軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百五十話 分からなくもない

サラリととんでもないことを提案したオウナだが、その言葉を皆が真剣に考える。

その場合、これからゴクウがやることに目を瞑って黙っているということになる。

ただ、その場合……

『なぁ、トレイナ……理屈は分からないけど、死んだ人間の復活がどうとかって……やっぱまずいよな?』

ゴクウの今回の行動は目を瞑ったとして、それならゴクウやその仲間たちがやろうとしていることも見過ごすのか?

そもそもそれにどんな問題があるのかが、アースにはイマイチピンとこなかった。

すると、トレイナは……

『理論上、シソノータミの技術を使い、カグヤやイリエシマに『似た存在』を『造る』ことは可能。クロンとて余の遺伝子を元にされている……ただし、余の記憶や思考ルーチンが組み込まれているわけではないので、まったく似つかぬ違う存在になっているわけだが……つまり、そういうことだ。仮にこやつらがイリエシマたちを生き返らせるとしても、それは生き返るのではなく『造る』ということになる。そして造られたものは、遺伝子上は同じ存在であり、姿形も同じであり、言葉や思考が同じに見えても……『レプリカ』だ……それはやはりベースとなった存在に『限りなく似ている他人』となる。むしろ、その本物との僅かな齟齬には、その者を愛している者たちほど気づいてしまうものだと思うがな』

『……あ……すまん……もっと分かりやすく言ってくれ』

『そうだな……あ~……』

トレイナの説明を聞いてもそれでもまだピンとこないアースだったが……

『たとえば、その理屈で余を生き返らせる……とした場合……では今、童にしか見えぬ余は一体どういう存在になる?』

『……あ……』

『生き返らせたトレイナという存在が本物に――――』

『そ、そんなわけあるかあああああああああああああああああ!!!!!』

ようやくアースはその説明で全てを理解した。

そして心の中で感情的に声を荒げた。

『俺にとってのトレイナはあんただけだ! そんな作られた存在の似た奴が現れたって、そんな奴は俺の師匠なんかじゃねえ! 俺の師匠はあんただけなんだ! あんたしかいねえ! 俺は今俺にしか見えないあんただけが――――』

『あ、う、うむ、わ、わかった、わかったから、ふぁ、な、あぅ、ちょ、お、おちつけ』

『だってよぉ、あんたが変なこと言うからァ!』

『き、貴様が理解せんからだろうが、ブツブツブツ……まったく……コホン、ま、まあ、つまりそういうことだ』

『ああ、よく分かった』

激しく興奮して叫んだアースを、トレイナもアタフタしながら落ち着かせ、あくまで「例え話」としたが、つまりそういうことなのだとアースに改めて告げる。

『本物のイリエシマたちの魂がどこにあるかは知らねえけど……自分が幽霊になって、自分の好きだった奴らが自分の代わりに自分と似ている他人と楽しそうにしていたら……泣くよな? あんただって俺がそういう存在を師匠とか言ったら泣くだろ?』

『うむ……って、な、なな、泣かんわァ!』

こうして自分はトレイナの存在を分かっているため、『そういう存在』は偽物ということを理解できている。

しかし、それが今のゴクウたちには分からない。

幽霊が見えてもいないのに「本物のイリエシマたちが悲しむ」と言っても伝わらないだろうと、アースは複雑な気持ちになった。

そして……

「なぁ、ゴクウ」

「おう?」

「お前はピーチボーイたちともう一度会えたら……何をしたいんだ?」

「会えたらそれでいい!」

「え……」

限りなく似ている存在であって別の他人。それを造り出してまで何をしたいのかというアースの問いに、ゴクウは笑顔で迷わずそう答えた。

「それでさー、俺が『ピーチの兄貴!』って言ったら『おう』って応えてくれて、『あのとき、こんなことあったよなー』とか一緒に笑いながら昔のこととか話せたら、俺様はそれだけで最高だなー! 『ミクラ』は俺が悪さするとすぐ頭をグリグリ~ってするけど……でも、久々にされてみてーなーって思ったりするぜ。そんでさ、兄貴たちと遊ぶ時間を独占するための取り合いの喧嘩を他の奴らとまたしたりしてさー、なんかそういうガヤガヤして楽しいのをまたしてみてーなー……あ、なんかいっぱいやりたいこと出てきたぞー!」

