軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百十一話 王子の出会い

山奥の中の秘境にあるエルフの集落からジャポーネ王都まではそれなりに距離がある。

しかしそれでも、そのジャポーネの王都の上空に、異質な巨大大雲が浮遊しているのがアースたちにも容易に分かった。

「ハニー……アレって……」

「あ、ああ……天空世界……だよなァ?」

それは紛れもなく、アースとシノブが以前足を踏み入れ、そして大暴れした因縁の世界である。

そして見て分かるのは、自然に雲が流れて辿り着いたというよりは、明らかにジャポーネ王国の空を意図的に浮遊しているということだ。

「……なんでさ?」

だからこそ、アースは何故そんなことになっているのかまるで分らなかった。

「やっぱりアレ、お兄ちゃんたちが戦った天空世界なんだね」

「しかし、何故ジャポーネに……攻めにきているようには見えないね」

「はぅ……なに? 何が起こっているの? こわい……」

エスピもスレイヤもアミクスも、そして騒ぎを聞きつけて集まりだした他の者たちも、ただ状況が分からず呆然とするしかなかった。

「どうする? お兄ちゃん。ちょっと王都まで様子見に行ってみる? あのまま通過しそうだから、今から行っても間に合わないかもだけど……」

「う~ん……」

「あっ、でもお兄ちゃんが行ったら行ったでまた大騒ぎか……鑑賞会のアレに加えて戦碁でもやらかしたしね」

そして、当然ジャポーネ王国では大騒ぎになっており……

「わぁぁあああ! て、てて、天空世界だァ」

「だよな! あの雲、やっぱりそうだよな!」

「見ろ、あっちを! ぺ、ぺぺ、ペガサスだ! ペガサスに跨った……て、天使!?」

「違う、天空族だ!」

「鑑賞会で出てきた天空族が、な、何でここに?!」

王都の隅から隅まで大騒ぎのこの状況。

何故現れたのか?

攻めてきたのか?

それとも何か別の目的か?

