軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百四十六話 自分の話題

「トラップ……いや、囮で……本命はコッチ!」

「これも回避……流石ね、ハニー。これだけ深い密林の中で一太刀すら浴びせられないなんて……」

シノブと真剣に遊びながらジャポーネ王都へ。

アースもそれに全力で応え、何でもないはずの移動でかなり神経を持って行かれて少し疲れた様子。

「は~い、もうそれまでー! 仲良しなのはいいけど~、街も近づいてきたし、目的忘れちゃだめだよ? お買い物お買い物!」

と、そこでようやく一区切りだと、エスピがアースとシノブの間に割って入って中断させた。

「あら……楽しかったのに残念ね……久々にハニーの頭のてっぺんからつま先まで、ほんの些細な息遣いや筋肉の動きにいたるまで凝視して……熱いパトスがほとばしったのに」

「俺も色々と危なかったけどな……でも、またいつでもな?」

「ええ!」

まだまだこの時間を過ごしたかったと楽しそうなシノブに、少しやつれたアース。

アースもいかにこれまで多くの戦闘や大戦での経験を積み重ねてきたとしても、こういった戦闘ではなく暗殺に関する経験はないため、これまでとは違った神経や集中力をすり減らした。

だが、それこそが自分の新たなステージに到達する鍵であるとアースも信じ、「もうやめよう」とは言わずに、「いつでもまたやろう」と伝え、シノブはその言葉に心の底から嬉しそうに頷いたのだった。

「ま~ったく。これじゃあ帰りもこんな感じ……あれ? ひょっとして私ってお邪魔虫になっちゃう?! お兄ちゃん、今は私タイム! ギュー!」

「ちょ、お、こら、エスピ!?」

「シノブちゃんゴメン、今は私のお兄ちゃんタイムでくっつくから! せっかくのお兄ちゃんとの買い物で見てるだけの除け者はイヤ~!」

「ふふふ、ええ、勿論よ」

そして、二人を見ているだけでもなかなか楽しかったが、せっかくなので自分もアースとくっつきたいと、エスピはアースにハグした。

いつもはスレイヤやらアミクスらエルフの皆やその他の 邪魔(ノジャ) の所為でアースに甘える時間が少なかったこともあり、今はチャンスだと気づいたエスピは年齢やらそういったことを気にせずアースにくっつき、そんなエスピに少し気持ちに余裕の出てきたシノブは微笑んだ。

「うふふ、エスピさんもハニーのことが大好きなのね」

「当たり前だし! っていうか、もう今の世の中で、お兄ちゃんのことを嫌いな人とかっているのかな?」

「……確かにそれは言えているわ」

エスピにギュッとされながら照れることを言われ、アースも少し恥ずかしくなって耳が熱くなる。

すると……

「ウッキャッキャ! だよなー! アース・ラガンはチョーカッケーよなー!」

「「「……?」」」

「強いだろー、カッコいいだろー、おまけにハートがある! だから女にもモテんだ! ちなみに、俺様はフィアンセイ姫派だ! 素直に甘えられなかったり、アース・ラガンが好きで仕方ないのに空回りとか……もう、俺様は涙ちょちょぎれよ!」

「「「え?」」」

突如聞こえてきたその声に、三人は思わず顔を見合わせる。

非常にうるさく聞こえてくる誰かの声。

『……ん……ん~~~~?』

誰の声? そう思ったとき、アースの傍らでトレイナが眉をしかめる。

「なに? 今の。ってか、なんか……騒がしくない?」

「ええ。もうすぐ門だというのに……ハニー、ちゃんと顔を隠して」

「お、おお……ってか、今、俺の名前が叫ばれなかったか?」

一体なんだ? 三人が咄嗟に身構え、そしてフードを深く被りながら様子を窺う。

「でも、俺様はクロンもシノブも、そしてサディスもいいってのは認めてるんだ! だから悩ましい。で、あんたはどうよ! 誰派? アース・ラガンの嫁候補人気投票したら誰が一位かなあ?」