それがたとえ「本物」でなかったとしても、きっとゴクウはもう止まらないのだろう。

その屈託ない満面の笑みを見せられて、アースは胸が締め付けられた。

すると……

「ま、それを受け入れるか受け入れないかは、当事者にならないと分からないし、人それぞれだと俺っちも思うから……最後までソレに『責任』を持つなら好きにしちゃえばいいんじゃないの? と俺っちは思うね」

「オウナ?」

「アースっちが何か神妙な顔をしてるからさ、イロイロ旅して出会って乗り越えて経験して、たぶんゴクウたちのやろうとしていることに、何かしら思うところはあるのかもしれないけどさ、それはアースッちの考えで、ゴクウたちに当てはまるわけでもないしね」

と、アースが何も言えない状況の中、一通りの話を聞いた一同の中でオウナがそう自身の考えを述べた。

「たとえば、人の話になるがこれまで女とのエロい妄想しながらシコシコと自分で自分を慰めるのを好きだった奴が、いざ本物の女とエロエロしたら自分でシコシコしていた時の方が気持ちよかった……妄想していた時の方が夢があって楽しく気持ちよかった、というパターンと、本物の女の体の素晴らしさと感触を知ったら本物じゃないと満足できねー、ってパターンもいると俺っちは聞いたことがある。つまり、『本物じゃないとダメ~』とかってのは人それぞれだし、俺っちは『偽物でも構わん』って気持ちも分かるし、それを全否定したりは何様な傲慢だし、深海やらイリエシマやらとも何の因縁もなく、この世界を滅ぼすとかにでもならないんなら、俺っちたちには口出し無用じゃね?」

「……例えは最低なのに、なんか分からんでもないのがムカつくな……」

何だか、釘を刺されたような気がするが、確かにアースもゴクウたちのやろうとしていることに想うところはあるものの、そこに至るまでのゴクウたちや、今こうして嬉しそうにしているゴクウを見ると、それを自分に止めることができるものなのかと、どうしても踏み出せなかった。

『……トレイナなら止めてたか?』

『……さあな……ただ、この小僧……なかなか達観した考えを持っているな……』

そして、トレイナも『自分ならこうした』ということをアースには言わず、背負わせようとはしなかった。

「……そうだな……僕も……うん、分からなくもないかもしれない」

と、意外にもガアルもオウナに賛同するように手を挙げた。

「自分の命と引き換えに僕を生んでくれたマミー……失って心を壊してしまうほどダディが愛した人……僕は話でしか聞いたことが無い……だから、一度ぐらい会ってみたかった……たとえどんな形でもいいから……だから僕もそう思い至ってしまう気持ちも分からなくもないよ。きっとダディも、もしマミーとまた会える……それが偽物でも……そうなったら、迷わず縋ると思う。みんな、誰しもが心が強くはないさ」

ガアルも否定せず、気持ちは分かると口にした。

そしてそれもまたアースが否定するものでもなければ、そんな立場でもない。

「そーかもな……」

だから、アースももうそれ以上は言えなかった。

「……よし! じゃあ、とりあえずゴクウたちの計画云々は今は置いておくとして、このジャポーネでのことについてだね。それでお兄ちゃん……ううん、この場合はむしろ……シノブちゃんの方になるのかな? 一応、攫われるのは叔父さんなわけでしょ?」

