゴドラ目がけて走り出す。

「よっし、お兄ちゃんのサポートは私が!」

「当然僕がッ!」

走り出すアースの背を共に追うエスピとスレイヤ。

ジャミング機能が無くなった今、もう何も怖いものなどなかった。

そして、実際のところ、もはやサポートも不要なのである。

『どうして! ゴドラから鉄球が離れない! 動けないよぉ! どうしてどうして!』

磁力を帯びた巨大鉄球が、ゴドラにくっついたまま。

それにより、もはやゴドラは動きたくても動けぬ状況にいた。

そこに接近するのは、六覇や七勇者をも翻弄する世界最高峰のフットワークを持つアースである。

『ッ、わ、いつの間に、アースくんが接近……ッ! 何か……手足が、なら尻尾! 薙ぎ払って、ゴドラッ!』

悪あがきのように唯一動きそうな部位を動かして攻撃しようとしてくるが、捉えられるはずがなかった。

むしろ……

『童。シノブはあのゴドラの中にいる娘と会話をしたがっていたな』

「ん? ああ、そうだけど……」

『ならばそうだな……その圧縮大魔螺旋……叩き込む場所を……ふむ……そうだな……あの小娘のいる位置は頭頂部ならば……よし、あの尾と尻の付け根の箇所に飛び込んで、ソレを叩き込んでやれ』

「え? 付け根? お腹とか、頭とかそこら辺に叩き込むんじゃなくてか?」

『……ソレではあの小娘が……死ぬかもしれんしな』

「……え?」

この圧縮された大魔螺旋の強さは通常大魔螺旋よりも威力がデカいというのは作っている本人なのだからアースも分かっている。

しかし、実際のところどれだけの威力になるかは本人にも分かっていなかった。

――モンスターテイル!

『見えるか? 光の道』

「ん? おお、キラキラとな!」

そして、怒り任せの最後の悪あがきで大地を削るように、ゴドラの尻尾攻撃が繰り出される。

地面の表面に叩きつけ、亀裂を走らせ、砕けた大地の破片や土煙がアースの視界を奪おうとする。

だが、もはやジャミングもないために、レーダーだろうと縛りのないアースはそこから安全な光のルートを見極めて高速回避。

さらに……

「お兄ちゃんの活躍が見えないでしょぉ! ふわふわクリーニングッ!」

「ほら、岩も邪魔!」

背後から強力なサポート。

スレイヤとエスピが、巻き上がる土煙や瓦礫をどかしたり砕いたりしていく。

それは、もはやアースを守るというよりも、大好きな兄がこれから活躍するところをしっかりよく見えるようにするためのようでもあった。

『童……その力はいくらでも発展する……進化する……だからこそ使いどころや、影響を考慮することだ』

これから新技を叩き込み、それがどんな威力なのかをワクワクしているアースに釘をさすようにトレイナがささやく。

『それは一つの……『恒星』だと思え……小さくも、しかし膨大な質量を凝縮させたソレをな』

「こーせい? 恒星? おお、よく分かんねーが、かっこよさそう……あ、ソレでいいや! 圧縮大魔螺旋というより―――」

『やがて進化の果ての恒星が行きつく先は―――超新星―――まあ、それはもう少し後で教えてやるが、今はとりあえず存分に見せつけよ』

そして、アースは飛び込んだ。

振り回されたゴドラの尻尾を回避し、その結果更に隙だらけとなった、尾の付け根の部分に右手を伸ばして……

「恒星大魔螺旋ッ!!」

トレイナの言葉通り、ゴドラの付け根にソレをねじ込んだ。

「いった! どうなるの?」

「どう……? アレ?」

エスピとスレイヤも注目する。

いや、もはや世界が注目している。

ソレがどうなるのか。

だが、

『アレ? なに? 何をしたの? 何も起こらないよ!?』

特に何も起こらない……マクラも首を傾げ、見ている者たちも『不発?』と疑った。

だが……

『ッ!? きゃっ、ちょっ―――――』

その直後、ゴドラの付け根を中心として、内部から巨大な大爆発が起こった。

いや、もはや付け根どころではない。

付け根が中心となり、ゴドラの腹部すら突き破り、乱回転する巨大な渦が四方に飛び出して、巨体のゴドラをその渦に飲み込んで、天へと飛ばしながらズタズタに引き裂いていった。

大爆発の渦。

超巨体のゴドラをのボディの大半を吹き飛ばし、『頭部』も『千切れた』のだ。

その瞬間、ゴドラ内部からのマクラの声も途絶えた。

「え……」

「……え゛?」

「……ゑ?」

それには、アースも、エスピも、そしてスレイヤも目が点となってしまった。

『巨大な質量を内蔵した恒星の行きつく先は、超新星爆発……つまり、やり過ぎると……文字通り世界すら滅ぼしてしまう威力にまでなる。フハハハハハ、見ているか? バサラよ。かつて貴様を倒した技の原型だぞ?』

まさに己のとっておきともいうべき技を見事に実践した弟子に胸を張り、鼻高々で誇らしげ、得意満面のトレイナだった。

一方で、世界は、そしてアースもエスピもスレイヤも、ちょっと想像していた威力との桁が違っていたことに言葉を失い……やがて……

「「「や……やり過ぎッ!!??」」」

とだけ、言葉を叫び、そしてそんな三人の眼前に丁度ゴドラの千切れた頭部だけが落下してきたのだった。

「きゃ~~~~、アース様ぁあ~❤ もう、アース様ぁあ~、すごいよぉ~~❤」

上下左右に激しくバインボインと胸を揺らせるほど飛び跳ねて興奮するアミクス。

目が「♥」になって、周囲にターミニーチャンたちが居ようが関係なく、アースに夢中だった。

「も、もう、坊やは絶対に怒らせられないね……天空世界も滅ぶ……でも……ふふふ、流石だよ……坊や。君を見ていると、僕は女であると自覚してしまうよ♥」

男装令嬢として、天空世界の誰よりも男前であったガアルが完全にウットリとした雌の顔で目を輝かせ、そして……

「がくがくぶるぶるがくがくぶるぶる」

「ん? おや、どうしたんだい?」

「ノジャちゃん?」

全身から汗を拭きだして、尋常ではないほど恐怖で震えているノジャは、尻に手を当てながらそのまま腰を抜かしてその場にへたり込んだ。

「む、婿殿に、し、尻を責められるのは望むところ……だったけど……」

「「?」」

「あ、あれは無理なのじゃ……ってか、アレ……まぢでわらわの尻に一回……がくがくぶるぶるがくがくぶるぶる」

顔面蒼白し、つい先日事故で自分の尻に未完成状態だったアレが突き刺さったことを思い出し、下手したら本当に死んでいた恐怖にノジャは怯え切ってしまっていた。

だが、そんなノジャたちの周囲で、ゴドラと連動してマクラから指示されていたターミニーチャンたちは活動を停止。

そして、その場にいたはずのシノブは、ただ無我夢中でアースたちのもとへと走っていた。