とにかく騒がしい。

さらに大勢の気配も感じる。

一体何事かと密林の陰から覗き見る三人。

すると、密林を抜けて開けた地に、ジャポーネ王都の国門が見え、その門の前には……

「な、なんだぁ? お、おいおい、なんか大勢が倒れてるぞ?」

「アレは……ジャポーネの侍……警備の兵よ!」

「人もいっぱい集まって……何? 何があったの?」

大勢の侍たちが地にひれ伏している。その周囲にジャポーネの民たちも大勢集まっている。

そして、その倒れている兵たちの中心で誰かが地面に胡坐をかいて、誰かと話し合っている。

一体誰なのかとアースたちが目を凝らすと……

『………………………は?』

トレイナが口を開けて固まった。

そこに居たのは、頭に金色の輪を嵌めて、非常に目立つ赤い隈取を顔に施した赤髪の男。

だが、それほど仰々しい顔でありながら、その目と口元は少年のように屈託なく笑っている。

「え?」

ただ、アースはその男よりも、むしろその男と向かい合っている……

「ふふふ、僕は断然、女神クロンがいいと思うよ。あの二人……二人が一緒に並んでいる姿……あの、何でもできるんじゃないかと思わせるような何かを放つ二人こそが……ふふ……今となっては僕も……少し嫉妬かな?」

翼の生えた、よく知る顔にアースはあっけに取られる。

「ちょ、ちょ、お、お兄ちゃん、あの人……」

「うそ……あの人は……天空世界の……」

その姿にエスピもシノブも衝撃を受ける。

まったくの予想外。

いや、どういう状況なのかと三人で見合って混乱する。

そんな中で……

「おいおい、猿の兄ちゃん何言ってんだよぉ!」

「そうそう、天空王子様も分かってねぇな~、ここはジャポーネだぜ?」

「おうよぉ! ジャポーネ国民は、シノブちゃん一択に決まってんだろぉ!」

「そう、私たちはアース・ラガンとシノブちゃんが推し!」

周囲に集まっているジャポーネの民たちも笑顔で口を挟んでいる。

足元には気を失っているジャポーネの侍たちがいるというのにだ。

「ど、どういうことだ? なんで……ガアルが居るんだよ……いや、たしかに先日天空世界がジャポーネの上を通過してたけど……え? 王子は地上に降りてたの!?」

そう、そこに居たのは天空王子のガアルである。

ガアルがジャポーネの入り口となる門の前で、周囲に民たちや倒れているジャポーネ兵たちのど真ん中で、誰かと座って楽しそうに会話しているのである。

「しかも……なんか俺の話題を出してるし……え? どうする? 話しかける?」

「う~ん……あの鑑賞会での様子を見る限り、もうお兄ちゃんとあの人との間にわだかまりもないんだし、無視するのも……でも、一応私たちお忍びだよね?」

「ええ……それに私もあまり人前には……大騒ぎになりそうだし……」

何故、王子がここにいるのか、そして何をしているのかは分からないが、無視するほどアースもガアルと別に険悪というわけではない。

しかし、周囲に人目もあり過ぎるというのもあり、どうしていいか悩ましいところであった。

さらに……

「で……王子の奴、誰と話してんだよ……ってか、あいつ……王子と話しているやつ……結構……いや……かなり……」

「うん……だね?」

「……ええ」

ガアルと地べたに座って対面で話している男。

何者なのか、どういう関係なのかは分からないが、アースたちは男を見て……

「……ツエー……あいつ……ヤバくないか?」

何者かは分からずとも、タダ者ではないということはすぐに分かった。

とはいえ……

「ん? クロンに嫉妬? 顔も赤いし……あー、王子イ、あんたさては……はっは~~ん、俺様分かっちゃったァ! あんた……」

「ッ!? な、なん、いや、ち、違うぞ! き、君が何が分かったかは知らないが、それは勘違い―――」

「あんた実はクロンに惚れてるな? だから、クロンに惚れられてるアース・ラガンが羨ましいんだなァ~!」

「……………」

「あんた女の子のことが好きみたいだし、はは~ん、そういうことかァ~、俺様の目はごまかせないぜェ~!」

「……あ~……」

「いい! 皆まで言うな! 俺様は理解がある! よーし、ならば俺様が応援してやる! アース・ラガンがフィアンセイと結ばれ、そしたら失恋したクロンとあんたが一緒になれば無事平和だ! おお、俺様って頭いい!」