それは誰にも分からないが、一つだけ王都の民たちが分かったのは……

「「「「「アース・ラガンのアレは全部本当にあったことだったんだ……」」」」」

そう、もはやこれで僅かな疑いすらもなくなったのである。

アース・ラガンの成したこと。そして戦ってきたこと。戦ってきた相手。

あまりにも壮大過ぎて「作り物ではないのか?」と疑うものも僅かに居たが、これでそれは全てなくなった。

つまり……

「じゃあ、やっぱシノブちゃんは……シノブちゃんはアース・ラガンの……」

「そうだ! シノブちゃんはあのアース・ラガンの婚約者候補なんだ!」

「ああ……今はお尋ね者になっちまったけど……でも、シノブちゃんがアース・ラガンの……ってことは!」

「アース・ラガンは反体制派に……ッ!」

現・王政から逆賊呼ばわりされているストーク家。

しかし、現在ほとんどの民たちが現王政に対して、大きく、そして強く不満を持っている

ストーク家にこそ現王政を打倒して、自分たちの新たなる王となって欲しいと願っていた。

そして、その反体制派であるストーク家に、もはや現在世界の注目の的となり、新たなる英雄として一躍超有名人となったアース・ラガンが関わっている。

それは、ジャポーネの多くの国民に希望を抱かせることになったのだった。

そして……

「なんでおじゃる! どうするでおじゃる! どうなっているでおじゃるぅうううう!」

ジャポーネの城では国王のウマシカが空いっぱいに広がる天空世界に、顔を真っ青にしながら城内を走り回っていた。

「マクラー! マクラー! どうなっているでおじゃる! ち、朕とマクラのこの国の空を変なのが埋めているでおじゃるぅうう!」

そしてついには、晴れて王の正妻となってこの国の后となったマクラに泣きつくほど。

そこに王としての威厳なく、臣下たちの前だというのにマクラの足にしがみついていた。

「……あの天空族……王子……民たちに手を振ってます。戦の意志はないんだと……こちらからも刺激せずに放置すればそのうちいなくなる可能性も……」

「でで、でも、怖いでおじゃるぅ! 何よりも、この領土内であれば空すらも朕の領土なり! そ、それを不許可で領空侵犯するなんて、ごご、言語道断でおじゃるぅ!」

「……そうですね……陛下」

強い不満を口にするものの、だからといって自ら何かをしようとする度量のないウマシカ。

それとは対照的にマクラは静かに空を睨みつけていた。

そして……

「ほんと邪魔……忌々しい……これでアース・ラガンの物語は真実になり、アース・ラガンとイイ感じっぽいシノブちゃんは……ああ……ムカつくなぁ……」

沸々と湧き上がる黒い瘴気に包まれて……

「全部消えちゃえばいいのに……」

マクラは冷たくそう呟く。

そして、自分にしがみついてくるウマシカの頭を撫でながら……

「陛下。もしアレらが何かしてくるようであれば……ハクキが残していった『カラクリのオモチャ』の実戦実証試験ができます」

「ッ!?」

「空の相手だったら、あの……どろん? だったか何かが有効かと」

不気味に小さく笑った。

そんな地上での思惑を知らず、そもそも一切戦闘の意思のない天空族たちは、ただ平和にゆっくりとジャポーネ王都上空を飛行。

そしてその自分たちの領土である天空世界の周囲をペガサスに跨った神々しい戦乙女たちが取り囲み、中心にいる一騎は愛想よく地上のジャポーネの民たちに手を振っていた。

その一騎こそ……

「ふふふ、ジャポーネか……あのシノブという娘と同じで美しい黒髪のレディが多いな……それと、昨日のべトレイアルと違い、独特な服装だ……でも、美しいな……たしか……言い伝えでは、キモノ? だったかな」

ガアルであった。

さらにガアルはジャポーネの民たちの顔がよく見える低空までワザと近づき、そして驚愕している民たちに手を振った。

「きゃああああああ! な、なんて美しいの!?」

「あんなカッコいい人初めて見た……」

「アレが天空王子様……す・て・き……」

「も、もうだめぇ……王子様♥」

そして呆然としていたジャポーネの民……特に女性たちは一斉に発狂したような黄色い歓声を上げる。

その女性一人一人と目を合わせた瞬間、ガアルはその女性だけに対して微笑んでウインクする。

それだけで興奮しすぎて心奪われて倒れる女たちまでいた。

「王子……少し低くありませんか?」

「そうです……その所為で……地上の煩い声が聞こえてきます」

「サービスしすぎです! あのパリピとのお話では、ただ通過すればいいと……」

そんなガアルの様子に心配(嫉妬)して少しむくれた他の戦乙女たちも高度を下げてガアルの傍に寄る。

「ああ……僕たちの姿を見せることで、坊やの物語が本当である……坊やは詐欺師なわけではない、それを証明さえできればいい……分かっているさ。でも、かわいい地上の子猫ちゃんたちが目を輝かせてくれているんだ。応えてあげるのも、僕の使命だよ」