と、ここで黙っていたエスピも手を叩いて、改めてどうするかに話を戻した。

「え、ええ……まぁ、叔父とはいえ正直私は子供の頃からあの人に対しては何の情もないから……とはいえ、一度マクラと話しはしたいと思っているけれど……」

「よーし、んじゃあ俺様がちゃっちゃと王を攫ってシノブと友達を会わせてやるさ! それでいいよな? 誰にも気づかれずにババババーっとやっちまうぜ!」

と、国王を攫うというとんでもないことを気軽に口にするゴクウ。

だが、

「いやいや、それは駄目ッしょ」

と、そこでオウナが制した。

「え、なんで、オウナの兄貴!?」

「いやいや、誰にも知られずにコッソリ攫ったりなんてしたら、国王が行方不明になって真っ先に疑われるのはそれこそ対立しているシノブちゃんやその両親になっちゃうでしょ? 大多数の国民を率いてのクーデターとかならまだしも、そういう暗躍の力づくでの王位強奪は、けっこう物騒だから良く思われたりもしないしね」

「じゃ、じゃあ、どうすりゃいいんだ! だって、兄貴が攫っちゃえって提案したんだし――――」

そう、オウナの言う通りであった。

道理も筋も通さずに無理やり国王を攫って王座を強奪する。

それはいくらこの国の王の支持が高くないとはいえ、そんな乱暴な手段もまた民には受け入れにくいと思うのが普通である。

ならば、どうするか?

「うん。だから、国民に注目されるぐらいバレバレでド派手に攫って、で、その犯人とシノブちゃんたちは仲間じゃなくて敵だよ~的な茶番をしたら?」

「「「「「???」」」」」

ヤラセをすることであった。

一方その頃エルフの集落では……

「はぁ~、いいな~姉さんもシノブちゃんも……アース様とお買い物……でも仕方ないよね……私が行くと耳が目立つし、バレちゃったら大騒ぎだし……」

留守番のアミクスが浮かない顔をしながら、焼いたお菓子を皿に載せて、とある部屋に足を踏み入れる。

そこは……

「うぬぅ~~~、おのれぇ、何でわらわまで留守番なのじゃぁ~」

柱ごと鎖で体を何重にも縛られ、更には魔法陣で結界まで張って、軟禁というよりもはや封印に近い形のノジャが居た。

「ノジャちゃんお腹すいてる~? お菓子持ってきたよ~?」

「うぅ~、アミクス~、わらわに優しくしてくれるのはおぬしだけなのじゃ。やはりおぬしはわらわの友達なのじゃ。あ~~ん、うむぅ~美味なのじゃぁ~。アミクスのパイパイは最高なのじゃ~」

「うふふ、ありがと~」

アミクスに泣き顔を見せながら「あーん」して菓子を頬張るノジャ。そんなノジャが歴史に残るほどとんでもない大将軍だったというのを鑑賞会で知ったアミクスにとって、改めてこのノジャがそんな大人物だったのかと思うと、苦笑するものであった。

すると……

「あっ……」

「ん? どうしたの?」

その時、ノジャは何かを思いつきハッとした。

そして……

「アミクス……わらわたちは友達なのじゃ」

「え?」

「いや、もはや大親友と言っても過言ではないのじゃ。この集落では子供たちにすら『お漏らしノジャ』とか言われているわらわにも唯一優しくしてくれるのはおぬしだけなのじゃ」

「え、ええ? そ、そうかなぁ? でも、親友かぁ……ノジャちゃんと……親友。ふふふ、なんかイイかも」

ノジャに「親友」と呼ばれ、この集落以外で友達のいなかったアミクスにとっては初めてのことで、とても胸に来るものであり、そして……

「そして、真の親友とはだ……ちょ~~っと、悪いこととかもしたりして~、友情を深めたりするものなのじゃ」

「え? え? わ、わるいこと? え?」

そんなアミクスにノジャは心の中で悪魔の笑みを浮かべ……

「わらわがボディーガードになってやるから……両親やスレイヤたちに内緒でこの封印を解いて……わらわと一緒にコッソリとジャポーネの王都に遊びに行こうなのじゃ♪ わらわたち、親友なのじゃ♪」

「……え……ええええ!?」

悪い遊びの誘いであった。