「……いや、だから……というか、それではあのシノブという娘が……」

「うぇ? ……………………………………そうだ! シノブはアース・ラガンが好きなんだからアース・ラガンとシノブが結ばれるのがいいんじゃないか!」

「……では、そうなるとあのフィアンセイという娘は?」

「え? 何言ってんだ! フィアンセイとアースをカップルにすることを俺様は応援するぞ!」

「……ならば、シノブは?」

「え? だから、あれ? ……いや、何度も言わせんなよぉ~、シノブはアース・ラガンが好きなんだぞぉ? はは~ん……王子、あんたさてはあまり頭がよくないなァ~?」

「え? 僕が悪いのか?」

どんな内容にせよ自分の名前が飛び交っていることにアースもどこか聞き耳立てながら微妙な気分だった。

ただ、そんな中でトレイナは……

『……あやつ……生きて……いたか……しかし、何故今になって……』

『……トレイナ?』

『何とも懐かしい……いや、それよりあやつだけならまだしも……もし他の連中も生き残っていたとして……そして、あの鑑賞会を見ていたのだとしたら……マスターキーのことも……パリピはこのことを知っているのか?』

真剣な表情で何かをブツブツと呟いている。

その様子からアースはハッとした。

『なァ、トレイナ……あんたあいつのこと知ってんのか?』

『……うむ……』

トレイナが知っている。いや、知っているだけでなく、何かの因縁があるのかもしれないと察した。

『貴様も名前だけならよく知る伝説の存在……かつて……『史上最速の生物』とも呼ばれ―――』

だが、アースのその問いにトレイナが答える前に……

「いやいや~、いずれにせよ、帝国とは違うこの地ですごそうな二人や、他国の人たちが話題にしてんだから……やっぱ、アースっちも出世したもんだなァ〜。俺っちには感慨深い」

ケラケラと笑いながら、談笑する二人の輪に近づく新たな一人の男に……

「また誰か来た……アレは知らないけど……アレは誰かな? シノブちゃんは知ってる?」

「あの人は……」

エスピやシノブが反応するが、誰よりも……

「ヴぇえええええええええええええ!!!???」

「ちょ、おにいちゃ!?」

「ハニーッ!?」

「「「「「ッッッ!!!???」」」」」

アースが思わず大声を上げてしまい、その瞬間、その場にいた全員が一斉にアースに振り返り……

「「「「「……あっ!!??」」」」」」

せっかく深く被っていたフードも、慌てて飛び出た勢いで外れてしまい、すぐにその場にいた者たちはアースを見てハッとした。

そして……

「お、お……ウキ―――――! アース・ラガン! 大きいエスピもいる! うおおお、そしてシノブもいるうう! うおおおお、サインくれれええええ! ウキウキウッキー!」

謎の男は、アースたちの姿に目を輝かせながら駆け寄り……

「ななな、ぼぼ、坊や!? な、なぜ!? いや、そういえばここに立ち寄っていたと……まだこの近くに……ッ、そうだ! コホン……やァ、坊や。おはようございます……だっつーの♥ むぎゅ♥」

突然のアースに慌てながらも取り繕うようにガアルは咳払いし、そして急に谷間を寄せて謎の挨拶……

そして……

「あ……アースッち……」

「お、おま、お、お……」

謎の男より、ガアルより、アースとしてはその男が目の前にいることに何よりも取り乱し、そして……

「アースッち……色々と言いたいことがあるが、まずは一つ……」

「お、お、おう……」

「俺っちは……タケノコ先生の年齢制限ありなエロシーンも入っている、ディスティニーシリーズの本をアースっちに貸してない!」

「ッ!?」

「俺っちがアースっちに貸したのは、まず初は『爆乳特戦隊と行くマジカルミラー―――」

それは、鑑賞会で族長と出会った時の会話……

――あんた、人間でしょ? 年齢は?

――……15歳……ですけど

――俺の作品はエッチぃシーンもあるから、十五歳はまだ本屋で買えないハズ!

――あ~……俺の友達の兄貴が持っていたみたいで、その経由で読ませてもらったんだよ……オウナ・ニーストってやつなんだけど……あ~、女騎士とか女魔術師とかメチャいいよな!

そのときの嘘を張本人に暴露され……

「オウナァ久しぶりでござるー! サインもいくらでも書いちゃうし、王子もこんにちはだっちゅーのぉ! よーし、皆今日も元気にごあいさつ! わははのはー! おっと、俺はお買い物があるのでお互い元気にがんばろー! ってことで、それではサラバ!」

「ちょ、お兄ちゃん!?」

「ハニー!?」

アースは激しく混乱して取り乱した。

この男がジャポーネにいると聞いていたのに忘れていた。