「ですが……」

「ふふふ、嫉妬かな? 大丈夫、君たちはもっと特別だから……あとで、ちゃんと可愛がってあげるよ♪ 僕の可愛い小鳥たち」

「王子ぃ!」

ガアルが地上の女たちに色目を使うのに不満気だった戦乙女たちだったが、結局そのガアルの微笑で囁かれたら何も言い返せなくなってすぐに蕩けてしまう。

そんなガアルと戦乙女たちのやり取りも、高度が低かったためにジャポーネの民たちも見てしまう。

そして……

「きゃああああ! も、もう、何て絵になるの!?」

「ええ……まるで、おとぎ話の天女様と王子様の……あぁ、ガアル様……」

と、更に蕩けてしまうのだった。

その様子にジャポーネの女性たちはまるで一つの劇でも見ているかのような心地だった。

一方で……

「けっ、何だよ、あの野郎」

「スカしやがって……」

「おれぁ、ああいう野郎が気に食わねえ」

「ああ。男ってのはよぉ、そう、アース・ラガンのようにもっとこ~」

女性たちからキャーキャー言われるガアルの姿に舌打ちしたり、怪訝な顔を見せて、面白くなさそうにしているのであった。

ただ、そのときだった。

「とはいえ、せっかくここまで来たんだ。昨日のべトレイアルではただ通過するだけだったけど、今日ぐらいはもっとサービスしてもいいんじゃないかな?」

「王子……」

「というわけで、僕の華麗な天馬騎乗テクニックを魅せてあげよう!」

少し調子に乗ったガアルが、騎乗テクニックを披露しようとした。

手綱を長く持ち背筋を伸ばして馬の背と垂直にまたがった騎乗スタイルから、膝を前に出し、尻を鞍から離し、前傾姿勢の騎乗スタイルに。

これで華麗なる飛行ショーを見せようとしていた。

ただ……

「「「「「ッッッ!!!???」」」」」

そのとき、ジャポーネが衝撃。

「お、王子ぃ!?」

「ななな、あ、す、スカートがぁ!?」

戦乙女たちも衝撃。

「ふぇ? あ……あっ!」

ガアルはポカンとしながら、自身の服装に気づく。

それは、最近になって穿きだした、ヒラヒラの短いスカート。

そのことを忘れて鐙から尻を離して前傾姿勢になったことで、必然と……

「「「「……白……」」」」

その中身は、純白の翼と同じで白だった……

「ひゃっ!? きゃっ。え? やだぁ、ななな、きゃぁ?!」

「「「「「ッッ!!!???」」」」」

爽やかに微笑んでいたガアルが突如顔を真っ赤にしてウブな少女のように大慌て。

その姿は、まさに……

「な、なんだ、い、今の……」

「そ、そうだ、天空王子って女だったんだ……」

「や、やべえ、お、俺、なんかドキドキしてきた」

「か……かわいい……」

鑑賞会でヤミディレがアースと一騎打ちしているときに見せた少女のような姿と重なり、直前まで女性たちの心を鷲掴みにして男たちからは不愉快に思われていたガアルだったが、男たちの心まで奪った。

だが、それは自分にとっては望まぬ形であり……

「やだ、み、見られた、僕としたことが……ど、どうしよう……」

「ヒヒーーーンッ!」

「ひゃっ!? わ、わあーーー!」

さらに、混乱してしまったことで、乗っていたペガサスも主の混乱が伝わったのか体を揺らし、ガアルはバランスを崩して落下。

「王子いいいい!」

「ちょ、ああああ!」

落馬してそのまま地上に真っすぐ落下してしまうガアル。

このままでは危ないと誰もが思ったとき、ハッとしてガアルも慌てて自身の翼を羽ばたかせてブレーキをかけることで、地上にぶつかって大怪我というマヌケは回避。

「うぅ、僕としたことが……はぁ……みっともない……うう」

そして改めて自分の失態に恥ずかしく思いながら、ガアルはジャポーネの大通りにある一つの建物の屋上にゆっくりと着陸。

先ほどまで以上に近い距離にガアルが降りたことで……

「きゃあああああ、ガアル様あああ! 私を空に連れて行ってー!」

「うおおお、ガアルたーーーーん!」

「こっち向いてぇええええ!」

「ガアルちゃん、スカート似合ってるぞー!」

と、ジャポーネの王都中から男女問わずに歓声が上がったのだった。

その声援に顔を引きつらせながらも手を上げて応えようとするガアル。

すると、その時だった。

「おっほ~~~~~、まさか俺っちの家の屋上に男装令嬢パンチラ天使が降り立つとは……えっらいえっろいことになってるじゃないか! まさに、いチン大事だ! とりあえず、朝からオカズありがとうございます」

「ぬっ? おかず……? あ……」

ガアルが降り立った建物の屋上に一人の男……まだ若い十代ぐらいの坊主頭の青年が現れた。

「あ、す、すまないね、騒がせて勝手に……」

「いやいやいや、俺っちは間近で天使様を見れてむしろ感謝。それに、俺っちのかつてのクラスメートと縁のある人のようだしね……」

「?」

「ふふふ、それにしても……ほんと美形……そんな顔の整った女性を、『アースッち』もよく顔面を殴れたもんだねぇ」

「……っ!? アース!? 坊やのことか!? 君は、坊やのことを知っているのか?」

青年の言葉にガアルは衝撃を受ける。

「知っている? ふふふ、アースっちは俺っちにとって……血よりも濃いエロス魂で繋がった友……いや、兄弟かな?」

「?」

それは、偶然か運命か、とにかく奇妙な出会いであった。